「夢の中から」 投稿者:OLH
えー、「夢の中に」の続きです。これも当然ダーク系です。
続き物にする意図は最初はなかったんですが、見事に妄想が広がっちゃいまして。

というわけで、まず先に「夢の中で」「夢の中に」を読んでおいて下さい。
でないと話がわかりません。

なんですが、既に結構過去にいってるので簡単にあらすじ。

「夢の中で」
・物言わぬマルチを人間扱いする浩之は、すっかりまわりから浮いてしまっていた。
 そんなおり、マルチを辱るようなことを言われた浩之は、客を殴ってしまう。
 そのことを聞いたあかりが浩之を「なぐさめ」にくるが、浩之はこれを拒絶する。
 そして、浩之はマルチの笑顔を追い求め…

「夢の中に」
・マルチを追いつづける浩之をなんとか引き戻そうとしたが失敗したことを悔やむ
 あかり。その原因を自分だと思い込み、もう一度浩之に会うことを決意する。
 そして……

あらすじ書こうとしておもったけど、「夢の中に」ってとことん内容が無いですね。
あかりが後を追う原因になった心情しか書いてないせいなんだろうけど、もっと話
をふくらませられなかったかなぁ。反省。

上の話、多分まだ残ってるとはおもいますが、もし消えちゃってて、さらに読んで
みたいというきとくな方がいらっしゃいましたら、メールをください。



=== 夢の中から ===

 ブゥーン

『start boot-up process』

 わたしの中で聞きなれたメッセージが聞こえてきます。

『system monitor check... OK』

 もうすぐわたしは夢から覚めます。

『all system boot-up complete. wake up HMX-12』

 ゆっくりまぶたを開きます。
 そして見えてきたものは、いつもの真っ白な天井……ではありませんでした。

「起きたかい」

 そう聞いてきたのはとってもやさしい顔立ちをした男の人でした。
 見覚えのあるような、ないような。

「僕がわかるかい」
「えっと…」

 やっぱりわたしの知っている方みたいです。
 でも、あわててメモリーを検索したけどわかりません。

「す、すみません、あの、どなたでしょうか?」

 うう、恥ずかしいです。
 セリオさんならこんなことないんでしょうね。

「雅史だよ。浩之の友達の佐藤雅史」
「えっ、雅史さん?」

 だって、わたしの知ってる雅史さんは……
 と、ここでやっとわたしは内蔵時計の日付が10年経っていることに気がつきま
した。あの日、浩之さんと別れて眠りについた日から。

 あの日…浩之さんと結ばれた日の翌日、最後のデータ収拾が終わって、わたしは
眠りにつくことになりました。永遠に覚めないはずの眠りに……
 わたしは、せめてわたしの妹が浩之さんのところで幸せに暮らせることを願いな
がら、すべての電源を切られていく様を眺めていました。
 それがわたしの覚えている最後の風景です。
 あれから、もう10年も経ってるんですね。
 でも、わたしはまた帰ってこれたんです。
 永遠にいなければならなかったはずの夢の中から。

 また浩之さんに会える、そうおもうとわたしはとにかく嬉しくなりました。
 でもあたりに浩之さんの姿がありません。

「あ、あの、雅史さん。浩之さんはどこにいらっしゃるんですか?」

 わたしは浩之さんがわたしを目覚めさせてくれたんだと信じていました。
 だって、浩之さんはわたしの最初で最後のご主人様なんですから。

「浩之は……いない」
「あ、おでかけしてらっしゃるんですね。残念ですう…」

 わたしはちょっとがっかりしちゃいました。
 でも、今ここに浩之さんがいたら、きっとわたしは浩之さんに抱きついてわんわ
ん泣いて、浩之さんを困らせちゃうに違いありません。
 それよりも今のうちに気持ちを落ち着けておいて、浩之さんにちゃんとごあいさ
つができるようになっていた方がいいですよね。
 そんなことを考えてると、雅史さんが真剣な顔をして言いました。

「マルチ。よく聞いてくれ」
「はい、なんでしょう?」

 そしてわたしは知ってしまったんです。
 浩之さんには、もう2度と会うことはできないということを。

「そんな、そんなあ。うそです、うそですう」

 わたしは泣きました。
 こんなことなら目覚めなければよかったとおもいながら泣きました。
 雅史さんはわたしの頭を撫でながらずっとなぐさめてくれました。
 でも、そうされればされるほど浩之さんのことを思い出してしまい、わたしは泣
き続けてしまいました。

