To Heartより 「クリシュナ」 −Krishna− 投稿者: k.m


「鹿と思ってクリシュナを射たその矢は
    彼の一族を滅ぼした呪いの矛の粉でできていた」

−マハーバーラダ−

庄司電工株式会社3F特別機器室
埼玉県和光市 午後9時23分

一国一城の主というのは一人だけ最高級の椅子に乗っかってふんぞり返る中年太り
の醜いおやじよりも、こうして日夜休まず内外の安全を守る自分こそがふさわしい
んじゃあないのか、中島明夫は何層もの階が積み重なった薄暗い巨大ビルの中を進
む際、常にそんな事を考えていた。ごく最小限の空調しか働いていない各階の廊下
は防寒着が必要ではないかと思うくらいに冷え込んでいて、ハンドビームを持つ手
すら引っ込めたくなるほどである。そのせいではあるまいが、自分の足元から発せ
られる靴音もいつもより長く大きくフロア中に反響しているように思えた。
派遣としてやってきた警備員だから日当は多いほうなのだが、なにぶん深夜を含め
た48時間勤務体制のために一介のフリーター連中が羨ましがるような給料をも
らっていてもここでの警備がはたして仕事量に見合っただけの金額を貰えているか
どうか…彼自身はノーと思っている。どうせサラリーマンのように年2回の賞与な
んて貰えやしないのだ。あと10万、いや5万くらいは欲しい。そうでなくては万
が一の事態が発生した時の入院費の頭金にだってなりはしないのだ。昼の連中とは
違う、危険を考慮した上での警備業である。中島はそのことを考えるとつい歯ぎし
りがするほど顎に力を入れてしまっていた。
そんなことを考えながらもとりあえず大方の階は巡回し終えた。あと残っているの
は…頭の中で地図を描き、見回った部屋を一通りチェックを入れて塗りつぶしてい
くと今自分が立っている階面積の大半を占める巨大なフロアが残っている事に気が
ついた。このビルの中枢、スーパーコンピューターやDBシステムが置かれた特別機器室だ。
「ああそっか、あっこのうるさい部屋が残ってたな…まあ、寒くないからいいか」
一概にマシンルームと呼ばれる機器室は、わずかの例外を除いて完全な24時間体
制で稼動している。一般的なパソコンとは比べ物にならないほどの高価、高性能を
持つこの手のコンピューターはそのどれもが大型である。当然発熱量も膨大であり
それによる暴走を防ぐために何台もの空調機を、乾燥による静電気を防ぐために何
台もの大型加湿器を設置してあるのが普通だ。ところがその空調機と加湿器が動き
出すと部屋内はものすごい騒音にみまわれるのである。
「営業にとっちゃ天国だろうけど、住民にとっちゃ地獄」
と、中にいるSEは何かと夏涼しく冬暖かいのだろうと勘違いしている他の社員に
羨ましがられるたび、冷房病や難聴となった仲間の話をあげて説明している。中島
も見回りのために機器室に入る事でそのSEの苦労をなんとなしには理解できてい
た。
通常、機器室には何人かのSEが警備員と同じように24、または48時間体制で
仕事をしているものである。だが、この会社ではある事情によりそのような体制を
廃止してしまった。中島はセキュリティのため1つだけ設置されている入り口のドアへと進むと、
頭に記憶している電子ロックの暗証番号を入力し、開錠を確認して
無人の室内へと入っていった。
中は完全に照明が消されているので、ビームを便りに証明パネルのスイッチを探し
当ててすべてのスイッチをONにした。一瞬の間の後で天井一面の蛍光燈が一斉に
白い光を放つ。照らされた世界はあくまでも無機質であった。
中島はあたりをくまなく見渡しながら機器室内の奥へと進んでいった。齢43歳、
この仕事を10年以上続けてきた彼であっても、到底人が生活、勤務できるようには思えない機械
の部屋を巡回する事だけはいまだに抵抗感があった。まして以前の
ような必ず誰かSEがいたころとは違う今となっては…
少し奥へ進んだ時、中島は不意に何かの気配を感じた。
