メ−カ−製ATケ−スの罪 投稿者:kurochan 投稿日:12月7日(日)23時57分
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この物語は、リ−フ殿の「To Heart」の設定をもとにした、二次創作物(Side Story)です。
内容は、会社の大掃除の時にもらったATケ−スを、自作PCのケ−スと交換した時の、
ちょっとしたボケをノウハウにした話です。
人物および場所の設定は、すべて架空のものです。
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『メ−カ−製ATケ−スの罪』

第一章  プロロ−グ

「な...、なんじゃあああぁぁぁぁっ!!こりゃあああぁぁぁぁっ!!」

俺は藤田浩之。現在、大学の3年生。
現在、一台のタワ−型パソコンを前に、のた打ち回っている。
そう。まるで、某テレビドラマで松田優作が、殉職する時のように。
何故かというと...。
それは、昨日のこと...。

その日は、半年に一回の、粗大ゴミの日だった。
いらなくなった機材とか、廃棄処分になった書籍が、各研究室やサ−クルなどから、ドバ
ドバと捨てられる。
その量は、一回につき、十トントラック二台分にも相当する。
もちろん、大学側の極秘資料なども含まれる。
となれば、
「何か使えるものがあれば...」
というのが、人情というもの。
俺もさっき、研究室で廃棄処分になった書類を、捨てに行ったのだが...。
既に、廃棄物置き場は、略奪の渦中となっていた。
机、椅子、コタツ、テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、自転車、寝具などなど、あるわあるわ、
ほとんどの生活必需品が揃っている...って、おい。
この大学って、宿泊は認められていたっけか?
そんなことを考えながら、行き交う学生達を見ていると...。
廃棄物を捨てに行って、同じくらいの量の、別のものを拾っていく奴もいる。
(作者注:ホントは、これって犯罪だったりして)
中には、
「俺が先に見つけたんだぁぁっっ!!」
「いや、俺のだぁぁっっ!!」
「こうなったら、最終奥義で勝負だぁぁっっ!!」
「望むところだぁぁっっ!!」
と、正体不明のぬいぐるみや枕やタオルを、男同士で取りあっていたり、
「今こそ、大学の不正の実態を、暴くんだあああぁぁぁっっっ!!」
などと、訳のわからないことを口走りながら、大学側が破棄した書類を引っくり返してい
る奴がいたり...。
(そんなヤバイ情報をのせたまま、書類を廃棄するかっつーの)

俺も、研究室で廃棄処分になったコンピュ−タを、長瀬教授から貰い受けた。
とは言っても、本体ケ−スだけ。中身は、全部廃棄されていた。
...と言うより、ケ−ス以外のパ−ツは、全て取られていた...というのが、正確なとこ
ろだ。
犯人は、なんと言っても、この研究室の長である、長瀬教授である。
自分で使うパ−ツを、全部取り外した後で、
「藤田君、国産メーカー製のATケ−スが1個余ったから、君にあげよう」
.....。
俺は、その話に、すぐに飛びついた。
ちょうど、家で使っているコンピュ−タのケ−スが、メンテナンスがしづらくて、悩んで
いたところだったのだ。
『これで、メンテナンスがしやすくなる』と、一瞬ニヤリとしたのだが...。
実はこれが、とんでもない悲劇の引き金になるとは、この時は思いもしなかった...。

第二章  入れ替え

てな訳で、もらったATケ−スを抱え、家に帰ってきた。
さあ、さっそく入れ替えだ。
念の為、現在使っているコンピュータのケースを開け、取り付けてあるPCIバス、ISA
バスの位置を、メモしていく。
「なぬ?ISAバス?そりゃ何だ?」
などと言う人も、いるかも知れない。
...確かに、PCIバス全盛の現在、ISAバスなんざ使っている人は、かなり少なくな
っているだろう。
だが、いくら転送速度が遅いといっても、いくら過去の遺産だと言われても、こればかり
は、そう簡単になくすことはできないのだ。
特に、貧乏人の俺にとっては...。
...とと、いかんいかん。
さっさと、メモしてしまわねば...。

