もう一つの「ToHeart」 投稿者:kurama
−−背景−−
3月初頭。季節は春になろうかという時期。

−−電車の中−−
  電車の中に揺られて窓の外を眺める一人の青年。藤田浩之。16歳。
浩之「ごめんな・・・」
  誰に言うでもなくつぶやく浩之。

−−浩之の家(浩之の回想)−−
  居間。荷物をまとめ、上京する準備をする浩之を見る父。
父    「本当にいいのか?」
浩之  「ああ。俺がいいんだから、いいんだよ。」
父    「そうじゃなくて、あかりちゃんだよ。」
  父がそういうと一瞬動きが止まる。
浩之  「・・・・・・・・・・・・」
父    「いいのか?  黙って行って。」
  浩之、答えずに荷物を持つ。
浩之  「じゃぁな、親父。あかりには何も言わないでくれよ。」
  あきらめたのか、何も言わない父。黙ってそれを見送る。
浩之  「(すまねぇ、あかり。きっと・・・きっと帰ってくるからな。)」

−−(現在に戻り)朝、あかりの部屋−−
  小鳥の鳴き声、窓から差し込む光、小さな音をたてる時計、カーテンを手で払い、
  外を覗くあかり。
あかり「う〜ん。今日もいい天気っ!」
  大きく伸びをする。
  いつものように朝食をすませ、登校の準備をする。
あかり「さて、今日もヒロちゃんを起こしに行くかっ」

−−浩之の家−−
  あかり、家の呼び鈴を押すが何の反応もない。  
あかり「あれ?  ・・・いないのかな・・・?」
  首をかしげるあかり。
あかり「ヒロちゃん、病気かな?  学校が終わったらまた来よう。」
  浩之の家をあとにするあかり。

−−学校の帰り道−−
  足早に歩くあかり。
志保  「あかり〜!  ちょっと待って!  待ってってば!!」
  その場で立ち止まり、後ろを振り向くあかり。息をきらしながらあかりの前で止まる志保。
志保  「ハァハァ・・・そんなに急いでドコへいくの?」
あかり「え?  ヒロちゃんの所だけど?」
志保  「えぇ?  ・・・そうか・・・。」
  驚く志保。不思議そうな顔をするあかり。
志保  「やっぱり、知らなかったんだ・・・」
  志保の言葉に戸惑うあかり。志保の表情が曇る。
あかり「何か・・・あったの?」
  あかりの言葉にうつむく志保。
あかり「ねぇ・・・志保ちゃん・・・ってば。」
  顔を上げ、あかりの目を見る志保。
志保  「いい?  あかり。今から言うことに絶対取り乱したりしないでね?」
あかり「え?  う、うん・・・」
  小さくうなずくあかり。
志保  「浩之が家を出ていったの・・・。」
  それを聞いて、あかりの表情が一瞬引きつる。
あかり「冗談でしょ?・・・もう、ひどいんだから。そんなの通じないよ。」
  言葉なく首を横に振る志保。一歩後ずさるあかり。
あかり「嘘・・・だよね?  嘘だよね!?  ねぇ、志保ちゃん!!」
  言葉なく立ち尽くす志保。その場を走り去るあかり。ハッとなる志保。
志保  「待って、待ってよ!  あかり!!」

−−浩之の家−−
  あかり、呼び鈴を何度も何度も押す。しかし、返ってくるのは家の中に
  かすかにこだまする呼び出し音だけである。
あかり「・・・・・・」
  そんなあかりの背中を見つめる志保。
志保  「あかり・・・」
  肩に手を掛けようとするが、その肩が震えているのに気づき、手を引っ
  込めてしまう。
あかり「・・・ひどいよ・・・ヒロちゃん・・・」
  そのまま駆け出していくあかり。やりきれない気持ちでいっぱいになる
  志保。

−−あかりの部屋−−
  閉め切ったカーテン。光のない部屋。膝を抱え、ベッドの上に座るあかり。
  あかりの頬を伝う涙。
あかり「ヒロ・・・ちゃん・・・」
  頭の中をよぎる昔の出来事。