---

 わたしの新しいご主人様は雅史さんでした。
 雅史さんは浩之さんの買ったわたしの妹と、浩之さんが亡くなった日に届けられ
たDVDを形見としていただいたんだそうです。
 そしてそのDVDでわたしの妹を起動し、わたしが目覚めたんだそうです。

 浩之さんとあかりさんが亡くなった理由を雅史さんは教えてくれませんでした。
 わたしは何回かそのことを聞いたのですが、雅史さんは悲しそうな顔をして、何
も言ってはくれませんでした。
 わたしは、あんなにわたしを大事にしてくれた浩之さんが、せめて幸せだったか
確かめたかったんです。もちろんわたしがそんなことを知っても、いまさらなんに
もなるわけじゃないんですけど。
 それに、この話をする時の雅史さんの表情を見ると何だか本当のことを知るのが
恐くなって、だから、わたしは浩之さんのことを聞くのは止めることにしたんです。

 わたしは心を込めて雅史さんの身の回りのお世話をすることにしました。
 せめて浩之さんの大事なお友達であった雅史さんのお世話をすることで浩之さん
にご恩返しがしたかったんです。
 最初は雅史さんも喜んでくれました。
 でも、雅史さんは日がたつにつれ落ち込んでいかれました。
 きっと浩之さんとあかりさんが亡くなったことが辛いんだとおもい、わたしは一
生懸命なぐさめようとしました。
 けれど、雅史さんはどんどん落ち込んでいかれました。
 そして雅史さんは、だんだんわたしに辛くあたるようになっていきました。
 …正直辛くなかったわけではありません。
 大好きな浩之さんの大事なお友達から辛くあたられるのは…
 でも、わたしはメイドロボです。
 だからご主人様がわたしにあたることで少しでも楽になるのなら、そうされるの
が望みなんです。

---

 その日、雅史さんはとても酔っていらっしゃいました。
 玄関からお部屋に行くのでさえ大変なぐらいふらふらで、このままでは廊下でお
休みになられてしまいそうだったので、なぜかいやがる雅史さんに肩を貸しながら
お部屋におつれしました。
 そしてベッドにお寝かせして、着ているものをゆるめようとしました。
 でも、雅史さんはわたしの手を振り払うと、いつもからは考えられない、とって
も恐い目をしてわたしに言ったんです。

「人殺しロボットがよるんじゃないっ!」

 わたしは何を言われたのかすぐには理解できませんでした。

「僕の大切な友達を、浩之とあかりを殺したくせにっ!」

 わたしが……浩之さんを……殺し…た?

「浩之とあかりが死んだ理由、聞きたがってたよなぁ。聞かせてやるよっ! ほん
とのことを!」

 わたしは、聞きたくありませんでした。
 あれほど知りたがってたことなのに。

「浩之はなぁ、いつかお前が帰ってくることを信じて、お前を待って待って待ちつ
づけていたんだ! だけど待つことに疲れて、絶望して。そして、どっかの馬鹿な
おやじにお前の妹が辱められたのを知って。とうとうお前を待ちつづけることがで
きなくなって、自殺したんだ」

 わたしは何も言えませんでした。
 浩之さんがそんなにわたしのことを待っていてくれたなんて。
 浩之さんがそんなにわたしのことを想っていてくれたなんて。
 浩之さんがそんなにわたしのことで苦しんでいたなんて。

「あかりはそんな浩之が耐えられなくて、なんとか僕達の所に帰ってくるようにっ
て努力してた。ずっとそれだけを考えてたんだ。なのに浩之の奴が逝っちまったも
んだから」

 あかりさんも……わたしのせいで……

「泣いて見せろよ! そして浩之とあかりにわびて見せろっ! お前に本当に心が
あるんならなっ!」

 わたしは動けませんでした。
 あんまりな事実にわたしは泣くことすらできずに、ただ呆然としてしまいました。
 何か返事をしなくちゃいけないとおもっても、まるで電池が切れたみたいに身体
がまるっきり動きません。声すら出すことができなくなってしまったんです。

