魔王降臨!? (2) 投稿者:JUN 投稿日:9月6日(水)02時36分
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                                  JUN

              魔王降臨!? (2)


<承前>

 儀式の前準備が終わった芹香さんは俺達を前に並べると、今回の儀式の概要と見
学する者の心得を話し始めた。
「…………」
「魔術の力の根源は信じる心ですって。うんうんそうだろうな」
 そういえばスフィーも言っていたな。信じる心が魔法になるって。ガキ二人相手
に無理して天候制御の魔石を作って、それでせっかく大きくなった身体がまたガキ
んちょに逆戻りしたこともあったっけ。
「…………」
「もし少しでも疑う心があれば、それが疑念となって儀式の妨げになりますって。
だから魔法を信じられない方は儀式の間出て行って下さいと。大丈夫だって。ここ
に居る人間で魔法を信じて無い奴はいないから」
 そりゃそうだろう。何しろスフィーとリアンは本物の魔女(見習い)だし、俺と
結花は二人が魔法を使用しているのを見たことがある。魔法を疑う理由なんてどこ
にも無い。
「こほん。私も信じてますぞ、芹香お嬢様」
「今さら姉さんの魔法を疑うわけないじゃない」
 セバスチャンさんと綾香さんも答える。
 それを聞くと、芹香さんは満足そうに頷いて、さらに話を進めた。
「…………」
「え、今回の儀式の目的は、異世界の魔王の召喚ですって。マジかよ!?」
「…………」
「この店には他では見られないほど強い魔力が集まっているですって? これだけ
あれば儀式が成功する確率が高いですって。本当かよ!?」
「ちょ、ちょっと姉さん! また間違って破壊神を召喚したりしちゃわないでしょ
うね!?」
 綾香さんが慌てた様子で声を挟む。なんだ、この慌てぶりは?
「…………」
「だからって、召喚しても制御できなかったら、また前の二の舞じゃない」
「…………」
「破壊神は混沌の存在だから制御することは出来なかったけど、魔王は秩序の存在
だからむやみに世界を崩壊させることはありませんて? そうだといいんだけど」
「…………」
「あー、分かった分かりました。何かあったら私も責任取るわよ。もうてっきりい
つもの霊魂の召喚だとばかり思ってたのに。こんな事ならルミラ達も呼んでおけば
よかったなあ」
 なんだかんだ言って、綾香さんは芹香さんにはかなわないらしい。
 しかしなんだ。芹香さんは以前、一体何をやらかしたんだ?
「…………」
「それでは儀式を始めますか。わ、分かりました。じっとしておきます」
 多少の不安を抱かせながらも、儀式は開始された。
 芹香さんは西洋の魔女が身につけるような黒帽子に黒マントを身につけた。赤系
統の制服に対してなんだかミスマッチだ。
 店内の明かりを消して部屋を暗くする。そして魔法陣の周囲に配置した蝋燭に火
を灯す。
 左手に魔道書(?)を持って開くと、詠唱を始めた。
「………Neun………Woiss………Aure………Lulis………」
 漏れ聞こえる詠唱の内容まではよく分からないが、なかなか雰囲気は様になって
いる。
 俺はスフィーにそっと尋ねる。
「なあ、芹香さんの呪文て、どう思う。効果はありそうか」
「うーん、どうも魔法の体系そのものが違うからなあ」
 そういえばそうかも知れない。スフィーやリアンの魔法はどちらかというとお手
軽なメルヘン系という印象が強い。それに比べて芹香さんのは、本格的なオカルト
魔術のようだ。同列に論じる方が間違っているかもしれない。
「でも、魔力が魔法陣に集まって行くのが感じられます。聞いたことのない呪文で
すが、手順そのものは正しいのではないでしょうか」
「じゃあ、効果は期待できるわけね」
 結花が口を挟む。
「うん、この世界の人間が持っている魔力に対するハンデを、上手く呪文と魔法陣
で補っているわね。それにしてもここまで上手く魔力を操るなんて、とてもこの世
界の人間とは思えないなあ」
「でも芹香さん、何を召喚するつもりなんだろう」
「ええと、すみません。呪文体系自体が違いますのでよく分かりませんが」
 ぼそぼそと俺達が話し合っていると、隣から綾香さんがつんつんとついていた。
見るとシッと口に指を当てている。どうやらヒソヒソ話が過ぎたようだ。
「……Da………Krei………Il………Vite………」
 芹香さんは一心不乱に呪文を唱えている。その横であんなヒソヒソ話をしていた
んじゃやはり失礼にあたるか。
 その呪文の詠唱は長く続いた。
 十分か。一時間か。
 俺達の時間感覚もすでに怪しくなっている。
 芹香さんの顔はすっかり汗ばんだ。それでも微動だにせずに呪文を詠唱している
のはさすがだ。
 やがて魔法陣の紋様自体が光りだすのが見えた。照らし出された空間に、なにや
ら影らしいものが映りだす。