−−あかりの回想−−
  夕日の沈む小さな公園。幼い頃のあかりと男の子、浩之。
あかり「ヒロちゃん。」
浩之  「なんだ?」
あかり「私のそばにずっといてくれる?」
  腕を組んで考え込む浩之。あかりの方をむいて、
浩之  「いいぞ。ずっと、あかりのそばにいてやるからな。」
  二カッっと笑う浩之。
あかり「ホント?  約束だよ?  絶対だよ?」
  頭の中の思い出がぼやけて行く。

−−あかりの部屋−−
  あかりの頬を伝う涙。
あかり「約束・・・・・・したのに・・・・・・」
  泣き崩れるあかり。

−−1週間後、学校の屋上−−
  フェンスにもたれ、空を見上げる志保。隣で校庭を見つめる雅史。
志保  「もう1週間になるのか・・・」
  つぶやく志保。それを聞いて、
雅史  「もう、1週間になるんだね・・・」
  うつむく志保。雅史、更に続ける。
雅史  「あかり・・・大丈夫かな・・・」
  うつむいたまま力無くつぶやく志保。
志保  「大丈夫だったら、1週間も学校休む訳ないでしょ・・・」
  うつむく雅史。
雅史  「そうだよね・・・・・・。」
  そのまま話続ける志保。
志保  「こんなの良くない・・・気持ちはわかるけど、こんなのは絶対に
        良くない。」
雅史  「どうするの?」
  雅史を見る志保。
志保  「こうなったら、説得するしかないじゃない。」
  ちょっと驚く雅史。
雅史  「できるの?  説得なんて・・・」
志保  「やってみなきゃ、わかんないでしょ?」
  空を見上げる志保。
志保  「・・・やらなきゃ・・・いけないんだから・・・」

−−夕方、あかりの部屋−−
  光のない部屋。虚ろな目で床に座り込むあかり。それを見て立ち尽くす
  志保と雅史。
  志保、ゆっくりと近づいて、
志保  「あかり・・・あのね・・・」
  無反応のあかり。やっぱり、という表情を雅史に向ける。
雅史  「あかりちゃん・・・あのね、あかりの気持ちもわかるけど、
        浩之だって、何か理由があったんだと思うよ。」
志保  「そうそう。」
  志保がうなずく。しかしあかりの表情は変わらない。
  雅史、ため息ついて、
雅史  「やっぱり、僕達じゃ駄目なんだよ・・・」
  志保、何か決心したらしく、あかりの前にしゃがみこみ、
志保  「あかりっ!!」
  あかりの肩を掴んで揺する志保。
志保  「こんなのよくない!  駄目だよ!!  別に世の中、浩之だけが
        男じゃないんだよ?  あんな奴、忘れちゃえばいいじゃない!
        あかりなら、彼氏くらいすぐに・・・」
  それを聞いてあかりの頬を伝う涙。かすかに動くあかりの唇。
あかり「ヒロちゃんは・・・一人しかいない・・・一人しか・・・」
雅史  「じゃぁ、どうして信じられないの?  一人しかいない浩之を。」
  びくっとするあかり。突然の台詞に唖然とする志保。雅史は更に言葉を続ける。
雅史  「辛い気持ちはわかるけど、浩之だって、帰ってこないつもりじゃないと
        思う。  だから、今度・・・夏休み頃に帰ってくるかもしれないよ。
        待とうよ。浩之が帰ってくるまで。」
  うなずく志保。つぶやくあかり。
あかり「ヒロちゃん・・・うん、待ってみる・・・」
  笑顔の志保と雅史。
あかり「待ってみる。ヒロちゃんを信じて、待ってみる!」
  笑顔で涙をぬぐうあかり。
あかり「ごめんね、志保ちゃん、雅史。」
  志保が立ち上がり、カーテンを開ける。夕焼けの光が部屋いっぱいに入り込む。
志保  「明日から、また頑張ろ!  あかり!」
  志保があかりに向けて親指を立てる。
あかり「うん!」
  笑顔でうなずくあかり。

−−続く−−
    
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どうもです。kuramaです。
私の友人達の力添えによって完成しましたです。この場を借りて、お礼を。
「ありがとうございました。」
無謀にも長編に挑みました。どうなるかわかりません。

>皆様
本当は皆様の作品の読んで、感想を書きたいのですが、現時点ではその余裕がないんです・・・。
本当にすみません(のくせして書いてるな・・・)。