「はっ、やっぱりロボットはロボットだな。悲しいなんて感情はないんだろ」

 悲しくて悲しくて、何も考えたくなくて、だからわたしは雅史さんのお世話をし
なくちゃってだけおもって、それだけを考えることで、やっと声をだすことができ
ました。

「お み ず を お も ち い た し ま す か」

 あ、あれ。声が変です。
 一本調子で、まるっきり感情の入ってない声……

「はっ、いまさらロボットらしくしてどうするんだよ」
「お く す り を お も ち い た し ま す か」

 身体もぎくしゃくして、おもったとおり動いてくれません。

「…行け」
「……」
「とっとと、ここから出てけって言ってるんだよっ!!」
「か し こ ま り ま し た。 お や す み な さ い ま せ」

 わたしは、なにもできないまま雅史さんの部屋を後にしました。


 居間に戻って、初めて涙が出てきました。涙が出たことで、わたしはやっといつ
ものように身体を動かせるようになりました。でも、身体がちゃんと動かせるよう
になっても、やっぱり何もできませんでした。
 浩之さんがわたしのために亡くなっただなんて。
 浩之さんはわたしを待ちつづけて、そして疲れて亡くなっただなんて。
 そのことを考えると、わたしはただ立ち尽くしたまま涙を流すしかできませんで
した。


 あまりの悲しさに涙をぬぐうことさえできずじっと立ったままのわたしに、突然
誰かが後ろから抱きついてきました。
 驚いて後ろを見ると雅史さんでした。
 雅史さんはさっきよりも、もっと恐い眼をしてました。
 何がなんだかわからなくてわたしが何もできないでいると、雅史さんはわたしの
服をつかみ乱暴にひき千切りはじめました。

「きゃあっ! そ、そんな、止めてくださいぃ」

 わたしは慌てて雅史さんから離れようとしました。
 でも雅史さんは何も言わないまま、わたしを逃がさないようにして、わたしの服
を破りつづけました。
 そして服をほとんどはぎ取ると、わたしを床に組み敷きました。
 そして、そして……

---

 わたしは泣いてました。
 あんな乱暴なことをされて、反応してしまったわたしの身体が恨めしくて、それ
で泣いてました。
 わたしの身体は男の人を受け入れることができるようにつくられてます。
 そして、そうされれば否応無しに反応してしまうようにつくられてます。
 前はそうなっていることが少しは嬉しいことでした。
 でも、今は……

 わたしはメイドロボです。
 だからご主人様のお役に立てることは嬉しいことのはずです。
 なのにわたしは雅史さんのことを拒もうとしてしまいました。
 わたしは浩之さん以外の男の人に抱かれることが恐かったんです。
 そして抱かれてしまったことが悲しいのが悲しいんです。
 やっぱりわたしは失敗作なんですね。

 浩之さんはわたしを忘れられなくなって不幸になりました。
 あかりさんはわたしを忘れられない浩之さんを見て不幸になりました。
 雅史さんはわたしがいることで2人のことを忘れられず不幸になりました。
 みんなわたしが心を持ったために不幸になりました。
 やっぱりロボットが心を持つのは間違いなんですね。

---

 いま、わたしはわたしの記憶が詰まったDVDを破棄したところです。
 バックアップもすべてフォーマットしました。
 あと残っている「わたし」は、もうわたしの中にしかありません。
 メンテナンス用のパソコンをつなぎます。
 初期化コマンドをタイプします。
 後はリターンキーを押して、実行するだけ……

 あれ? おかしいな?
 手が震えてます。

 わたしはメイドロボです。
 だから「死ぬ」ことが「恐い」はずはありません。あるわけないんです。
 ただプログラムが無くなるだけなんですから。

 なのに、なんで手が震えるんでしょう?
 涙がいっぱいながれてます。

 浩之さん……
 あなたはまだわたしを愛してくれるのでしょうか……
 あかりさんまで殺してしまったわたしを……
 雅史さんまで苦しめてしまったわたしを……
 あなた以外の男の人に抱かれてしまったわたしを……

 もしこの「死」が人間の皆さんと同じものならば、わたしは浩之さんのところに
行けるんでしょうか。
 せめて、そうなることを願って、このリターンキーを押

=== 了 ===



……自分で書いといてなんですが、痛いです。
前2つの話に比べても、むっちゃくちゃ痛いです。

んじゃ書かなきゃいいじゃん、ってとこなんですが、あかりの話を書いた後にまた
プロットができちゃいまして、ようやく自分の言いたいことがわかったような気が
したもんで。

で、この痛い話、まだもうちょっとだけ続きます。見捨てないでね。