結末選択式SS 共通部分 投稿者: MA
梓シナリオ改

「おい、そろそろ起きてもらおうか」
俺は頬を叩かれ、目を覚ました。ここは一体何処だったっけ。俺はぼんやりとした頭で考えた。たしか、梓と一緒にかおりちゃんを探していて、かおりちゃんを見つけだした。それから・・・。
「目を覚ませ、そろそろお楽しみの時間だ。あの娘も観客がいないとつまらないだろうからな」
俺はその声を聞いて、目を見開いた。その瞬間、俺が気絶させられるまでのことも思い出していた。
俺はフローリングの床で横になっていた。そして、俺の目の前にあの男がいた。俺はその顔を見た瞬間、奴に殴りかかろうとした。その時には、俺が気絶させられる前にみた奴の圧倒的な力のことなど忘れていた。ただ、かおりちゃんをあんな目にあわせた奴のことが許せなかった。しかし、俺の拳が奴に届くことはなかった。なぜなら、俺の両手両足は厳重に拘束されていたからだ。俺は奴に手が出せないと分かると、奴にむかって言った。
「おい、お前、たしか柳川という名前の刑事だったな、どういうつもりだ。俺達をこんなところに閉じこめて、何をするつもりだ。」
柳川は薄笑いを浮かべると、部屋の角を指差した。俺はなんとか首をひねって、そちらを見た。そこには梓がいた。梓は椅子に縛り付けられていた。そして、じっと俺達の方を見ていた。
「さっきも言っただろう。今から楽しいショーが始まるんだ。だから、観客であるお前に寝ていてもらっては困るんだよ」
ショー・・・、観客・・・、俺はこの場の雰囲気とは場違いなその言葉に戸惑っていた。「一体、何をするつもりだ」
俺のその問いかけに、柳川は答える気はないようだった。
「言ったろう、楽しいショーさ。中身は見てのお楽しみさ」
柳川はそう言うと、梓のところへ歩いていった。そして、梓を椅子に縛り付けていた縄をほどいた。柳川は梓にそこから動くなと言っておいてから、俺のところへ戻ってきた。
「梓、お前だけでも逃げるんだ」
俺は咄嗟にそう叫んでいた。しかし、梓は動かなかった。俺は柳川を睨みつけた。
「まさか、梓になにか薬でも使ったのか。どうなんだ、答えろ!!」
柳川は俺の腹を蹴りつけた。俺はうめき声をあげ、激痛に耐えた。拘束さえされていなかったら、のたうち回っていたことだろう。他人が見たなら、柳川は軽く俺の腹を蹴っただけと見えたことだろう。だか、その力は尋常のものではなかった。俺は改めて柳川の力を思い知らされていた。
「口の聞き方に気をつけてもらおうか。お前を生かすも殺すも俺次第なんだぞ。あの娘もそのことが分かっているから、おとなしくしているんだ」
俺は激痛に耐えながら、梓の方を見た。梓は体を震わせ、両手の拳を握り締めていた。なにかの衝動を必死に我慢しているようだ。
「お前は梓に何を言ったんだ」
「ほう、すこしは分かってきたじゃないか」
柳川はにやりと笑うと、話を続けた。
「あの娘の力なら、自分だけならここから逃げ出すこともできるだろう。自分だけならな・・・。だが、あの娘は逃げない。どうしてだか分かるか?」
「ま、まさか・・・」
「そうお前が今考えた通りだ。あの娘にはこう言ってある。おまえが逃げ出したなら残った二人を即座に殺すとな。おまえたち二人はあの娘にとって大事な人間なんだろうな、あのとおりおとなしくしてくれている」
俺は梓の方を見た。俺の視線に気付いた梓は黙って頷いた。
「さて、そろそろショーを始めるとしようか」
柳川はそう言うと、梓の方を見た。梓は不安そうな表情を見せた。これから何が始まるのか、そのことを知っているのは柳川だけだった。
「まずは、ストリップといこうか。服を全部脱いでもらおう。ただしゆっくりと、一枚ずつだ」
梓はその言葉を聞くと悔しさのあまり、涙をながした。俺はそんな梓の様子を見ていると居ても立ってもいられなくなっていた。
「柳川、どうしてこんな事をするんだ。俺達を殺すつもりじゃないのか」
「ふふふ・・・、何も分かっていないな。お前たちは殺しはしない。貴之とともにこの部屋の住人になってもらう。薬をたっぷりと飲んでもらってからな。最初はさっさと薬を飲ませて気分が良くなったところで遊んでやろうかと思っていたのだが、気が変った。お前たちは貴之に手を出した。その酬いを受けてもらう。あの薬の欠点はどんな苦痛でも快楽にかえてしまうところさ、使い方によってはそれが長所にもなるんだがな。最初は、薬を使わずに、存分に苦痛を味わってもらおう。さあ、どうした、始めるんだ!」
最後の言葉は梓に向けられたものだった。梓は涙をながしながら、立ち尽くしていた。俺はそんな梓を見て、自分の無力さを呪った。俺は目の前に立っている柳川を睨みつけていた。梓を守るため、この男を超える力が欲しい。そう願った瞬間だった。俺の心の中で何かが動き始めた。そいつは俺に問いかけた。
「力が欲しいか。何者にも負けることのない強大な力が」
「ああ、力が欲しい。誰にも負けることのない力が欲しい」
俺はそう答えていた。
「よかろう。我等狩猟者の力存分に使うがよい」
その最後の言葉とで同時に、ドクン、ドクンと心臓の鼓動が聞こえ始めた。次に、胸が苦しくなってきた。だが、それも一瞬のことだった。次の瞬間、俺は全身に力が漲るのを感じていた。俺は自分を拘束しているものを振りほどいた。先程まであれほど厳重に思えた拘束具をひき千切っていた。そして、ゆっくりと立ち上がった。
梓と柳川が驚いて俺を見ていた。
「耕一・・・、まさか、あの時と同じことに・・・」
「ばかな、先程までは何の力も感じていなかったのに、何と言う力だ」
梓と柳川はそれぞれ何か言っているようだった。しかし、その時の俺は十年以上前の出来事を思い出していた。そう、あの水門での出来事だ。俺は初めて鬼の力を使った。だが、俺は力を制御しきれず、梓たちに襲いかろうとしていた。幸いにもその時は何とか力を抑えることに成功し、その力をその時の記憶とともに心の奥底に封印することができた。だが、俺は自らその封印を解いてしまった。その力はもう一つの自分だった。狩猟者としての自分。俺の体はもう俺のものではなかった、もう一人の自分、狩猟者のものだった。
「さあ、狩りの時間の始まりだ」
もう一人の自分である狩猟者は、そう呟くと、柳川に襲いかかった。

それから数分の後、俺と柳川の戦いは決着が着こうとしていた。今は二人とも鬼の姿になっていた。だが、俺の方がほぼ無傷であるのに対して、柳川は全身に傷を負っていた。特に先ほどの俺の突きが柳川の腹に負わせた傷は深刻だった。致命傷とはならなかったものの、柳川はその傷からの出血のためほとんど動けなくなっていた。後一撃で決着がつく。俺はそう思っていた。

  ここまでが共通部分です。
  この後、話は梓編と柳川編に別れます。
  お好きな方をお読みください。