夢の中で 投稿者:OLH


ども、お初にお目にかかります。OLH と申します。
最近ここを読むようになったんですが、いや、なんかいいですねぇ。

私は昔から小説やらゲームやらの後には、その後の話を妄想する事が多いんですが、
ここを読んでいてなんか啓発されてしまいまして、ちょっと考えていた話をまとめて
しまいました。こういった事をするのはほとんど始めてなので、他人様からみてどの
ようなものか今ひとつ自信がないのですが、できたらお付き合い下さいませ。


で、この後に書く話ですが、マルチのバッドエンドです。
しかも基本設定が本編とは違ってます。
そういうのが嫌いな方はすっ飛ばして下さって結構です。
また、話の流れとしてネタばれを含む可能性がおおいにあるので、これを好まない
方もすっ飛ばしちゃって下さい。

では、どうぞ。



=== 夢の中で ===

「ただいま」
 ドアを開け、俺は声をかける。
「ワインを買ってきたぞ。一緒に飲もう。今日は記念日だからな。覚えてるか?」
「わぁ、嬉しいですう。もちろん覚えてます。大好きな浩之さんと初めて会った日
の事ですから…」
 他のやつには見えないし、聞こえないだろう。
 だけど俺にはマルチが微笑みながら答えるのが、ちゃんと見えた。

 マルチと出会ってからもう10年が過ぎていた。
 そして俺を取り巻く環境は変わってしまっていた。
 表面上は普通に大学に入り、普通に会社に入り、そして普通に毎日を生きていた。
 ただ、大学の時に親に借金して買った動かぬマルチの妹に毎日のように世間話を
する俺を、まわりの人間が気味悪がって避けるようになっていた。

 もちろん俺がそんな事を気にするはずが無かった。
 俺にはマルチがいるのだから。
 今日もマルチと「10周年記念パーティ」を楽しんだぐらいだ。あの時の出会い
や、一緒に掃除をした事、ゲーセンで遊んだ事、そんな思い出話を夜遅くまで2人
で語り合ったのだ。

 しかし、そんな昔の事を思い出していたせいかもしれない。
 またあの夢を見てしまったのは。

---

『あなたは犠牲者だ』

 マルチの開発主任だと名乗ったあの男が俺にその言葉を突きつける。

『心を持ったロボットはあなたのような犠牲者を生む』

 俺はそれを否定しようとするが、まるで俺のまわりの空気が無いような状態にな
り声が出せない。

『あなたは犠牲者だ』
『あなたは犠牲者だ』
『あなたは犠牲者だ』

 その言葉があたりを飛び交い、俺の身体に痕をきざむ。

『あなたは犠牲者だ』
『あなたは犠牲者だ』
『あなたは犠牲者だ』

 俺は必死に抵抗する。

『あなたは犠牲者だ』
『あなたは犠牲者だ』
『あなたは犠牲者だ』

 そして、いつのまにか隣にマルチが悲しそうな顔をしてたたずんでいるのに気が
つく。

『わたしが浩之さんを傷つけた』
『わたしが心を持ったから』

 違うと叫ぼうとするが、相変わらず声は出せない。
 せめてマルチを抱きしめ俺の心を伝えようとしても、マルチは幽霊のように俺の
手からすり抜けてしまう。

『ロボットに心はいらない』
『ロボットに心はあってはいけない』

 捕まえようとするたびにマルチは遠くにいってしまう。

『ご主人様、何なりとお申しつけ下さい』
『なんなりとおもうしつけください』
『ナンナリトオモウシツケクダサイ』

 その言葉が今まで以上に俺の身体に痕をきざみこんでいく。

「違うっ、俺は犠牲者なんかじゃないっ!」
「ロボットだって心を持っていいんだっ!」

---

 自分の叫び声で目が覚めると、もう空は明るくなりはじめていた。
 久方振りに見た夢のせいで、俺の身体は冷たい汗でぐっしょりとなっていた。
 そしていつものように、ベッドの横に座ったマルチの、枕許に差し伸べられた手
を握り締めていた。
「俺は犠牲者なんかじゃない」
 気がつくと俺はそうつぶやいていた。

