イ−サネットボ−ドの罪 投稿者: kurochan
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この物語は、リ−フ殿の「To Heart」の設定をもとにした、二次創作物(Side Story)です。
内容は、Win3.1マシンが、急にネットワ−クに接続できなくなった際の、対処方法を
ノウハウにした話です。
人物および場所の設定は、すべて架空のものです。
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『イ−サネットボ−ドの罪』

第一章  おかしいな

「あれれ?おかしいな」
俺は、大学の研究室で、誰に言うともなく、呟いた。
「お〜い、雅史〜」
隣に座って、同じく研究室のコンピュ−タをいじっていた雅史に、声をかけた。
「なに?」
「研究室のパソコンが、おかしいみたいなんだけど」
「どんなふうに?」
相変わらず、にこにこしながら、雅史は俺の使っているコンピュ−タのディスプレイを見た。
「急に、ネットワ−クに接続できなくなっちまったんだ」
「え?どれどれ」
画面には、何やら英語で、訳のわからない文字が並んでいる。
「何度か電源を入れ直してみたんだけど、必ずエラ−メッセ−ジが出て、止まっちまう」
俺は、画面の下の方に表示されている文字を指差した。
「このマシンって、DOS6.2/Vの上に、Win3.1が乗っかってるんだよね」
「教授からは、そう聞いてるぜ」
俺は、この研究室の長である、長瀬教授の顔を思い浮かべながら、言った。
「また、DOSがおかしくなったのかな」
雅史は、誰に言うともなく、呟いた。
「さあ...。ところで、このメッセ−ジって、何を意味しているんだ?」
俺は、腕を組んで首をひねっている雅史に、聞いてみた。
「僕も、知らないよ。...ちょっと、キ−ボ−ド貸して」
「ああ、いいぜ」
雅史は、俺の使っていたキ−ボ−ドから、何やら怪しげなコマンドを入力している。
「...DOS自体は、正常に立ち上がってるみたいだね」
「そうなのか?」
俺は、雅史を見た。
「うん。DOSのコマンドを、いくつか打ち込んでみたんだけど、きちんと答えが返ってくるし」
「う〜ん...」
俺は、腕を組んで、考え込んだ。
「Win3.1は、正常に起動できるの?」
「ああ。『WIN』って打ち込んで、ENTERキ−を叩くと、Win3.1のロゴも出るし、ロ−
カルハ−ドディスクは使えるんだ」
「そうか...。ま、まさか、もしかして...」
雅史は、目を大きく見開いた。
「...?何か、心当たりがあるのか?」
「ちっと、待っててね」
そう言うと、雅史はスッと立ち上がり、急にコンピュ−タの後ろを覗き込んだ。
手を突っ込んで、何やらゴソゴソやっている。
「大丈夫だな...」
雅史が、誰に言うともなく、呟いた。
そして今度は、机の下に潜り込む。
「な、何やってんだ?雅史。そんなところに、頭、突っ込んで」
俺の戸惑いをよそに、雅史はまだ、机の下でゴソゴソやっている。
しばらくして、やっと這い出してくると、
「ぷはあ」
と、息をついた。
「TPケ−ブルは、ちゃんと接続されてたよ」
なんだあ?わざわざ、机と机の間に通してある、TPケ−ブルの配線を調べてたってのか。
すげえ洞察力...。
「浩之の使ってる、そのWin3.1コンピュ−タって、プロトコルは、何で接続してるの?」
は?『ぷろとこる』?何じゃ、そりゃ。
「.....」
俺が、目を点にしているのを見て、雅史が、
「もしかして、何も意識せずに、ネットワ−クに参加してた?」
こくこく。
「もう、しょうがないなあ」
雅史は、まるであかりみたいな目で俺を見ると、俺の使っていたコンピュ−タに向かって、何やら
コマンドを打ち込み始めた。
もちろん、俺には、そのコマンドが何を意味しているのか、全然わからなかったが...。


