あいえむいいきゅうななの罪 投稿者: kurochan
-------------------------------------------------------------------------------
この物語は、リ−フ殿の「To Heart」の設定をもとにした、二次創作物(Side Story)です。
内容は、IME97インスト−ルマシンに、LOTUS製品をインスト−ルしようとした
時のトラブルと、その対処方法をノウハウにした話です。
人物および場所の設定は、すべて架空のものです。
-------------------------------------------------------------------------------

『あいえむいいきゅうななの罪』

第一章 おかしいな

「あれ?おかしいな」
「浩之ちゃん、インスト−ルできないよ」
「本当だ。おかしいな。確かにマニュアル通りなのに」

俺とあかりは、2台のパソコンを前にして、首をひねっていた。
俺達は、現在同じ大学の3年生。
学部は違うが、毎日のように会っては、お互いの情報を交換していた。
しかし、これからは、会わなくても、意志の疎通が出来るようになった。
なんと、大学に『ろおたすしいしいめえる』が導入され、学生一人一人に、『しいしいめ
える』のアドレスと、E-Mailのアドレスが配布されることになったのだ。
学籍番号そのまんまという、味もそっけもないアドレスではあったが、在籍している間は
いくらでも、メ−ル送受信を行なうことができる。
大抵の学生は、研究室にある、数世代前のパソコンを使うことになるが、個人で持ってい
る学生は、自分のパソコンに『しいしいめえる:クライアント』をインスト−ルすること
で、メール送受信ができる。
(作者注:クライアントライセンス...という話は、この際、置いといて)
やろうと思えば、家から大学のメ−ルサ−バ−に接続し、居ながらにしてメ−ルの内容を
確認することもできるのだ。
こんなところで、志保にそそのかされて買った、ノ−トパソコンが役立つとは...。
インタ−ネットで、ブラウジングすること以外に、パソコンの使用目的を見出せなかった
俺にとって、メ−ルのやり取りは、ものすごく新鮮に感じられるものだったのだ。
(作者注:私の勤める会社では、メ−ルがつながってからというもの、まる一日、誰とも
会話せずに、仕事をすることもザラになりました。これホント)

しかし、例によって、またトラブルが発生。
なんと、『ろおたすしいしいめえる』が、俺のノートパソコンにはインストールできたに
もかかわらず、あかりのノートパソコンにはインストールできないのである。
インスト−ラが異常終了する上、Cドライブ下に、「LotusTmp0」とか、「LotusTmp1」などと
いう、意味不明のフォルダ−が作成されてしまう。
「なんだろね、これ」
あかりが、作成された「LotusTmp0」のフォルダ−下の内容を、エクスプロ−ラ−で見ている。
「...何にも入ってないよ」
確かに、フォルダ−の下には、ファイルは一個も入っていない。
しかも、何度もインスト−ルしようとしたためか、「LotusTmp」というフォルダ−は、インス
ト−ラが異常終了する度に、増えていくような気がする。
「なんでやねん。確かにマニュアル通りなのに」
「明日、長瀬教授に見てもらおうよ」
「...またか」
長瀬教授は、俺が所属するゼミの教授だ。
学内のLAN構成から敷設、サ−バ−のインスト−ル、果てはネットワ−ク設定まで、自ら
やったというツワモノだ。
よく、『パソコンヘビ−ユ−ザ−』という表現を、雑誌で見かけるが、長瀬教授は、さらに
その上をイっている。
何がって?
教授を一言で言い表すなら、
「左手がハンダごて、右手がプラスのドライバ−」
って、ところか。
暇さえあれば、コンピュ−タを分解し、また組み立てているのだ。
研究室にあるパソコンは、ほとんどが、長瀬教授の作品(?)だし。
そんなゼミだから、さぞ専門的なことを専攻しているのでは...と思うかもしれないが、
実際には、経営学のゼミなのだ。
「しかしそろそろ、教授もキレるかも知れないな」
俺は、ボソリと言った。
何かにつけて、トラブルばっかり起こしている俺は、もはや研究室でも札付き状態だった
のだ。
そんな長瀬教授が、俺に付けたニックネ−ムは、『トラブルメ−カ−』。
...確かに、当たってる。
「確かにキレる先生だよね」
あかりの言葉に、
「...お前、俺が言ってる意味がわかってるか?」
「えっ?」
あかりは、きょとんとして、俺を見つめた。


第二章 それだ!!

