TwoHeart 投稿者:Kouji 投稿日:11月25日(日)19時57分

お元気ですか?
貴方に手紙を書くのは懐かしく、
少し恥ずかしい思いです。
では、なぜ今更になっての手紙かというと、
一つ興味深い手紙を見つけたので。
少し長い文章ですが、
貴方には送っておいた方がよいと思いまして。
彼女のことを良く知っている貴方には。
少し破れていて見にくい個所がありますが、
何か思い当たることがあるかも知れませんのでそのままにしておきます。







  この物                   つの愛の形。
  2つ               ある。
  『2
  だ             art』と言おう。






  知っているだろうか?
  いや、この手紙を読んでいるからには知っているだろう。
  もう10年近く前に初期型がロールアウトしたHMシリーズを。
  市販化にいたるまでに幾度とモデルチェンジをし、
  様々な困難や苦悩を抱き続けてきた物を。
  そう、心を持ったと言われるロボットである彼女らを。
  知らないならそれでもいい。
  どこで手に入れたのか分からないが、
  もうこの手紙を読むのは止めたほうがいい。
  何も得る物がないだろうから。
  それでも、少しでも彼女らの事を知っているなら、
  理解したいと思っているなら、
  答える事は出来ないだろうが、此処に一つの形を示そう。


  モニター機として実験的にとある高校へ行った、
  HMX−12
  君の知っている彼女らの姉のことだ。
  そこで出会った一人の男との事を。


  元気な彼女はいつもくるくると良く動く瞳をしていた。
  彼女らの中でもソフトウェアに力を入れた物だったから。
  多少難は残したてしまっていたが。
  彼はそんな彼女をおおらかに見つづけた。
  最後まで。
  その事は今度機会があればにしておく。
  少し話を戻して、彼と彼女が出会った高校生活の時に。
  どんな思い出の中で、どんな想いで暮らしてきたのか、
  それを知って置くべきだろう。
  本当にこの手紙を読む必要が有るのならば。
  彼の気持ちが少しでも分かるのならば。

  それは春。
  確か、早咲きの桜が舞っていた頃だった。


      (中略)


  再び出会えた事は二人にとって幸せなことだった。
  どんな理由があろうとも、
  どんな制約があろうとも。
  一緒に暮らせるだけで二人は良かったのだろう。
  周りには気心の知れた友達も居たのだから。
  共にすごした高校生活ほどに充実した生活。
  それ以上に深く繋がった絆と。
  それは二人の表情からも十分に伝わってきた。
  そんな時に一通の手紙が彼の家に届けられた。
  あまりにも心無い内容だった。
  楽しいことがあれば苦しいことも有ると、そう言えるような物ではなく、、
  一方的な、卑怯な手紙だった。
  彼はその手紙を破って捨てた。
  心情的には差出人さえ書いてあれば直接殴りに行ったかもしれない。
  本当は調べる事は出来たのだ。
  彼と彼女には色々と制約してしまっていたから。
  だが、本当はそんな事を望まないのは知っていた。
  彼もそうだが、彼女もそうだ。
  だが、もしかしたら皆の真実はそうなのではないかと、
  周りの目が気になったのかもしれない。
  ただ、彼の性格を考えると
  本当に興味なかっただけなのかもしれない。
  言いたいやつには言わせておけと、そんな顔がなぜか思い浮かぶ。


  その手紙の内容だが、知りたいかね?
  確かに、それを伝えるべきでこの手紙を書きはじめたのだが、
  今になってそれが正しいことかどうか分からなくなってしまったのだ。
  彼の顔を思い浮かべてしまったから。


  だから、ただ一つ問いたい。
  彼女は人になりたいなどと思っていたのだろうか?
  同じような寿命を持ち、年を同じく老いていく事を願ったのだろうか?
  願うようになるのだろうか?


  私は何度考えても首を縦に振る事は出来なかった。
  彼女はいつも元気でいたかっただけだろう。
  彼の隣で笑っていたかっただけだろう。
  自分を変えたいと願うことがおこがましいと思うわけでもなく。
  何よりも純粋な心で。
  彼もまたそうだと思う。


  私の思いこそが勘違いなのかもしれないな。
  どちらにせよ、これでこの話は終えよう。
  これをどう考えるのも君達と、
  今も制約にとらわれているお前達の自由だから。




  追伸、困った時は来栖        を訪ねなさい。
  もしかすると力になっ         かもしれない。







追伸、
これが誰の、誰に対する語りかはわからないけど、
貴方へ手紙を出し渋っている間に
冒頭で欠けていた個所を見つけたので補っておきます。
ただ、最後の部分は見つかりませんでした。
そしてもう一つ。
手紙の最後にあった、書いた文字を線で消してしまっていたが、
おそらく書かれていただろう言葉も。
『持ちなさい』ではなく『なりなさい』という言葉に
何か願いが込められているのではと感じて。
それでは、お身体に気をつけて。







  この物語は彼女らのメモリーの根底に刻まれた一つの愛の形。
  2つの心が作った、誰かへの愛の形である。
  『2つの心』
  だから私はその物語を『TwoHeart』と言おう。







     『TwoHeart』



  大切なものを守る強い心になりなさい。