第二章  ケ−ブル

「...なるほどね」
しばらくして、雅史が俺に向き直った。
「浩之。研究室で使ってるサ−バ−が、二つあるのは、知ってるよね」
雅史の問いに、俺は、何かを思いだそうとする時の習慣で、なにげなく天井を見上げた。
...そうだ。ここの研究室には、二台のサ−バ−がある。
「確か一台が、Netware3.12Jのサ−バ−で、名前が『Leaf』。
もう一台が、NTServer4.0のサ−バ−で...、名前が『Aqua』だったっけ」
俺は、思い出すように、そして言葉を選ぶようにしながら、言った。
「そう。浩之、このWin3.1マシンから、いつもどっちのサ−バ−、接続してる?」
雅史の問いに、俺はちょっと考えて、
「『Leaf』だぜ。だって、他のサ−バ−への、接続の方法も知らないし」
「じゃあ、『Aqua』のサ−バ−は、使ってないの?」
「いや、『Aqua』に接続する時は、WIN95のマシンから接続してる。だって、Win3.1の
マシンからだと、ネットワ−ク上で見えないし」
俺の答えに、何故か雅史は、「はあ」と、ため息を吐いた。
...なんだってんだ?
「なるほどね。それでわかったよ」
一人、納得する雅史。
「お、おい...。なんだってんだよ。一人で納得してね−で、教えろよ」
雅史は、相変わらずにこにこしながら、俺の顔を見上げると、
「知りたい?」
と、聞いてきた。
「なんだよ。もったいぶらずに、教えろよ」
「じゃあ、教えてあげるね」
そう言って、俺に向き直った。

「ネットワ−クに接続するには、何が必要か、浩之は知ってる?」
何が必要かって...?
「そりゃあ、決まってるだろう。ネットワ−ク環境だろ?」
俺の生真面目な答えに、雅史は苦笑する。
「なんだよ。俺、何か、変なことを言ったか?」
俺は、だんだんイライラしてきた。
「もっと具体的には?」
「具体的に...って言われると、困っちゃうけどな...」
言葉に詰まる俺に、
「要するに、浩之は、何も意識せずに、大学のネットワ−ク環境を、使っていたってことでしょ?」
「ま、まあ...。そういうことになるが...」
容赦ない、雅史の突っ込みにも、俺は何も言い返せなかった。
「実はね、ネットワ−クにも、ちゃんと取り決めがあるんだ」
取り決め?
「簡単に言うと、ハ−ドウェア的な取り決めと、ソフトウェア的な取り決めがあるってこと」
そんなこと、今まで意識したこともなかったぞ。
「ハ−ドウェア的な取り決めってのは、たとえば...、接続するケ−ブルの形状だね」
「ケ−ブル?ああ、TPケ−ブルのことか。この、電話線のモジュラ−ジャックみたいなやつ。これ、
いつもレイアウト変更の時に、電話線と間違えるんだよな。これ以外のやつも、あるのか?」
俺は、ちょうど足元にあった、TPケ−ブルを拾い上げた。
「うん。このTPケ−ブルは、10BASE−Tって呼ばれるものなんだ。これ以外にも、TVアン
テナで使わる、3C2Vとか5C2Vとか呼ばれてる、同軸ケ−ブルも使えるよ。同軸ケ−ブルは、
10BASE−2って呼ばれてる。あとは、サタ−ンのコントロ−ラの、本体との接続部分みたいな
形状の、10BASE−5。大体、こんなものかな」
「ふ−ん」
俺は、鼻をならした。
...しっかし雅史のヤツ、何時の間に、そんなこと覚えたんだ?
「でも、今はほとんどが、10BASE−Tみたい」
「えっ?な、なんで?」
俺は、雅史を見た。
「だって、ケ−ブルの取り回しが楽だし、必要な機器が安くなってるしね。10BASEの上位互換を
持つ規格で、100BASEっていうのもあるけど、まだまだ周辺機器が高価だし」
雅史は、俺を見て、クスッと笑った。
「ついでだけど...。ケ−ブルの形状によって、当然、イ−サネットボ−ドは違ってくるんだ」
「い−さねっとぼ−ど?なんだ、そりゃ」
俺は、呆けた声を出した。
「TPケ−ブルを、コンピュ−タに接続する時に使う、基板だよ。最近は、買ってきて、すぐにネット
ワ−クに接続することも多いから、マザ−ボ−ドに直付けされてるのも多いけどね」
「なんだ。標準で付いてるものじゃ、なかったんか」
俺がそう呟くと、雅史は、
「そりゃあ、そうだよ。家にコンピュ−タ1台しかない人にとっては、イ−サネットボ−ドなんて、
なくてもいい代物だし」
「そ、そりゃあ、そうだけどさ...」
そんな俺を見て、雅史はまた、クスッと笑った。


