もう一つの「ToHeart」第六話 投稿者: kurama
第6話「帰れない理由」
−−あらすじ−−
謎の失踪をした浩之。悲しみに暮れるあかり。何とかしようとする志保と雅史。
そして、突如浮上した謎の女性疑惑の真実を見極めるため、志保と雅史は浩之
のいるマンションに乗り込む。そして・・・。

−−マンション、浩之の部屋−−
  志保、雅史、そして浩之の三人がテーブルを囲んでいる。そして浩之の脇にはさっきの女性が
  浩之の怪我を治している。
志保  「さて、私たちが納得行くような訳ってのがあるんでしょうね?」
  志保、出された紅茶を飲みながら浩之に聞く。
浩之  「当たり前だろ。だからこうして話そうとしてるんじゃないか。」
雅史  「で、一体その理由ってなんなの?」
浩之  「あぁ。実はな、モニターに選ばれたんだ。」
雅史  「え?  何の?」
  きょとんとする雅史。
志保  「えぇ〜!?  まだわかんないの?」
  大袈裟に驚く志保。
浩之  「・・・ったく・・・まっ、無理もないか・・・おい、自己紹介してやれ。」
  そう言うとその女性の方を向く。
  女性は志保、雅史の方を向いて、
HMX「はじめまして。私、来栖川電工”HMシリーズ”試作型の<No14>と申します。」 
  軽く一礼をする。
雅史  「えぇ〜?  そうだったの?」
  素っ頓狂な声を上げる雅史。それを見てすかさず、
志保  「しかも、秋に出る新作よ。ところで、<No14>ってことはマルチやセリオの後輩って
        ことになるの?」
HMX「はい。そういうことになります。」
  にっこりと笑う。
浩之  「それで、<No14>ってのが呼びにくくてな、それで今はアリスって呼んでるんだ。」
志保  「ふぅん、よろしく。アリスさん。」
アリス「はい。こちらこそ。」
  深々とお辞儀をする。
雅史  「へぇ・・・けど、耳の・・・センサー・・・だったっけ?  あれはなんで付いてないの?」
浩之  「あぁ、あれな。今は必要ないと思ったから付けなかったんじゃないのか?」
雅史  「ふうん・・・。で、どこが変わったわけ?」
浩之  「俺もよくわからんが・・・確か言語ルーチンの拡張、スケジュール管理機能、体内時計誤差
        修正機能強化及び、文章読解機能を強化したって聞いてる。」  
雅史  「??  なんで?  いまの状態で十分だと思うけど?」
浩之  「アリスを売り込むターゲットってのがそもそも、重役クラス向けなんだよ。例えば、
        社長とか、政治家とか。言ってみれば秘書役だな。だから、その機能を強化する意味が
        あるんだ。実際、話はうまいし礼儀作法はしっかりしてる。」
  志保と雅史、真剣に話を聞いている。
浩之  「けどもし、それ以外の状況に置かれたらどうなるか・・・例えばこんな状態だ。その時の
        データが欲しいって訳らしいがな。」
志保  「ふぅん・・・そう言う理由があったわけね・・・」
  半分納得しながらも、不満はある様子でいる。
志保  「けど、なんで私たちに黙って行っちゃったわけ?  特にあかりなんか大変なんだよ!」
  志保が今までにあった出来事、あかりの行動すべてを浩之に説明する。その間に志保が浩之に何度も
  殴りかかりそうになる。
浩之  「・・・・・・事情は大体分かった。」
志保  「じゃぁ、帰ってくるのね?」
浩之  「いや、もう少しここにいる。」
志保  「!?  なんでなの?」
浩之  「まだこいつのモニターが終わってない。それに・・・」
志保  「それに、何なの?」
  浩之、ハッとなって、
浩之  「!?  ・・・いや、なんでもない。とにかく帰れないんだ。」
志保  「・・・(!?  ふふふ、そっか・・・)ちょっと何それ?  いつ終わるのか関係者に聞いてみなさいよ!!」
浩之  「それができたらとっくにやってるよ・・・。それに、そろそろその”関係者”ってのが来るから
        待ってな。」
志保  「ふん、いつまでも待たせてもらうわ!」
  ふと立ち上がって、後ろにあったベッドに横になる。
志保  「(ハァ・・・このバカ、どうしてくれよう・・・)」

