らるう・らるう 投稿者:kurochan
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この物語は、リ−フ殿の「To Heart」、および「リ−フファイト97」の設定をもとにした、
二次創作物(Side Story)です。
内容は、会社のサ−バ−に、Microsoft Excelのマクロウィルスが氾濫しているのを、
私が見つけた時の対処方法の話です。
人物および場所の設定は、すべて架空のものです。
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『らるう・らるう』

第一章  コンピュ−タが風邪ひいた

「お?」
昼メシを食い終わり、研究室に戻ってきた俺が発した、最初の言葉がそれだった。
「おお?」
俺は藤田浩之。現在、大学の3年生。
いつも不在の長瀬教授の代わりに、研究室のコンピュ−タの管理を一任されている。
とはいうものの、コンピュ−タのことなんて、これっぽっちもわかっちゃいない。
せいぜいあるのは、初心者に毛が生えた程度の知識だけだ。
にもかかわらず、何故そんなことを引き受ける羽目になったのか。
研究室にインタ−ネットがつながったのがうれしくて、毎日飽きずに詰めていたら、教授が一言、
「藤田君、そんなに興味があるなら、ここの研究室のコンピュ−タを管理してくれ」
「.....」
断ろうにも、コンピュ−タのことで、教授に借りが2つもあっては...。
はっ!そ、それは、ともかく。
俺は、研究室を出る時に、うぃるすばすたあきゅうじゅうごで、研究室で使っているサ−バ−の、
『全てのファイルを完全検索する』を指定しておいたのだ。
使い方は、教授に教わった。
「『ウィルスを発見しました』というメッセ−ジさえ出なければ、大丈夫だ」
と言われていたので、そのつもりでいたのである。
メシ食い終わって、研究室に戻るまで、
「どうせ、『ファイル感染型のウィルスは発見されませんでした』と、表示されているだろう」と、
タカをくくっていたのだが...。

「おおお?」
戻ってきた俺の目に映ったものは...。

感染ファイル   ディレクトリ      ウィルス名      備        考
AZUSA.XLS     G:\LEAF\EVERYONE  Excel_Laroux  ウィルス情報を参照
CHIZURU.XLS   G:\LEAF\EVERYONE  Excel_Laroux  ウィルス情報を参照
KAEDE.XLS     G:\LEAF\EVERYONE  Excel_Laroux  ウィルス情報を参照
RURIKO.XLS    G:\LEAF\EVERYONE  Excel_Laroux  ウィルス情報を参照
SAORIN.XLS    G:\LEAF\EVERYONE  Excel_Laroux  ウィルス情報を参照
SHIHO.XLS     G:\LEAF\EVERYONE  Excel_Laroux  ウィルス情報を参照
・
・
・

「おおおおお?」
次々と増えていく、感染ファイルの一覧。
やがて、
「あった〜!ジャン!」
不気味なWAVサウンドが、研究室に響き渡った。
『検索終了、ウィルスを発見しました!』

検索結果のレポ−トファイルを見て、俺は愕然とした。
ゼミで使ってる、えくせるし−との殆どが、感染しているではないかぁ〜!
これが、世に聞く、えくせるマクロウィルスか...。
引っかかったのは、え〜と...、189件?!
「...」
たら〜りと、背筋に冷たい汗が流れる。
「コンピュ−タが風邪引いた...熱も出てる...重症だ...」
が!!
何のことはない、駆除すればいいのだ。
意識が遠くなっていくのを、必死にこらえながら、感染しているファイルを選択し、「駆除」ボタン
を押す。
「ジャン!」
不気味なWAVサウンドが、研究室に響き渡った。
『駆除に失敗しました』

「...」
もう一度、同じ操作を繰り返す。
「ジャン!」
不気味なWAVサウンドが、研究室に響き渡った。
『駆除に失敗しました』
「...」
顔から血の気が引いていくのを感じながら、もう一度、同じ操作を繰り返す。
「ジャン!」
不気味なWAVサウンドが、研究室に響き渡った。
『駆除に失敗しました』

「.....」
精神的ショック、藤田浩之は200ポイントのダメ−ジを受けた。
藤田浩之は、戦闘不能になった。
...戦いに敗れ去った...。
俺はおもむろに、研究室にある電話の受話器を取ると、長瀬教授の携帯電話の番号を押した。
「...あ、もしもし、藤田です。コンピュ−タが風邪をこじらせまして。...ええ、病原菌は
見つかったのですが、注射を打っても死ななくて...」


第二章  どうやって駆除するの?

