冬の日の朝靄の中。 少年は少女の手を取り、坂道を駆け上がる。 新聞配達の自転車がすれ違うように坂を駆け下りていった。 それ以外は無人の坂道だ。 頂上を征服するわけでもなく、そこから見える風景を楽しむ為でなく、坂道を駆け上がる。 吐く息が白く、体と心が熱く…… 「浩之さん……走るの速いです……」 少女は胸をおさえ、立ち止まってくれた少年のそばに座り込もうとした。 「吐く息が白いだろ。それに胸もドキドキしてる」 少年は少女を後ろから座らせまいと抱きしめた。 「あ、あの……吐く息が白いのはオーバーワークで熱があるためです。それに……」 ドキドキはいつもしてますと、口の中でだけ呟いた。 体を動かした時だけでなく、少年を思うと不思議にドキドキする。 出会ってから半年以上ずっとだった…… 少年は独り言のように少女の耳元でささやいた。 「辛いことがあったら思い出せばいい。白い息とドキドキは嘘じゃないだろう? それを思い出せばいい」 言葉の理由も詳しい説明もしない。少年はただ優しく抱きしめるだけだ。 少女は少年の腕の中で真っ赤になって小さく頷いた。