「夢の外側」 投稿者:OLH
またまた、間があいちゃいましたが、「夢の中なら」の続きです。
例によって、以前までの話のあらすじを。

「夢の中で」
・物言わぬマルチを人間扱いする浩之は、すっかりまわりから浮いてしまっていた。
 そんなおり、マルチを辱るようなことを言われた浩之は、客を殴ってしまう。
 そのことを聞いたあかりが浩之を「なぐさめ」にくるが、浩之はこれを拒絶する。
 そして、浩之はマルチの笑顔を追い求め…

「夢の中に」
・マルチを追いつづける浩之をなんとか引き戻そうとしたが失敗したことを悔やむ
 あかり。その原因を自分だと思い込み、もう一度浩之に会うことを決意する。
 そして……

「夢の中から」
・浩之の死により雅史の所に引き取られたマルチ。せめて恩返しにと雅史の世話を
 することにしたマルチだったが、いつしか雅史はマルチに辛くあたるようになる。
 そしてマルチは泥酔した雅史に浩之の死の原因を聞かされ、さらに犯されてしま
 う。自分のせいで起こってしまったことから悲しみにくれたマルチは……

「夢の中なら」
・マルチを引き取った雅史は浩之のためマルチを幸せにする事を誓う。しかしマル
 チと暮らす日々は、逆に雅史の心を疲弊させていき、そしてついにマルチを傷つ
 けてしまう。それを苦に「自殺」してしまったマルチを発見した雅史は……

今回は志保の話です。



=== 夢の外側 ===

 ああ、ここね。雅史のお墓は。

 まぁったく、あんたもいいかげんどじなんだから。
 落ち込んだあげく、赤信号で横断してトラックに跳ねられるなんて。
 あたしだって今や国際的ジャーナリストとしてとっても忙しい身なんだからね。
 そんな下らない事で帰国させないでよね。
 ただでさえこの前ヒロとあかりのお葬式のために帰国したばっかりだってのに。

 はぁ、それにしてもこんな若いうちに友達3……4人亡くしちゃうなんて。
 あんたらもいいかげん不幸だったかもしれないけど、そんな不幸のおすそ分けみ
たいな事しなくったっていいじゃない。
 もうこうなったら、いっぱい文句いわせてもらうわよ。


 まずは雅史。
 いくらあんな事を聞いちゃったからって、自棄になってあんな事することはない
じゃない。大体ね、その前にあんたがむやみに落ち込むからいけないんでしょうが。
それ以前にマルチにちゃんと話しとくべきだったわね。そうすりゃ2人で助け合っ
て生きてく事だってできたはずよ。あんたがもっと前向きに生きてりゃこんな2次
災害みたいな事は起きなかったのよ。
 え、何でそんな事知ってるのかって?
 ふふん。国際的ジャーナリストの情報収拾能力を甘く見ないでねってとこよ。

 それからマルチ。
 あんたは基本的には被害者だけどね。だけど文句が無いわけじゃないの。
 あんたがね、自分は心を持ってるんだって事をもう少し自覚してれば、少なくと
も雅史は死ななかったのよ。あんたがもっと自分のわがままを言ってれば雅史はあ
んなに落ち込む事も無かったのよ。確かに恩返しのために雅史につくすってのはわ
からないじゃないけど、それも程度問題。もっと自分もヒロがいなくなって悲しい
んだって事を表に出していれば、雅史だっていっしょに耐えて行く事ができたんだ
から。

 それにあかり。
 あんたがヒロの事をひたすら追っかけてたのは知ってるけど、何もそこまで追っ
かける事はないじゃない。後に残される人の事も考えなさいってのよ。それにあん
たは追っかけるだけで、何で追い付いて引き戻す事ができなかったのよ。あんたが
あとほんのもう少し積極的になってたらヒロだって救われてたかもしれないのに。
これじゃわざわざ身を引いたあたしの立場がないじゃない。

 でもってヒロ!
 あんたが一番悪いっ! 全ての元凶っ!!
 あかりがせっかく助けようとしてるのを邪険にする!
 あとほんの少しだけ待ってやればマルチが帰って来たってのにそれも待てない!
 まったく、まわりに迷惑かけ放題なんだから!
 こんなんだったら、あの時あたしが……って、いまさら言っても始まらないか。


 あーあ、あんたら4人は今頃そっちで仲良く楽しくやってるんでしょうけどね。
 おいてけぼりにされたあたしはどうしろってのよ、まったく。
 ま、いいわ。あんたらはあんたらで今は楽しくやってなさい。
 いずれあたしも行かなきゃならない時が来るから。
 そん時は私の自慢話を思いっきり聞かせてあげるわよ。
 ロボットにも心があることを世界中に認めさせた自慢をね。

 いーい、よく聞きなさいよ。
 あたしはこれからロボットにも心があるって事を世界中にばんばん宣伝するわ。
そして、世界中に認めさせてやる。
 未来の世界であんたらが生まれ変わった時に、今度は幸せに暮らせるように。
 あたしはこれからも生き続けて、ロボットなんてのはちょっとした属性だって世
界に変えてみせるわ。
 そして今度こそ…みんながこっちの世界で幸せに暮らせる世界にしてみせる。
 だから、今は…ヒック…そこで待ってなさい。
 そして、あたしの、自慢話をたっぷり…ヒック…聞いてから…5人で…ヒック…
生まれ変わるのよ。

 だから…今は…ヒック…そっちで…4人…ヒック…仲良く…ヒック…暮らして…
なさい……う…う…うぅぅぅぅ………

=== 了 ===



ああっ、短いっ。なんか予定してたよりはるかに短くなってしまいました。

「夢の中なら」書きおわってから、ここで終わらせた方が良いかとも思いました。
が、それではあまりにも救いがなさ過ぎる。なにせ、4人も……ですから。
「夢の中なら」のラストでは一応の救いは与えたつもりですが、やっぱりかわいそ
うすぎる。で、もう少しだけ続ける事にしたんですが。

今回の話は次回の話へのつなぎです。そのためほとんど内容のない話になりました。
しかし、この話を外す事はできません。なぜならいきなり次回の話へは続けにくい
というのもありますが

・志保に私の気持ちの代弁と、私にはできない行動の代行をしてもらう

という目的があるからです。

詳しい事は全体の後書きに書くことにしますが、現実の私にはマルチに心がある事
を信じる事ができません。で、社会的にもそうでしょう。マルチが幸せになるため
には、これがクリアされなければならない。
そのために志保に社会改革をお願いしたわけです。


で、次はオリジナルマルチの話になります。