Y2K−その光と影−  投稿者:kurochan

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この物語は、リ−フ殿の「To Heart」の設定をもとにした、二次創作物(Side Story)です。
内容は、西暦2000年問題を題材にした話です。
人物および場所の設定は、すべて架空のものです。
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『Y2K−その光と影−』

第一章  プロロ−グ

「雅史、『Y2K』って知ってるか?」
それは、ほんの些細なきっかけだった。
昼飯を済ませ、うららかな日差しを浴びながら、うつらうつらしたくなるような、昼休み。
前の日に、テレビで見たニュ−スのことを、何気なく口にした...ただ、それだけだった。
「え?ごめん、今、ちょっとボ−ッとしててさ」
雅史の目が、なんだか虚ろになっている。
へえ...、こいつでも、うつらうつらする時があるんだ。
「なんだ、珍しいな。昨日見たニュ−スで、『Y2K問題』とかいうのを特集しててさ、西
暦2000年になった途端、コンピュ−タが人間の管理下を離れて、暴走する...ってい
うやつ」
「ああ、あの特集ね」
その時、雅史の目が、例によって輝いたのを、俺は見逃さなかった。
「えっ?見たのか?」
「うん、見たよ。夜九時頃からやってたね」
雅史の目が、爛々と輝いている。
その視線の先に、俺がいることに、多少、貞操の危機を感じるが...。
「それなら、話は早い。本当にコンピュ−タが、予期せぬ動きをしたり、人間に牙を剥いた
りするのか?」
俺が聞くと、雅史はちょっと考えて、
「まあ、有り得ないことでは、ないかもね」
「屈折した言い回しをするなよ。どっちなんだ?」
「有り得る...かも。...っていうのが、本音だね」
「どういうことだ?」
奥歯に物の挟まったような、言い回しをしおってからに。
「こういうことなんだよ」
雅史は、俺に向き直った。

第二章  不安

「正直なところ、『何が起こるか、現時点では断定が難しい』らしいんだ」
雅史は、自分の机から、自由帳を取り出し、俺の机の上に広げた。
「初歩的なことだけど、どうして、西暦2000年問題っていうものがあるのか、浩之は
知ってる?」
「それ自体、よく知らないんだ。だから、何故それが、『コンピュ−タが暴走する』って
いう話に繋がるのかが、見えなくてさ」
俺は、自分の思っていることを、正直に言ってみた。
「それじゃあ、そこから説明しようね」
雅史はそう言うと、自由帳に、なにやら数字を書き始めた。

『1999/08/20』
  ~~~~
雅史は、今日の日付を自由帳に書き込むと、西暦上2桁の『19』のところに印を付け、
俺に向き直った。
「昔のコンピュ−タは、西暦を下2桁しか持っていなかったんだ。要するに、1999の
後ろ2桁の『99』だけで、日付の判定とかを行っていたんだよ」
雅史の答えに、俺は、目をむいた。
「お、おい。ちょっと待て。そんなことをしたら、西暦2000年になったら、どうなるん
だ?」
「うん。ほとんどの場合、『1900年』として、処理されてしまうらしいよ」
「ま、待てよ。それって、明らかに設計ミスじゃないのか?西暦2000年になった途端、
日付がまるっきり、狂うってことだろ?」
俺の慌てぶりを見て、雅史はクスッと笑った。
「...まあ、そう言えなくも、ないんだけどね」
「なんだよ。俺、何か変なことを言ったか?」
俺は、だんだんイライラしてきた。
「西暦の前2桁を削ってでも、優先しなければならなかったことが、過去にいろいろあるら
しいんだ」
「どういうことだ?」
俺が聞くと、雅史はなぜか、溜め息を吐いた。
「コンピュ−タが登場してから、既に50年くらい経つんだけど、昔は情報を記憶させてお