「さて、どうしたものか...」
電話で駆けつけた長瀬教授は、うぃるすばすたあのレポ−トファイルのリストを見て、頭を抱えて
いた。
「とりあえず、研究室の学生には、教授のおっしゃった通り、えくせるを使わないように指示しま
した」
俺は、さながら助手を気取った口調で、言った。
「う〜ん...」
長瀬教授は、イライラするように煙草に火を付けては、スッパスッパと煙を上げている。
「あの...、これって、そんなに深刻なことなんですか?」
俺は、半信半疑で聞いてみた。
ズブの素人の俺には、コンピュ−タウィルスと言われても、今一つピンとこなかったのだ。
だが、今の教授を見れば、素人目にも、やばいことが起こっているのは、容易に想像できる。
この人が、ここまでうろたえるのを見るのは、初めてではないにしろ、滅多になかったからだ。
「まずいな...」
教授はおもむろに、机の引き出しを開け、名刺ファイルを取り出した。
ぱらぱらとめくり、研究室にある電話の受話器を取る。
チャチャチャチャチャチャ...。
目にも止まらぬ速さでプッシュボタンを押すと、受話器を耳に当てた。
「...もしもし、リ−フ学園の長瀬と申しますが...こちらこそ...恐れ入りますが、情報
システム部の、月島拓也様はおられますでしょうか...」
月島...?どっかで聞いたような...。
それにしても、俺の通ってる大学って、一体...。
「...もしもし?...ああ、長瀬です。...いえいえ、こちらこそ。実は、折り入って御相談
が...。『Excel_Laroux』に感染したファイルが、サ−バ−上に多数見つかりまして、うぃるす
ばすたあきゅうじゅうごで駆除しようとしても、駆除に失敗するんです...」
話がややこしく、しかも長くなりそうだったので、俺はいったん、教授の机の前から離れた。


