「浩之ちゃ〜ん!」 あかりだ。 あかりである。 他になんだというのか。 あかり以外の人間が、朝っぱらから俺のことをちゃんづけで呼ぶはずもないし、呼べる権限を持った人間ってのが 結局あかりだけなのだから、これはもう、疑うべくもなくあかりなのである。 問題はそうではなくて。 何で朝の六時に、アイツが俺を起こしに来るか?である。 学校行くだけなら、最低でもあと1時間は寝ていい、俺の普段のペースなら、それにあと1時間上乗せしてもいいく らいだ。 だから、俺があかりに起こされる理由は、今のところ(最低でもあと1時間は)無い。 「あっっかりゃああああぁぁぁぁっ!!!」 俺は大魔人も真っ青(元から真っ青か?)のすさまじい形相で階段を下り、玄関に飛び出した。 俺の怒りようは、いかりや長介も裸足で逃げ出すほどである。 せっかんだ。あかりが泣くまでせっかんだ。 と、思っていたのは、玄関に立っていたあかりの姿を見るまでの話だった。 「あ、あかり・・・・・、その頭に乗ってるのは何だ?」 聞くまでもない、ありゃあ『ヒヒ』だ。 でも、何であかりの頭にヒヒが?俺、もしかして夢見てるのか? 「浩之ちゃん、実は・・・・」 あかりの話によると、朝起きたら部屋にヒヒが居て、とりあえずそれはどうでもよかったらしいが(その辺の感覚が わからん)、俺の弁当を作ろうとしたら、頭にのしかかってきたらしい。 「俺に弁当作ってくれたのか?」 「うん」 「ま、それはどうでもいい」 「どうでもいいの!?」 「問題はヒヒだろ?」 「ああ・・・・、そうか」 あかりは、頭の上にヒヒを載せたまま、どうしたらいいか考えている、まあ、考えて結論が出なかったから俺の所へ 来たんだろうけど、俺もどうしていいかわからんぞ。 「重くない?」 「すっごく重いよ」 「不細工なヒヒだな」 う゛っっぎぃぃぃぃぃぃ!! うわ、吠えた。 歯茎むき出して吠えたぞ。 う゛ぎぃっ!う゛ぎっ!! 「動物園から逃げ出したのかな」 う゛ぎぃぃぃぃぃぃっ!! 「んなこたどーでもいいから、ちょっと黙らせろ」 う゛ぎっぃぃいいいいっ!! 「どうやって?」 「俺が知るか!」 とにかく吠えるヒヒ。 誰かに触られるのがお気に召さないらしく、引き剥がそうにも危なくて触れたもんじゃない。 ヒヒの牙は案外鋭いぞ。 そうこうしている間に。 「おっ、学校行く時間だ」 「えっ?」 「着替えてくるから、そうしたら学校いくぞ」 「ヒヒのっけたまんま?」 「じゃあ、学校に『頭にヒヒが乗ってるので休みます』って電話しろよ」 「信じてくれないよ〜」 「いや、うちの学校の先生は柔軟だからなあ」 「・・・・・・」 結局学校。 「あかり、あんたすごいファッションセンスね」 「志保」 「なによ」 「俺もそう思う」 「よね」 「二人とも!こっちは見た目より大変なんだよ」 いや、見た目も十分大変だ。 何てったって、頭にヒヒが乗ってるんだからな。 そのとき!! 「神岸さんの悩み!ずばっと速攻で解決する謎の男!!その名も『仮面高校生ヤジマ』参上!!」 矢島だ。 何で仮面を付けてるかわからんが、矢島だ。 「よう、矢島」 「おはよう、矢島君」 「俺は、仮面高校生ヤジマだっ!!」 「どーでもいいよ、あかりのヒヒを何とかしろ」 「まかせろっ!俺は彼女のためならなんでもできる!!」 「イイからはやくしろ」 「よし!」 矢島は、いきなりヒヒに手を伸ばす。 馬鹿だな。 う゛っきぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっっ!! 「うわうわうわうわ!!」 う゛っぎぎぎぎぎぎぃぃっ!! 「吠えた吠えた吠えた吠えた!」 う゛ぎいいいーーーーーーーっ!! 「噛んだ噛んだ噛んだ!!!」 いきいいいいいいいいいいいっ!! 「血が血が血が血が血が!!」 何しに来たんだコイツは。 その後、ヒヒはレミィに矢を射られて逃げ出した。 「結局、あのヒヒは何だったのか」 「また、どこだ出会うような気がする」 俺は、夕日にあのヒヒの幻を見たような気がした。