く領域が小さくて、なおかつ高価だったんだ。今は、ハ−ドディスクでも、1GB当たり
の単価が千円ぐらいだけど、当時は、数KBでウン百万円もしたんだって。だから、可能
な限り、記憶させておく情報や、動かすプログラムを小さくする必要があったんだ。当時
は、西暦の上2桁は、『19』固定みたいなものだったから、削っても、何の支障もなかっ
た。プログラム側も、できるだけ少ない情報で、処理を行った方が、効率が良かったんだ」
な...、なるほど。
言われてみれば、確かにそうだ。
「でも、実際には、その当時の設計思想が、そのまま定着しちゃったらしくてさ。数年前に
市販されたパソコンでも、西暦2000年問題に対応していないものが、数多く存在する
んだ。知らずにそのまま使い続けて、西暦2000年になった途端、動きがおかしくなる
可能性は、否定できないよ」
「な、なにいっ!!」
雅史の、あまりにもショッキングな発言に、俺は、顔を上げた。
「そ、それじゃあ、俺やあかりみたいに、パソコンを買ったはいいが、西暦2000年に
対応しているかどうかが不明確な場合は、どうしたらいいんだ?」
雅史は、今度はニコニコしながら、
「あかりちゃんが使ってるのは、どこのメ−カ−の、何ていう機種?」
「東○のサ−チライト、じゃなかった、サテ○イトだったな」
「...浩之、伏せ字になってないよ」
「気にするな。で?この機種なら、どうすればいいんだ?」
俺が聞くと、雅史はまた、ちょっと考えて、
「基本的には、メ−カ−のWebサイトに行けば、対処方法が掲載されてるよ。具体的には、
BIOSのアップデ−トモジュ−ルとか、DOSのDATEコマンドで対処する方法とか、
いろいろだね。使ってる機種によって、対処方法が異なるみたいだから、よく確認する必
要があるね」
な...、なんだって?
「ばいおす?何だ、そりゃ?」
俺は、惚けた声を出した。
「BIOSっていうのは、コンピュ−タの最低限の稼働環境を、保存しておくものだよ。
浩之は、Windowsばっかり使ってるから、あまり意識してないかもしれないけど、他のO
S、例えば、UNIXとか使っている人もいるでしょう。場合によっては、複数のOSを
切り替えて使ってる人もいるんだ。コンピュ−タ側で、接続されてるハ−ドウェアとか、
日付とかの情報は、最低限保持しておかないと、都合が悪いんだ。それを管理・保持して
いるのが、BIOSさ。実際には、コンピュ−タの電源を入れたら、最初に、BIOSに
設定されている情報が読み込まれて、次に、使うOS、例えばWin95とかのConfig.sys、
Autoexec.batに設定されてる情報が、読み込まれるんだ」
「へえ...」
雅史の言葉に、俺は、感嘆の声を上げた。
「BIOSには、システム日付も保持されてるんだけど、これが、西暦年下2桁しか持って
いない場合があるんだ。このままだと、西暦2000年になった途端、1900年として、
認識されかねないんだ。これを修正する為の修正モジュ−ルが、メ−カ−のWebサイト
に掲載されていれば、ダウンロ−ドして使えば、大丈夫ってことさ」
(作者注:実際には、特定の機器を接続した時に、うまく認識されなかったり、不安定にな
る場合にも、BIOSアップデ−トは有効です。但し、失敗すると、BIOSを記録する
ROMが壊れてしまい、コンピュ−タの起動すらできなくなることもあります...。
更に、BIOSアップデ−ト中に、停電等が発生した場合も、ROM自体が壊れてしまう
可能性があります。)
なるほど。あとで、あかりに言っておこう。
それは、いいとして...。
「...じゃあ、俺は、どうすればいいんだ?」
「浩之が使ってるのは、どこのメ−カ−...て、あっ、そうか」
雅史は、途中まで言いかけて、やめた。
そう。俺は、自分でパ−ツを買ってきて、組み上げたのだ。
こ−ゆ−場合は、どうすればいいのだろう。
