「痕」千鶴トゥルーエンド 〜真実は一つじゃない〜 投稿者:JJ(J)
(この作品は、一度「痕」の千鶴トゥルーエンドを攻略してから読むと、もしかすると、
面白いかも知れません。笑)



「……今夜は私、泣きながら眠ります。そして明日、目が覚めたら、きっと一番にあなた
を捜すでしょう。今夜のことが、夢であることを信じて……」
 私はゆっくりと手――というよりは「爪」を持ち上げました。当然「私」というのは、
柏木家当主にして鶴来屋旅館グループのうら若き美人会長である(普通美人って自分では
言わないものよね)柏木千鶴、私をおいて他にはいませんが。
 ……ってああ! ダメよ千鶴、いくら耕一さんを殺るのが辛いからって現実逃避しちゃ。
「耕一さん……あなたのこと……誰よりも好きだった……」
 これでもうあなたとはお別れです。
 アディオス、耕一さん。
 そのとき。
 ……ダッ!
「……耕一さん」
 耕一さんは、こともあろうに背を向けて、私から逃げ出したのです。
「……お願いです。逃げないで。もうこれ以上、私を辛い気持ちにさせないで」
 びゅんっ!
 ……あら? 失敗失敗。耕一さんを背中からざっくり殺るつもりが、怒りで勢い余って
耕一さんの目の前に立っちゃいました。てへ♪
 とりあえず照れを隠しながら、もっともらしいことを喋らなくてはと、私は慌てて文章
を組み立てながら、極力落ち着いた声音で喋りました。
「……耕一さん……お願い、無駄な悪あがきはやめて。鬼となった私からは逃れようがな
いことは、あなたもよく知っているはずでしょう。でも、どうしても死にたくないという
のなら……耕一さん、あなたも自らの鬼を呼び醒ましなさい。そして……私を殺してくだ
さい」
 ……ってええっ!? 私、考えながら、とんでもないこと喋っちゃってるぅ!?
 今のキャンセルです! ナシ! NG! やり直し!
「こ、殺せだって!? この俺に?」
 うう。成り行き上、頷くしかない……
「俺が千鶴さんを殺せるわけがないだろう!」
 ガガーン!
 こ……耕一さん! そこまで私のこと、愛してくださってるんですね? 私たち……ラ
ヴラヴなんですねぇ〜っ(はあと)
「……でしたら……私が……あなたを殺します」
 愛しい私の手にかかって死ぬのなら、本望ですよね。きっと(ぽっ)。
「……なんでだよ。なんで死ぬか殺すかの選択しかないんだよ……」

 1、死ぬ。
 2、殺す。

 ……あら? 今なんか、時空が微妙にゆがんだような……
「俺は死にたくないし、千鶴さんが死ぬ必要もない。きっとなにか他にいい解決策がある
はずだ。きっとなにか……」
 ……っと、集中集中。最初のほうちょっと聞き逃しちゃいましたけど。
「いえ……ないんです。父も叔父さまも、それを信じて、自らの中の鬼と戦い続けました。
でも、結局最後は、苦しみ抜いて死んでいったのです。その様は、哀れ以外のなにもので
もなかった……耕一さん、私は、そんな風に苦しむあなたを見たくないんです……」
「だからって、そんな焦らなきゃならない理由はないだろう!?」
 耕一さん、逆ギレ入ってますね。
「……あなたはすでに、8人もの人間を殺しているわ。……あなたの鬼は、父や叔父さま
より、はるかに強く――」
 長いわねぇ……そうだ!
 早送りしちゃえ♪ えいっ。(キュルキュルキュルッ!)
「――そうなる前に、せめて私が、私がこの手であなたを葬ってあげたい……」
 ……ふう、長いセリフを言いきるのは疲れるわ。って喋ってなかったわね。うふふ♪
「だから、違うんだって! 何度も言うように、あの化け物は俺じゃないんだ! 俺とは
違う、全くの別人なんだっ!」
 ……もう、昔っから聞き分けないんだから。ぷんぷん。
「……耕一さん……お願いです。このまま素直に私に殺されてください」
「俺は死にたくない! まだ、やりたいことだって、たくさんあるんだ!」
 ダッ! と耕一さんは再び逃げ出してしまいました。
「……どうして……解ってくれないの」
 それにしても、まだやりたいことだなんて。一体なんなのかしら?  もしや……
 私たち姉妹で、一大ハーレムを築き上げるとか!?
 でなければ「調教してやるぞぅ」とか言って、私にあんなことやこんなことを……!
(ぽっ)
 ……あ、耕一さんがコケました。
 でも、すぐに体勢を立て直して、水門の方に向かいます。
 どうやら、もう、解ってくれそうにありませんね。