「...というわけで」
翌日、俺はあかりと、2台のノ−トPCを持って、研究室に来ていた。
「ふ−ん」
長瀬教授は、気のなさそうな返事をする。
「で?その原因を、僕に調べて欲しいと」
「はい」
俺は頷いた。
「...ふぅ」
長瀬教授は、小さく溜め息をついた。
俺が可能な限り、自分で調べるようになりつつあることは、わかってくれているようだ。
以前なら、
『少しは、自分で調べたらどうなんだい?』
と言って、調査結果をきちんと報告しないと、相談相手にもなってくれなかったが...。
「じゃあ、さっそく見てみよう」
長瀬教授は、手際よくノ−トPCをセットすると、まず、俺のPCの電源を入れた。

ぶぅぅぅぅん...、ピポッ!
「Kurusugawa Bios Ver3.12
Plug and Play Searching...

Card-01: PE405T
Found FX-120T CD-ROM 」

やがて御馴染みの、WIN95の雲のマ−クが出る。
「藤田君のノ−トパソコンには、正常にインスト−ルできたんだね?」
「はい」
俺は頷いた。
「ふ〜む...」
教授は、俺のパソコンの設定を、一つ一つ調べている。
やがて、
「確かに、正常にインスト−ルされているようだね」
俺に向き直って、言った。
「でしょう?ですから余計に、あか...神岸さんのパソコンにインスト−ルできない理由
が、わからなくて」
「ふ〜む...。取り敢えず、神岸さんのパソコンも、調べてみるか」
次に教授は、あかりのノ−トPCの電源を入れた。

ぶぅぅぅぅん...、ピポッ!
「Kurusugawa Bios Ver4.00
Plug and Play Searching...

Card-01: OPL-3T
Found FX-160T CD-ROM 」

こちらにも御馴染みの、WIN95の雲のマ−クが出る。
「神岸さんのノ−トパソコンに、インスト−ルができないと言ったね?」
「はい」
俺は頷いた。
「ふ〜む...」
教授は、あかりのパソコンの設定を、調べ始めた。
しばらくして、
「ん?なんだ?このCドライブ下にある、『LotusTmp0』とか、『LotusTmp1』とかいう、意味
不明のフォルダ−は?」
長瀬教授が、俺を見た。
「ああ、それですか。何度もインスト−ルしようとしたんですが、その度に『LotusTmp』とか
いうフォルダ−が、増えていくような気がして」
「それだ!!」
いきなり、教授が、大きな声を出した。
「きゃっ!」
あかりが、ビクッと肩をすくめる。
「えっ?...えっ?」
俺は、教授の声より、顔に驚いた。
一瞬、アップで迫られたような感覚。
ともすれば、食べられてしまうのではないかとさえ思われた。
教授は、さらにあかりのパソコンの設定を、調べ続けた。
「...ああ...、なるほどね...そうか...それでか...」
長瀬教授は、今度は一人でウンウン頷き、あかりのノ−トパソコンをなでなでした。
その光景は、いつもにも増して、異様だった。

