メモリの罪 投稿者:kurochan 投稿日:1月19日(土)10時55分
-------------------------------------------------------------------------------
この物語は、リ−フ殿の「To Heart」の設定をもとにした、二次創作物(Side Story)です。
内容は、会社でメ−ルサ−バ−がダウンした際の、対処方法をノウハウにした話です。
人物および場所の設定は、すべて架空のものです。
-------------------------------------------------------------------------------

『メモリの罪』

第一章  おかしいな

「ん?」
研究室に来て、俺の口から、最初に発せられた言葉がそれだった。
「おかしいな...」

俺は、いつも使っているパソコンを前にして、首をひねっていた。
俺は、藤田浩之。現在、大学3年生。
いつものように研究室に来て、インタ−ネットで6時間ブラウジングし、1時間かけて
メ−ルをチェックし、1時間だけ卒論の研究をする。
これが、俺のウィ−クデ−の日課だ。
同じ大学に進学した、あかりからは、
「そんなことしてると、そのうちきっと痛い目にあうよ」
などと、訳のわけらんことを言われたりする...。
そんなこんなで、いつものようにメ−ルの内容を確認しようと、メ−ルソフトを立ち上げ
たのだが...。
「ジャン!」
不気味な音とともに、俺の目に入ったメッセ−ジは...。
『サ−バ−に接続できません』
...。
はて?
念のために、コンピュ−タを再起動し、もう一度メ−ルソフトを起動してみた。
しかし...。
「ジャン!」
『サ−バ−に接続できません』
...?
もしかして、メ−ルサ−バ−が停止しているのか...?
しょうがない。
俺は、「どっこらしょ」と重い腰を上げ、サ−バ−ル−ムに向かった。

サ−バ−ル−ムは、研究室とは別の場所にある。
俺の所属する「長瀬研究室」をはじめ、他の研究室のサ−バ−をも一緒に管理している部屋
がある。
それが、「サ−バ−ル−ム」だ。
えっ?サーバーって、何かって?
簡単に言えば、俺達学生が使っているコンピュータと違って、全員で使うデータを格納した
り、俺達がいない間とか、講義を受けている間に、処理を行ってくれるコンピュータのこと
だ。
当然、昼も夜もなく、休みなく動き続けて処理してくれるものもある。
俺達が寝ている間(主に夜中)に、昼間集めたデータを基に、ぶんぶん処理をしてくれて、
朝になったら、目的の資料ができていたり...。
電子メールを受信して、いったんため込んでおき、俺達がメールソフトを起動したときに、
届いているメールを確認できたりするのも、サーバーがあるおかげだ。
もちろん、サーバーがあるだけで、そういった処理が行えるわけはない。
ネットワークにつながって、必要なサービスが起動してて、なおかつそこで動作するソフト
がきちんと動くことで、初めて実現できることなのだ。
しかし...。
俺達の大学の「サ−バ−ル−ム」は、はっきり言って、『地獄』だ。
そこは、各サ−バ−が発する熱で、まさにサウナのよう。
一年中、冷房が入っているが、設置されたサ−バ−が多すぎて、修羅場の様相を呈してい
る。

カチャカチャ...、ガチャ。
鍵を開けて、中に入る。
一応、大学の管理施設ということで、入るには鍵が必要なのだ。
しかし、俺のゼミの長である長瀬教授は、何を隠そう、この大学のネットワ−クそのもの
を構築した張本人。
当然、サ−バ−ル−ムの鍵くらいは持っている。
しかし、ズボラな性格なのか、机の上に投げ出してあることも多いので、入ろうと思えば、
いつでも入れるのだ。
それにしても...、暑い。
...あっつい。
......あっちぃぃぃぃぃぃぃっ!
いったい、摂氏何度だ、ここは?まるでサウナじゃね−か。
ふと、入り口にある温度計を見ると...。
「...」
俺は、気が遠くなりかけた。
なんと、摂氏43度。
ほとんど、ボイラ−室のノリじゃね−か。
そのうち、サ−バ−の2〜3台、火を噴くかもな、こりゃ。
とっとと調べて、研究室に戻ろう。


第二章  停まってる

んでもって、うだるような暑さの中、メ−ルサ−バ−の前に行くと...。
ありゃ。
本当に、停まってる。
ディスプレイに何も映ってないし...。
因みに、メ−ルサ−バ−ばっかりは、24時間電源ONにしておかなければならないらしい。
長瀬教授いわく、
「電子メ−ルは、インタ−ネット上に点在するメ−ルサ−バ−を、何台も中継して、相手に
届く。だから、メ−ルサ−バ−が停止すると、自分宛ての電子メ−ルが届かないばかりか、
他人の電子メ−ルも届けられなくなる可能性がある」
らしい。
しかし、こんなこともあろうかと、ちゃんと予備機があるのだ。
本体(マザ−ボ−ド、電源ユニット等)が吹っ飛んだ時、迅速に復旧できるようにと、まった
く同じハ−ドウェア構成のサ−バ−が、用意されている。
どれ、本番用のマシンの電源を切って、解体、解体...っと。
ギギギギ...、ガチャ。
本番用のマシンから、メモリ、ハ−ドディスク、イ−サネットボ−ドを取り出し、予備機に
取り付ける。
さて、予備機の電源ON!!
ぶぅぅぅぅん...、ピポッ!