第三章  ハ−ド

「浩之は、TPケ−ブルを接続する時、片方はコンピュ−タに接続するでしょ?もう片方は、どこに
接続してる?」
「そんなの、知らねえよ。だって、いつも教授がやってくれるし」
そう。
レイアウト変更の時は、長瀬教授の出番なのだ。
長瀬教授は、この大学で経営学の教授をしているが、類まれなコンピュ−タヲタクで、大学内の
LAN構成から敷設、サ−バ−のインスト−ル、果てはネットワ−ク設定まで、自らやったという
ほどのツワモノだ。
当然、ケ−ブルがどういうふうに配線されているかも、熟知している。
...それを、自分の頭の中に、しまいこんでいるというのが、欠点と言えば、欠点だが。
そんなわけで、レイアウト変更の時は、必ず、長瀬教授が指揮をとる。
今までにも、何度かレイアウト変更があったが、別に印象に残ったことなど、これといって、なか
った。
机に1本ずつ、TPケ−ブルを出してくれるので、俺はそれを、ただ接続していただけなのだ。
「そのことに、何か、意味があるのか?俺、てっきり、コンピュ−タに繋いだTPケ−ブルが、その
ままサ−バ−やネットワ−クに接続されているんだと、思ってたんだけど」
俺の答えに、雅史はまた、苦笑する。
「なんだよ。俺、何か、変なことを言ったか?」
俺は、またイライラしてきた。
「間違ってはいないんだけどね...。実際には、研究室に置いてあるクライアントから出てるTP
ケ−ブルが、群れをなしてサ−バ−に繋がっているわけじゃ、ないってこと」
「どういうことだ?」
「複数のクライアントから出てくるTPケ−ブルを、1本のTPケ−ブルにまとめて、それをネット
ワ−ク環境に繋いでいるんだよ」
雅史の答えに、俺は目をむいた。
「なっ?だ、だって、この研究室に、クライアントが何台あると思ってるんだ?そこに流れる情報を、
1本のTPケ−ブルにまとめたら、接続してるクライアント台数分のデ−タが、その1本のTPケ−
ケ−ブルに、一気に流れるってことだろ?そ、そんなことが、できるのか?第一、そんなことして、
大丈夫なのか?」
俺の矢継ぎ早の問いに、雅史は、
「順番に説明するけど、複数のクライアントから出てくるTPケ−ブルを、1本のTPケ−ブルに
まとめることは出来るんだよ。それが、HUBの機能なんだ」
「はぶ?猛毒を持つっていう、あのヘビか?」
「それはハブ...。HUBだよ。日本語に訳すと、ツイストペア・マルチポ−ト・リピ−タって
言うらしいけどね」
「ツイスト...なんだって?」
「ツイストペア・マルチポ−ト・リピ−タだよ」
「なんだか、昔のアイドルの名前をチョイスして、くっつけたみたいな名前だな」
「...浩之。年いくつ?」
同い年...。
「...で、そうやって集めた複数のTPケ−ブルを、また別のHUBに繋いで、1本にすることも
できるんだ。これを、『カスケ−ド接続』って言うんだけど、これは仕様上、3階層だったか4階層
ぐらいまでしか、できないことになってるんだよ。まあ、そんなにカスケ−ドする機会もないしね」
「へえ...」
雅史の言葉に、俺は、感嘆の声を上げた。
「もう一つ。そんなたくさんのデ−タが、電話線みたいなTPケ−ブルに集中して、大丈夫かってこと
だけど...。実は、僕も意識したことがないんだ。まあ、あんまりたくさんのデ−タが、一気に流
れれば、ネットワ−ク自体が遅くなるって、考えてはいるけどね」
...なんか、急に説得力にかける説明になったぞ。
しかし雅史は、そんな俺を見て、クスッと笑うだけだった。