  ・・・しばしの静寂が辺りを包み込む・・・

  しばらくして、
雅史  「ねぇ、一つ思ったんだけど。」
浩之  「ん?  なんだ?」
雅史  「アリスってさ、どっかで見たことあるんだけど・・・」
志保  「そういえば・・・そうね。はて?  どこだっけ?」
浩之  「そうだろうな。俺も最初見て驚いた。アリスのモデルってのがな・・・」
  ピンポーン
  ここまで言った時、呼び出し音が部屋にこだまする。
浩之  「お、噂をすればなんとやら。ちょっと待ってろ。」
  そう言うと玄関に歩いていく。
  数秒後、浩之が戻ってくる。
浩之  「雅史。もしかしたらこの顔に見覚えがあるのか?」
  と言って一人の女性が出てくる。
志&雅「あぁ−−−−−!!」
  二人が一斉に声を上げる。
志保  「関係者って・・・まさか・・・。」
浩之  「あぁ。来栖川先輩だ。こうしてデータを取りに時々来るんだ。」
  そこにはアリスそっくりの人物、来栖川芹香(実際は来栖川芹香に似たアリスだが)
が立っていた。

−−数分後−−
  再びテーブルを囲む。
浩之  「最初は驚いたよ。なにせ、外見が先輩のそっくりさんのHMなんだから。」
志保  「そりゃ、おどろくわぁな。黙ってりゃ、うりふたつだもん。」
  芹香とアリスを交互に見る。
雅史  「これ、正式版もこの形で出るの?」
芹香  「・・・・・・・・・・・・」
  浩之に話しかける。そして、
浩之  「いや、でないらしい。」
志保  「そうよね〜。メイドロボとはいえ、来栖川電工の御令嬢がいっぱいいたら大変だもん。」
  志保、一人で納得する。
志保  「それで先輩。テストってのはいつ終わるの?」
芹香  「・・・・・・・・・・・・」
  芹香、浩之に話しかける。
浩之  「あと一週間位?」
  こくり
  芹香がうなずく。
雅史  「って事は・・・夏休みが終わる一週間前には帰ってこれるんだ。」
浩之  「そういうことになるな。」
志保  「それがわかればここには用はないわ!  行くわよ!  これからあかりに報告よ!」
  志保、雅史の襟首を掴んで部屋を出ていく。
浩之  「・・・まったく、騒がしい奴等だ・・・。」
  と浩之が思った瞬間、
志保  「おっと!  忘れてた!」
  突然志保が帰ってくる。
浩之  「!?  なんだ?  帰ったんじゃなかったのか?」
志保  「ちょっと言うことがあってね・・・ねぇ、私には今あなたが何を考えてるか・・・帰れない理由
        が何かってのはわかってるわよ。けど、そのことって、ここにいて思い悩むことで解決するのかしら?
        私はそうは思わない。一番大切なのは自分の気持ち。自分の気持ちに正直になれば、おのずと答
        えが出ると思うわ。」
  志保、入り口に向かう。
志保  「あと一週間でしょ?  帰ってくるの。それまで自分の気持ち、もう一度よく考えてみたら?
        あかりのことは私たちでなんとかしとくから。」
  そう言うと出ていってしまう。
浩之  「・・・・・・・・・・・・」
  しばし、呆然とする浩之。やがて頭を掻いて、
浩之  「・・・俺って、隠し事できねぇのかな・・・」
芹香  「・・・・・・・・・・・・」
浩之  「えっ?  何があったのか、って?」
  こくん
浩之  「うん、まぁ、ちょっとした誤解ができちまってな・・・」
芹香  「・・・・・・・・・」
浩之  「私が誤解を解きに行ってきますって?」
  こくり
浩之  「う〜ん。いいや、こればっかりは自分の問題だし、あかりにも辛い思いさせちまったみたいだし・・・
        直接会って事情を説明するから。」
  そういうとスッと立ち上がる芹香。
芹香  「・・・・・・・・・」
浩之  「え、もう帰る?  ご苦労様。」
  ぺこり
  芹香、一礼すると部屋を出ていく。それを見送る浩之とアリス。
浩之  「(自分の気持ちに正直に・・・か。志保の奴、がらにもないこといいやがって)」

−−同じ頃、志保と雅史の帰り道−−
  志保と雅史、並んで歩いている。
志保  「へぇ〜〜っくしょい!」
  思いっきりくしゃみする志保。
雅史  「どうしたの?  風邪でも引いたの?」
志保  「何かしら?  夏風邪なんて洒落になんないわ。もしかして、私のことを噂してる素敵な男性が・・・」
雅史  「ハァ・・・」
  雅史、呆れてため息をつく。  
志保  「ん?  どうしたの?  ため息なんてついて?」
雅史  「いや・・・なんでもない・・・」

