綾香花火 投稿者:Fifty
「浩之さーん、ただいまですー」
「おう、ご苦労さん。ちゃんと夕飯の材料は買ってきたか?」
 近くのスーパーの袋を持ったマルチが、リビングに入ってくるのを見て、俺はそう言
った。

「勿論です。あ、そう言えば帰りにセリオさんに会いました」
「セリオか、そう言や最近会ってないな……」
「それで、セリオさんに花火をもらったんです」
 そう言うとマルチは、袋の中をごそごそと探り出した。多分一緒に入れて置いたんだ
ろう。

「ありました、浩之さんどうぞ」
 そう言ってマルチは俺にセリオからもらったらしい花火を手渡した。

「ふーん、線香花火か」
 赤、黄、緑色の紙でこよってある持ち手の部分を見て、俺は直感的にそう思った。

「私もそう思ったんですけど、セリオさんが違うって言いました」
「ちがうのか? これ」
 俺はもう一度その線香花火「らしきもの」を見た。そう言えば普通の奴より重い……
あ、さきっぽに、何か丸くて毛むくじゃらの物体がぶら下がってる……

「綾香花火だそうです、セリオさんの手作りらしいですよ」
「へぇ……」
 …………なんですと!?

「なんでも、最近花火を作るのに凝ってるそうなんですよ」
 かなり困惑中の俺を置いたまま、マルチは楽しそうに話してる……

「あ、浩之さんちょっと貸して下さい」
 マルチは俺の手からその綾香花火と呼ばれる物体を取ると、さきっぽについてる物体
をなにやらいじくりだした。

「ほーら見て下さい、綾香さんですー」
 それが再び目の前に現れたとき、紛れもなくそれは綾香の顔だった……しかも薄ら笑
い浮かべてるし……

「……マルチ」
「はい、なんですか?」
「お前はそれを見て、何か感じないのか?」
「はい。花火まで作れるなんて、やっぱりセリオさんは凄いですねー」
 がっくりとうなだれる俺。

「…………間違ってる、何か絶対に間違ってる……」


 そして運命の夜、舞台は藤田邸庭先。


「なぁマルチ、本当にやるのか?」
「もちろんです、せっかくセリオさんが作ってくれたんですから」
「そうか……」
 まぁ、綾香の顔をしてるってだけであとは別に変わった所が無いから大丈夫だろう。
仮にもセリオが作ったんだし……
 そうは思いつつも、バケツにいっぱいの水を用意する俺。たった一本の花火に重装備
かも知れないが、用意しておくに越したことはないだろう、注意一秒怪我一生だ。

「浩之さん、火をお願いしますー」
「おう」
 マルチがしゃがんでいる向かい側に俺もしゃがみ込んだ。バケツはすぐ横に置いてあ
る。

「じゃ、つけるぞ」
 ポケットからマッチを取り出し花火に火をつけ……

「なぁ、これってやっぱり髪が導火線なのか?」
「さぁ……どうなんでしょうか?」
 マルチも知らないようだ。となればやってみるしかないか。

「じゃ、改めてつけるぞ」
「はいです」
 俺がマッチに火をつけるとマルチが花火を近づけてきた。そして俺が髪の部分に火を
つけると導火線がシューッっと……

「なんか妙にリアル!!」
火はちょろちょろと、髪をすこしずつ燃やしつつ上へ上へと上がっていった……あ、な
んか変な臭いまでしてきた。
 その時

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「なんだなんだ、こんな時間に!?」
 突然の叫び声のような物に俺は反射的に辺りを見回した。

「きゃーーーーーーーーーーーーっ!! 熱いーーーーーーーっ!!」
 ……熱い?

「まさか!」
 マルチの手中にある花火の先を見る……やはりこの声の発信源はこれか!!

「マルチ、よこせっ!」
「あっ」
 マルチから花火を半ばもぎ取るように奪うと、即行でバケツの水につけた。

「ぎゃーーーーーーーガボッ(水につけた音)…………」
「…………はぁ、止まったか」
 急に静寂に包まれる辺り一帯……それにしてもびっくりした。

「あ、今度はブクブク言ってますー、入浴剤みたいですね」
 バケツの中をのぞき込んでいたマルチがそう言った……え!?

「ブクブクブクブク……(空気音)」
「うわぁぁぁぁっ!」
 急いで取り出す俺。て言うか、生きてるのかこれは!!

「大丈夫か。おい、しっかりしろ!!」
 花火であることもすっかり忘れて話しかける俺。

「よかった、顔は大丈夫だ」
 何故かほっとする俺。しかし、既に髪はほとんど燃えてしまい、チリチリのアフロの
様になっていた。

「うわぁ、髪の形が変わりましたー、流石セリオさんですね」
 仕掛けじゃないだろ、これ。
 しかしこれ、よく見ると何かに似てる様な…………はっ!

「雷様だ!!」
 だが、次の瞬間その花火の先を目を開け、怖ろしい、まるで鬼のような形相で俺をに
らみだした。

「ヒィッ!?」
 あまりの怖ろしさに思わず花火を投げてしまう俺。呪われてる、この花火絶対。

「面白かったですねー、浩之さん」
「そうか?」
 心から疑問を問いかける俺。この状況を何故理解できないマルチ……

「じゃあ二本目は浩之さん、どうぞ」
 そう言って、二本目の綾香花火を俺に差し出す……って!?

「今の奴一本だけじゃなかったのか!?」
「はい、セリオさんがたくさんくれましたからまだまだありますー」
 マルチの持ってる袋をおそるおそる覗いてみると……

「セリオ、俺になんか恨みでもあんのかよ……」
 かくして、まだまだたくさん、綾香花火はあったとさ。

 ところで、その情景を植木の影から黒尽くめという怪しさ抜群の格好をしつつ伺って
いた一人の人物、正確には一台のロボットが居たことなど、浩之は知る由もなかったで
あろう。

「……成功」
 ニヤリと笑うと、音もなくそのロボットは姿を消した。


 翌日、来栖川邸綾香私室。


 コンコン

「誰?」
「失礼致します」
 そう言いつつ入ってきたのはHMX−13、セリオである。

「綾香様、御一緒に私の作った花火でも如何でしょうか?」
「あら、セリオが作ったの? いいわね、やろうじゃない」
「では、早速用意致します」
 部屋を出たセリオ、その顔はニヤリと笑っていた。

 悲劇は繰り返す。


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あとがき

皆様はじめまして。
上の行を見れば解る通り、初めて投稿するFiftyいう者です。
普段から図書館はよく利用させていただいてます。

私はSS等はあまり書かない人間なのですが、先日酒を飲んで酔っていた最中、
ふいに「線香」と「綾香」と言う字が似ていることに気付いて(正に酔った勢い)、
風呂に入りつつその妄想を展開させていったら、
いつの間にかプロットが出来てしまったので、その勢いで書き上げてみました。
雷様のくだりなんか、酔った勢いの真骨頂(アフロか……まるでドリフの様な……入れ
ちゃえ入れちゃえ的ノリ)ですね(爆)
よく考えたらグロイかも(燃やし尽くしたらどうなるんだろう……(汗

所々一人称と三人称が混ざってますが、見逃して下さい(謝

タイトル:綾香花火
コメント:99/08/18「線香」と「綾香」、似てません?
ジャンル:ギャグ/TH/浩之・マルチ