 ……耕一さん、あなたを、殺っちゃいます。

 ひゅおうっ!
 耕一さんの背後に素早く降り立ち、気配を殺します。そーっと……
「耕一さん……」
 ゆっくりと振り向く耕一さん。
「ち、千鶴さん……」
「……ごめんなさい……耕一さん」
 それが、お別れの言葉でした。
 ズバッ!
 耕一さんが、水門の上を転げ、そして落ちていく。
 ひらひらと、まるで壊れた凧のように、ゆかいなカッコで落下していく。
 ……すべて終わった。
 あでゅー。耕一さん。

 ……どれくらい時間が経ったでしょうか。
 ダンッ!
 突然横でそんな大きな音がしたものだから、うつらうつらと眠りそうになっていた私は、
瞬間的に目が覚めてしまいました。
  しかもこの気配は――!
「……ま、まさか……」
 あれ? 耕一さんは殺ったのに、水門の上に耕一さんは鬼モード入って水面に向かって
まっさかさま……
「……そ、そんな……こ、耕一さんじゃ……ない……!?」
 目の前の鬼は、「やっと解ったのかこの女は」的な眼で私を呆れたように見つめている
ように見えなくもありませんでした。
「耕一さん……ではなく……全く……別の鬼……?」

 千鶴、ショーック!!

 ああああ、なんてことなの!? 愛しのラヴラヴ耕一さんが犬死にだなんて!
 急いでサルベージ業者に連絡して、耕一さんを引き揚げてもらわなきゃ!
 いえ、レスキュー隊! レスキュー隊の方が速いわ。きっと!
 あああぁ思考がまとまらないぃ……
「グオオオオオオーッ!」
 鬼が、「いい加減にしろよこのアマ」的な咆哮を上げ、さすがの私もムッとしました。
 何よ! 何よ「このアマ」って!
 ――とか思ってるうちに、先にあっちの方から仕掛けてきました。
 やばっ! と咄嗟に後ろに跳びましたが、いかんせんタイミング悪く、足を掴まれてし
まいました。
「うっ!」
 鬼はそのまま私を振り上げ……ってちょっと待って!? 悠長に説明している場合じゃ
――
 ドオォーンッ!
 痛ぁーーーーーっ!
 バアァーンッ!
 いったぁーーーーーーーーーーーっ!
 こっ、これ以上されたら、私、壊れちゃいますぅ!
 ……あら下品。
 放しなさいよこの馬鹿!(げしっ!)
 とりあえず顔面にヤクザキックを見舞い、離れて距離を置きます。基本ですね(?)。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
 ……なんか鬼が「ニタア〜ッ」と悦んでいます。この鬼、絶対「S」ですね。
 ……………………

(戦闘中)

 この! くぬくぬっ! もう、しぶといわね! 素直に殺られちゃいなさい!
 ……ダメ! 本調子じゃないから、いまいち力が出ないわ!
 ああ、こんな時にア○パ○マ○がいれば!
『さあ、僕の顔を食べるんだ!』
 ……そういえば最近食べてないな〜。
 ドオオンッ!
「くぅっ!」
  不意を突かれ、私はなすすべもなく地面に倒れてしまいました。
 余計なことを考えていた代償でしょうか……?
 一瞬意識が薄くなりながらも、そんなことを考えていました。
 ああ……こんなときに伝説の最強格闘呪術「グレ○シー呪術」が――
 ドオオンッ!
「あぐっ!」
 鬼の「なんやねんそらあああぁっ!」的チョッピングライトが私のボディをえぐります。
 ……ところで何で関西弁なのかしら?
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!」
 「だから全部キサマのドタマん中の勝手な想像なんじゃああっ!」と、鬼が叫んでいる
――ように聞こえなくもありません。
 バキッ!
 ドカッ!
 グシャッ!
 ほ――本気でまずいですぅ!
 ち、ちちちちち……


『千鶴、まいっちんぐ〜!』



・
・
・
「……………………」
 ――なんちゃって〜っ! てへっ♪
「……………………」
 ……あれ?
「……………………」
 ウケなかったのかしら……?
 もしもぉし……
「……………………」(鬼)
「……………………」(私)
「……………………」(鬼)
「……………………」(私)
「…………………グ」(鬼)

 鬼が、本気で怒ったようです。

 ――えっ? その爪? ちょちょっとまってそんなの刺さったら痛いに決まってるじゃ
ないですか! ストップストップちょっとタンマ〜!


 ザシュッ!



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