新生徒会デンパデルヨン 投稿者:NoGod
	『 新生徒会デンパデルヨン 』


…西暦?年、人類は人知を超えた存在「使徒」の脅威にさらされていた。
使徒の攻撃は日本国、なぜか私立L高等学校(仮称)のみに集中していた。
たまりかねたL高生徒会は「新生徒会」として再組織され、急遽自校の
デンパの資質のある生徒から「汎用決戦人柱・デンパデルヨン」を編成し、
これに対抗する。ここに、L高の存亡を賭けた戦いが始まった。


			【 登場人物紹介 】

・月島瑠璃子
デンパ0号。デンパの源。「デンパデルヨン」達は皆、彼女からデンパの力を授かった。
攻撃、防御、デンパの補給となんでもこなす万能選手。精神の扉が開きっぱなしで、
たまに制服のジッパーなども開きっぱなしだったりする。対人反応がちょっと変。
美人だが周りから変人扱いされ、一見友達もいないように思えるが、実はデンパで
交信し合うデンパ友達が、世界中に100人近くいるらしい。趣味は読書とデンパ。

・長瀬祐介
デンパ1号。生まれつきデンパ特性が高く、今や最強のデンパ使いにまで成長した。
破壊衝動が戦いによって満たされるようになったため、趣味の妄想も純愛やギャグなど
いろいろバリエーションが増え、近頃はロリ系や薔薇系にも挑戦しているらしい。
しかし先日、うっかり必殺のバクダンデンパを暴発させ、半径800m内の市民約140名を
精神障害に追いやってしまったために、謹慎処分を受けている。よって今回出番なし。

・新城沙織
デンパ2号。トレードマークは真っ赤なブルマー。瑠璃子の洗礼を受け多少はデンパを
出せるようになったが、基本的には物理攻撃を専門としている。ただし、原因不明の
先端恐怖症のため、先の尖った得物は使えない。戦闘時にはよく先鋒を任される。
しかし彼女の本当の役割は、デンパに対する人並みはずれた感度の良さを利用して、
敵の発するデンパの威力を測るために矢面に立たされるカナリアなのである。
そして彼女自身は哀れにもそれを知らぬまま、今日も戦い続ける。好きなものは
ヤクドナルドのてりやきバーガー、嫌いなものはオバケとデンパ!

・長瀬源一郎
新生徒会の総司令。本職は国語教師。デンパ1号・長瀬祐介の叔父にあたる。
あいまいな司令を出すのが唯一の仕事で、作戦中にも新聞を広げたり、答案の採点等の
内職をしていたりする能天気な男。不可解かつ面倒な事件が学校内で発生したときには
いつも頼りにされ(押し付けられ)ており、今回も例にならい、この任についている。
責任問題が起こった場合は当然、責任者であるこの人が責任を取ることになる。

・月島拓也
副司令。元生徒会長。デンパ0号・月島瑠璃子の兄である。既に任期が切れているにも
関わらず、「僕がこのL高を守る」と言い張って、いまだに生徒会に居座っている。
実は使徒と同質のドクデンパの使い手であり、祐介にも匹敵する力を持つが、それを
知る者は今のところ瑠璃子しかいない。一見穏やかな表情の裏でいつも悪いことばかり
考えている。目をつけた女生徒をドクデンパで操り、夜な夜な破廉恥行為を繰り返して
いたが、最近では精力減退が著しく、もっぱら見る愉しみに移行しつつある。
彼はとある一大計画を企んでおり、来るべきその日に向けて1人で準備を着々と進めて
いるらしい。まめに計画の中間報告書も書いているが、これは超極秘機密扱いなので
読むことができる人間は書いた彼自身しかおらず、あまり意味がない。

・太田加奈子
作戦指揮官兼、技術官。生徒会副会長。醒めた発言も多いが基本的には熱い正義の人。
中々の切れ者だが、ブチ切れてしまうと暴力は振るうわ、下品な言葉を連発するわで
手がつけられなくなる。「太バ加奈子」などと呼んでからかったりするとすごく怒る。
月島拓也の不審な動きには薄々ながら感づいており、単独で調査を進めている。
書記の藍原瑞穂とは中学生以来の親友同士だが、密かに友情以上の想いを抱いていて
以前、使徒とデンパデルヨンの激しいデンパ戦の余波が新生徒会室を直撃するという
事故が発生した際、彼女は半分正気を保っていたにも関わらず、例の役員2人組が
おっ始めたどさくさに紛れて、自らも衝動に身を任せ瑞穂に襲いかかってしまった。
やがて狂気の波は過ぎ去り、完全に正気を取り戻した彼女が見たものは、組み敷かれ
ながらも狂ってしまったこの自分の事を気遣い、励ましの声を掛け続け、抵抗もせず
ただ目に嘆きの涙を浮かべる最愛の親友の痛々しい姿であった。とりあえずその場は
無実の元生徒会長を消火器でぶん殴り、カタカナで100回謝ってなんとかフォロー
したが、親友の心と身体を犯し傷つけてしまった事を、今でも深く後悔している。

