まったく……
やっと耕一さんと幸せになれると思ったのに……
姉さんたち、とんでもないことを……
−序−
「楓! 今日はあんたの好きなものだよ」
柏木家、四姉妹がそろって食事を取るのは今後しばらくなくなる。
三女の楓が遠くの大学に合格したため、家を出るためなのだが……
(チッ! 楓のヤロー、上手いこと耕一のとこに転がり込みやがって!)
料理を作っていた梓の心境はそんなとこだった。
つまり、明日から大学に通うため、耕一のアパートの方に住み着くというのだ。
わざとそういった大学を受けて合格してみせた楓は、勝ち誇るように梓に笑いかけた。にやにや笑う楓に、心境穏やかでなかったのは梓だけではない。
(耕一さんも耕一さんですわ!)
(ぬかったわ! 楓より早く生まれてれば!)
表面的には幸せそうな四姉妹だったが、心の中での冷戦は激化していた。
そこを制したのが楓ということだった。
(ふふん! ナントでも思いなさい)
飛び切りの笑顔で料理に手をつけた……
「うまくいったわね、姉さん……」
梓はにやりと眠りこけた楓に目をやる。
「さて、じゃあ早速運ぶわよ! 目が覚める前に事を終えるのよ!」
千鶴は鬼の力を発揮させ、軽々と楓を抱え上げた。
「……行きましょう。面白いことになるわよ」
初音はすごく楽しそうに笑みを浮かべた。
『2 of 2?』
ピンポーン……ピーンポーン……
ピンポーン……ピーンポーン……
耕一は規則的に鳴らされる呼び鈴で目を覚ました。
ふと時計に目をやるが、まだ6時を少しすぎたばっかりの時間だった。フリーターの耕一には普段夢の中にいる時間だ。
ピンポーン……ピーンポーン……
ピンポーン……ピーンポーン……
ピンポーン……ピーンポーン……
ピンポーン……ピーンポーン……
「なんだよ……こんな時間に…………」
独り言を呟くとあいまいな返事をし、玄関に向かった。
ピンポーン……ピーンポーン……
ピンポーン……ピーンポーン……
ピンポーン……ピーンポーン……
ピンポーン……ピーンポーン……
「はい、はーい! 今あけますよ!」
少し怒鳴りぎみに言って、乱暴にドアを開けた。
が……そこには誰の姿も見当たらなかった。不思議そうにドアの裏も見たが誰もいない。
隣りの部屋の前に荷物が置いてあるのだけが見えた。
ピンポーン……ピーンポーン……
ピンポーン……ピーンポーン……
しかし、まだ呼び鈴は鳴り続けている。あくまで規則的に。
そこを見ると変な箱が呼び鈴があるべき場所にくっつけられていた。
耕一は少し乱暴にそれを引っぺがした。
同時にうるさい音もやむ。それを見てみると、規則的にちいさな棒が動いていた。
……
瞬間、耕一はその変な箱を握り潰した。
「いったい誰だ! こんな悪戯を!」
憤慨した表情でドアを閉めようとした時、カンカンッと階段を駆け上がる音が聞こえた。
新聞配達だろうかと思ったが、確認するとそれはもう配られた後だった。軽く他の部屋の新聞受けを見たが、ほぼ完璧に終わっていた。
「あ、耕一さん」
階段を駆け上がってきた人物は耕一に抱き着いた。3ヶ月ぶりの再会だった。
「会いたかった! ずっと……」
「か、楓ちゃん。そりゃ俺も会いたかったよ……でも……」
今日来るとは聞いていたが、こんな朝早くに……耕一は、ふと握り潰したそれに目をやった。
……
「も、もしかして……これ……」
楓は耕一に抱き着いたまま「当然です!」といった笑顔で頷いた。
「規則的に同じ音を聞かされると、イライラするかなと思って……耕一さんはどうでしたか?」
天使か悪魔かわからない笑顔に、耕一はただ引きつっていた。
「でも大丈夫です」
何が大丈夫なのかわからない耕一だった……
ただ、傍から見れば感動的なシーンに、当事者の耕一は一抹の不安を抱えていた。
「楓のヤロー!!」
力の加減を誤った梓は大穴の開いた玄関で叫んだ。
その横では、千鶴が壊れたチャイム跡を睨み付けるような表情で見ていた。
『2 of 2?』
「じゃあ、そろそろ行ってくるから……」
「はい。お気をつけて」
バイトに向かう耕一に明るく返事を返す。
そして翌日より大学に通う楓は、部屋で自分の荷物を片づけていた。
2DKの小さな部屋だったが、その一つを楓専用にあけていてくれた耕一の優しさが嬉しかった。
(さすが耕一さん……でも一緒の部屋でもよかったのに……)
思ってちょっと赤くなった。
「早く片づけて、買い物に行かないと……」
照れ隠しに独り言を言うと、片づけの続きを始めた。
「ん? そういや荷物なんて送られてきたっけ?」
バイト先に向かう途中、そんな疑問が浮かんだ。
昨日は確かになかったはずだ。
しかし、楓が来た時にはあった。(隣りの部屋の前に置いてあったのがそうなのだが……)
「まさか……」
自分で持ってきたのか?
