LF97より 「召喚」 −Summoning− 投稿者: k.m


「嘘の自分を見せるようつとめるよりありのままの自分を見せるほうがずっと得であろう」
−ロシュフーコー−

芹香の部屋
来栖川家別荘
土曜日 23時45分

真夏だというのに、その部屋内だけは肌を刺すような冷たい空気が充満していた。
霜がはるような微かな亀裂音が聞こえてくる。外はそよ風ですら生じない完全な無風だったはず
だがなぜかここだけは束ねられたコピー紙が飛ばされる程のどこからともない風が壁から壁へと
吹き抜けているのだ。
燭台に灯った蝋燭の光だけが照らす薄暗い部屋には普段常識ある者が見たらば必ずや何らかの衝
撃を受けるであろう夥しき数の異品が所せましと飾られていて、床には漆黒の敷布に地獄に住む
恐ろしき悪魔を象徴するシンボルをちりばめた大きな白い五忙星の方円が描かれている。そして
それと向かい合うように1人の少女が誰にも聞こえない程の微かな声で何かを喋っている。それ
は自分以外に誰もいないはずの部屋に存在する「なにか」との会話のようであり、またはこの現
世に存在しない「なにか」を呼び出すための呪文を唱えてるようでもあった。
四方のうちの1つ、北東に位置する壁の一点を来栖川芹香は超常的な眼差しで見つめていた。
彼女にとっての趣味であり、生きがいであり、魅力である黒魔術の儀式はこの日は双子の姉妹、
綾香と執事のセバスチャンの代わりとしてほんの数十分会話をするために最下級の魔物を呼び出
すはずであった。彼女は一見無表情で、あらゆる感情を消されてしまったかのような無垢そのも
のの顔立ちではあるが、こと皆が「オカルト」「魔術」「心霊」と呼ぶ類においては高校生とい
う年代ではまず並ぶものが無い程の知識と情報を持っている。実際に五忙星を描いた白き方円か
ら魔物を召喚した事もあったし、彼女が通っている高校の上空に雨を降らせた事もあった。確か
にアクシデントが付き物である召喚の儀式だから何か別の魔物を召喚してしまった事もありえる
だろう。しかし今回方円に並べた悪魔のシンボルはどれも最下級のものであり、間違っても「芹
香では太刀打ちできない」力を持つものを呼び出せるはずはないのだ。しかも気配は床からでな
く、壁の中から吹き込んでいる。儀式と関係ない場所で何かがやってきた。のは芹香も理解でき
てるであろう。だがそれが何で、何の用でここへやってきたのかは当然理解できるはずもなかっ
た。
”おまえに頼みがある…”
壁の中の「なにか」が突然に声を出して芹香に話し掛けてきた。
”我が名はラルヴァ、ガディムより生まれガディムによって育ちガディムのために死ぬ者。
存在するどれでもない異なる次元に不等に幽閉されし者”
芹香は「ラルヴァ」と名乗った者の話を表情を変えず聞いている。
”我、死の危機にある母なるガディムのためおまえに願いたい。我を解放し、ガディムを救ってくれ。
このままでは僅かな時を持って、ガディムは死に、我々も滅ぶであろう”
ラルヴァの声はさらに続いた。
”ガディムは求めたものを得ようとしただけ。だが奴等はそれを不等として全てを追放し、封印した。
我々は探した。ガディムを理解し、扉を開けてくれる者を。我々の敵と戦い、助けてくれる者を。
おまえに我々の無念が理解できるなら、死にゆくガディムを救ってくれるならば。
扉を開き、我を解放するのだ”
「…」
その言葉に、芹香は何の疑いも無く首を小さく縦に振った。
”さあ、手を伸ばせ…扉はここにある…”
小さく歩み寄りながら、芹香はゆっくりと両手を前に伸ばした。すると手は目の前の壁を抵抗無く
突き抜け、壁の中へと埋もれる形となった。
”よくやった…これで我は解放される…ガディムのため、ガディムに全てを捧げるために…”
芹香の白く細い両手が埋まる箇所から、突如として黒い腕が現れた。

時計のすべての針が「12」を指した瞬間である。
轟音が轟き、別荘全体が激しく震動した。
「な、何事だ!?」
執事セバスチャンはようやくまどろみの世界へと入る途中だった。なのに突然の轟音が彼を一気
に現実の世界へと引き戻してしまった。だがそれが結果としてこの別荘に異変が起こった事を即
座に気付かせる事になり、セバスチャンはすわ一大事と他人には決してみせないパジャマとナイ
トハット姿のまま勢い良く自室を飛び出した。
「お嬢様!どうなされました!?」
来栖川家での異変は全て2人の令嬢に関わる事だとばかりにセバスチャンは大声を上げて別荘内
を駆け回った。執事兼ボディーガードとしてこの事態は由々しきものであり、大失態でもあった。
キッチンのガスが漏れて引火したのか、それとも大戦時の不発弾がここに埋もれていてそれが爆
発したのか…ああお嬢様…いずれにせよもし、お2人の身に何かあったらわたしは何とすればよ
いのだろう…お館様にどうお詫びすれば…いや、そんなことではすまされまい。もし、もしも2
人のお体に傷がつくような事があったらば、この私めが腹を切ってお2人におわびいたしますぞおお!!