・藍原瑞穂
チーフオペレーター兼、予備戦闘員。生徒会書記。主に敵の戦力分析を担当している。
有事の際にはインフィニティ・スパイクや音波攻撃、泣き落とし等で戦闘に参加するが
決してデンパに耐性がある訳ではないので、デンパ飛び交う戦場に引きずり出される
事をいつも脅えており、声がかからないように祈っている。副会長の太田加奈子とは
中学生以来の親友同士だが、前述の事件では、流れデンパを浴びて興奮した加奈子に
襲われてしまった。親友が狂気に侵されてしまったことを彼女は嘆き悲しんでいたが、
実はちょっぴり幸せだったらしい。

・吉田由紀
オペレーター兼、雑務要員。生徒会役員。胸がでかくて上の人。

・桂木美和子
オペレーター兼、雑務要員。生徒会役員。髪が長くて下の人。


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		      新  生  徒  会

		デ  ン  パ  デ  ル  ヨ  ン

						[ せめて、人間らしく ]
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私立L高校(仮称)の校庭にただ一人、新城沙織、もといデンパデルヨン2号が
暗雲たちこめる空を睨みつけるように見上げていた。既に新生徒会から第一種警戒
体制が発令されており、校庭を利用していた生徒たちはすべて各自教室への退去を
完了している。

「今度負けたら、月島瑠璃子にまたバカにされる…私はもう負けてらんないのよっ!」

沙織は焦っていた。かつては華々しい活躍を見せ全校のアイドルであった自分が、
どんどん強くなっていく使徒を相手に近頃ではすっかり負け癖がついてしまい、
前回も前々回も、もはや目も当てられないほど無様にやられているのだった。

「チョイチョイと片づけて、裕クンに格好いいとこ見せるんだからっ!!」


一方こちらは新生徒会室。教卓で例のポーズをとる総司令、長瀬源一郎。ちゃかりと
色眼鏡にかけかえ、役にになりきっている。傍らには寄り添うように、副司令・月島
拓也が立つ。その後ろの黒板には、使徒迎撃作戦の関連事項がチョークでびっちりと
書き込まれていた。本当はこれは、ホログラフィーでカッコよく空間に投影する予定
だったのだが、学校はそんな贅沢品にまでは予算を回してくれないのだ。
並べられた机の上にはパソコンが数台設置されており、そこでオペレーターの藍原瑞穂
・吉田由紀・桂木美和子の3名が、各種データの解析を急いでいる。このパソコンは
L高メインサーバーに直結され、校内各所に設置された防犯カメラや防災設備なども
すべてここからコントロールできる。もちろん学校の全データベースの参照も可能で
教員の仕事にも何ら支障はない。さらには、サーバー経由でインターネットにも接続
されいるので世界中のあらゆる機関からの情報を入手可能、そしてネットサーフィンも
タダでやりたい放題である。

「デンパ2号、『S.D.H.S』発射体勢に入ります」美和子がそう報告した。
作戦指揮官と技術官を兼任する太田加奈子は、望遠モニターに映し出された「使徒」と
デンパデルヨン2号のそれぞれ映像を、腕組みをしながら交互に見やっていた。


「はあぁぁぁぁーーーーーーーーーーッ!」
沙織の全身に闘気がみちていく。彼女はデンパによる遠隔攻撃を得意としない代わりに
自分のデンパで自分の身体能力のリミッターを解除し、いつでも『火事場の馬鹿力』を
発揮することができるという離れ技をもつ。その人間離れしたパワーを用いて、直接に
物理攻撃をしかけるのが沙織の戦い方なのだ。

「いっけぇーーーーっ!ハイパー・ドライヴ・火の玉・スッパァァァァーーーーーー
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−イクッ!!!!!!!」

掛け声と共に、沙織は特殊素材バレーボールを亜音速で打ち上げた。超高速回転を与え
られたボールは炎をまとい、眩しいまでの輝きを放つ光球となり、一瞬ではるか上空に
まで到達する。…だが光球は徐々に、確実に減速し続け、やがて空しい放物線を描く。
もはや輝きをも失い、ただの炭の固まりとなったそれは、たまたまそこを通りかかった
不幸な通行人を直撃した。