「………Ail………Von…………Kaizel………El………Gwen……
…Deenel!!」
 呪文が終わったのか、とても芹香さんの口から出たとは思えないほど力強い詠唱
が成された。見ると、魔法陣に照らし出された空間に、今度ははっきりと濃い影が
映っていた。
「う……そ……」
 結花もさすがに驚いている。
 おれも驚いた。影とはいえ、まさか本当に魔王を召喚したというのだろうか。
 芹香さんはさっそく現れた影に向かって、呼びかけ始めたようだ。悪魔とか魔物
とかを召喚した後には、その魔物に対して自分が支配者であることを宣言し、認識
させる手続きが必要らしい。
「…………」
『我を呼び出しし者は汝か』
「…………」
『我を召喚せし者よ、我が召喚の主旨を述べよ』
「…………」
『我が魔導の知識を伝えよ、とな。この世界の人間ごときが、我が魔導を受け継ぐ
ことが出来ると思うておるのか』
「ねえ、ちょっと雲行き怪しくなってきてない?」
「俺もそう思う。でもだからといって俺達がどうこう出来るものでもないし」
 綾香さんの言葉に俺も頷く。
 芹香さんと魔王の影の交渉は続く。
「…………」
『確かに汝は我を呼び出した。しかし我を支配してはおらぬぞ』
「……………………!!」
『笑止! 汝がごとき微弱な魔力で、我を支配すること敵わぬわ!!』
 影はそう宣告すると、芹香さんの方に向かって衝撃波みたいなものを放った。芹
香さんはその魔力を受け止め切れず、尻もちをついてしまった。
「お嬢様!」
「姉さん!」
 綾香さんとセバスチャンさんが芹香さんのところに駆け付けた。見たところ負傷
したわけではなさそうだ。
 見るとスフィーが肩で息をしている。どうやらとっさに魔王の衝撃波を魔法でキ
ャンセルしてくれたようだ。そうでもしなかったら芹香さんは負傷していたかもし
れない。
『ぬ……、まさか、この力は!?』
 自分の魔法をキャンセルした力を感じたのか、魔王の影はスフィーの方に振り向
いた。
 そして影は一瞬でさらに濃く大きくなり、スフィーに覆い被さる!
「スフィー!」
「スフィーちゃん!」
「姉さん!」
 俺達が何もできずにいた目の前で、それは起こった!
『スフィ──────────────────────────────!!』
「ふみゅう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??」
 影はスフィーを抱きしめると、いきなりすりすりし始めたのだ。
『スフィー、スフィー、スフィ──!』
「ふみゅう、ふみゅ、ふみゅみゅう〜〜〜」
 影に抱きしめられて、スフィーは息苦しそうだ。
 いやあ、なんか結花とスフィーの出会いのシーンを思い出すなあ。
「って、あんた、スフィーちゃんに何しているのよ!?」
 そう叫んだ結花が、影の後頭部にハイキックを放った。
 ジャストヒット。
 一撃で沈められ、地面に倒れて行く影。
 結花の奴、相変わらずスフィーの事となると無茶をするよなあ。
「大丈夫、スフィーちゃん。何かされなかった?」
「な、なんとか。大丈夫のようなそうじゃないような」
 と、いまだに息苦しそうにしているスフィー。
「こら、娘よ! いきなり人の頭を足蹴にするとは無礼にもほどがあるぞ!?」
 さっきまで倒れていた影が、いきなり立ち上がった。さっきまでは影のようにし
か見えなかったその姿も、今でははっきり分かる。悪魔とか魔王とかいったイメー
ジからはほど遠く、ひげを生やした威厳ある大男といった風情をしており、どこか
異国風の変わったデザインの衣装を身にまとっている。
「あんたこそ誰よ。私のかわいいスフィーちゃんになに抱き付いてるの」
「わしか。わしこそは偉大なる魔法世界・グエンディーナの王である!」
「やはりお父様ですのね」
 と声を上げたのはリアン。
「おお、リアン。お主も元気そうじゃな」
 そういうと、大男は顔をほころばせて、リアンの頭をなで始めた。
「「お父様〜〜〜!?」」
 俺と結花は声をはもらせて驚いた。
「それじゃあスフィーの……」
「……うん。私のお父様でもあるんだけど」
 魔王召喚の儀式をやって呼び出したのが、リアンやスフィーの親父だってえ!?
 しかもなんだ、このだらしなく相好を崩した大男がグエンディーナの王様だと言
うのか?
 そりゃ、魔法世界の王様だから、『魔王』と言えなくはないだろうけど。
「するとスフィー。お前、もしかすると……?」
「うん、王女って立場になるのかな。別に隠してたわけじゃないんだけどね」
 本当かよ? あのスフィーやリアンが王女様ぁ!?
 全然知らなかった。
「ねえ、あんたたち、さっきから何言ってるのよ?」
 恐る恐るといった感じで、綾香さんから声がかかる。
 芹香さんや綾香さんたち、さっきから俺達のやりとりを、得心がいかないという
表情で眺めている。
「えー、あー、これはですねえ」
 説明しようとして、ふと我に返る。
 一体何から話せばいいんだ!?