「セバス!!」
泣きながら叫んでいたセバスチャンを後ろから誰かが呼び止めた。
「おお!!綾香様!!」
物静かな芹香と違い行動的で活発な印象を受ける来栖川綾香が、
セバスチャンと同じく驚愕と焦燥の入り交じった顔で立っていた。
「おお!!ご無事でしたか!?」
「どういうこと!?一体何が起こったのよ!」
感激するセバスチャンに構わず綾香が大声で詰め寄った。見れば彼女も寝間着姿のままだ。
薄いシルクのネグリジェは体のラインがうっすらと透けて見えている。
本当ならば恥ずかしがるのだろうが今は当人にもセバスチャンにもそれを気にする余裕など無かった。
「わ、わかりません。私も突然の出来事に何があったのかまだ確かめてないのです…」
うろたえるセバスチャンを見ている時、不意に綾香が声を上げる。
「姉様はどうしたの?」
その言葉にセバスチャンも凍り付いた。
「いえ、まだお姿は…」
「まさか姉様に!」
言うや否や綾香は全速力で芹香の寝室へと走り出した。セバスチャンも遅れ気味にその後を追いかけた。

先ほどの轟音が爆発音ならば、今芹香の部屋から聞こえてくるのはグラインダーで金属片を削っている
ような断続的な摩擦音であった。その中で更に火花が散るような音や巨大な氷がひしめき合う重低音も
聞こえてくる。ドアが閉まっているため何が起こったのかはわからないまでも、先の爆発音は間違いな
くこの部屋で起こったのだと2人は察知していた。
「姉様!どうしたの!?そこで何があったの!?」
ノックどころではないほど激しくドアを叩きながら綾香が叫んだ。セバスチャンも同じように芹香の名
を叫んで事の次第を確かめようとしている。
しかし、何度呼びかけても部屋の中からは何の反応も返ってこなかった。ますますもってただならぬ事
態と認識した2人は部屋内に突入する事を決めた。
気合の声と共に綾香の前蹴りが大きなドアを打ち破り。そして2人が中へ飛び込むと─
綾香は目を丸くした。
部屋には何も無かった。黄金の燭台も、儀式に用いられる様々なアイテムも方円が描かれた漆黒の敷布
も、その一切が芹香の部屋から消失していた。あるのはドアのある側を含めた4つの壁と天井、そして
床だけである。
その中央に芹香がいつもの表情で、何事も無かったかのようにたたずんでいた。
「姉様!」
綾香は素早く芹香の元へ駆け寄った。
「心配したのよ。ねえ、何があったの?」
肩を抱きながら綾香はたずねてみた。すると次の瞬間、磁石の同極同士が弾け合うかの如く綾香はその
場から飛びのいた。
「あ、綾香お嬢様?」
セバスチャンにはそれがどういう意味なのかわからなかった。
「…姉様じゃない」
綾香が呟いた。
「何ですと!?」
「あなた…誰?いえ…何者!?」
芹香の表情は変わらなかった、が、その代わりに視線だけを綾香のほうに向けると、おもむろにある方
向へ人差し指を突きつけた。
指先が示す方向に目をやった時、2人は異変の真相を知った。芹香の足元は…いや、芹香の影は芹香本
人のものではなく、何か別の…鋭利な角と巨大な翼を生やした黒魔術の経典に描かれてる悪魔のそれだ
ったのだ…

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あー疲れた
どうも、ここでは初めて書きますk.mという者です。
みんないろいろと小説書いてるので「じゃあ私も」と思ったんですけど、死にました(笑)
慣れない事はするもんじゃないですね(^_^;)
まあ、エピソードとしてはLF97の前章としていかに芹香がラルヴァを召喚したかを
書いてみたんですが…
はっきり言っていいかげんに書いてます(笑)
登場人物も別荘も季節も召喚儀式に関する事も全部ノーチェックですから(^_^;)リーフの
ファンや黒魔術に詳しい人ならこの作品がどれだけボロボロかすぐに見破れる事でしょう。
まあわたしとしては書きたい事書けたからよし、としてます(^_^;)
1度こういう形式で書いてみたかったんだよなあ。
さてここでクイズ、タイトルと最初で序文を書いたのはあるビデオ作品のパクリです、
それは何でしょう?ヒントはわたしがクリス=カーターのファンである、です。
それでは、機会あったらまた何か書きますね。

K.M

http://www.cyberoz.net/city/km/mono.htm