修学旅行のしおり 投稿者: FZ & BeLight
(修学旅行最終日 午後0:30頃 ホテルロビーにて) 
  
「浩之ちゃん!」 
 あかりがはずむ声でオレを呼ぶ。 
「な、なんだ!? あかり」 
「いよいよだね。自由行動!」 
 修学旅行で北海道に来てから、あかりはいやに浮かれていたが今のあかりはそれにも増してはしゃいでいた。 
「そうだな、いざ『札幌食い倒れツアー』だな!」 
「ち、ちがうよぉ〜、浩之ちゃ〜ん」 
「え? そうだっけ? 『札幌食い倒れツアー』で決まりだろ?」 
「…クマ」 
「え?」 
「クマ見にいくって…」 
 泣きそうな顔をするあかり。や、やべぇ、あかりはクマのことになるとマジだ。 
「ちっ、しょうがねぇなぁ。わかってるって。クマ喰いにいくんだろ?」 
「ちがうよぉ〜。見に行くんだよぉ〜」 
「何!? あかり、クマ喰い大会で優勝したくないのか!?」 
「そ、そんなの出たくないし、だいいちそんな大会無いよぉ」 
「そうか、そいつは残念だ。クマ喰いトレーナーとしてのオレの力を見せたかったのに」 
 まあ、あかりがクマ喰ってるところなんて想像したくないが。 
「なにくだらないこと言ってんのよ…ヒロ」 
「あれ? なんでクラスの違うお前がここにいるんだ?」 
「なんでって、自由行動一緒に行くから、オレのところに来い、って言ってたのあんたじゃない!」 
「そんなこと言ったか?」 
「言ったわよ! それに今は自由行動の時間なんだから、クラスなんか関係ないじゃない!」 
 腰に手をあて、指をオレの顔に突きつけながらまくしたてる志保をよそに、オレはあかりとの会話をつづけた。 
「ところで雅史はどうした? あかり」 
「もう少しで来ると思うよ」 
「ちょっとぉ! 二人して無視しないでよぉ!」 
 このうるさいのは、何とかならないのか…。できることなら、北海道の大地に埋めていきたいもんだ。 
「ごめんね、待った?」 
 背後から突然あらわれる雅史。いつもの事ながら、神出鬼没だ。 
「あ、雅史ちゃん」 
「よし、三人そろったな。そろそろいくか!」 
「ちょっと、三人って何よ!」 
 そんなわけで、オレたちは限りある自由行動の時間を満喫すべく、札幌の街にくり出した。 
  
  
(午後0:45頃 地下鉄構内にて) 
  
「で、どう行くんだ?」 
「ここから東豊線に乗って、大通駅で東西線に乗り継ぐんだよ」 
 雅史が地図も見ずに即答した。さすが雅史、下調べもばっちりだ。ばっちりすぎるぜ。 
「じゃあ、とにかく切符を買ってさっさといこうぜ。時間だってそんなにないんだしな」 
 切符を買い、自動改札を抜けたその時、背後から機械的な音声が聞こえてきた。 
「キップヲ オモテニシテ イレナオシテクダサイ」 
「えっ? なんで?」 
 戸惑うあかり。おおかた切符の裏と表を間違えて入れたのだろう。 
「しょうがねぇなぁ、早く行くぞ」 
「ま、待ってぇ〜。浩之ちゃ〜ん」 
「ったく、なんでこんな時に…。」 
 なにも北海道に来てまで…。その時また背後から機械的な音声が…。 
「キップヲ オモテニシテ イレナオシテクダサイ」 
 遊んでんのか? あかり…。 
  
  
(午後1:30頃 円山動物園前にて) 
  
 途中、道を間違えたりしたが、オレたちはなんとか円山動物園までたどり着くことができた。 
「おお、ここが悪名たかい円山動物園か…」 
「浩之、悪名は高くないよ」 
 雅史から軽いつっこみを受けるオレ。 
「それはいいとして…、良かったな、あかり! いよいよ目的のクマとのご対面だな!」 
「うん!」 
 オレの側には喜々とした表情を浮かべているあかりがいる。今日のあかりはやっぱりひと味違うぜ。なんていうか、目の輝きが違うな。クマの聖地『クマ牧場』に行けないことを残念がってはいたが、実物のクマ、それも本場北海道のクマを見れることが、相当嬉しいらしい。 
 クマを見るぐらいでそんなに喜べるものかとも思うが、あかりの嬉しそうな表情を見るのは悪い気がしない。 
「さっさと行くわよ、ヒロ!」 
 志保と雅史はいつの間にか受付のところまで行っている。 
「うっせー」 
 円山動物園では2時間ほどっていう計画だ、確かに時間は無駄にはできない。 
 オレは受付まで急ぎ、入園料を支払うことにした。 
 大人(高校生以上)600円、小人(中学生以下)が無料か…。 
 あかりを中学生にみたてて入園しようかと思ったが、さすがにそれは止めといた。 
「高校生3人と、うるさい女が一人です」 
 とりあえず妥当なせんで攻めとく。 
「だれよっ! そのうるさい女って!」 
 うしろで、『うるさい女』が騒がしい。 
「お前に決まってんだろ。他に誰がいるんだ?」 
「ちょっとぉ! このおしとやかとご町内で評判な志保ちゃんに向かってうるさい女とはなによぉ」 
「嘘つけ。お前をおしとやかだと思う町内なんてあるか」 
「なによぉー」 
 などという、いつも通りのやりとりを繰り返しながらオレたちはここ円山動物園に足を踏み入れたのだった! 
  