「全然駄目です!いくらなんでも衛星軌道上の敵になんて届きっこありません!」

「…かと言っても、沙織に出せる程度のデンパでは、効果的な攻撃は到底望めない。
  これだけ距離が離れていてはね。しかしそれは瑠璃子さんにも同じことが言えるわ。
  もしあの位置からここを破壊できるだけの力が敵にあるとしたら、苦戦は必至ね。」
「でしたら…、あ、いいえ…何でもありません」

加奈子の推測は的確であった。主戦力たるデンパ1号・長瀬祐介を欠いた今回の戦いは
想像以上に厳しいものとなるだろう。沙織、瑠璃子、そして瑞穂の3人で発動できる
最大の技『インフィニティ・スパイク』がいかに絶大な破壊力を誇るとはいえ、目標が
衛星軌道上では完全に射程外だ。瑞穂は祐介の謹慎解除の訴えを口にしかけたが、
彼女自らそれをすぐに打ち消した。…すべてを滅ぼしかねないバクダンデンパ。
その封印に手をかけることは、あまりにも危険過ぎる。

「自分の手で勝ちを取って名誉挽回したかったんでしょうけど、独断行動のリスクは
  自分自身にそのまま帰ってくる。もちろん作戦全体にもね。しばらくやりたいように
  やらせておきなさい。どうせ止めろといっても止めないでしょうからね。せいぜい
  無事に時間を稼いでくれることを祈るしかないわ。…デンパ0号の準備はどう?」
「まだ更衣室で着替え中です!あと1分はかかります」
「1分…ね…。長い1分になるかもしれないわよ、沙織」


突如、モニターから絶叫が轟いた。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!』

「沙織!!」
「なんだ!一体どうしたんだ!?」

「使徒の精神デンパ攻撃です!!使徒のデンパはデンパ2号の防御デンパを貫通!」
「心理グラフが大幅に乱れています!!」
「いけない!ドクデンパによる脳の侵食が始まっているんだわ!!」
デンパ2号のヘルスステータス表示が一斉に赤く染まり、彼女の肉体、そして精神が
重大な危機にさらされていることを告げる。

『嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!
  デンパは嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!』

「…ムードメーカースイッチON」
副司令の月島拓也の指示とともに、学校中に厳かなクラシック音楽が流れ始める。
デンパの攻防は普通の人間の目には見えないので、一般生徒たちには何が起こって
いるのか皆目見当がつかない。そのためタイミングに合わせてBGMやSEなどを
放送室経由で各所に設置されたスピーカーから流すのだ。新生徒会のちょっとした
サービス精神というやつである。ちなみに戦場のモニター画像や新生徒会室の様子も
生中継される事が多い。作戦中に太田や月島たちが、オペレーターの報告に対して
いちいち簡単でわかりやすい解説、あるいは逆に煙にまくような意味不明の解説を
加えたりするのは、それっぽい雰囲気を作るための、視聴者を意識した行動である。

「こんッッッッ畜生!!!」
沙織はやみくもに火の玉スパイクを打ちまくるが、苦し紛れの攻撃はすべて学校の
施設に命中し、各所に爆炎を吹き上げる。そして何度目かのスパイクモーション中に
平衡感覚を失ってバランスを大きく崩し、そのまま転倒した。
『あうぅぅッ!!』
「沙織!立って!急いで撤退しなさい!これ以上デンパを浴びたら危険よ!」
『た…立てない…お腹から下に力が入らない…』

「デンパ2号、A10神経に強烈かつ無秩序なインパルス発生!」
「ドクデンパによる侵食、視索前野にまで転移しました!侵食エリアはさらに拡大中!
  間脳全域にわたって激しい棘徐波の発生が認められます!!」
「β−エンドルフィン、その他各種の脳内麻薬物質も異常な量で分泌されています!」

「ほう。デンパで快楽中枢神経系をメチャメチャに誤動作させているという訳か。
  なかなかやるもんだね、…敵ながら」そう言って、唇の端だけでニヤリと笑う拓也。

『たたた助けて!おおおおかしくなっちゃうのッ!助けて、助けてッ!
  もう止めてッ!壊してッ!殺してよおおおおおおッ!』
「心理グラフ、限界です!自我崩壊の直前です!」
「瑠璃子さんはまだなの!?もう、ちょうど1分経ったわよッ!」

「デンパ0号、出撃準備完了」
「直ちに発進!デンパ2号を援護して!」
「…了解」
瑠璃子は出撃用救助袋(←本来、防災用)に足から入り、校庭へとリフトダウンした。
そして暗雲たちこめる上空を見上げる。もちろん肉眼では何も見えないが、瑠璃子は
暗雲のはるか上方に、その雲よりもさらにどす黒い悪意の存在を感じとった。