そんなこんなで、メモが完成。
さて、いよいよ組み立てだ。
現在使っているコンピュータから、部品を取り外し、わかりやすいように、机の上に並べて
いく。
こうしておかないと、万一の時、大変なことになるのである。
えっ?大変なことって?決まってるじゃない。
「組み立てた後に、正常に起動しない」
「BIOSの設定の関係から、IRQの設定内容が、グチャグチャになってしまう」
「部品が足りなかったとき、何が足りないのか、即座に把握できるようにするため」
などなど、いろんな理由があるのだ。
特に今回は、本体ケースだけを変えるので、下手に設定を変更すると、起動しなくなってし
まう。
それだけは、避けなければならないのだ。
並べ終わったら、メモを見ながら、逆の順番で新しいケースに取り付けていく。
ただ単に、ケースを交換しているだけなのだが、新しいマシンを1台組み立てているのと、
同じような躍動感が、俺の胸を刺激する。
知らず知らずのうちに、笑いがこみあげてくる。
もう少し、もう少しで、今までの悪夢のような、メンテナンスの煩わしから、開放される
ぞ・・・。

第三章 トラブル

よし!組み上がった。
へへへ・・・、と、嬉しさが胸の奥から、ふつふつと湧き上がってくる。
どれ、念の為、通電して確認しよう。
電源ケーブル、マウス、キーボード・・・と、配線しようとした。
した。
「・・・・・・」
俺は、マウスとキーボードのケーブルを握り締めたまま、凍りついた。
「・・・・・・穴が、ない・・・」
そう。
マウスとキーボードを接続するための穴が、ケース背面に存在しなかったのである。
いや、正確には存在するのだが、穴が、小さすぎるのだ。
「な...、なんじゃあああぁぁぁぁっ!!こりゃあああぁぁぁぁっ!!」
冒頭の叫び。
「お、落ち着け、落ち着くんだ・・・」
ゼェ、ゼェ、ゼェ、スー、ハー、スー、ハー。
深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
(何故、こんなことに・・・?)
俺は、もう一度、ケースの背面を覗き込んだ。

落ち着いて考えれば、理解できることだった。
要するに、本体ケースが、PS/2用の口径でしか、キーボードとマウスの穴をサポ
ートしていなかったのである。
考えてみれば、俺が使っていたマザーボードは、BabtAT。ATXではなかった。
しかも、このケースは、ショップで購入したものではない。
あくまでも、メーカー製ATケースを、タダでもらってきたものだ。
つまり自分で、キーボードとマウスの穴を大きくして、接続できるようにするのが、
得策・・・ということになる。
「それにしても、これくらいは考えてくれてもいいのに・・・」
とぼやいてみるが、まずは目の前の問題を、解決するのが先決だ。
仕方がない。
明日、長瀬教授に相談してみよう。

(作者注:ATXの場合は、マザーボード背面の形状に合わせ、数種類のプレートが、
ケース側に同梱されています。しかし、BabyATの時代は、コネクタ配置に関する
規格など存在しなかったので、こーゆーことがよくありました・・・)

第四章 対策と、オチ

「・・・と、いうわけで」
翌日、俺は、組み上げ直したタワー型PCを抱えて、研究室に来ていた。
「ふ−ん」
長瀬教授は、気のなさそうな返事をする。
「で?その対策方法を、僕に教えて欲しいと」
「はい」
俺はうなずいた。
すると、長瀬教授は、
「いくら?」
そう言って、右手の平を出す。
「へ?」
俺は思わず、差し出された教授の掌を見た。
「当然だろう?時間外労働なんだからね」
「きょ〜じゅ〜」
「ははは、冗談だよ。かわいい教え子からは、十分授業料をもらっているしね」
...まったく。こ−ゆ−のは、ブラックユ−モアとは言えね−ぜ。
「じゃあ、さっそく見てみよう」
そう言うと、長瀬教授は、タワー型PCの背面を調べてくれた。
「なるほど。これは、『穴』を大きくするのが、手っ取り早いね」
そんなことは、百も承知である。
しかし、ここで教授に首を横に振られてしまっては、元も子もない。
「教授、ところで、どうやって『穴』を大きくするんですか?」
俺は、昨日の夜から疑問に思っていたことを、そのまま質問してみた。
すると教授は、俺に向き直り、
「まあ、簡単に言ってしまえば・・・」
そう言うと、今度は机の引出しを、ガサゴソとやり始める。
「おお、あったあった。これだよ」
目の前に、ゴトリと置かれたものを見て、俺は目をむいた。
「・・・電動ドリル?」
そう。木材や金属に穴を空けるための、電動ドリルだった。
「きょ、教授、いつもこんなものを、持ち歩いているんですか?」
俺は一瞬、放心状態になる。
こーゆーものを見せられると、嫌でも、ホラー映画が頭に浮かぶのは、俺だけ
だろうか。
「何を言っているんだ。いつも持ち歩いてなどいないぞ。研究室に常備している
だけだ」
長瀬教授のそんな言葉も、俺には、全く説得する力を持っていなかった。
ここって、経営学の研究室だぞ?機械工学を専攻しているなら、まだしも・・・。
「どうした?やるのかね、それともやめるのかね?」
とと、いかんいかん。
ここは、教授に頼るしかない。
「あ、はい。御願いします」
俺は、素直に頭を下げた。