第四章  ぷろとこる

「浩之は、『プロトコル』って言葉、知ってる?」
雅史の問いに、俺は、
「さっき、雅史が言ってたやつだろう?」
「そうだよ」
俺は、ちょっと考えて、
「...すまん。細かいことは、気にしないタチなんでな」
と言った。
要するに、言葉は知っていても、その内容を明確に理解していなかったのだ。
そんな俺を見て、雅史は、
「浩之って、素直だもんね。わからないことを、正直に『わからない』って言えるし。僕、そんな浩之
が大好きだよ」
うんうん...、って、おい。
「お、お前、第三者が聞いたら、誤解するようなこと、言うんじゃね−よ」
「そんなふうに、照れた浩之も、かわいいよね」
...かわいい、よね...?
どうもさっきから、背筋に悪寒のようなものが走るのは、気のせいか...?
「そ、それより、さっき言ってた、『プロトコル』だっけか?その話は、どうなったんだ?」
かなり強引だったが、俺は話をもとに戻した。
これ以上、雅史とコンピュ−タ以外のことで話してたら、やばい。俺の貞操の危機だ。
「あっ、そうそう。プロトコルの話だったよね」
雅史は、はっとしたように、頭を掻いた。
...ホッ。俺の貞操の危機は免れた。
「『プロトコル』っていうのは、コンピュ−タ同士で通信する時の、取り決めみたいなものなんだ」
雅史の言葉に、俺はギョッとした。
「お、おい。ハ−ドだけじゃなくて、ソフトにも取り決めがあるのか?」
「そうだよ。代表的なものだと、NetBEUI、IPX/SPX、それにTCP/IPがあるね。」
な...、なんだって?
「IPX/SPXは、Netwareサ−バ−と接続する時に必要なんだ。もともと、アメリカのノベルっていう
会社が提唱したものでね。Netwareサ−バ−と接続する時には、これをクライアントに組み込んで
使うんだ。そのために、DOSやWin3.1だと、Netwareクライアントツ−ルっていうソフトが、ノベル
から販売されてるよ。Win95の場合は、コントロ−ルパネルの、『ネットワ−ク』っていうプロパテ
ィを開くことで、組み込むことが可能だね」
俺は、目をむいた。
「お、おいおい...。それじゃあ、DOSやWin3.1の時代は、別売だったものが、Win95になったら、
まいくろそふとが、標準で付けるようになったってことか?」
「まあ、そういうことになるね。それくらい、Win95が発売された頃は、Netwareがサ−バ−として、
広く普及していたんだ。まいくろそふとが、そのシェアを、無視できないほどにね」
雅史の言うことは、的を得てはいるのだが、今一つ、説得力に欠けるものがある。
「でも、それって、なんか変じゃないか?まいくろそふと自身は、Netwareに対抗できる製品を、全く
出していなかったのか?」
「出してたよ。NTServer3.5...だったかな。でも、当時は機能が貧弱な上、よく運用中に止まった
りしたみたいだよ。それで、Netwareがもてはやされたみたい。でもこれも、実際には、『ハヤリ』
とか『スタレ』があるみたい。かつては絶大なシェアを誇っていたNetwareも、インタ−ネットへの
対応の遅れから、徐々にそのシェアを崩していったんだ。代わりに台頭してきたのが、まいくろそふ
との後継バ−ジョンの、NTServer3.51や、研究室で使ってるNTServer4.0なんだって」
「へえ...」
俺は、感嘆の声を上げた。
Win95が発売されて以来、一部のヲタクのみならず、これだけ一般に普及したコンピュ−タにも、そん
な歴史があるとはね...。
「話をもとに戻すけど、次にNetBEUIだね。これはまいくろそふとが昔からサポ−トしてきたプロトコ
ルだよ。WindowsNT、Windows for Workgroups、LAN Managerサ−バ−に接続する時に使うんだ。この
プロトコルは、特に設定なんかしなくても、組み込むだけで使えるところがいいんだって。あとは、
Win95どうしをケ−ブル接続する時も、NetBEUIをインスト−ルすればいいんだ」
「へえ...」
俺は、また感嘆の声を上げた。
「最後に、TCP/IP。TCP/IPは、知っての通り、インタ−ネットやWANを使用する時に必要なんだ。今は、
TPケ−ブルでコンピュ−タを接続して、TCP/IPプロトコルで通信するっていうのが、多いみたい。
ただ、画面上で設定する項目が、多くてね。一つ設定を間違えると、ネットワ−クに接続はできても、
インタ−ネットに接続できなくなったりするから、注意が必要だよ。設定方法を、ネットワ−ク管理
者にいちいち聞くのも、面倒だしね。ただ、NetBEUIだとル−タ−をまたがって、ネットワ−ク接続は
できないんだけど、TCP/IPなら、ル−タ−をまたがってネットワ−ク接続できるんだ」
「るうたあ?そりゃ、なんだ?」
初めて聞く名前だ。
「簡単に言えば、ネットワ−クの出入口ってところかな。うちの大学にはないけど、例えばアメリカに
うちの大学の兄弟校があったとするよね。そことは、うちの大学の敷地から、物理的にケ−ブルをはわ
せて接続するなんて、不可能なんだ」
そりゃそうだ。
「そんな時に、うちの大学の出入口と、アメリカの兄弟校の出入口に、ル−タ−を置くんだ。出入口ど
おしの接続は、電話回線を使うことにしてね」
「へえ...。そんなことも、できるんだ」
俺は、またまた感嘆の声を上げた。
雅史は、そんな俺を見て、またクスッと笑った。


