夢の中に 投稿者:OLH


えー、あれで終わってるはずの「夢の中で」の続きです。
続きってことは当然ダーク系です。
まず先に「夢の中で」を読んでおいて下さい。でないと話がわかりません。

じゃ、あんまりなので、簡単に「夢の中で」のあらすじ。

・物言わぬマルチを人間扱いする浩之は、すっかりまわりから浮いてしまっていた。
 そんなおり、マルチを辱るようなことを言われた浩之は、客を殴ってしまう。
 そのことを聞いたあかりが浩之を「なぐさめ」にくるが、浩之はこれを拒絶する。
 そして、浩之はマルチの笑顔を追い求め…

で、その翌日、ってところから話が始まります。



=== 夢の中に ===

「もーいーかーい」
「まーだだよー」

 お日さまが沈んで、茜色に染まっていく空に声が響いてる。

「もーいーかーい」
「もーいーよー」

 子供達のはしゃぐ声。

 やがて、その声も遠ざかり公園にはわたしだけが残された。

「ひろゆきちゃん…みーつけた……」

 わたしは声には出さずつぶやいた。
 わたしの中がこのせりふでいっぱいになったのは、いつの頃からかな。

 あの時から浩之ちゃんはわたしの前からいなくなっちゃった。
 わたしは浩之ちゃんを探して、いつかこのせりふが言えることを夢見ていた。

 浩之ちゃんのことを想うたびに、この次こそとおもった。
 浩之ちゃんの夢をみるたびに、今日こそとおもった。
 浩之ちゃんと会うたびに、今度こそとおもった。
 そしてそのたびに、わたしの中にたまっていった、このせりふ……

 わたしは浩之ちゃんに帰ってきて欲しかった。
 ずうっと昔、かくれんぼをした時のように。


 浩之ちゃんがお客さんを殴って会社を辞めさせられそうだって話を聞いたとき、
わたしはすぐにわかったんだ。
 きっとマルチちゃんのことで何かあったんだって。

 浩之ちゃんは昔からよくけんかしてて、乱暴者だって言われることがあった。
 でも、ほんとは違うことをわたしは知ってる。
 浩之ちゃんは自分の大切な誰かのためにしか、けんかしたことがないのを。

 昔はそれは雅史ちゃんや志保や、そしてわたしのためだった。
 でも、今は……マルチちゃんだけ。
 浩之ちゃんが誰かのためにけんかするのは。

 でも、だからこそ、浩之ちゃんは帰ってきてくれるとわたしはおもったんだ。
 マルチちゃんのことで苦しんでる今なら。
 そのためにはわたしをあげることになってもいい。
 わたしはどうなってもかまわない。
 浩之ちゃんがみんなの所に帰ってきてくれるなら。

 そう、おもったんだけど……

 それはわたしの都合のいい考え方だった。
 ばかだな、わたしって。
 マルチちゃんのことで傷ついてる浩之ちゃんをもっと傷つけちゃった。

 今は、もう気がついてる。
 それはわたしの本当の心じゃないことを。

 わたしをあげるっていうのは、うそ。
 わたしが浩之ちゃんを欲しかったんだ。
 わたしはどうなってもかまわないなんて、うそ。
 わたしは浩之ちゃんに愛して欲しかったんだ。
 みんなのところに帰ってきてっていうのも、うそ。
 わたしは浩之ちゃんにわたしの所にだけ帰ってきて欲しかったんだ。
 みーんな、みーんな、うそ。
 浩之ちゃんのことを想ったふりして、ほんとは自分のことしか考えてなかった
わたしの、うそ。

 浩之ちゃんは、そんなわたしの心に気がついてたんだろうな。
 だから、わたしのお願いをきいてくれなかったんだろうな。


 今度は、今度こそはちゃんと伝えよう。
 わたしの本当の気持ちを。
 そして、あやまろう。
 浩之ちゃんを傷つけちゃったことを。

 そうしたらいつか、帰ってきてくれる。
 わたしはそう…信じてる。

---

 ふふぅ。
 やっと、やっと帰ってきてくれたね。
 もう離さないよ。
 もう誰にも渡さない。
 ずぅっと、ずぅっと。
 二人で一緒にいようね、ひろゆき…ちゃん……

=== 了 ===



いや、実のところ「夢の中で」のプロットの段階では 「犠牲者」 -> 「心中」 -> 
「後追い」まで構想はあったんです。が、やっぱりマルチに話をしぼった方がいい
かなという考えと、そこまで書いちゃうと完全にマルチが救われる機会を逸するの
で(DVDが届いた段階で生きてれば、まだハッピーエンドに持ち込める可能性が
ある)あかりの話までは書かなかったんです。
(あと、結構長くなっちゃったとか、人称をどうしようかってのも理由だな)

ですが久々野さんのお言葉、

>これくらいじゃ簡単にダークにゃならへんで。ドンとこ〜い(笑)。あかり
>を堕としめるような行為があれば、ちょっときたかも(私、邪悪モードか?)。

に挑発されまして(おい)、書いてみようかなと。
というわけで、この話は 久々野 彰さん に捧げます。
で、どうでしょう? ダークになれました?
(あ、あかりを堕としめるような行為って、多分違うことだろうけど)

で、まあ、あーゆー曖昧な終わり方しといてわざわざ解説入れるのもなんですが、
あかりは当然、後追いしてます。もしくは「扉を開いた」でも可。
「浩之ちゃんが帰ってきた」夢を見たでも可、なんだけど、前提条件がマルチと心
中しちゃってるからねぇ。
最大限救われる構成にしても、結局浩之はマルチのものになってるわけで、あかり
には明るい未来はないでしょう。
(ここから3人仲良く暮らしましたに持ってくのは、ほぼ無理でわ)

それから決して本心に気付いていて拒絶したわけじゃないとおもうぞ>あかり
あれはきっとマルチ以外の事に気をまわす余裕が無かっただけに違いあるまい。
ま、そこらへんのギャップが悲劇を生んだんだろうけど。
(って、なに冷静に自分の作中人物を批評してるんだか>おのれ)
(いや、そうでもしないと自分の精神保てないのよ)