『ふぅ、ふぅ、ふぅ…』
「股間部に異常発生!尿意も120%を突破!このままでは非常に危険です!!」

総司令の源一郎は、ここで会心のおやじギャグを一発かまそうと口を開いた。
「なるほど、使徒の攻撃だけに、しとど…」と、そこまで言いかけて自粛した。
以前に同僚からセクハラで訴えられかけた事を思い出したのだ。

	チリチリチリチリチリ……………

「デンパ0号、攻撃開始!」
『いくよ…』

	キィィィィィィィィィィィィィィン

瑠璃子は限界まで圧縮したデンパを一気に解き放つ。

衛星軌道上に固定された望遠モニターには、デンパ同士の干渉による激しい紫電の
スパークが映し出されていた。
「デンパ0号の破壊デンパは、使徒の防御デンパに完全に中和されています!この
 超長距離から敵の強大な防御デンパを貫通するには、威力が全く足りません!!」
「しかし、出力は最大です!もう、これ以上は…」

「…でも、あるいは『彼』の力なら…」加奈子はそう呟き、源一郎の方を見やった。

「駄目だ!デンパ1号は謹慎中だ、出すわけにはいかん。こいつばかりは絶対命令だ。
  先の事件が、実はあいつの仕業だったなんて事がもしバレてみろ、それこそわたしの
  首なんぞ、一万個あっても足りはしないぞ。それにまた同じようなとんでもない事を
  しでかさんという保証など、どこにも無い」

『ああああッ!!!ああああああ〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!』

「デンパ0号、攻撃中止!直ちに防御デンパを展開、2号のカバーに入って!」
「もう間に合いません!デンパ2号、括約筋弛緩反応検出!」

	すぽーん!(←?)

	じわぁぁぁぁ…

「…デンパ2号、エントリープラグ射出、続いて強制排水!」
「ブルマー浸水!戦闘続行は不可能です!!」
「沙織!!」
「沙織ちゃん!」
『ひっく…ひっく…うぇぇ…』

「…恥さらしだ、さっさと回収しろ」拓也が冷たく言い放つ。


「…ひっく…汚れちゃったよぉ…私のパンツが汚れちゃったよぉ…どうしよう…」

沙織は幼児のように泣きじゃくっていた。そこに吉田由紀、桂木美和子の2名からなる
救助隊が到着する。彼女は2人から応急処置(ふきふき)を受け、下をまる出しのまま
担架で運ばれていったのだった。そのなんとも情けない、かつあられもない沙織の姿は
校内中に中継され、男子生徒の目はそれに完全に釘付けとなった。しかし、そこはそれ
腐っても生徒会、教育上まずい部分にモザイクをかけるぐらいの配慮はある。



「…デンパ0号の最大出力のデンパでも、超長距離に位置する使徒の防御を破る事は
  ほぼ不可能です。現在の我々は、目標に対する効果的な攻撃手段を持ちません。
  ………………デンパ1号の、謹慎解除を要請します…」
「!」
「!」
「我が校には、ロンギ○スの槍などという便利アイテムはありません。我々が生き残る
  手段は…他にないと思われます。万が一の際には、全責任は私が負います。先生にも
  祐介君にも、迷惑をかけるつもりはありません…」
「か、加奈ちゃん…」
「だが…しかし…」

やれやれ、と月島拓也は思った。自分と妹だけならば、生き残るのは訳はない。だが今
使徒の攻撃、あるいは長瀬祐介のデンパの暴走によって組織を失うのは得策ではない…
来るべきその日まで、自分の力を他人に知られるわけにはいかない。適当に席を外して
さっさと茶番に片を付けてしまおうか。
だが、その時…

『…あるよ』

「……?」
『槍ならあるよ。こころに刺さる、ことばの槍が』
「るりちゃん、どういう事?」由紀には瑠璃子のいう意味が理解できなかった。
『…刺さると痛いよ』

「瑠璃子さん、一体何を言っているのかしら…?」
「…私にもよく解らないけど…でも今は彼女に懸けるしかないわ。
  瑠璃子さん、頼んだわよ!!」

こくん、と頷く瑠璃子。

『……(ぼそっ)』
どうやら使徒に対し、ごく短いメッセージをデンパで直接送ったらしい。すると…

『…ち…違うんだ……違うんだ……………違うんだ……………………………………
  違うんだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!』
地上まで響く大絶叫を(空気も無いのに)発しながら、衛星軌道上の使徒は勝手に自爆
してしまった。何がどう違うのか、あるいは何も違わないのかはまったく不明だが、
とにかく使徒は七色の光だけを残し消滅してしまった。何ともあっけない結末だった。