「で、結局、何が原因だったんですか?」
教授の機嫌のいいうちに、さっさと聞いてしまおう。
「知りたい?」
長瀬教授は、悪戯っぽい目で、俺を見た。
「ええ。ぜひ」
俺は頷いた。
「じゃ、教えてあげよう」
教授は、煙草を取り出すと、口にくわえた。
「IME97が、原因なんだ」
煙草に火を付けると、ゆっくりと煙を吐いた。
「え?あいえむいいきゅうなな?」
最初に教授の口から出たのは、そんな言葉だった。
「IME97は、まいくろそふとが提供する、FEPだ」
「ふぇっぷ?ふぇっぷって、何ですか」
俺は、立て続けに出てきた言葉の意味が分からず、惚けた声を出した。
「FEPとは、Front End Processorの略でね。今はIME(Input Method Editor)とも言う。
『汎用日本語入力仮想デバイス』なんて難しい言葉を使う人もいる」
「な...なんですって?」
またまた、訳のわからない言葉が飛び出した。
「まあ、簡単に言ってしまえば、コンピュ−タの日本語入力システムってことさ」
「あ、ああ、なるほど」
ここまできて、ようやく俺にも理解できるようになった。
「知ってるとは思うが、コンピュ−タで日本語を処理するのは、意外と大変らしい。元来、
コンピュ−タは、半角文字(1バイト)であるアルファベットと、数字、それに特殊文字で
運用されていた。しかしこれでは、日本語を全部表現することなど、到底不可能だ。そこ
で、日本語を処理する為の独自の機能が必要になった。日本語を表現する為に、全角文字
(2バイト)を用いるのは、そのためだ」
煙を吐きながら、教授は続けた。
「FEPにも、いろんな種類があるんだ。VJE、ATOK、IME97などだ。特にAT
OKやIME97は、単体販売までされている。まあ、どれを使うかは、人それぞれだがね」
教授は、灰皿で煙草をもみ消しながら言った。
「さて、本題に入ろうか」
ふう。やっと、本来の話題に戻ってきた。
「ここを、見てごらん」
長瀬教授は、コントロ−ルパネルの中にある、『キ−ボ−ド』をマウスでクリックした。
「速度、言語、情報と出ているだろう。この中の『言語』で、IME97が選択されている」
確かに、言語(U)という表示の中に、「日本語:IME97」と表示されていた。
「結論から言うと、IME97がインスト−ルされているコンピュ−タで、『ろおたすしい
しいめえる』をインスト−ルする時は、DOSプロンプトから、『INSTALL.EXE』
を起動しなければならないんだ」
「えっ?」
俺は、思わず声を上げた。
「そ、そんなこと、マニュアルにも、どこにも書かれていませんでしたよ」
「そうなんだ」
長瀬教授は、苦笑した。
「理由は、わからん。しかし、まぎれもない事実なんだ」
「そ、そんな...」
俺は、絶句した。
「そう。そんなものなんだよ。実際にインスト−ルしてみると、よくわかる。でも、たくさん
のアプリケ−ションが市場に出回っている以上、こういうことは、結構あるんだ。ソフトウェ
アどうしの『相性』とでも、言えばいいのかな」
長瀬教授は、また悪戯っぽい目で、俺を見た。

俺は、あかりを連れ、釈然としない気分で研究室を出た。
「浩之ちゃん、どうしたの?」
あかりが、俺の顔を覗き込んで、聞いてきた。
「う、うん。なんか、スッキリしなくてな」
実際、原因も、解決策も分かったのだが、俺の気持ちは、スッキリしていなかった。
根本的原因が、特定できなかった為かも知れない。
なぜ、IME97がインスト−ルされていると、うまくいかなかったのか。
なぜ、DOSプロンプトからだと、うまくいくのか。
「ま、ああ、インスト−ル出来たんだし、いいじゃない。あんまり考えすぎると、ハゲちゃ
うよ」
そ−ゆ−問題か?
「それより、せっかくメ−ルが使えるようになったんだから、早速やってみようよ」
相変わらずの、あふれんばかりのニッコリ笑顔。そしてタレ目。
「そうだな」
俺は、今一つ吹っ切れないでいる気持ちを振り払うように、駆け出した。
「あっ、待ってよ!浩之ちゃん」
あわてて追いかけてくるあかり。
俺は走りながら、一つの目標を立てていた。
(絶対、この原因を調べ上げてやる!...ヒマがあったら)


あとがき

今回は、IME97インスト−ルマシンに、LOTUS製品をインスト−ルしようとした
時のトラブルと、その対処方法を、「TO_HEART」に乗せて書いてみました。
上記の現象は、会社で実際に起きた内容です。
メ−ル管理者が、「インスト−ルできない」という問い合わせに、大わらわになっていました。
ソフトウェアの『相性』と言って、片付けていいものかどうかは、賛否両論あると存じます。
しかし、実際には、こういうことが結構あります。
買ったアプリケ−ションを、使わずに眠らせてしまうのは、こういうトラブルに見舞われた
経験が、尾を引いている場合が多いです(あくまでも、私見ですが)。


こ−ゆ−話だと、結構書けてしまうので、わずかなノウハウを、公開していこうと思います。