  
(午後1:40頃 円山動物園内にて) 
  
 円山動物園に足を踏み入れ、多少歩いて進んでいくと中途半端な遊園地の施設が見えてきた。 
「おー! こんなところにこんな中途半端な施設があるとは!!」 
 と誉めてるのか、けなしてるのかわからない言葉を吐くと、 
「ここの遊園地はね、元々ここにあった物じゃないんだよ」 
 と雅史が言った。 
「そうそう。昔は中島公園にあったんだよね!」 
 さらにあかりが続ける。 
「中島公園ってどういった場所なんだ?」 
 オレは二人して知ってるらしいその『中島公園』の事が気になり聞いてみた。 
「なに、ヒロ。『中島公園』も知らないの?」 
 と驚いたように志保が聞いてくる。志保まで知ってるのか? 
「しらねーな」 
「うっそー! 聞いた、あかり?この男『中島公園』も知らないんだって」 
「ふつうしらねーよ」 
「甘いわねぇ、ヒロ。『中島公園』って言ったら日本人はおろか全世界の人類の83.2%が知ってるのよ!(NASA統計) 当然よ! 常識よ!」(※嘘です) 
「そうなのか? あかり」 
「うん。そうだよ。今時赤ちゃんでも知ってるよ」(※知りません) 
 がーーーん。 
 そ、そうなのか? 
 そうだったのか? 
 オレだけが知らないことだったのか…。 
「落ち込んでるようね、ヒロ。仕方ないから、この志保ちゃんが特別に教えてあげるわ! そもそも中島公園ってのはね…」 
 …その後志保の講釈は5分ほど続いた。 
「というわけ。今でも『北海道神宮祭』の時は『北海道神宮』にでる屋台の数よりもたくさんの屋台が『中島公園』には建ち並ぶのよ」 
「浩之、うっかりしてたね」 
「なるほど…、中島公園のことはだいぶわかった」 
「んで、平成7年にこの施設は『中島公園』からこの『円山動物園』に移動させられたってわけ』」 
 と志保。続けてあかりが、 
「ちなみに『中島公園』の遊園地の跡地には、今は音楽ホール『Kitara』(キタラ)が建設されて在るんだよ。」 
 と説明してくれた。 
「『きたら』?変な名前だなぁ」 
 と言うと、志保が、 
「シッ! ダメよ、そんな事不用意に言ったら!」 
 と周りをキョロキョロ見渡しながら言い、続けて小声で、 
「札幌の人は結構、自治体上層部の建造物に対するネーミングセンスの悪さを気にしていてコンプレックスになってるらしいから、不用意にそんなこと言うと周りから一斉に襲われるわよ! 特にこの円山周辺は札幌を愛する人が多いから危険極まりないのよ!」 
「札幌ローカル番組のネーミングも、ひどいもんだよね」 
「雅史、あんたも言うわねぇ」 
 そ、そうなのか…。 
 札幌恐るべし、二度と不用意な発言をしないように気を付けねばな。 
「ところでお前ら、何でそんなに札幌に詳しいんだ?」 
 と聞くと、 
「え?」 
 とみんな驚いた後、決まりの悪そうな顔をして、 
「そんなこと、どーだっていいじゃない!」 
「そ、そうだよぉ。そんなことより早く次行こうよー」 
「うん、浩之そうしようよ」 
 と全員が口々に言い、話題をはぐらかされてしまった。 
 何でだ? 
  