「使ってる部品のメ−カ−と、部品の型式は、わかるの?」
「もちろんだ。さすがに、埋め込まれてるチップセットを、全部は覚えちゃいないけどな」
自作をする以上、自分が使っているパ−ツのほとんどは、諳んじている。
「それなら、それぞれの部品を製造・販売しているメ−カ−のWebサイトに行くしかない
ね」
「えっ?そ、それじゃあ、マザ−ボ−ドとか、CPUとか、ビデオボ−ドとかのメ−カ−の、
全部のWebサイトに行って、調べなきゃならないのか?」
俺は、愕然とした。
しかし、雅史は『当然』とでも言いたげに、
「基本的には、そうなるよ」
げ...。
「厳密に言えば、メ−カ−製のコンピュ−タだって、そのメ−カ−で生産している部品だ
けで、組み立てられている訳じゃないから、構成されているパ−ツの部品ごとに、調べな
ければならないんだ。でも、日本のコンピュ−タのメ−カ−なんて、一部の例外を除けば、
組み立て屋に徹しているのが現状だから、『西暦2000年問題に対応済み』なんていう言
葉を、そのまま鵜呑みには、できないんだけどね」
雅史は、そう言うと、クスッと笑った。

第三章  葛藤

「BIOSのアップデ−トをすれば、Y2K対策は万全なのか?」
俺は、改めて、雅史に聞いてみた。
というのも、さっきの雅史の、『奥歯にものが挟まったような言い回し』が、気になって
仕方がなかったからだ。
「ううん。これだけじゃあ、まだ不完全だよ」
案の定...。
「他に、どんな対策が必要なんだ?」
「さっき話したのは、どちらかと言うと、コンピュ−タ自体の、ハ−ドウェアについての対
策だけど、ソフトウェアも、対策が必要なんだ」
「なんだ、またその話か。確か、イ−サネットボ−トが壊れた時も、そんなことを言ってた
よな」
俺は、ウンザリしてきた。
(作者注:リ−フ図書館『イ−サネットボ−ドの罪』参照)
以前、イ−サネットボ−ドを壊した時に、雅史にネットワ−クの話をさんざん聞かされた
が、その時、『ハ−ドウェアとソフトウェアの、両方の対応が必要』って、言ってたのを思
い出したのだ。
「うん。ハ−ドウェアが、西暦下2桁しか持っていなかったこともあって、ソフトウェアも
西暦下2桁で判定するのが、昔は一般的だったみたいだよ。理由は、さっき話した通りさ。
でも、これも実際には、その当時に作られたソフトウェア財産が、現在に至るまで影響を
及ぼしていてね...。数年前に市販されたソフトウェアでも、西暦2000年問題に対応
していないものが、数多く存在するんだ。知らずにそのまま使い続けて、西暦2000年
になった途端、動きがおかしくなる可能性は、否定できないよ」
「それは、わかった。じゃあ、具体的に、西暦2000年問題に対応していないソフトって、
何があるんだ?」
俺が聞くと、雅史はまた、ちょっと考えて、
「現在市販されている、ソフトウェアのほとんどが、つい最近まで、対応していなかったん
だ。代表的な例を挙げると、Win95、Win98、Win NT4.0、Win NT3.51とか、ノベルの
Netware3.12J...あたりかな」
俺は、目をむいた。
「お、おいおい...。俺もあかりも、いまだにWin95を使い続けてるんだぞ。それに、
Win98は、つい1年前に、発売されたばかりじゃね−か。それでも、西暦2000年
問題に対応していなかったってのか?」
俺は、愕然とした。
そんな俺を尻目に、雅史は、
「まあ、そういうことになるね。でも、さっき挙げたソフトは、どれも修正モジュ−ルって
言って、対策用のプログラムが、メ−カ−のWebサイトにぶら下がってるんだ。そこか
らダウンロ−ドして、実行させれば、対策は可能だよ」
なんと、まあ...。
「それって、俗に言う、バグ修正版とか、サ−ビスパックとか、アップデ−トモジュ−ルと
かいうヤツ?」
「そうそう」
雅史は、頷いた。