どう考えても一人で持てる量ではない。ただの人間の女の子だったらだ。
「力を使ったのか……」
少しばかり呆れたような表情をした。
『……にのに?』
それが届いたのは夕食の最中だった。
「はい、耕一さん」
テーブルにならべられた料理に感動していた。
ここ最近の食事を考えれば、どんな手作り料理にでも感動していただろうが、実際にならべられた料理は想像以上だった。
梓が家庭的な料理なら、楓のは演出された料理だった。
一見して日本料理には見えないが、どこで習っていたのか感心さえした。
「……すごいよ! どうしたの楓ちゃん」
楓はにやりと笑うと、キッチンの方を指差した。
……
「……帰ってもらいなさい……」
キッチンにいたフランス人シェフがすごすごと部屋を出ていく。
楓は少し不服そうだったが、耕一が頼むと承知した。そして、預けていた生活費のことを思い出し、なんとも情けない顔を楓に向けた。
「もしかして……これは、だ、誰のお金で……」
「大丈夫ですよ、耕一さん。お金なら姉さんに持たせてもらいましたから」
もう一度にやりと笑う楓に妙な不安を感じていた。
「……ま、まあ、なんだから食べようか……」
この料理にどれほどの金額がかかっているのか……
そう考えると、味を楽しむ余裕など無かった。
余談だが、その少し前………
「あー!! 食費がぁ!!?」
梓が薄くなった封筒を持って叫んでいた。
ピンポーン……
「はい……」
楽しい食事を中断させる呼び鈴に、少々不満の声で楓が立ち上がった。
ガチャッ……
統一された服を着た大勢の男たちが、大きな箱をもって立っていた。
「あの、お届け物ですが。ハンコお願いします」
「あ、はーい」
耕一がハンコを持って玄関にやってきたんだが……
あまりの大きさに開いた口がふさがらなかった。最初タンスか何かを送ってきたのかと本気で思ったくらいだ。
送り主は……
送り主を見て、二人の反応がきっぱり分かれた。
「へぇー、千鶴さんからだ。元気にしてるかな……」
(……何かある! ぜったい何か!)
懐かしそうに受け取りのハンコを押す耕一と、すごく警戒している楓。
「では、これで……」
受け取りのハンコをもらうと、その男たちは荷物をすごく重そうに、すごく丁寧に部屋に入れた。
『なにいっ!!!!!』
二人の声が見事に重なる。
(慎重に)ダンボールの箱を開け、『HMX−Etype』とかかれたアルミのような箱の開閉スイッチを押した(くなかった)のだが……
そこにあったのは……
「会いたかった! ずっと……」
エディフェルが耕一をきつく抱きしめた。
(続く)
===+++===
私はリーフキャラで楓(=エディフェル)が一番好きなんです
ほんとに・・・
ですから、これはフィクションですので、気になさらないように・・・
(初音はハンテンダケ食ってる風だし・・・)
・・・ついでに言うと、このキャラのイメージは
皆さんがいろいろと書いてきたから、そっから貰いました
みんなが悪いんや〜(泣)
ということで、新シリーズ
『2 of 2?』(にのに?)
このシリーズはすぐ終わるはずです・・・
これは長く続けるものでもないしね
ホントはもっとずっとシリアスなのを考えていたんだけど
もういいやって・・・(笑)
タイトルも
『TWO of TWO?
− Brunette woman 〜 Reddish fire − 』
だったんですが・・・今じゃ・・・(にのに?)
まあシリアスは疲れるし、長くなりそうなのでやめました
感想をくれた皆様、感謝してます
今回は感想を書けませんでしたが、今後書くと思いますんで
許してくださいね・・・
《 98/5/31 Kouji 》http://www3.osk.3web.ne.jp/~mituji/