第三章  病原菌

教授は、まだ電話中だ。
しっかし、コンピュ−タが風邪を引くなんて、知らなかった。
もしかしたら、コンピュ−タにも平熱とかがあるのかな...。
でも、機械がご飯で動くなんて話、きいたことね−ぞ。
チン!ガチャ。
おっ、電話が終わったらしい。
「...駆除方法は、わかったよ」
長瀬教授が、少し疲れた顔で、俺に言った。
「教授、さっきもお聞きしましたが、これって、そんなに大変なことなんですか?」
俺は、まだ半信半疑だった。
「...うん。結構、大変なことなんだ。ちょうどいい、気持ちを落ち着けるのと、ダウンロ−ド
にかかる時間をつぶす間、どういうことか、説明しよう」
長瀬教授は、インタ−ネットに接続すると、どこかのサイトから、何かファイルをダウンロ−ド
し始めた。
『ファイルのダウンロ−ド』の帯が、少しずつ、伸びていく。
教授は、それを見ながら、話し出した。
「今回見つかったのは、いうまでもなく、コンピュ−タウィルスと呼ばれるものなんだ」
煙草に火を点ける。
「そもそも、コンピュ−タウィルスって、なんなんですか?」
俺は、素直に聞いてみた。
「簡単に言ってしまえば、ネットワ−クや、フロッピ−ディスクなどの媒体を経由して、他人のコン
ピュ−タに入り込み、いたずらをするプログラムのことだ。いくつかの種類に分類されるが、今回
見つかったのは、『マクロウィルス』という種類のものだ」
「マクロウィルス?」
俺は、惚けた声を出した。
「Microsoft ExcelやWordには、VBAという簡易言語があってね。VBにも似た物だが...。
これを使って、Excelのシ−ト上から隠す形で、マクロが組まれているらしい。このマクロが埋め込
まれた Excelシ−トを開くと、Excelの『PERSONAL.XLS』というファイルに感染する。
この『PERSONAL.XLS』は、Microsoft Excelの標準書式みたいなものが格納されているらしいんだが、
ここに感染するということは、その後、感染したコンピュ−タで新しい Excelシ−トを作ろうが、
既に作成済みの Excelシ−トを開こうが、必ず『PERSONAL.XLS』を参照することになる。その時に、
感染した『PERSONAL.XLS』から、作った Excelシ−トに再度感染してしまう」
「じ、じゃあ、感染したことを知らずに、その Excelシ−トを他人にメ−ルで送ったり、フロッピ−
で渡したりしたら...」
俺は、教授が何を恐れているのかが、やっと、わかってきた。
「そう。どんどん感染していくだけでなく、他人のコンピュ−タ環境にも、悪影響を与えてしまう」
「でも、感染した『PERSONAL.XLS』でしたっけ?それさえ削除すれば...」
長瀬教授が、俺をキッと、睨み付けた。
こんな厳しい教授の顔は、初めてだ。
「言っただろう?感染した『PERSONAL.XLS』を使って、Excelシ−トを作成すると、そこにも感染して
しまうって」
そこまで言うと、教授は、手に持っていた煙草を、灰皿でもみ消した。
「確かに、Microsoft Excelがインスト−ルされているコンピュ−タから、感染した『PERSONAL.XLS』
を削除すれば、その時は解決する。しかし、サ−バ−上に、これだけ大量の『Excel_Laroux』に感染
したファイルがあっては、どうしようもない」
「えくせる、らるう?」
「Microsoft Excelに感染する、代表的なウィルスだ。Microsoft Excelがインスト−ルされているコン
ピュ−タであれば、バ−ジョンを問わず感染する可能性がある。最近では『変種』と言って、さらに
内部構造が変化したウィルスも、存在するらしい」
俺は、背筋が寒くなるのを感じた。
そんなものが、大学中のサ−バ−のみならず、コンピュ−タを経由して、知らず知らずのうちに、他人
のソフトウェア資産を脅かしてしているとしたら...。
「しかし、どうすればいいんです?うぃるすばすたあきゅうじゅうごで検出はできましたけど、駆除は
失敗しましたし」
「その方法を、さっき、電話で月島君に聞いたんだ」
教授は、新しく煙草を取り出しながら、言った。
「そのツキシマさんって、どなたなんですか?」
俺は、その名前に聞き覚えはあったが、思い出せなかった。
「この大学にあるコンピュ−タは、ほとんど、月島君の会社から購入したものなんだ。現在でも、万一
の問い合わせ窓口をしてくれている」
「どこかで、お会いしたことがあると思うんですが」
「それはあり得ない。作品が違うからね。あるとすれば、リ−フファイト97だろう」
「は?」
俺には、その意味が、よくわからなかった。
「さて、ダウンロ−ドも終わったことだし、始めるか」
長瀬教授はそう言うと、腰を上げた。
「さあ、これからが大変だ。使っているクライアントを、全部チェックしなければならん。
君にも手伝ってもらうぞ」
「いっ?!」
俺は、椅子から飛び上がった。
「お、俺もですか?」
「当然だろう、君が見つけたんだしね。ついでに、月島君に教わった、駆除の仕方も教えよう。二人で
作業した方が、はやく終わるだろ」
「そ、そりゃそうですが...」
う〜ん、やっぱり食えないオッサンだ。


第四章  掃除屋

「まず、この研究室にあるクライアントの、全ての電源を立ち上げてくれ。そして、各クライアントに
インスト−ルされている、Microsoft Excelのバ−ジョンを調べてくれ。各クライアントの前に、メモ
用紙を置いて、調べたバ−ジョンを書いていくんだ」
「わかりました」
長瀬教授の指示に従い、研究室にあるコンピュ−タの電源を、片っ端から投入する。
研究室の中が、機械的な鼓動に包まれる。
俺は、教授に言われるまま、片っ端からMicrosoft Excelを起動し、画面に表示されるバ−ジョンを
メモしていく。
やがて、全てのコンピュタの、Microsoft Excelのバ−ジョンを調べ終えた。
「バ−ジョンごとに、累計してくれ」
指示に従い、Microsoft Excelのバ−ジョンごとに、「正」の文字を記入していく。
「集計、終わりました」
俺は、長瀬教授に言った。
「よし。バ−ジョンごとに、数を教えてくれ」
「5.0が2、95が6、97が2です」
俺は、メモに書き上げた数を読み上げた。
「そうか...。ということは、全部ダウンロ−ドしなければならんな」
長瀬教授は、自分の机の上の上にある、ノ−トPCの画面を見ながら言った。
「何を、ダウンロ−ドするんです?」
「ん?うん、まいくろそふとのホ−ムペ−ジから、『Excel_Laroux』を駆除する為の、モジュ−ルが
ダウンロ−ドできるんだ。はっきり言って、気休め程度だがね」
「へえ」
俺は、感嘆の声を上げた。
ブラウザを立ち上げた時のトップペ−ジを、「Leaf」のホ−ムペ−ジにしている俺にとって、まいくろ
そふとのペ−ジは、あまり縁がなかったのだ。
ホ−ムペ−ジの内容を印刷し、手順に従ってモジュ−ルをインスト−ルしていく。
しかし、バ−ジョンによって、組み込むモジュ−ルが異なるのは、これいかに。
「よし、うぃるすばすたあで引っかかった、サ−バ−上のExcelシ−トを、このモジュ−ルで検索して
みよう」
教授は、組み込んだモジュ−ルを使って、感染したファイルを検索し始めた。

