一つ屋根の下で 投稿者:NoGod
	『一つ屋根の下で』


「……」
「……」

『はぁい、ボロネーゼ・志保でーす』
『・・・カルボナーラ・琴音です』
『二人合わせて・・・』
『あの・・・ツービートです』
『なんでやねん!! ベシッ!!』
『あははははは…』

「……」
「……」

そこには楓と初音だけがいた。何をするでもなく、ただぼんやりとテレビを「眺めて」
いるだけだった。2人の間には会話もなく、ただテレビから流れるお笑い芸人達の
どつき漫才と、観客の爆笑だけが部屋の中でこだましていた。いつもどおりであれば
とうに夕飯の時間であるはずなのだが、食卓の上には食器の一つさえもない。

	『ユサユサ…』
テレビの音に紛れて、遠くから柱の軋むような音が聞こえる。
よく見ると、天井に吊られた和風シャンデリアも僅かながら揺らめいている。
「……」
「……」
敏感なこの2人ならば、この異常に気づかないはずはない。しかしお互い、居心地の
悪そうな顔をするだけで、特にそれについて語るつもりもないらしい。

	『くー』『く〜』
楓と初音のおなかの虫がほぼ同時に鳴る。絶妙のハーモニズムであった。
「……」
「……」
普段なら大笑いのところだが、それでも2人は口を開くことはなかった。


おもむろに襖がすっ、と開き、すっ、と閉じる。
梓の部屋の様子を見にいった千鶴が戻ってきたのだ。

「…どうだった?」
なぜか、こころもち小声で初音が問い掛ける。
千鶴はその問いに対して何も答えず、代わりに「お手上げ」のポーズで苦笑してみせた。
「……」
「…まだ終わらないんだね、『プロレスごっこ』…」

もっとも、わざわざ千鶴に聞くまでもなく、微かではあるがこの部屋までも、ギシギシ
ドッタンバッタンと、豪邸を揺るがさんばかりの暴れっぷりが伝わってくるのだ。
さらには時々うわーっ、とか、うおーっ、とかいう叫び声までもが聞こえてくる。
料理担当係のであるはずの梓は、かれこれ2時間余りもの間ぶっ続けで、耕一との
「プロレスごっこ」に興じていた。もちろん夕飯の準備など、ほったらかしだ。

3人は無論のこと、口にはせずとも若いふたりの「プロレスごっこ」の実態が、
どういうものであるのか暗黙のうちに了解していた。だから耕一たちに声など
かけられるはずもなく、おまけに4姉妹の部屋は隣接しているため、彼女らは
自分達の部屋に入ることすら出来ずにいたのだ。

さまざまな感情に空腹感が加わり、不快指数は臨界に達しつつあった。

・
・
・

	『ボーン…』 * 9

「とうとう9時になっちゃたよ…」
「もう待ってられないわねぇ。私たちだけで先にお夕飯にしましょうか?」
「そうだね…」

「…私たちの分は私と初音で簡単なのを作るから、耕一さんたちのは、後で千鶴
  姉さんが特別に作ってあげたら?今作っても、きっと冷めちゃうと思うから…」

楓のこの、何気なくも思える言葉の中に秘められた想い…それは、殺意。

「…うん、私もそれがいいと思うよ。千鶴お姉ちゃん、がんばってね」
それを知りつつ、あえて同意する初音。

「そ、そう?じゃあ、私も久しぶりに腕をふるっちゃおうかしら♪」
珍しく料理の話を振られた事を、単純に喜ぶ千鶴。

かの2人も、まさか今この場で自分達の殺害計画が密かに進行しつつあるとは、
考えにも及ばないことだろう。だが…


	『…うわーっ』
	『…うおーっ』


「……」
「……」
「……」

目標が現れ計画が実行に至るまでには、更にいましばらくの忍耐が必要でありそうだ。


	(完)

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こんばんは。感想書くはずのせっかくの時間でヒンシュクものの論争なんかやってた
愚者、NoGodです。(←ハンドルがビミョーに変わってます。またかい…)

今回のは本当に勢いだけで書いたものなんで、自分で読んでもあんまり面白くないです。
しかも下品だし…(苦笑)
Foolさんのベルエルクゥから「どつき漫才」を無断で拝借しています。すみません。
ピンク〜で何かないか考えたんですけど、思い付きませんでしたので適当です^^;

以前に投稿した拙作「デバ鶴姉ちゃん」のレスレスです。
久々野 彰さん、西山英志さん、ジン・ジャザムさんへ。
感想ありがとうございます。あれには短いなりに自分の持てるセンスを
つぎ込んだつもりなので、そこそこ好評をもらえて満足です。
最初に思い付いたネタはやっぱり「すごいなぁ(BY さおりん)」ですが、
千鶴が楓にやたらと優越感を抱いているのもポイントなんです(笑)

               ***  おまけ小劇場  ***

耕一と初音が花火セットを抱えて出た頃、柏木家では…


「くらげ…」

楓が一人で密かに楽しんでいるところ、風呂場のガラスに何者かのシルエットが映る。

	がらがらっ

「楓、いっしょに入ろ?」
「う、うん…」
千鶴はいつも、相手の承諾を得る前にいきなり全裸になるので、断るに断れないのだ。

	ちゃぽーん
・
・
・
「……(いい歳して、なんで千鶴姉さんは何かというと
               私と一緒にお風呂に入りたがるんだろう?)」

伏し目がちの楓は、姉の視線が自分の胸元に集中している事に気づかない。
「はぁ〜、ババンバ  バンバンバン〜♪(ふふふ、やっぱり私の完全勝利ね^ー^)」

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ギャグやシリアス短編の書きかけが一杯たまってしまったので、
次はこのどれかを完成させて投稿する予定です。
その中には、S…じゃなくて鈴木さんに無断で書いてる「悪チ」ものもあります。
けっこう悪いらしいです(笑)