 その後、スフィーの親父さんは、俺の家に居座ることになった。
 芹香さんにいきなり召喚された上に実体化までしたおかげで、魔力が満ちるまで
の一ヶ月の間、帰還魔法をかけることができなくなったそうだ。
 せっかく両親が旅行で好き勝手やっていたのに、舅がいきなりできた気分だ。
 居候が二人に増えて、スフィーが父親似だと言う事がよく分かった。
 毎日の食費がさらに跳ね上がったからだ。
 芹香さんはその日からよくうちに通ってくるようになった。
 スフィーやリアン、スフィーの親父さんの魔王陛下に頼み込んで魔法を教わって
いるのだそうだ。
 呪文体系が違うとはいえ魔法に対する知識や技術は元から持っていたため、『ね
ずみ』レベルや『ねこ』レベルの魔法はすんなり習得してしまったらしい。今では
『いぬ』レベルの魔法を学んでいるそうだ。
 そういえば時々綾香さんもやってきては、『HONEY BEE』でなにかと結
花にちょっかい出している。この間は後輩の女の子を連れて来てはけしかれられた
そうだ。どうやら本当に結花と本気で戦ってみたいらしい。
 街角の小さな古美術商「五月雨堂」の愉快な生活は、もうしばらくは続いていく
のだろう。
 店の奥から聞こえてくる喧騒に耳を背けながら、俺はため息をそっとついた。




               魔王降臨!? (終)


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 魔法使いと聞いて芹香さんが思い浮かび、芹香→魔王召喚→魔法の王様と連想ゲ
ームで浮かんだ一発ネタです。
 それだけでは弱いので、一度は見て見たかった綾香対結花のバトルを追加してみ
ました。格闘の知識はほとんどないので結花のコンボが理に適っているかどうかは
知りませんが、まずまず気に入ったシーンになりましたね。
 書き始めようとしたのはいいがなかなか「まじ☆アン」世界に入り込めなかった
ので、「まじ☆アン」世界の解説みたいなものから書いていたら長くなってしまい
ました。「まじ☆アン」をやっている人には何を今更、という部分から始まってい
るのはそれが理由です。
 しかし内容のわりには長いですな。いちいち描写を詳しく書いていたらここまで
長くなってしまいましたね。




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