第五章  質問責め

「浩之。今まで僕が話してきたことで、なにか質問はある?」
雅史の言葉に、俺は敏感に反応した。
「...い、いっぱいある」
俺の発した言葉は、心なしか、震えていた。
「質問その一。DOSやWin3.1から、Netwareサ−バ−を参照する場合、Netwareクライアントツ−ルを
使えばいいってのは、わかった。じゃあ、NTServerに接続する時は、何が必要なんだ?」
俺の質問に、雅史は、
「まいくろそふとの、LAN Managerっていうソフトだよ」
「らんまねえじゃあ?」
俺は、呆けた声を出した。
「うん。NTServerを買うと、そのCD−ROMの中に、LAN Managerっていうソフトが入ってるんだ。
これをインスト−ルすることで、Win3.1から、NTServer上のファイルを参照することができるんだ」
「へえ...」
俺は、感嘆の声を上げた。
「ただ、これには問題があるんだ」
そう言うと、雅史は顔を曇らせた。
「問題?」
「うん。このLAN Managerっていうソフトなんだけど、クライアントのコンベンショナルメモリを、か
なり占有しちゃうんだ。だから、他に使いたいデバドラを組み込もうとしても、メモリが足りなくて、
起動できなくなったりするんだ。だから、浩之みたいに、DOSやWin3.1からはNetwareサ−バ−のみを
参照するって方法も、一理あるかも知れないね」
雅史は、言葉を選ぶように、言った。
(作者注:厳密に言うと、NTServer側で、共有設定されたディレクトリのみ参照できます。この共有
設定も、全員が参照できるようにしたり、特定の人のみ参照できるようにしたり、いろいろな方法が
あります。さらに、原則として、NTServer側で、ドメインに登録された人のみが参照できます。)

「質問その二。10BASE−5とかを、10BASE−Tに変換することって、できるの?」
俺は、少し意地悪な質問をしてみた。
そんなことが、できるものか...と、ほくそえんだのも束の間、
「できるよ」
雅史は、あっけらかんと、即答した。
「えっ?ほ、本当に?」
自分で質問しておきながら、俺はその答えに仰天した。
「うん。TPMAUっていうのを使えば、10BASE−5を、10BASE−Tに変換できるんだ。
秋葉原とかで、売ってるみたい」
「てえぴいまう?」
な、なんか、すっごい名前だな。

「質問その三。これは、以前から思っていたんだけどさ...。ネットワ−クを使うメリットって、
一体何なんだろう」
俺は、以前から、頭の片隅にこびり付いていた疑問を、雅史にぶつけてみた。
すると、雅史は、俺をじ−っと見つめる。
「...」
「...」
そして、一分後。
「...浩之。ここでずっとコンピュ−タ使ってて、何にも感じなかった?」
と言った。
「どういうことだ?」
俺は、素朴な疑問を口にしただけだぞ。
雅史は、『はぁ』と、ため息を吐くと、話し始めた。
「昔...と言っても、十年前くらいからだけど...、もともとパソコンやワ−プロは、みんな一台
ずつ、独立して動いていたんだ。プリンタの接続されていないコンピュ−タで作った文書を印刷する
ために、一度フロッピ−にコピ−して、それを、プリンタの接続されているコンピュ−タに持ってって
印刷しなければならなかった。企業なんかだと、顧客情報を入力するコンピュ−タが受付にあったとし
たら、一日の業務の終わりに、フロッピ−にコピ−して、それを、コンピュ−タ室に持ってったりね。
面倒だと思わない?全部のOA機器が、それこそ一本のケ−ブルで結ばれてて、どの機器で処理した
結果も、すぐに印刷できたり、その情報がコンピュ−タ室のメインコンピュ−タに反映されたりすれ
ば、すごく便利になるってこと。それが、俗に言う、ネットワ−クの考え方なんだ」
な、なるほど...。
そう言われれば、確かにそうだ。
「浩之は、研究室で、クライアントからインタ−ネットに接続できるでしょ?これだって、ネットワ−
クのおかげだよ。本当だったら、ここにある何台ものクライアントに、電話回線を一本ずつ用意して、
接続する度に、電話をかけなきゃいけないんだ。でも、LAN環境で使えば、クライアントの設定さえ
問題無ければ、インタ−ネット接続も、すごく楽にできるんだよ。」
や、やばい。
雅史が、葵ちゃんが新入生勧誘をしてた時みたいに、熱くなっている。
「インタ−ネットに接続してなくても、ネットワ−クの恩恵は大きいよ。以前はクライアントに搭載さ
れているHDDの容量が少なかったから、僕達が作ってる卒論とか、研究発表の資料とかは、サ−バ
−に入れた方が、効率がよかったんだ。それに、他の学生の調べた資料を、印刷せずに画面上で確認
したり、必要に応じて、みんなで資料を使い回したりできるのも、『ファイル共有』っていう機能の
おかげさ。教授の資料を、自分達で印刷して参考にしたりできるのも、『プリンタ共有』の恩恵さ。
...今は、クライアントのHDD容量が大きくなったから、みんなで共有したいデ−タだけ、サ−
バ−に入れておくっていう使い方に、変わってきてはいるけどね」
「わ、わかった、わかった。雅史の言いたいことは、わかったよ」
これ以上熱くなられたら、こっちの体が持たなくなる。
「まだ、話すことはあるんだよ。こうやって便利になった反面、弊害も起きてきたんだ」
「へ?へいがい?」
俺は、またも呆けた声を出した。