「因みに、どんな修正が、行われたんだ?」
俺が聞くと、雅史はまた、ちょっと考えて、
「大きく分けて、四つだね。一つ目は、西暦2000年になった瞬間の対策。二つ目は、エ
クスプロ−ラとか、ファイルマネ−ジャで日付順に並べ替えた時の対策。三つ目は、閏年
計算の修正。あとは、過去から引き摺ってきた、細かいバグの修正かな」
「うるうどし?」
俺は、惚けた声を出した。
「うん。あまり表面化していないんだけどね、結構重要な修正なんだ」
「どういうことだ?」
「浩之は、閏年の計算方法って、知ってる?」
何を今更...。あたりめ−じゃね−か。
「計算もなにも、四年に一回、2月29日があるだけだろ?」
俺は、生まれてこのかた十数年間、そうなのだと思っていたのだ。
しかし、雅史は、
「実は、そうじゃないんだ」
「えっ?違うのか?」
雅史の、あまりにもショッキングな発言に、俺は、顔を上げた。
「必ずしも、四年に一回、2月29日がくるわけじゃないんだ。具体的には...」
雅史はそう言うと、また、机の上に広げた自由帳に、何か書き始めた。

(1)西暦の年が、4で割り切れる
(2)(1)のうち、100で割り切れる年は、閏年にはならない
(3)西暦の年が、400で割り切れる年は、閏年になる

「こういうことなんだ」
書き終わると、雅史は、俺に向き直った。
「へえ...。で?これがどうかしたのか?」
俺が聞くと、雅史は少しだけ、悲しそうな顔をして、
「この(3)の条件が、向けてるらしいんだ」
「へ?」
「西暦2000年は、(3)の条件に合致するんだ。だから、2月29日が、飛ばされてしま
うんだよ」
「それって、どういうふうに、影響してくるんだ?具体的に、言ってくれね−か?」
俺には、どうもピンとこなかった。
雅史は、それなら、というように、
「例えば、銀行の金利の計算とか、日割りで利率を計算する金融関係とか...。あとは、
賞味期限を管理する、食品関係とかだと...」
「あっ!!」
俺は、小さく声を上げた。
「そう。計算結果が、メチャクチャになっちゃうんだ」
なんと、まあ...。
「で、でも、その修正モジュ−ルとかいうのをインスト−ルすれば、直るんだろ?」
俺の言葉に、雅史はなぜか、首を振った。
「そうとも言い切れないんだ。まいくろそふと製品の場合には、裏事情もあるって話だから、
注意した方がいいんだ」
「裏事情?」
俺は、またもや惚けた声を出した。
「浩之は、Internet Explorer5って知ってる?」
「ああ、知ってるよ。なんでも『ラジオが聴けるWebブラウザ』って、宣伝してたよな」
俺は、テレビのコマ−シャルを思い出しながら、言った。
「そう。でも実は、Internet Explorer5をインスト−ルすることで、西暦2000年問題
を解消している...って噂があるんだ」
「な、なにぃぃぃっ?」
またしても、雅史のショッキングな発言。
「Win95の、西暦2000年問題の修正モジュ−ルをインスト−ルする時に、不思議な
メッセ−ジが表示されるんだ。『Internet Explorer4.01Service Pack2か、それ以降の
ブラウザをインスト−ルしてから、修正モジュ−ルをインスト−ルして下さい』ってね。
要するに、最新のブラウザをインスト−ルすることで、いくつかのファイルを、勝手に、
西暦2000年問題に対応するように、入れ替えるらしいんだ」
な...、なんだって?
ユ−ザが『知らない間』に、『こっそり』入れ替えをしてるだぁ?
「でも、それって変じゃないか?普段Netscape Communicatorとか使ってる人だったら、必
要に迫られない限り、Internet Explorerなんかインスト−ルしないだろ?」
当たり前だ。
「うん。おそらく、まいくろそふとの言い分は、『自社のブラウザを使ってほしい』ってい
うことなんだと思うよ」
な...、なんだって?
