痕−ガムレタンバヤムン− 投稿者: MIO
 季節は夏で、俺は柏木家。
 ・・・・他に説明はいるまい。
 俺は、夏になると必ずやるアニメの再放送を見て時間を潰していた。
 暇だな・・・・

 ごそごそ・・・・

 ?
 楓ちゃんが、大きなバックにタオルや、洗面用具を詰め込んでいる。
 もしかして家出!?・・・・・なわけないか。
「楓ちゃん、何やってるの?」
 そういや、楓ちゃん夏休みだってのに制服来てるな。
「・・・・・部活の合宿があるんです」
 部活・・・・
 楓ちゃん部活なんてやってたのか?
 合宿やるからには運動部の可能性大だ、なんかイメージと違うなあ。
「部活って何部?」
「スポーツなんですけど、あんまり有名じゃなくて・・・・」
「いいよ、一応教えてくれよ」
「ガムレタンバヤムン同好会です」
「・・・・・」
 困惑する俺に、楓ちゃんはもう一度言った。
「ガムレタンバヤムン同好会です」
「ガムレ・・・・何?」
「ガムレタンバヤムン」
 マイナースポーツには、少しは自信あったんだけどなあ・・・・
 まったく知らん!!
「ごめん、やっぱり知らないや」
「オーストラリアのアボリジニーに伝わる非常に原始的かつ、巧妙なスポーツです、奥が深いんですよ」
 そ、そりゃすごい・・・・
「で、どうやるんだい?」
 俺の質問に、楓ちゃんはちょっと思案すると
「やって見せましょうか?」
 と言った。
「う、うん・・・・」
 俺があいまいに頷くと、楓ちゃんはバックの中から何か取り出した。
「なにそれ?」
「ゴルフボールと、ハンカチ三枚です」
 ・・・・・・・
「初音初音」
 楓ちゃんが、通りかかった初音ちゃんにちょいちょいと手招きする。
「なあに、楓お姉ちゃん」
「耕一さんに、ガムレタンバヤムンやってみせるから」
「えっ!お兄ちゃんガムレタンバヤムン知らないの!?」
 そ、そんなに驚くことなのか?
 この辺じゃ有名なのかも・・・・
「実は知らないんだよ、あははは・・・」
「結構ショック」
 な、なんで!?
「初音準備して」
「うん!」
 楓ちゃんとは常ちゃんは、正座して差し向かいに座る。
 ハンカチを広げて、三枚をならべて置く。
 ゴルフボールは、真ん中のハンカチの上に置いた。
「じゃあ始めようか?」
「ピルヨリの儀式は?」
「あれは、パッタクプラモンの時だけ」
「あ、そうか」
 会話の内容がよくわからんぞ。
「じゃあ、始めます」
「う、うん」
 ごくり・・・

「おぺーん!」
 うわっ!何だ!?
 楓ちゃんが右手を挙げていきなり奇声を発する。
 それに応えるように、初音ちゃんが両手をあげて
「なば〜ん!!」
 ・・・・・な、な、なんだあ!?
 暫く睨み合う二人。
 先に動いたのは初音ちゃんだった。
「ノリタマ」
 そう言って右端のハンカチをとり、頭上で振る

 しゅっ、しゅっ
 
 楓ちゃんは楓ちゃんで、真ん中のゴルフボールをとると、初音ちゃんを指さしてこう言った。
「リョウコウノトモ」
「あっ」
 初音ちゃんがしまったという顔をする・・・・
 もしかして、勝負がついたのか?
「初音、ナイスガムレタンバヤムン」
「やっぱり、楓お姉ちゃんは強いよ」
 ・・・・・
 わからんっ!さっぱりわから〜〜〜んっ! 
「さ、次はお兄ちゃんだよ!」
 へ?
「あ、ちょっと!俺、まだルールが・・・」
 聞く耳持たずの初音ちゃんは、俺を楓ちゃんの前に正座させる。
「よろしくお願いします」
「あ、ああ、よろしく」
「おぺーん!」
 うわっ!いきなり!?
 えーっと、なんていうんだっけ?
 ええい、適当でイイや!
「な、なばばー?」
「えっ!?」
「あ・・・・」
 あれ?やっぱり間違った?
「すごいよお兄ちゃん!」
「さすが耕一さん、まさかそこで攻勢に回るなんて」
 攻勢?どこが?
 ま、まあとにかく、二人が妙に感心している・・・・
「じゃ、続き行きます」
「二人とも頑張って!」
 なんだかなあ・・・・ 
 とりあえず、俺は初音ちゃんの真似をして右端のハンカチをとり、頭上で振ってみる。
 
 しゅっ、しゅっ、しゅっ、しゅっ・・・・

「お兄ちゃんすごい・・・・・」
 感心する初音ちゃん、一方楓ちゃんは焦ったような表情になる。
 何なんだ、一体!?
「ウイロウ、メンタイコ、ハイシャノオヤジー」
 ゴルフボールを人差し指と親指でつまんだ楓ちゃんは、早口でそう言った。
「あっ!さすがお姉ちゃん・・・、あの状況からクッパドゥーの構えにはいれるなんて・・・」
 言いながら冷や汗を拭う初音ちゃん。
 俺は何が何やらサッパリだが、とりあえず
「オキナワ、チンスコウ」
 と言ってみた。
 すると。
「お兄ちゃん!」
「え、なに?」
「それはやりすぎだよ!」
 は?
 え?
「いいの初音、勝負だったんだから」
「でも」
 お、俺はもしかすると、何か大変なことをやったのでは・・・・
 しかし、俺の心配をよそに、楓ちゃんはにこっと笑った。
「完敗です耕一さん」
「え、ああ・・・・」
「プロを目指せるかもしれませんよ」
 プロ?何のプロだよ・・・・
「お兄ちゃん、クンバタップルは、普段はやっちゃダメだからね」
「あ、ああ、気をつけるよ・・・・」

 俺は何だかわからないうちに、初音ちゃんに軽蔑されてしまった。
 楓ちゃんには尊敬されたみたいだけど・・・・

 その日の夜
「耕一!お前ガムレタンバヤムン上手いんだって!?」
「へ?」
「何でも、プロ並みだとか」
「あ、あの・・・・」
 
 その夜、俺は千鶴さんと梓のガムレタンバヤムンにつき合うことになった。
 結果は

「つ、強い!」
「さすがです耕一さん!!」
「は、はあ・・・・」

 結局よくわからなかった。