「お赤飯」 投稿者:OLH
お約束ですが、以下の話は痕のネタばれを含む可能性がおおいにあります。
そういうのが嫌な方はすっ飛ばして下さい。



=== お赤飯 ===

「こんばんわー」
 その日、俺が本家を訪れたのは偶然だった。
 奥から出てきた千鶴さんは一瞬びっくりしながらも、心から嬉しそうな表情で俺
をむかいいれてくれた。
「まあ、耕一さん。よくいらして下さいました。でも、急にどうしたんですか?」
「いや、ちょっとこっちの方に用事ができちゃいまして」
「でも、ほんとにいいタイミングでいらしたわ。今日はいっぱいお赤飯を炊いたん
です。一緒にお祝いしていって下さいね」
「お赤飯? って、何かあったんですか?」
 そう聞く俺に
「ふふっ、すぐにわかります」
 と千鶴さんは意味深な笑いでこたえた。

 居間に向かう途中、俺は四つんばいになって廊下を拭いている楓ちゃんに会った。
「よっ、楓ちゃん、久しぶり」
「あっ」
 楓ちゃんは小さく声を上げると慌てて立ち上がり
「お久しぶりです、耕一さん」
 と挨拶してくれた。
「なんだ、こんな遅くなって掃除かい?」
「いえ、その……」
 楓ちゃんは何故か、妙に恥ずかしそうな表情でこたえにつまっていた。そして、
「あ、あの、片付けてきます」
 とだけ言うとバケツと雑巾をつかんで行ってしまった。
 なんとなく不審なものを感じたが、楓ちゃんが恥ずかしがるのはいつものことな
ので、俺は気にしないことにした。
 ふと、楓ちゃんが掃除してた辺りに目をやると、まだ拭ききれてなかったのか
赤っぽいしみがそこにあるのに気がついた。
 「なんだ? 血、か?」

 居間に入ると梓ができた料理をはこんでいるところだった。
「あれ? 耕一じゃないか。また、ただ飯を食いに来たのか?」
 ちょっと驚いた表情をしたが、すぐに梓は憎まれ口をたたいた。
 しかし、一瞬嬉しそうな顔になっていたのを俺は見逃していない。
 よし、ちょっとからかってやろう。
「いや、梓にどうしても会いたくなってさ」
 少し照れた風を装いながらも、真剣な表情で言ってやる。
「え?」
 うろたえる梓。よしよし、もう少し。
「向こうに帰ってからも、ずっと梓の事が忘れられなかった…」
 梓の目を見つめつつ肩に手をやる。
「耕一…」
「というのは冗談で、ほんとはただ飯ありつきに来た」
 あ、やば。両肩震えてるよ。
「こぉの、大馬鹿野郎おぉぉーーー!」

「そういえば、初音ちゃんは?」
 いつもよりちょっと豪勢な料理がならぶ居間で、左目にあざを作った俺が千鶴さ
んに尋ねた。
「そうそう、準備も整った事ですし、そろそろ呼んできませんとね。なにせ、今日
の主賓ですから、初音がこない事には始まりませんし」
「あ、今日は初音ちゃんのお祝いなんですか。でもいったいなんの?」
 誕生日でもないよなあ、とか考えつつ聞いてみると千鶴さんはクスっと笑って
「あの娘もやっと一人前ってことですよ」
 とこたえた。
 それを聞いて俺はなんとなく気恥ずかしくなってしまった。

 なんか今日来たのは失敗だったかなぁ、などと考えていると初音ちゃんがやって
きた。
「あ、初音ちゃん、その、ひさしぶり」
 と俺がちょっと照れていうと、
「あ、お兄ちゃん。また来てくれたんだね」
 と初音ちゃんも照れたような表情でこたえてくれた。
 よく見ると初音ちゃんは少し赤い目をしていた。
 あれ、泣いてたのかな、などと思っていると
「さ、みんなそろったことだし、食事にしよう」
 と梓が言った。
「そうですね。それじゃ、いただきましょう」
 と千鶴さんがそれにこたえた。
『いただきまーす』
 みんなの声が唱和した。

 一旦座った自分の席から初音ちゃんはすっくと立ちあがると、おもむろに縁側に
向かった。初音ちゃんの手には、いつのまにか鶏がつかまれていた。

 そして。

 コケーッ

 まだ生きていたそれを、やおら、むさぼり始めた。

 バリッ、ボリッ、バリッ
 コケーッ、コケッ、ケッ、ケ

「ち、ち、ち、ちずるさん……あの?…」
 ロボットのようにぎしぎしと首を向けて聞いた俺に、
「柏木家の血を引く女性はああして1度だけ狩りの本能を満たすんです。そうする
ことによって満足した鬼の血をコントロールできるようになるんですよ」
 千鶴さんはにっこりとしながら、そう説明してくれた。

 なにか微笑ましいものを見ているような表情の従姉妹たち。
 既に3羽目の鶏をむさぼっている初音ちゃん。

 バリッ、ボリッ、ボリッ、バリッ
 コケーッ、コッ、コケッ、コケ

 俺は極力外を見ない様にしながら、お赤飯のおかわりをもらった。

=== 了 ===



多分、似たような話は既にあるかと思いますが、初音ちゃんが鬼の血に覚醒する話
です。念のため書いておきますが、私は初音ちゃんのファンです。

予定していた「…く、食ってる…」って台詞が使えなかったのはちょっと残念です。

最初は猫にしようかと思ったんですが、それだと楓ちゃんに怨まれそうだし、犬だ
と初音ちゃんに怨まれそうなので、無難なところで鶏にしました。
今思い付いたけど、クマって線もありだったかなぁ?

いや、前から疑問に思ってたんですよ。初音ちゃんだけ「鬼の爪」が使えない事に。
(あ、梓も使えんか)
で、本編をやって(本編よりLF97を先にやってる。ていうか、LF97の千鶴
さんの「あなたを殺します」でくらっときて、本編をやる気になった)どうも初音
ちゃんは、まだらしいと。じゃあ、覚醒したらどうなるのかな? とこれが基本な
わけですね。

これ書いてから思った事。

「うーん、これが初音エンドの後の話だとすると、耕一って、ど外道だな」
「あ、でも別に覚醒する前にむかえてれば別にいいのか」
「いや、でもこういうのはリンクしてそうだし」
「とすると、初音バッドでやたら時間がかかったのもそのせいって説明できるなぁ」

…すいません、一番ど外道な事考えてるのは私かもしれません…



返信/感想:

久々野様        レス、ありがとうございます。
                ほんとはマルチには幸せになって欲しいんですけどね。
                やっぱり、まじめに考え出すとマルチの事は重いです。

                デンパマン、読ませていただきました。
                くぅ、かっこいいぜ、デンパマン。
                それから、好恵さん。
                彼女にはバードウォッチングを貫いて欲しいです。


他の方々の分の感想も書きたかったのですが、なにせ筆が遅いもんで。
なるべく書くようにしますので、今後もよろしくお願いします。