しかし...。
ディスプレイには、何も映らない...。
「おおお?」
これは、いったい...?
予備機のマシンと入れ替えたのに、動かない...?
何故だ...?

第三章  迅速な復旧

「なぜ、起動しないんだ...?」
腕を組み、しばらく考える。
「う〜ん...」
こういう時は、落ち着いて、落ち着いて...。
まず、自分が行なった対策について、思い返してみよう。

『本番用のマシンから、メモリ、ハ−ドディスク、イ−サネットボ−ドを取り出し、予備機に
取り付ける。』

ここで、正常に起動すれば、本番用のマシン(もちろん、取り出した部品以外)に、問題があっ
たことは、容易に想像がつく。
しかし、実際には、予備機でも、起動しなかった。
「と、いうことは...」
そう。
予備機に取り付けた、メモリ、ハ−ドディスク、イ−サネットボ−ドのいずれかに、問題が
あることになる。

まず、ハードディスク。
しかし、電源ケーブルや、IDEケーブルは、確実に差し込まれている。
第一、予備機の電源をオンにした時点では、ハードディスクを読み込む際に点滅するランプが
ちゃんと点いている。
「ガコン、ガコン、キュイ、キュイ、キュイ」
などという、悪夢のような音も、聞こえてこない。

次に、イ−サネットボ−ド。
ハードディスクが正常に起動しているなら、次に、ここに制御が移るはずである。
しかし、画面は真っ黒。はっきり言って、なにも映らない。
ということは、ここに制御が移る前...か。

すると...。
残るは...、メモリか。
考えてみれば、本体のBIOSチェックが行われた後、次に制御が移るのが、メモリである。
普通なら、メモリのエラーチェックが行われるはずなのだが、そこまで制御が行えないほど、
破損しているとすると...。
よし!!
メモリを、予備のものと交換して、ハ−ドディスク、イ−サネットボ−ドはそのままに、起動
できるか、試してみよう。

ぶぅぅぅぅん...、ピポッ!
「.....」
結果は...。
「.....」
なんと...。
「...やった!!起動した!!」
見事、的中。
どうやら、本番用のマシンに搭載していたメモリに、異常が発生したのが、原因らしかった。
「オッケー、オッケー。」
...っとと。いかん、いかん。
一刻も早く、メールサーバーを復旧させなければ...。

第四章  報告

「...と、いうわけです」
俺は、研究室に戻り、クライアントからの処理も、正常に行えることを確認。
そして、しばらくして研究室に戻ってきた長瀬教授に、ことの次第を報告したのである。
「ふ〜ん」
教授は、気のなさそうに、返事をすると、
「ここしばらく、障害が起きなかったんだが、そうゆうこともあるんだね...」
という。
「しかし、教授」
「ん?何だね」
俺は、言っていいものかどうか、少し悩んだのだが...。

『自作機で、しかもNTでメールサーバーを構築するのは、いかがなものかと...』

教授は、「うっ」と、苦い顔をした。
「しょうがないだろう。作者の環境がそうらしいし」

『でも、いくらなんでも、i486の66MHzでは、いかんせん、辛いものがあるのでは?』

俺がさらにたたみかけると、教授はさらに、「うっ」と、苦い顔をした。
「べ、別にいいだろう。将来的には、ExchangeとOutlookを導入する予定だし。第一、そんな
予算があったら、私が自分で、その環境を構築しているよ」

『それに、きちんとセキュリティ対策をしないと、クラッカーの踏み台にされますよ』

俺がさらにたたみかけると、教授はさらに、「うっ」と、苦い顔をした。
こーゆー時ぐらいしか、教授をからかえない、俺である。
しかし、そこで長瀬教授の目が光った。
「そこまで言うなら、Linuxで、君がメールサーバーを構築してみるかね?」
げっ、や、やばい。
矛先が、逆に俺に向いてしまった。
「私も、LinuxやRedHatには、興味を持っていたところだからね。喜んで、協力するよ」
長瀬教授は、ニヤニヤ笑っている。
「いっ、いえ、俺...、いえ、私には、学生という大義名分がありまして...」
しどろもどろになりながら、俺が長瀬教授の申し出を断るのに、それから三十分の時が必要
だった。


あとがき

今回は、会社でメ−ルサ−バ−がダウンした際の、対処方法をノウハウにした時の話を、
「TO_HEART」に乗せて書いてみました。
しっかし、今回は、意外なところに、落とし穴がありました。
BIOS側で、『メモリエラー』で警告してくれれば、もっと早く原因がわかったはずなのですが、
今回は、そこまで制御が行えないほど、破損していたようです...。
それにしても、オチがちょっと弱かったかな...。

こ−ゆ−話だと、結構書けてしまうので、わずかなノウハウを、公開していこうと思います。