  
(午後2:05頃 円山動物園内クマ館への路にて) 
  
「ここの動物園の『世界のクマ館』は昭和55年3月建設で、広さは1,641.12平方メートルあって、世界中のクマ類を一堂に展示して、擬岩、池などを配置した放飼場を主体に、檻式を組合せて、屋内には母クマが安心して出産できるよう産室を備えているんだよ。国内では他に例のない施設で、いつもプールで遊んでいる若いホッキョクグマのペアはいま一番の人気もので、あとはーコディァックグマの大きさは圧巻らしいよ」 
 クマ館を目の前に、取り憑かれたように話すあかり。 
「あ、あかり、よく、そこまで覚えたな…」 
「う、う〜ん、でも、このガイドにそう書いてあるよ」 
 い、いや、今、それを見ないで言っていただろ、あかり…。 
「あ、それにほら、わたしクマ好きだし…」 
 クマ好きもそこまでくると、立派なクママニアだな。恐るべしクママニア、クマ道はそこまで深いのか。 
「まぁとにかく、ここのクマ館は結構凄いって事だな。よしあかり早速行こうぜ」 
「うん!」 
  
  
(午後2:10頃 『世界のクマ館』にて) 
  
「うわー! 凄い大きいね、浩之ちゃん!」 
「そうだな」 
 オレたちは『コディァックグマ』と言うクマの前に来ている。 
 この『コディァックグマ』はヒグマの亜種でアラスカのコディァック島に生息しているらしく、ホッキョクグマに続いて大きいクマだ。 
 あかりはこの大きいクマが気に入ったらしく目を輝かせ見つめている。 
「かわいいねー」 
「そうか?」 
「そうだよ。目元とかも優しくてかわいいよ」 
 オレは、「そう見えたって、結局は凶暴なんだぜ」とか言ってやろうかと思ったが、純粋に楽しんでいるあかりを見て「ここにいる間は、邪魔をしないで存分に楽しませてあげよう」と柄にもなく思った。 
「やっぱり本場北海道の熊は違うよね!」 
 これはコディァックグマだよな? 
 北海道は本場か? 
 本場なのか? 
  
「こういうのも悪くないな」 
「そうだね。それに今日は晴れていて良かったよね」 
 と雅史。それに対し、 
「ああ」 
 とだけ答えた。ホントに今日は眩しいまでに晴れている。これで雨なんか降っていた日には救われなかったな。 
 そして、あかりはしばらくの間クマを見続けていた。 
「来て良かったな」 
 とあかりに言うと、 
「うん!」 
 と笑顔で答えた。 
  
  
(午後3:00頃 入り口へ向かう途中にて) 
  
「よし、そろそろ次のところに行くか!」 
「うん、そうだね」 
「ちょっと名残惜しいけどしょうがないよね」 
「まぁな、だが時間も無限にあるわけじゃないんだ。我慢しろよ」 
「うん…」 
 と寂しそうに答えるあかり。 
「ったく、しょうがねぇなぁ。また来ればいいだろ。夏に来れば今日見れなかった円形の小熊放飼場ってのも見れるかもしれないんだしな」 
「うんそうだよね」 
 まだ名残惜しそうなあかりだったが、そんな空気を一気に吹き飛ばす園内放送が流れた。 
「ピンポンパンポーン。お客様のお呼び出しを申し上げます。3名様でお越しの藤田浩之様。長岡志保様が動物園センターでお待ちです…」 
「あ、あいつは! 何かさっきから一言も話さねぇと思ったら迷子になってやがったのか!!」 
「し、志保ぅ…」 
「浩之、急ごう!」 
 北海道に来てまで相も変わらずのトラブルメーカーぶりだな全く。 
  
  
(午後3:10頃 動物園センター前にて) 
  
「遅いわよ! 何してたのよ、ヒロ!」 
「何してた? それはこっちの台詞だ! 高校生になってまで迷子になるなよな…」 
「迷子? 何言ってんのよ! 志保ちゃんの飽くなき学術的探求心を満足させるために周りを見ていたら、勝手にいなくなってたのはあんた達でしょ!」 
「ったく、しょうがねぇな。行くぞ」 
 と言い、歩き出すオレ。 
「ちょっとぉ! 待ちなさいよ!」 
 そう言い志保はオレの後をついてきた。 
  
  
(午後3:20頃 動物園入り口前にて) 
  
「さあて、次はどこに行く? とりあえずは、時計台とテレビ塔か?」 
「そうだね。でもお土産とか買うのはいつにしようか?」 
 と雅史が聞いてきた。 
「そうだなあ。…とりあえず時計台とテレビ塔の両方行くとして、その間に買おう」 
「うん。それでいいね」 
「じゃあ早速さっき降りた『円山公園駅』に向かおうぜ。いよいよ『札幌食い倒れツアー』のはじまりだな!」 
 と、オレは張り切って言った。 
「まだ、あきらめてなかったの? 浩之ちゃん…」 
「いい加減にしなさいよ、ヒロ…」 
「浩之…」 
 ちっ、わかったよ、そんな目でオレを見るなよ…。特に雅史な…。 
  
次回! 札幌お土産探索編 〜熊ボッコは何処に?〜 に続く! 

─────────────────────────────────────

どうも初めまして。初投稿ッス。
頑張って書いたので皆さん読んで下さい。感想などいただけると嬉しいかも。
これからもこの後編や別のSSを書いていきたいんでよろしくお願いします。

↓つまらないHPですが見に来て下さい。

http://www.alles.or.jp/~hajimef/