「きったね−!!そんなの、絶対おかしいじゃね−か。それって、まいくろそふと製品を使
ってるユ−ザでも、『自社のブラウザを使ってる人と、そうでない人を、差別化する』って
ことだろ?そこまでして、企業の優位性を保とうとするなんて...」
俺は、だんだんムカムカしてきた。
しかし、雅史は、そんな俺の考えをよそに、
「まあまあ、そんなこと言っても、こういうことは、過去にもいっぱいあったことだし」
などと、ぬかしよる。
「俺は、イヤだね。それじゃあ、まるで『まいくろそふとの専属ダンサ−』じゃね−か。
新しい製品や、修正モジュ−ルが出る度に、追いかける羽目になるんだぞ。お釈迦様の掌
の上の、孫悟空じゃあるまいし」
俺がそう言うと、雅史は、
「でも、浩之だって、新しい製品が出る度に、コンピュ−タ雑誌を、目をキラキラさせて読
んでるでしょ。それと、あまり変わらない気がするけど?」
「じゃあかあしいっ!それは、自分が興味を持っているから、調べるだけだ。それに、全世
界の多くの企業が、競って販売するから、よりよい製品が出てくるんじゃね−か。でも、
さっきの話は、明らかに、一企業に躍らされて、半ば強迫観念めいた形で、ユ−ザが追い
かけなきゃならないんだぞ。話の次元が違うよ」
「傍目から見ると、あまり変わらないと思うけど...」
雅史はそう言うと、ふうっと、溜め息を吐いた。

第三章  予想外

「因みに、他のソフトで、西暦2000年問題に対応していないのって、あるのか?」
俺が聞くと、雅史は、ちょっと考えて、
「さっきも言ったけど、数年前に販売されたソフトでも、西暦2000年問題に対応してい
ないものは、結構存在するよ。さっきは、OSだったけど、アプリケ−ションソフトも、
実態はそんなに変わらないみたい」
「あぷりけえしょんそふと?」
俺は、またも、惚けた声を出した。
「例えば...、浩之も使ってると思うけど、Office95とか、Office97も、西暦2000年
問題に対応していないんだ」
俺は、目をむいた。
「お、おいおい...。Office97には、サ−ビスリリ−スが二度も出てるんだぞ。なのに、
まだバグがあるっていうのか?」
「うん。これも、Webサイトから、ダウンロ−ドが可能だよ」
しかし、俺の気持ちは、そんな雅史の言葉では、おさまらなかった。
「そういう問題じゃない。俺が言いたいのは、『なんで、そんなに問題を抱えてるソフトを、
世の中に出荷しちまうのか』ってことだ。結局苦しむのは、ユ−ザなんだぜ。さっきも言
ったけど、俺達ユ−ザは、『一企業の、単なる専属ダンサ−』でも、『モルモット』でもな
いんだぞ」
そんな俺を見て、雅史は、
「まあまあ、そんなこと言っても、こういうことは、過去にもいっぱいあったことだし。
それに、まいくろそふと以外のアプリケ−ションソフトも、浩之は使ってるでしょ?」
「そりゃあ、使ってるぜ」
「たまたま、浩之が使ってるのが、まいくろそふとの製品が、多いだけって考えれば、いい
んじゃない?『専属ダンサ−』って言ってるけど、それが嫌なら、他社のソフトを使えば
いい話だし」
ぐっ...。
確かに、正論と言えば、正論なのだが...。

第四章  どうするの

「じ、じゃあ、BIOSアップデ−トと、OSのアップデ−ト、それにアプリケ−ション
ソフトのアップデ−ト...と。この3つを実行すれば、西暦2000年問題は解決できる
んだな?」
俺は、改めて、雅史に聞いてみた。
さすがに、これだけやれば、大丈夫だろう...。
しかし、雅史は、
「浩之の使うコンピュ−タの中だけなら、多分、それでも大丈夫だと思うよ」
と、のたまうではないか。
「『俺の使うコンピュ−タの中だけなら』?それって、どういう意味だ?」
...まだ、あるってのか?
「うん。実はこれが、西暦2000年問題を難しくしているんだけど...」
雅史はそう言うと、俺に向き直った。
「浩之は、インタ−ネットとか、メ−ルはやる?」
「アホか。俺はそのために、コンピュ−タを買ったようなもんだぜ。その2つを取ったら、
何も残らないと言っても、過言じゃないぞ」
当たり前だ。
「じゃあ、余計に絡んでくる話なんだけど...」
雅史はそう言うと、また、机の上に広げた自由帳に、何か書き始めた。

(1)浩之のコンピュ−タ(西暦2000年問題に対応済み)
            ↑
            ↓
(2)あかりちゃんのこんぴゅ−た(西暦2000年問題に未対応)
            ↑
            ↓
(3)志保のコンピュ−タ(西暦2000年問題に対応済み)