 目覚めが最悪だったからといって会社を休むわけにはいかない。特に今日はやっ
とのおもいで開拓した顧客との契約がある。多少具合が悪いぐらいでは到底休めた
ものではない。
 シャワーを浴びて体を引き締める。
 小さく掛け声をあげ気合を入れる。
 そして部屋に戻り、マルチに声をかける。
「じゃ、行ってくるぞっ」
 そんな俺をマルチはいつものように笑顔で送り出してくれた。
「いってらっしゃいませ、浩之さん」

---

 それまでに苦労したせいか、今日の契約は何の滞りも無く終わってしまった。
 そのため大幅に時間が余ってしまい、俺は相手の社長と雑談をかわしていた。

「そうそう、藤田さん聞きましたで。藤田さんもなんや、メイドロボのマルチを使
こうとるそうやないですか」
「はあ、まあ。社長さんもなんですか?」
 突然出てきたマルチの話題に、俺は戸惑いながらも話を合わせようとした。
「ええ、そうなんですわ。で、藤田さん、マルチを随分と大事にされとるとか」
「いや、なんか愛着がわいてしまって」
 と言うと、相手は声を潜めて言った。
「ていうと、やっぱり裏マルチでっか?」
「は?」
「いや、今時あんな旧型を使おうてるいうことは裏モードかと思いましてな」
「裏モードといいますと?」
 そう聞くと相手はいやらしげな笑いを浮かべながら、やはり声を潜めて言った。
「いやな、マルチにはスペッシャル機能がついてますのや。これは他ならぬ藤田さ
んやからお教えするんやけど、マルチは、できるんですわ」
「できる、というのは?」
「ナニに決まってますがな」
「……」
 どう答えたらいいのか困っている俺を尻目に、相手はいかにもと言った感じで話
を続けた。
「マルチのあそこがダミーになってて、ちょっと処理すれば使えるんゆうのは結構
公然の秘密になっとるから、藤田さんも知ってますやろ?  でも結局は使いもんに
ならんゆうのが定説やけど、じつはあれ、ちゃんと使えるんですわ。もちろん、そ
のままじゃ使えんけど、裏で流れてる解除コード入れると、これが使えるようにな
るんですわ」
「……」
「いや、たまたまそれが手に入ったもんで試してみたんですけどな、これがもう、
凄いの凄くないの。いつもはそれこそロボットぉてな感じなのが、この時だけは人
間かと間違うてしまうくらいで」
「……」
「もう、濡れ方からなにから人間そっくりで、そそること、そそること。でもって
ご主人様ぁ、なんて言われた日にゃ…」

 ドカッ!

 気がつくと俺は相手の社長を殴り倒していた。

---

 ピンポーン、ピンポーン。
 さっきから玄関でチャイムが鳴り続けている。
 ピンポーン、ピンポーン。
 いっこうに止む気配が無い。
 ピンポーン、ピンポーン。
 それこそ、このまま飯も食わずに衰弱死してもいいかと思っていた俺だが、いい
かげんこれには耐えられなくなり、玄関に向かってしまった。

 玄関の扉を開けると、そこにはあかりが立っていた。
 玄関に入り扉を閉めると、あかりはそこにうつむいたまま立ち尽くしていたが、
不意に顔を上げると
「浩之ちゃん、聞いたよ」
 それだけ言い、また、うつむいて黙り込んでしまった。
 俺はあかりに何も言わなかった。

