「あなた、誰です……」
楓は耕一からその女性を引き離した。
それに気分を害された女性は、もう一度耕一に抱き着き、頬に口付けした。
ピシッ……
楓の気配がさらに重さをます。
空気が震え、窓ガラスが、テーブルに並べてある食器が、音を立て悲鳴を上げている。
「か、楓ちゃん!!」
耕一が慌てて楓を押さえようとした。
女性をかばうように抱きかかえて……
パリィィィン!!
「か、か、楓ぇぇ〜〜!!」
部屋のガラスや陶器類は、すべて取り替えなくてはならなくなってしまった……
『2 of 2?』
「なによ! ロボットのくせに!!」
「ロボットでもエディフェルよ!! 私の方が愛されるに決まっているわ!」
「私がエディフェルよ!」
「私よ!!」
耕一は無事にはすまされない予感が確信に変わっていくのを感じていた。
小さい声で千鶴に文句を言う。
まだ睨み合っている二人の様子に、小さくため息を漏らした。
くしゅん……
「風邪かしら……」
三人だけの荒れた食卓で、千鶴が小さなくしゃみをした。
「馬鹿はなんとかって言うけど……」
初音がひょいとキノコに箸をのばしながら呟いた。
ピシッ……
空気が数度下がる。
が……梓は気にしない様子で千鶴に話し掛けた。
「それにしても、あんな事して、よく金あったな」
「えっ、あ、お金? お金なんてかかってないわよ。ちょっと例の力を見せたら、心から嬉しそうに協力してくれたわ」
そこには「なるほど」と納得する二人がいた。
ブビーブビーブビーブビー……
ブビーブビーブビーブビー……
これまた人の神経を逆なでするような警報が鳴り響いた。
今日になってもう5度目だ。
近所の人たちからの抗議の電話が同時に鳴り響く。
しかし、二人の耳にはそんなもの入っていなかった。
「なんで耕一さんの部屋に入るの!」
「私が何しようがあなたには関係ないでしょ!!」
「関係あるわ!!!」
「何が? 何が関係あるのよ!? あなただってこれから次郎衛門のことを狙おうとしてただけのくせに!」
「うるさい!!」
「ただの同居人の分際で! センスの無い警報なんて付けて! 迷惑って言う言葉知ってるの!?」
ブチィ!
「か、楓ちゃん!」
慌てて耕一が止めに入るが、楓の腕は止まらなかった。
耕一は目を伏せた。
楓の思いっきりの力では普通の人間には強すぎるからだが……耕一はその女性も普通ではない事を忘れていた。
ギシャァッツ!!
モーターの駆動音と何か固いものを叩いた音に耕一は視線を戻す。
ニヤリ!
そう笑うエディフェルがそこにいた。
「で、なんであんな高性能なエディフェルにしたんだよ! バカか!? 千鶴姉は!」
後に梓が姉に向かって文句を言うのだが、千鶴は真っ向から反抗した。
「仕方ないでしょ! そうでもしないと楓にすぐに送り返される事になるんだから!!」
もっともな反論だ。
現にそうでもしなければ今ごろは耕一と楓は二人っきりだろうが……
「で、どうするんだ? これは……」
初音は庭の外を眺めて、嘆息を漏らした。
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