「さっき話したのは、浩之が、自分のコンピュ−タだけで、デ−タを使う場合には、問題は
発生しないってことなんだ。でも今は、さっき浩之が言ったみたいに、インタ−ネットや
メ−ルを使うことで、全員がネットワ−クで繋がれてるようなものなんだ。
みんなで、同じデ−タを使い回したりした時に、誰かのコンピュ−タが、西暦2000年
問題に、対応しきれていなかったとしたら...」
「あっ!!」
雅史の言葉に、俺は、声を上げた。
「そう。ネットワ−クに繋がってる、他の、既に西暦2000年問題に対応済みのコンピュ
−タにも、影響が及ぶ...って、ことなんだ」
なんと、まあ...。
「要するに、コンピュ−タを使う人全員が、西暦2000年問題に対して、きちんとした
認識を持って、対策をしなければならない...って、ことか」
雅史は、我が意を得たり、というように、
「そうなんだ。でも現実には、これはものすごく、難しい問題なんだ。今使ってるコンピュ
−タで、望み通りのことができれば、それでいいって言う人もいるだろうし。逆に、浩之
みたいな、コンピュ−タを自作する人だって、いるわけだし」
げ...。
雅史は、さらに、
「僕たちみたいに、個人で使ってるだけなら、まだいいんだけどね。企業なんかだと、納入
した御客様から、『ウチに納入されたコンピュ−タは、大丈夫か』っていう問合せとか、
場合によっては、『対策済みなら、この書類に、社長印を捺印して、○月×日までに投函
しろ』なんていう、ほとんど誓約書みたいな書類が送られてくるみたいだしね。だから、
1999年の年末から、2000年の初頭は、コンピュ−タ関係、特に外資系は、正月
返上で、会社に泊まり込みだってさ」
うひゃぁ...。
「しょ、正月返上だってぇぇぇぇっ?」
思わず、周囲が振り返るほどの声を上げてしまった。
そんな俺を見て、雅史は、
「まあ、しょうがないんじゃない?『製造物責任』っていうヤツだよ。でも、電車も、西暦
2000年になる時は、運行を取りやめるみたいだよ。初詣に行く時に、ちょっと、不便
かも知れないね」
ノ−テンキなことを、さらっと言う雅史。
そ−ゆ−問題か?
「よし、わかった。あかりにも、ちゃんと言っておく!!ちょっと、俺、あかりを探しに
行ってくる。じゃあな!!」
俺はそう言い残すと、教室を飛び出した。
「ああっ、ちょ、ちょっと、浩之!!」
...雅史の止める声も聞かずに。
「大丈夫かなぁ?パッチをインスト−ルする順番、言ってないんだけど...。
 日付の古いものから順に、インスト−ルしないと、ちゃんと対応しないんだけどな...」

数日後...。

「こんなくそバカでかいファイル、ダウンロ−ドできるかぁぁぁぁっっ!!」
「この山のようなパッチ、なんとかならねえのかぁぁぁぁっっ!!」
「どれからインスト−ルしたらいいんだぁぁぁぁっっ!!」

藤田家から、絶叫が聞こえたと言う...。


あとがき

今回は、西暦2000年問題を題材にした話を、「To Heart」にのせて書いてみました。
企業、団体によっては、未だに、
「西暦2000年問題?なんですか、それ?」
なんて答えが返ってくるそうで...。
逆に、どんなに最新の情報を提供しても、何の反応も示さない企業、団体も存在するそう
です。
ホントに、大丈夫なのかな...?

聞いた話では、都内のホテルや旅館は、年末年始、全て予約で埋まっているそうです。
(もちろん、システムエンジニアの方々が、寝泊まりするために...)
とんだ怪我の功名で、普段、自分ではとても宿泊料金を払えそうにない、豪華で立派なホ
テルに、元旦から宿泊する人もおられるそうです。
仕事道具一式と、ノ−トパソコンを詰め込んだ、カバンと一緒に...。
(というか、既に他の宿泊施設が満杯で、そ−ゆ−場所しか空いてないんだそうです...)

産業機器(特に、FA関係)の場合、チップセットに日付が焼き付けてあるものも存在する
らしく、正月明けは、工場とかでパニックになることが懸念されています。
これが原因で、工場の生産ラインがストップし、従業員に給料を払えなくなったりした
ら...。
製造・販売したメ−カ−の責任が、厳しく問われる可能性があります。
(下手をすれば、訴訟になる可能性もあります)

西暦2000年問題は、コンピュ−タ業界だけでなく、全ての業界に影響する問題です。
しかし、メ−カ−や販売元に問い合わせるなり、Web等で情報収集することで、かなり
の部分は、使う側での対処が可能だとも言えます。
この『使う側での』というのが、ネックになるとは思いますが...。

こ−ゆ−話だと、結構書けてしまうので、わずかなノウハウを、公開していこうと思います。