「ドクデンパ反応ゼロ。目標、殲滅しました」
「やったぁ!」
「瑠璃子ちゃん、偉いっ!」
「みんな良くやってくれた。今回は損害といえば新城の奴が校舎に空けた穴ぐらいだ、
  軽微と言っても差し支えないだろう。よーし、放課後に焼肉屋にでも連れてって
  やろうか?もちろん、わたしのおごりだ!」
「わーい、やったー!」
「ご馳走になります。でも、給料日前なのに大丈夫なんですか?」
「うむ、問題ない」

しかし月島拓也だけは、勝利の歓喜あふれる輪の中から一人外れて、モニターに映し
出された妹の姿を見つめながら意味ありげな笑みを浮かべていた。

そしてそんな彼を、画面の中から海よりも深いその瞳で見つめ返す瑠璃子。

・
・
・

謹慎中の長瀬祐介は、戦闘の成り行きをただ教室のテレビで見ているしかなかった。
あれからずっと沙織のことを捜していた。新生徒会室から保健室、教室と捜し歩き、
女子トイレまで覗いてみてもその姿はなかった。

そして最後に足を向けたのは屋上への階段だった。根拠は何もない。デンパを感じた
訳でもない。しかし祐介は、階段を一歩づつ登り進む毎に、そこに彼女がいるという
確信のようなものが膨らんでいくのを感じた。

	ギィィ…

屋上へと出るさび付いた扉を押し開く。そして、彼女はそこにいた。
地べたに座り込み、背を丸め、たった一人ですすり泣く彼女が。

彼女は祐介の存在には気づいていた筈だったが、背を向けたまま振り返りもせずに
ただシクシクと泣きつづけるばかりであった。

「あの…沙織ちゃん」
「ひっく…ひっく…」
「…沙織ちゃん?」
「……」

「…良かったじゃないか…無事だったんだから…」
「…ちっとも良くなんかないわよ…」
「……」
「…みんなの前であんな、あんな大恥かくなんて、死んだ方がマシだったわよぉぉ!!
  キライ!キライ!!みんなキライ!!!大ッッッッキライ!!!!」

「そんな事ないよ…」

「……」

「…可愛かったよ」
そこでようやく、沙織は祐介の方へと振り向く。彼は優しげに微笑んでいた…

「……」
見え見えの下心が隠された微笑みに、炎をまとった沙織の平手が炸裂する。
哀れ、高速回転で鼻血を撒き散らしながら、バレーボールのように吹っ飛ぶ祐介。

「ほぎょもろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……………」
そして、そのままフェンスを越えて落下していく。
「あああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・……………」
悲鳴に少々ドップラー効果がかかっているのがやけに痛々しい。


ははは。世の中、そんなに上手くはいかないのだ。


		(完)
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今回ちょっと気合を入れてみました。私が今まで書いたなかでは一番長いです。
読んでもらえればお分かりかと思いますが、久々野さんの「デンパマン」のノリに
かなり影響されてます。模倣といってもいいかもしれません。
そういえば確かデンパマンにもエヴァなネタはありましたね。
雫→エヴァのキャラコンバートは楽でした。見た目とイメージをほぼそのまま
流用できるんですね、これが。だから、似たようなネタのSSや同人誌などが
もし既にあったらちょっと気まずいなぁ、とも思ってます。どうなんでしょうか?
>エヴァネタに精通されてる方

思い付きのネタに本格的に肉付けしようと、資料のビデオを見返していたら
つい見入ってしまってまたエヴァ熱がぶり返してきたんで、もう一回くらい
雫エヴァのネタで書こうと思っています。プロットは頭の中でほぼ完成してます。
タイトルは今回と同じですが、趣向はまるっきり違くなる予定です。
今回の話を面白いと感じてくだった方は、どうか期待してくださいませ。



拙作「一つ屋根の下で」レスレスです。順に、
無口の人さん、久々野 彰さん、へーのき=つかささん、岩下 信さん、
そしてメールを下さったFoolさん、感想ありがとうございます。
耕一 VS 梓ですが、耕一は「辱し固め」等の大技を決め善戦するも、結局は
マットに沈められてしまったらしいです(苦笑)
ところで耕一が死ぬ2つの理由のうち、もう一つとはなんでしょう?>久々野さん

# ああ…、また感想が滞ってレスレスだけになってしまった…
# ちょっと罪の意識を感じる…