第六章  防衛手段

「みんなで情報を共有するってことが、いかに便利で素晴らしいか、浩之はわかってくれた?」
雅史の目には、すでに、赤い炎がともっている。
い、いかん。
いつものさわやかな雅史ではなく、『熱血パソコンヲタク』になっている。
「ああ。わ、わかったぜ」
俺がそう言うと、雅史は急に、
「わかってない!!」
バ−ン!!
机を両手の平で、思いっきり叩くと、雅史は立ち上がった。
「当然便利になれば、いろいろな弊害が生まれてくるんだ!!」
雅史の剣幕に、俺は完全に圧倒されていた。
「お、おい。お、落ち着けよ、雅史」
俺はなだめるように、雅史の手を取り、椅子に座らせた。
...すると、雅史は、急に大人しくなり、
「...浩之の手って、冷たいね」
と、言った。
雅史の手は、俺のほうが火傷しそうなくらい、熱くほてっていた。
男とは思えないほど、スベスベとした肌。その腕力からは想像できないほどの、ほっそりとした腕。
...はっ!
「話を続けるけど、いい?」
雅史は、急に小声になった。
「あ、ああ。いいぜ」
俺には、他にかえす言葉がなかった。
ここで『嫌だ』などと言ったら、タイガ−ショットを百発くらい、もらいそうな雰囲気だ。
「悲しいことに、情報を共有するってことは、それを改ざんされたり、不正に使われる可能性も秘めて
いるってことなんだ」
雅史は、そう言うと、頭を垂れてしまった。
「どういうことだ?」
「浩之、ハッカ−って言葉、知ってる?」
雅史は、頭を垂れたまま。俺に聞く。
「ああ、知ってるよ。食べると口の中が、ス−ス−するやつだろ?」
その言葉が俺の口から発せられた瞬間、
「それは、『薄荷(はっか)』だあぁぁぁっ!!某ゲ−ムソフトと、同じボケをかますなぁぁっ!!」
ズッダダ−ン!!ズッシ−ン!!ドンガラガッシャ−ン!!
俺の体は宙を舞い、反対側の壁に叩き付けられた。
「ぐえぼっ!」
パラパラパラ...(壁の崩れる音)。
「ネットワ−ク経由で入り込んで、企業や団体の使ってるコンピュ−タに、いたずらをする人たちの
ことだよ。もともとハッカ−っていう言葉は、コンピュ−タに精通した人に対する、名誉ある称号
なんだ。最近は、悪意を持った人達のことを、クラッカ−って呼んでるけどね」
「...じゃ、じゃあ、長瀬教授みたいな人は...、ハッカ−になるのか?」
俺は、瓦礫の下から、やっとのことで這い出すと、その場にはいつくばりながらも、雅史に聞いた。
「そういうことになるね。こないだ、テレビで放映されたけど、どっかのメ−カ−が、『うちの開発
したファイア−ウォ−ルを破って、コンピュ−タの中からファイルを一つでも盗み出せた人がいたら、
その人に、現金で百万円を進呈しよう』っていうのがあったよ。そういう、外からの不正な侵入者か
ら、デ−タやプログラムを保護するソフトが、たくさん開発されているんだ。そのソフトのことを、
総称して『ファイア−ウォ−ル』って、言うんだけどね」
俺をぶっ飛ばして、少しは気持ちが楽になったのだろうか。雅史が、顔を上げた。
しかし、その目は、赤く血走っていた。
「なんで、そんなものが必要かって言うんだろ?必要なんだよ。例えば、銀行口座の残金を不正に書き
かえて、いっぱい預金があるようにしたり、従業員名簿や顧客名簿、同窓会名簿が不正に持ち出された
りしたら、どうなると思う?しかもそれを、インタ−ネット上で公開されたり、他人に転売されたり
したら...」
「...」
俺は、床にはいつくばりながらも、背筋が寒くなるのを感じていた。
「クレジットカ−ド番号を、勝手に使われて、バンバン買い物されちゃったり、ひどい時には犯罪の
片棒を担がされることだってあるんだよ。信じられる?インタ−ネットは、いわば無法地帯なんだ。
そんな所に、外部からの攻撃に、何も対処せずにポツンとお店を出したら、瞬く間に身包み剥がされて
しまうんだよ。だからこそ、自衛手段が必要なんだ。それが、『ファイア−ウォ−ル』ってことさ」
「で、でも、その『燃える壁』か?それさえあれば、大丈夫ってことだろ?」
俺の問いに、雅史は首を横に振る。
「ううん。同じことは、ブラウジングする時にも、言えることなんだ」
!?
「インタ−ネット通販とかいって、買い物ができるWebサイトがあるけど、自分の使ってるクライア
ントと、買い物をするWebサイトの間は、無法の荒野なんだ。銀行にお金を預けに行くとして、家を
出てから銀行に着くまでの道のりが、ネットワ−ク上だと思えばいい。その無法の荒野を、武器も持た
ずに、現金持って全裸で歩いていくのと、なんら変わりはないってことさ」
「...」
俺は、何も言葉を発することができなかった。
今まで、何も考えずに、ブラウジングしてきただけに、そのショックは大きかった。
「ブラウジングするだけで、個人情報が漏れていることを、浩之は知ってる?」
「な、なにいっ?」
ガバッ!
雅史の、あまりのショッキングな発言に、俺は思わず顔を上げた。
「ブラウザを起動して、インタ−ネットに接続し、お目当てのWebサイトに行くとするよね。その時
点で、相手のWebサイトには、自分のクライアントのIPアドレスが、通知されてるんだ。自分の
名前とかは漏れないけど、IPアドレスっていう面では、接続した時点で、既に相手にバレてるって、
考えた方がいいんだよ」
(作者注:社内で運用するイントラネットサ−バ−を作った経験があるので、これは本当だと断言でき
ます。毎日、LOGファイルが一個ずつ増えていき、日単位に、IPアドレス、接続開始時間および
終了時間...といった情報が、書き込まれていきます。サ−バ−の管理方法によって、若干異なる
かも知れませんが...。
でも、ダイヤルアップ接続の場合は、接続の都度、IPアドレスがプロバイダから動的に割り当てられ
るそうなので、さほど神経質にならなくても、いいのかもしれません。プロバイダのDNSの設定にも
よるかもしれませんが...。
ファイア−ウォ−ルの内側から、ル−タ−経由で接続する場合は、ル−タ−のアドレスが通知されるよ
うです。ですから、この場合は、LAN環境でのクライアントのIPアドレスは、外には漏れないみた
いです。しかし、これもネットワ−ク機器の、設定次第かも...)
「要するに、危険なサイトに行く時や、インタ−ネット通販を利用する時は、自己責任で...って、
ことか」
俺がそう言うと、
「そういうこと」
背後から、急に声がした。
慌てて振り向くと、
「な、長瀬教授!?」
そう。
いつの間にか、この研究室の長、長瀬教授が立っていた。
「あ...。教授」
雅史が、赤い目で、教授を見上げた。
「それにしても、よくそこまで調べたね。さすがは、長瀬研究室随一の...」
「そ、その先は、言わないで下さあああぁぁぁいっ!!」
雅史は、今度はタコみたいに真っ赤になって、うつむいてしまった。
「...やれやれ。だが、佐藤君の言ったことは、概ね本当だ。使う人も、自覚を持って、使わなけれ
ばならないってことだ」
...俺の頭の中を、今までネットサ−フィンしたWebサイトが、走馬灯のごとく流れてゆく。
アダルトサイト、同人誌サイト、ゲ−ムソフトメ−カ−のサイト、パソコンメ−カ−のサイト...。
英語で書いてあって、よくわからなかったが、危険なサイトも、あったのかもな...。


