『鬼マルチ』 ・ ・ ・ ここは…何処だ…? 朦朧としていた意識が徐々に覚醒し、オレは今、必死に現状の把握につとめていた。 少なくとも、今オレが存在している時間と空間は、オレの知っているそれとはまったく 異なるという事だけは確かのようだ。 オレはとてつもなくイヤな予感がした。 突如、何の脈絡も無く異空間に叩き込まれ、本人の意志とは無関係に、ロールをプレイ しなければ元の世界には戻ることはできないという、もはや定番、お約束と化した 不可思議現象。 信じたくはなかった。お約束すぎるリアクションだが、自らのほっぺをつねってみた。 痛くない…痛くない… だが、自分に嘘をついて目の前の現実を無視した所で、事態は好転どころか、ますます 悪化していくものなのだ。はぁー、とオレは大きな溜め息を一つついた。 一面に野原、遠くにお山。まるで「まんが日本昔話」に出てきそうな風景… オレ自身といえば、五月人形のようなハデハデ鎧を身に纏い、背中に「日本一」と 書かれた「のぼり」を掲げ…頭痛がしてきた。 そして、後ろを振り返ると、そこには例の3匹のどーぶつ達が… 「…私のこと、犬って呼んでくれていいよ…おすわりだって、おまわりだって、 ち○○んだって、…浩之ちゃんが望むなら、私、どんな事だってしてあげるよ… もし浩之ちゃんが突然死んじゃっても、私、駅でずっと、ずーーっと、 ずーーーーーーーーーーーーーーーっと待ってるよ……」 あ、あぶねー…、根性までも犬になってどーする… 「…………………………………………………………………さる…… センパイも…私のこと、さるみたいな女の子だって思ってたんですか…」 お、思ってないって…少ししか… 「ウチは雉かいなー。ま、犬やら猿やらよりはなんぼかマシやけど。」 雉。見かけとは裏腹に狂暴な鳥、鶏小屋のオンドリの如く突つくわ蹴るわ… まさに委員長にぴったりだな。と本人には聞こえないように心の中で呟いた。 「みんな聞こえとるわ!」 げしっ ・ ・ ・ 「よくぞここまでいらっしゃませー。私が鬼の首領ですー。」 「鬼の首領って…お前、マルチ、マルチじゃないか!」 鬼の宮殿でいきなりオレ達を出迎えた者は…そう、マルチだった。 てっきりオレは、エルクゥとでも戦わされるのかと思っていたのだが… ただしその緑髪はチリチリで、服装もいわゆる高木○ーの雷様ルックであった。 まさか、このマルチを、倒せというのか…!? 「メイドロボのマルチは死にました。ここにいるのは冥土の鬼さんですー。 ほら、ここにツノがちゃんと。」 って、お前、それは耳だろう… 「…お遊びは、ここまでです。……浩之さん、あなたを……コロします!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「!!」 オレの全身の毛がぞくっと逆立った。室温が急激に低下したような気がした。 「くしゅん」誰かが小さくくしゃみをしたようだが、もはやそれどころではなかった。 床がぎりぎりと軋んでいる。マルチの体重、いや、質量そのものが増大しつつあるのは 目に見えて明らかだった。一体どんな現象が起こっているのか、想像もつかなかった。 そして… べこっ!! 「あっ!?」 マルチの足元の床がその重量に耐え切れずに抜け落ち、腰まで埋まってしまった。 「ぬ、抜けません〜〜〜〜〜〜〜〜〜;;」 「い、今だ!みんな、総攻撃だ!」 「「「それーーー!」」」 ぴし!ぴし!ぴし!ぴし!(豆) 「あうっ、あうっ、あうっ、あうっ」 ぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴし… 「あうあうあうあうあうあうあうあう…」 ぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴしぴし… 「あうぅ〜〜〜〜、い、いぢめないでください〜……う、う、うえぇ〜〜〜〜〜〜」 ・ ・ ・ ……完 (爆) ================================================= 初めてこちらに書かせて頂きます。ほんの思い付きの小ネタですみません^^; いえ、ちょっとマルチをいぢめてみたくなったもので^^; 次に書き込む時には皆様の作品への感想なども添えようと思ってます。 それでは。