 しばらくしてやっと何かを決意したような表情で顔を上げ、あかりは俺に言った。
「ねえ、浩之ちゃん、帰ってきて」
「……」
「浩之ちゃん、マルチちゃんが来てから、ううん、マルチちゃんがいなくなってか
らずっとおかしいよ」
「……」
「あの時から浩之ちゃん、ずっとどっかに行っちゃってる」
「……」
「ね、帰ってきてよ」
「……」
「……」
「……」
「浩之ちゃん」
 もう一度俺の名前を呼ぶとあかりは俺に抱きついてきた。
 そして顔を俺の胸に埋めながら半ば涙声で言った。
「ね、お願い、浩之ちゃん」
「……」
「もうマルチちゃんの事は忘れて」
「……」
「帰ってきて」
「……」
「私が忘れさせてあげるから」
 この時やっと、俺はあかりの身体が小さく震えている事に気がついた。
「私じゃマルチちゃんの代わりにならないのはわかってる」
「……」
「でも、もう見てられないの」
「……」
「だから、私を好きにしていいから」
「……」
「帰って……きて」
 俺は……何も言えなかった。
「浩之ちゃん……」
「……」
「浩之ちゃん」
「……」
「浩之ちゃんっ!」
 最後は叫び声になり、俺を見上げるあかり。
 そして俺はあかりと目があってしまった。
 一瞬ためらった後、俺は一言だけ言った。
「ごめん……」
「!」
 息をのむあかり。
 突き放す俺。
 慌てて俺をもう一度捕まえようとするあかりを、俺は後ろを向いて拒否した。
「ひろゆき…ちゃん……」
 それは俺がそれまで幼馴染みとしてずっと聞いてきた中で、一番悲しげなあかり
の声だった。
 それきり静寂があたりを支配する。
 やがて……ドアがしまる静かな音が背中から聞こえた。

 ズダンッ!
 俺は拳で壁を殴りつけた。

---

 俺はのろのろと自分の部屋に戻った。
 マルチはそんな俺を悲しげな表情で見ていた。
「なあ、俺、何か間違っちゃったのかな?」
 しかし、今日のマルチは悲しげに微笑むだけで何も答えてくれなかった。
「やっぱりお客さん殴るのはまずかったかな」
 努めて明るく言ってみた。
「でもおまえの事をとんでもなくひどく言われたのは許せなかったんだ」
 弁解してみた。
「心配かけた。ごめん」
 謝ってみた。

 だが、何を言ってもマルチはただ悲しげに微笑むだけだった。
「なんで、何も答えてくれないんだよ」
「……」
「答えてくれよ!」
「……」
「そんな顔して黙ってるなよ!」
「……」
「……」
「……」
「ごめん、怒鳴ったりして…」
「……」
「マルチ……」
 俺は何か大切なものが崩れてしまったような感覚を覚えた。
「マルチ……今は、何も答えてくれなくていい……ただ……また、夢の中であった
ら……いつもの、笑顔を見せてくれ」
「……」
「約束だぜ」
「……」

---

 そして翌日。
 静かに眠り続ける2人のもとに、ある人物からDVDが届けられた。

=== 了 ===



といった感じです。
なお、書き方ぼかしてますが、最終的に浩之は(DVDが届く前に)マルチと心中
してます。少なくとも私の中ではそう終わってます。が、一方でそんな終わりかた
やだぃと叫ぶ自分がいまして、わずかにハッピーエンドに流れる可能性を残した書
き方になってしまいました。
(もっとはっきり殺しちゃった方が良かったとは思うんですが)

ちなみにこの話の設定ですが、本編の長瀬主任との会話あたりから違ってきてます。
実は浩之は長瀬主任に「人間性を持ったロボットはあなたのようの被害者を出す」
といったことを言われてます。で、それがずっと心に残ってるわけですね。
ほんとはもう少し設定があるんですが、それはまた別の時にでも。

元々この話を妄想したのは上の長瀬主任の言葉とバッドエンドだとどうなっただろ
うって疑問から始まってます。
雫や痕をやってからバッドエンドの良さを感じてしまい、自分だったらどんな話が
できるかなぁと思いまして、上の話ができたわけです。
(雫と痕は To Heart の後にやった)

最初は「犠牲者」->「心中」だけだったんですが、やっぱりそこまで行くには何等
かのステップがあるよなぁと思って「裏マルチ」を追加、さらに押しが足りないと
いうことであかりの登場となりました。やっぱり最終的に浩之の運命を握ってるの
はあかりだよなぁと思ったもので。
ちなみに最初はあかりとHする予定でしたが、なんか話の流れからこうなってしま
いました。


ずいぶん長くなってしまいましたが、この駄文で皆様の気持ちがダークになれば
もっけの幸いです。(っておい)


P.S. Leaf広報様
  お忙しいところとはおもいますが、1週間ほど前に JDD04732 宛に出した
  メールがまだ読まれてないみたいなので、読んでみて下さい。
  すみません、お願いします。
  (同じメールをまた別のアドレスにだしなおすというのも何かなぁと思い
    まして。すみません)