第七章  調査・修理

「...というわけで」
俺は雅史に付き添われ、研究室に戻ってきた長瀬教授に、助け船を求めていた。
「ふ−ん」
長瀬教授は、気のなさそうな返事をする。
「で?その原因究明を、僕に行って欲しいと」
「はい」
俺は頷いた。
あまりにも、当初の目的から、話がかけ離れてしまったのだが...。
もともと、『クライアントが、ネットワ−クに接続できない』っていうのが、問題だったのだが、いつ
の間にか、ネットワ−ク自体の話になってしまっていた。
(作者注:すんません(汗)。つい、雅史と同様、熱くなってしまいました)
「まったく...。今度は、何だってんだ」
長瀬教授は、ブ−ブ−文句を言いながら、机の引き出しを開けた。
メモを取り出し、ペンを持つ。
「コンピュ−タ自体は、正常に起動するんだね?」
「はい」
「スキャンディスクと、デフラグは実行したかね?」
「はい。エラ−は、ありませんでした」
俺は素直に答えていく。
教授は、何やらメモを取っていたが、
「ふ−む...」
自分で書いたメモを見ながら、考え込む教授。
俺と雅史は、ただ待つしかなかった。
やがて、
「取り敢えず、ブ−トしてみるか」
教授は、俺が『ネットワ−クに接続できない』と騒いだコンピュ−タの前に立った。
スイッチを押し、電源を入れる。

