マルチはにっこりと笑う。
彼女の太陽に挟まれて、いつまでも幸せそうに笑った。
太陽
〜輝くもの〜
オルゴールから懐かしい匂いがする曲が流れた。
ずっと一緒でいられたころ、よく聞いた曲だった……
懐かしい日常を思い出させる曲だった……
「えっと、はい」
マルチは手にした物を二人に差し出した。
自分の身長ほどもある向日葵を三本だ。
「どうしたのこれ? くれるの?」
あかりは少し目を丸くした。
「俺たちにか?」
浩之は縁側に庭にいるマルチを呼んだ。
「はい。……いりませんか?」
大きな向日葵を三本も抱えたマルチは、少し寂しそうな顔をする。
あわててあかりが駆け寄る。
「ううん、いるよ。ありがとうね」
「でもな、ヒマワリをなんで三本もなんだ?」
浩之はその一本を受け取ると、マルチに訊ねた。
「……浩之さんとあかりさんとわたしです」
浩之とあかりとマルチのとは言わなかった。
その向日葵を自分たちにたとえたのだろう。
「おし! かざるぞあかり!」
そう言って庭に下りた。家の中にではなく、庭に向日葵をかざるために。
「うん! 浩之ちゃん。マルチも手伝ってね」
「はい!」
マルチは泣き出しそうな二人の前で、にっこりと笑った。
「向日葵って知ってるか?」
浩之は飾り終えた庭を見ていた。
「はい。知ってます。キク科の一年生植物で……」
マルチは辞書に載っているようなことを話す。
それに思わずあかりが苦笑をもらした。
「じゃあ、その花が太陽に向かって回転することも知ってるか?」
んーと考え込むマルチの代わりにあかりが答えた。
「知ってるよ」
「……あかりには聞いてないぞ」
浩之は当然だろといった表情であかりを軽く睨んだ。
「そうなんですか?」
縁側で、浩之の横に座るマルチは不思議そうな目を向けた。
「そうなんだよ」
ぱっと空を見ると太陽はその中央にあった。
マルチもつられたように見上げる。
「じゃあ、マルチにとっての太陽は浩之ちゃんだね」
あかりはマルチの横に腰掛け、優しく微笑みかけた。
「そうか?」
「はい。そういうことなら、浩之さんとあかりさんがわたしの太陽です」
浩之の気の無い言葉に、マルチは元気よく答えた。
マルチは約束ですと小指を出そうとしたが、出来ないことは自分にも分かっていた。
「なあ……マルチって向日葵みたいだな」
何気ない一言だったが、
「え? あ、そうだね」
あかりも何気に賛成した。
「えっと? どうしてですか?」
「んー」
自分で言って、少し困ったような表情になる。
あかりも同じように悩んでいたが、ふと二人の声が重なった。
『元気だから……かな』
その答えに納得したのか、
「はい! 元気が取り柄ですから」
言葉どおり元気な声で返事をした。
その様子に、浩之もあかりも微笑みをもらしたが、
「ね、ね、浩之ちゃん。私は?」
浩之に訊ねた。
「……ドクダミ?」
浩之なりのギャグなのだろうが、あかりには通じない。
「ドクダミ? えーっ!! 花じゃないよぅ」
「ばか、花もあるだろ!」
「えー、でも……」
そんな二人のやり取りに、マルチは幸せそうに笑った。
向日葵に囲まれて、海と空を一望出来る場所で、
マルチは彼女の太陽に挟まれて、幸せそうに笑った。
だめだ!
だめだよ!
……そんな顔をしないでください
でも!
笑っていてください……お二人はわたしの太陽なんですから
……わかったから。あなたの妹たちがいろいろと辛いことに合わないように努力するから……
はい! わたしもお二人の幸せを願って、笑っていますから
そうだな……ずっと笑っていろよ。向日葵のように……
はい! 約束です!
『約束は守ってやるぞ。絶対誰にも破らせないから、心配するなよ』
「ありがとうございます。お願いしますね」
『見ててね、ずっと……これからのみんなを……わたしと浩之ちゃんを……あなたの妹たちを』
「分かってます……ずっと見てます。わたしの二つの太陽ですから……」
『ずっと笑ってろよ。向日葵のように……』
「……はい!」
そしてオルゴールの蓋は閉じられた。http://www3.osk.3web.ne.jp/~mituji/