−−翌日、あかりの家の玄関前−−
  志保、昨日の出来事を説明する。
あかり「え?  ヒロちゃんが帰って来るって?」
  驚きは隠せない様子。
志保  「うん、あと一週間位だって。」
あかり「そう・・・・・・」
  そう言うなり、うつむく。
  あかりの反応にちょっと期待を外す志保。
志保  「あれ?  どうしたの?  嬉しくないの?」
あかり「え?・・・うん、嬉しいはずだけど・・・もやもやしてて・・・なんだろ・・・こんな気持ちはじめて。」
  複雑な表情をするあかり。  
あかり「ごめん、志保。なんか自分の気持ちがわからなくなってるの。ちょっと、一人で考えさせて・・・。」
志保  「ん・・・そうだね。けど、自分の気持ちに正直になりなさいよ。」
  そういってあかりに背を向ける。
あかり「本当にゴメン。私のために・・・」
  志保、振り返らずに軽く手を振る。

−−あかりの部屋−−
  あかり、自分の部屋に入る。
あかり「(自分の気持ちって・・・)」
  ゆっくりと部屋の中心に歩いていく。
あかり「(自分の気持ち、あの時から決まってたはずじゃなかったのかな・・・?)」
 そのままベッドに倒れ込み、寝入ってしまう。

−−あかりの夢−−
あかり「(ここは・・・?)」
  夕日の沈む小さな公園。幼い頃のあかりと浩之がそこにいる。それを見ている今のあかり。
あかり「(あ・・・そうだ・・・ここで約束したんだっけ・・・)」
  あかり、公園のベンチに座ってその幼い二人の様子を見守る。
幼あ  「ヒロちゃん。」
幼浩  「なんだ?」
幼あ  「私のそばにずっといてくれる?」
  腕を組んで考え込む浩之。あかりの方をむいて、
幼浩  「いいぞ。ずっと、あかりのそばにいてやるからな。」
  二カッっと笑う浩之。
幼あ  「ホント?  約束だよ?  絶対だよ?」
幼浩  「おぅ。任せろ!  どんな時もあかりのそばにいてやる。そんで、悪い奴から守ってやる!」
  浩之、胸をドンと叩く。
あかり「(そうだ・・・そんなことも言ってたっけ・・・)」
  目を細めてしみじみ思うあかり。
あかり「(ヒロちゃん、約束覚えてるのかな・・・?)」
  幼いあかりと浩之、はしゃぎながら家路に向かっていく。
  そのうちに周りの風景がぼやけていく。
    
−−(現在に戻って)あかりの部屋−−
  目を覚ましたあかり。上体を起こし、さっきまで見ていた夢の内容を思い起こしながら、
あかり「自分の気持ち・・・か・・・。本当は・・・どうなんだろ・・・」
  しばらく考え、
あかり「私の気持ちは、もう決まってる。それを、ヒロちゃんに伝えるだけ。」
  決心を固めたあかり。迷いが消えたせいか、表情は幾分明るく見える。

−−六日後の夕方前、あかりの家−−
  料理の手伝いをするあかり。なんかそわそわしている。
  今日に始まった訳でなく、日に日に落ち着きがなくなってきていた。
母    「最近どうしたの?  なんか落ち着かないようだけど・・・?」
あかり「え?  あ・・・ううん。何でもないよ。」
  そんな会話を交わしていると、居間の方から電話の呼び出し音が聞こえる。
母    「あ、電話。ちょっとあかり、おなべ見てて。」
  そういって電話に出る母。
母    「もしもし・・・はい・・・えぇ、ちょっと待っててね。」
  母が台所に戻ってくる。なぜかにこにこしている。
母    「あかり、電話よ。」
あかり「え?  誰から?」
母    「出ればわかるわよ。ほら、待たせちゃいけないわよ。」
  せかす母。それを不思議に思いながらも受話器を取る。
あかり「もしもし・・・あ・・・・・・ヒロ・・・ちゃん・・・?」

−−続く−−

−−次回予告−−
  とうとうあかりにコンタクトしてきた浩之。浩之の考えは?  あかりとの約束は?
そして、二人の「自分に正直な気持ち」は・・・?  
  
最終回「約束(仮)」。近日掲載予定。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

やっと、クライマックスまで持ってこれたような・・・?
今度で一応完結します。

−−またもやお詫び−−
本当に申し訳ありません。この1週間、プロバイダーさんに嫌われて接続できなかったです。やっと、掲載できました。