ぶぅぅぅぅん...、ピポッ!
「Kurusugawa Bios Ver3.12 
 Plug and Play Searching...

 Card-01: PE405T
 Found FX-120T CD-ROM 」

しばらくして...。
「ピ−ッ、ピ−ッ、ピ−ッ」
コンピュ−タの、味もそっけもないビ−プ音が、研究室に響き渡る。
「この音は、何ですか?」
俺が聞くと、長瀬教授は、
「ネットワ−クに接続しようとして、エラ−になっているようだ。この音は、その警告音だ」
と、説明してくれた。
「取り敢えず、TPケ−ブルを交換してみよう。ケ−ブルが死んでる可能性も、大きいしね」

数分後...。
「ピ−ッ、ピ−ッ、ピ−ッ」
コンピュ−タの、味もそっけもないビ−プ音が、研究室に響き渡る。
TPケ−ブルを、新品と交換してみたが、結果は同じ。
教授は、しばらく考え込んでいたが、
「よし。Netwareクライアントツ−ルをインスト−ルし直してみて、それでもダメなら、イ−サネット
ボ−ドを交換してみよう」
と、言った。

さらに、数分後...。
「ピ−ッ、ピ−ッ、ピ−ッ」
コンピュ−タの、味もそっけもないビ−プ音が、研究室に響き渡る。
長瀬教授が、Netwareクライアントツ−ルをインスト−ルし直してくれたが、結果は同じ。
「.....」
「.....」
「...教授、手術ですね」
「...そうだな」
既に、俺の手には、プラスのドライバ−が握られていた。
「でも、余ってるイ−サネットボ−ドなんて、あるんですか?」
俺が聞くと、教授は、
「このコンピュ−タには、ISAバスの、NE2000互換のボ−ドが付いている。それなら、スペア
はある」
「...そうですか」
まあ、教授がそういうなら...。
ケ−スをとめているネジを、全部外す。
手前に引っ張れば...。
ガガガ...。
...っと、あった、あった。
ISAバスの、一番下のスロットにささっている。
んじゃ、交換、交換...っと。

さらに、数分後...。
「ピ−ッ」
おっ?
『こんばんは、FUJITA』
おお、繋がった、繋がった。
「どうやら、イ−サネットボ−ドが、破損していたみたいだね」
教授が、満足そうに、俺に言う。
見りゃ、わかるって。...って?
その時、長瀬教授の目が光ったのを、俺は見逃さなかった。
俺の脳裏に、あの時の記憶が、鮮明に蘇った。
結局、ロ−カルハ−ドディスクを1台、秋葉原まで買いに行って、その後、インスト−ルされていた
アプリケ−ションを、同じようにインスト−ルし直したんだっけ...。
その後1ヶ月、俺はパンの耳をかじるような生活を強いられたのである。
(作者注:「ロ−カルハ−ドディスクの罪」参照)
「あ〜っ、浩之、こわ−した−」
容赦のない、雅史の突っ込み。
「こわ−した−」
げっ!?きょ、教授まで。
「浩之、こわ−した−」(雅史)
「こわ−した−」(長瀬教授)
二人の容赦ない攻撃に、俺は...。
「お、お、俺は、無実だあああぁぁぁぁぁっっ!!」

悲痛な叫びが、大学中に響き渡った。


あとがき

今回は、Win3.1マシンが、急にネットワ−クに接続できなくなった際の対処方法を、「TO_HEART」に
乗せて書いてみました。
上記の現象は、会社で使っているサブマシンで、実際に起きた現象です。

う〜ん、対処方法より、ネットワ−クの話のほうが長い...。
ネットワ−クって、本当に奥が深いです。
ここに書いた内容は、まだまだネットワ−クの入口にしか過ぎません。
私自身、まだまだ勉強不足で、上記のSSに盛り込めなかったことが多々ございます。
何卒、貴重な御意見、御指摘等ございましたら、宜しく御願い致します。


こ−ゆ−話だと、結構書けてしまうので、わずかなノウハウを、公開していこうと思います。