キュイーーーン、キュイーーーン、ガガガガガガ・・・、キュイーーーン・・・。
研究室に、歯を削るような音が鳴り響く。
もらったケースの、マウスとキーボード用の穴を、長瀬教授が大きく刳り貫いて
ゆく。
俺は、組み上げたパーツを外した後、教授の行う作業を見守っていた。
時々、手を止めては、マザーボードをはめ込み、穴の大きさをチェックする。
それにしても、しつこいようだが、ここは経営学の研究室。
こんな音がすること自体、正気の沙汰とも思えない。
キュイーーーン、キュイーーーン、ガガガガガガ・・・、キュイーーーン・・・。
「よし、こんなもんだろう」
教授が、アイマスクを外し、電機ドリルのスイッチを停めた。
「次は・・・と、これこれ」
またまた、どこから取り出したのか、丸ノコギリを手にしている。
ガリガリ、ガリガリ・・・。
電動ドリルで大きくした穴の内側を、丁寧に削っている。
これも、重要な作業だ。
安いパソコンケースなどは、機械で型抜きしたあとにできる『かえり』が、その
まま残っていることがある。
知らずに組み上げたりすると、スパッと、手が切れてしまうこともある。
そういえば、誰かがドス○イマガジンで、
「与作の歌に乗せて、『自作は手を切る』って歌いたくなった」
と、言ってたっけ。
「よし、完成だ。藤田君、見てごらん」
教授が、俺に向き直った。
どれどれ・・・、わおっ!!
マウスとキーボードのケーブルが、綺麗にはまるようになっている。
しかも、穴は大きすぎず、小さすぎず。職人芸とも思えるほどに、『かえり』も
綺麗に取り除かれている。
「ありがとうございますっ!本当に、ありがとうございますっ!」
俺は、本当に、心の底から、長瀬教授に御礼を言った。
これで、地獄のような、メンテナンスの煩わしさから、開放されるのだ。
「ははは、よせよ。照れるじゃないか」
「ありがとうございますっ!本当に、ありがとうございますっ!」
地獄の底から、救われるような気持ちで、俺は、教授に御礼を言い続けた。

「さて・・・と」
自宅に戻った俺は、さっそく、コンピュータの配線を確認し、電源を入れた。
ぶううぅぅぅん・・・。
うんうん、正常に立ち上がった。
今日は、記念すべき一日。ケースが生まれ変わった日だ。
カレンダーに、印でも付けておこう・・・と、部屋を見回した・・・。
「・・・あ」
俺の目に、もともと使っていた、BabyATケースが飛び込んできた。
そういえば、今日、大学に行く時に、なんか忘れてるな・・・とは、思っていた
のだが・・・。
「・・・しまった」
年度末廃棄は、今日までだ。次の廃棄は、半年後。
つまり、使いもしないケースを、半年間も抱きかかえなければならないのだ。
パーツとはいえ、このままゴミに捨てるわけにはいかない。リサイクル法で、
お金を払って、持っていってもらう必要がある。
そんな余裕が、貧乏学生の俺に、あるもんか。
「やってしまった・・・」
この狭い部屋で、余計なスペースを占有されることになるとは・・・。
古いBabyATケースを前に、がっくりとうなだれる、藤田浩之の姿があ
った。

あとがき
今回は、会社の大掃除の時にもらったATケ−スを、自作PCのケ−スと交換
した時のボケを、「To Heart」に乗せて書いてみました。
BabyATのマザーボードを、店頭で見ることは、ジャンクショップを除き、
皆無といってもいいでしょう。
現在でも、BabtATマザーを現役で使っていますが、中のパーツを組み替
えるのは、ATXのほうが、やりやすいのは事実です。
組み立てるよりも、買い換えたほうが安い・・・というご時世、経済的にはいい
時代になりました。
とは言うものの、中にどんなパーツが入っていて、どのように処理されている
か・・・という点は、あまり触れられなくなってきているようにも感じます。

こ−ゆ−話だと、結構書けてしまうので、わずかなノウハウを、公開していこう
と思います。