「うわ!」
焦って飛びのきかけ、あわてて動悸を押え込む。もう慣れたと思っていたがやはり
あそこに「あれ」がいるとどうしてもびっくりしてしまう。怒りとも恥ともつかぬ
感情を表しながら、中島は「それ」に向かって言った。
「何度も言ってるだろう、そこでじっとしているな。驚くだろうが」
だが、「彼女」は中島の言葉に何の反応もしなかった、中島もそれを承知していた
ので、それ以上の事は言わなかった。
彼女の名は「セリオ」2年前より商業向けに販売された来栖川エレクトロニクス社製のメイドロボ
である。
ここにいる彼女は家電部門で契約を結んでいる庄司電工が昨年に購入した特別製のものだった。
セリオは現在、数台のCPに囲まれた形で処刑用の電気椅子を思わせるような無骨
なデザインの椅子に腰掛けている。CPからは無数のコードが伸びていて、それら
はセリオの体の端々に…肘や膝の、腰から胸、背中、そして頭の部分まで接続され
ていた。彼女が服を着て、普段社内で雑務をこなす様は中島も本物の人間と見
まがうほど人間らしいのだが、人造皮膚を開き、手足の関節を外した状態で椅子に
座っている光景は、やはりセリオはロボットなのだということを認識させられる。
セリオは今、機器室にあるすべてのマシンの操作をしている最中であった。
現在来栖川エレクトロニクスが進めている「セリオ=スーパーコンピュータ=プロ
ジェクト」企業データを一元管理する着脱式、移動式の超端末としての「セリオ」を実用化させる
ため、社はサンプルとして庄司電工に特注製のセリオを提供し必要なデータを採取することにした。
彼女はその試作1号機なのである。
彼女は昼は普段の社員のように仕事をこなすが、夜にはこうして自社のすべてのコ
ンピューターとリンクして昼に得た情報のすべてを整理し、しかるべき処理を行
う。その実行速度は昼夜どちらも人間より遥かに速く、そして正確で。実際彼女1
人の存在によって社員の残業負荷が大幅に軽減されたという実績が庄司電工から報
告されるほどにプロジェクトの成果は現れた。もっとも、それによる大量リストラ
を恐れる労働組合が彼女の存在に懸念を抱いているという弊害も起きてはいたが。
中島は異様な外見で座っているセリオの閉じられた目を見ながら呟いた。
「こうしてみていると、やっぱりお前には感情の必要がない仕事が似合うって気が
するよ」
ある程度の受け答えはできても、マニュアル通りの対応しかしないセリオ。感情の
媒体であるDVDディスク容量の限界といえばそれまでだが、変に人間よりも人間
らしい部分を垣間見せるセリオに中島は何か複雑な思いがあったりした。もし、あ
れが本当に人間としての感情を持ったらどうなるのだろう?いまこの世界で生きて
いる誰よりも人間らしくなるのだろうか、それとも人間が持つ様々なエゴイズムに
翻弄されて狂気の果てへと走っていくのだろうか…彼はそうした「もっとも人間ら
しい」感情を持つ唯一のメイドロボの存在を当然ではあるが知らなかった。故にそ
う考えていた。
ふと、我に返って時計を見る、どうやら20分以上、この場に立ち尽くしていたら
しい。巡回の遅れを怒られる事はないが、それより空調のせいで体の芯まで冷やさ
れていたほうが問題だった。自然に手足が震えてしまっている。早いとこここから
出ないと、そして熱いジュースと夜食を買って体を温めようと、中島は残りの箇所
を巡回しようと機器室の奥へと進んでいった。
不意に、照明が消えた。
セリオに不意打ちされた時よりも大きな衝撃が中島の心を襲った。しゃっくりをし
たような声が不自然なまでに大きく響いた。DB機の側をすり抜ける最中だったの
で、思わず足を引っかけそうになった。
「誰だあ、照明を切ったのは!?」
しかし、返事はなかった。中島は数秒、返事がこないか確認しようとした。
そしてある異変に気がついた。何も聞こえなくなっていたのだ。声も、空調や加湿