数分後。
「おや、引っかかるものと、引っかからないものがあるな」
モジュ−ルの検索結果が、画面に表示されている。
確かに、うぃるすばすたあの検索結果のレポ−トファイルの内容と、異なっている。
とりあえず、引っかかったExcelシ−トについては、駆除を実行した。
しかし、まだ20個ほどのExcelシ−トが、感染したままだ。
(作者注:はっきり言って、このモジュ−ルで引っかかった経験は、皆無です)
「もしかしたら、この引っかからなかったシ−トは、さっき話した『変種』かも知れん。ということは、
うぃるすばすたあ自体のバ−ジョンアップも、必要か...」
長瀬教授は、そんな独り言を呟きながら、ノ−トPCに向かった。
しかし、いつもながら、こ−ゆ−時の教授は、不気味だ。
異様なオ−ラを発しているとでも言おうか...。
「なんか言ったか?」
長瀬教授の目が、ギロリと俺を睨む。
「い、いいえ、な、何にも言ってません!」
うう、やばいやばい。ただでさえピリピリしてるのに、これ以上余計な刺激を与えたら、矛先がこっち
に来そうだ。
「おっ、とれんどまいくろのホ−ムペ−ジに、最新版がアップロ−ドされてるぞ」
突然、長瀬教授が叫んだ。
まるで、暗闇の中で、一筋の光を見つけたような声だ。
「おお、これを使えば、駆除できそうだ。よし、ダウンロ−ドだ」
明らかに、声に張りが出てきている。
その隣で、俺は、『もう勘弁してくれ』と、言わんばかりの状態になっていた。
俺は自分で、
「やっぱり、俺はコンピュ−タヲタクにはなれない」
と、つくづく痛感していた。

結局、この最新版をインスト−ルすることで、残りの20個の感染ファイルも駆除できた。
しかしそのため、クライアント一台一台にこの最新版をインスト−ルし、ロ−カルハ−ドディスクまで、
全部チェックするはめになった。
「きょ〜じゅ〜、お願いですから、もうコンピュ−タの管理者は辞退させて下さい〜」
クライアントに最新版をインスト−ルしながら、半ベソ状態で懇願する、俺の声が大学中に響き渡った。


あとがき

今回は、会社のサ−バ−に、Microsoft Excelのマクロウィルスが氾濫しているのを、私が見つけた
時の対処方法を、「TO_HEART」に乗せて書いてみました。
実際には、検索結果のレポ−トファイルを、システム管理者に渡しただけですが、渡された管理者は
真っ青になって、当日と翌日、夜遅くまで各クライアントのチェックをしていました。
よく言われることですが、ウィルスの開発者、あるいは配布した人の特定は、事実上不可能のようです。
ウィルスのデマ情報をメ−ルで受け取ったり、メ−ルの添付ファイルにマクロウィルスが潜んでいたと
いう経験は、何度かありますが、その出所は、結局うやむやになってしまいます。
ACTIVEXで作られたプログラムをIE3.0で実行させたら、ロ−カルハ−ドディスクの内容が
クリアされたなどという話も聞きます。
結局のところ、
「バックアップを常に取得し、万一OSやハ−ドディスクが吹っ飛んだら、きれいさっぱりFDISK」
というのが、一番安全な様です。

まあ、このSSを書き上げた日に、とれんどまいくろから、うぃるすばすたあのアップデ−トモジュ−
ルが届いたのも、何かの縁かも知れません。

こ−ゆ−話だと、結構書けてしまうので、わずかなノウハウを、公開していこうと思います。