器、それぞれのマシンの小さな稼動音までも。
停電が?最初にそう思った。だがそれはおかしい、変電所の瞬電が起こったとして
も業務に支障をきたさないよう無停電装置が働いているはずだ。なのにいま、機器
室内のすべての電力が止まり。設備のすべてが死んでしまっているのだ。何があっ
た?誰がこんなことをした?中島は混乱しかけている意識に必死に制動をかけ、今
や唯一の明かりとなったハンドビームを照らして、すぐさま出口へと向かう事にし
た。
気付かぬうちに足早になってしまっているが、そんなことはお構いなしに突き進ん
だ中島がようやく唯一開閉できるドアのある場所へと戻った。フウ、と息をつき、
取っ手に手をかけて─
後ろから、何かが掴み掛かってきた。
「わあっ!!」
とうとう本物の悲鳴が上がった。誰もいるはずのなかった室内で、自分以外の誰か
が襲い掛かってきたのだ。
暗黒の空間に男の悲鳴が響き渡った。組み伏せられ、殴られて、動けなくなった警
備員の体を何者かが襟をつかむだけの乱暴なやり方で部屋の奥へと運んでいた。そ
れはある箇所で歩みを止めると、おもむろに中島を立ち上がらせて無造作にドンと
突き飛ばした。
よろめきながら倒れた中島は、自分が倒れた場所に妙な感触がするのに気がつい
た。背中と椅子に当たる金属の感触、思わず手につかんだ太いゴム…ついさっきま
でセリオが座っていたはずの椅子の上じゃないか!?
その時、蛍光燈が一箇所だけ点灯し、その下にあるわずかな空間を淡く照らした。
「─!!」
そこには、手足の筋肉と内臓、そして脳を部分的にむき出しにした「セリオ」が
立っていたのだ。
「ウワアアァァ!!」
悪霊のようなその様に中島は失禁するほどの恐怖を覚えた。それを黙らせるかのよ
うに、セリオの両腕が中島の足を掴み、膝から下を信じられない怪力で引き千切っ
た。
「ギャアアアアアアァァァッ!!!」
絶叫をものともせず。セリオがもう片方の足を、両腕を、それぞれ関節から先の部
分から引き千切っていく。その度に鮮血か飛び散り、周りのマシンとセリオ自身を
汚していった。だがセリオは尚も惨劇の幕を降ろすまいと、想像を絶する激痛と夥
しい出血により気を失いかけている警備員・中島を見据えた。
中島は恐怖した。心底から恐怖した。感情の存在しない目が、こういう時にどれだ
けの恐怖を与えるかを理解してしまったのである。もう声も出なかった、涙も流せ
なくなった。今の彼にできるのは見る事と聞く事、感じる事だけしかなくなってし
まった。
セリオが1本のケーブルを握った。そして、大きく振りかぶって─
ケーブルの先が警備員の延髄に突き刺さった。高圧電流がそこから体中を駆け巡っ
て、全身のあらゆる細胞を焼き尽くしていった。視界の全てが白色に染まる寸前、
中島は、彼女が…狂える機械が自分を見ながらこう呟いたのを聞いた─
「My Master Krishna─探します、そして、捧げます─」

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どうも、初心者小説家(笑)K.Mです
なんでこんなの書いちゃったんだろう?って、
終わった後になって考えてます(^_^;)ただのスプラッターやん、これ
一応「セリオの暴走」でも書いてみようかなーと思ったんですけど
「なんじゃこりゃ」ですね(笑)セリオより作者が暴走したようです(^_^;)
どうしてわたしってみなさんみたいにノリのいい小説かけないんだろうかなあ…
まあいいか(爆)一応、続く予定にしてはいますが…長いだろうなあ…
続き読みたい人は同人誌への寄稿依頼してください(笑)
喜んで書かせていただきます(^_^;)
では、また何か書く時あったら、ってことで、その時に会いましょう

K.M

P.S 
またレスかくことができないー(T_T)スピード速すぎますって、ここ


http://www.cyberoz.net/city/km/mono.htm