大切なもの 雨が降っています。 今日洗った洗濯物は乾燥機を使って乾かしました。 本当は太陽の光で乾かすと一番良いのですが仕方ありません。 私は洗濯物一つ一つを丁寧に畳んでいきます。 ふと時計に目をやるとちょうど正午を過ぎた所でした。 今ごろ浩之様はお昼休みで、私の作ったお弁当を食べているはずです。 その時計の横には写真立てが置いてあります。 中には昨年テストとして高校に通っていたときに、浩之様、マルチさんそして私の3人でゲームセンターの前で撮影した写真が入っています。 (浩之様の幼馴染である神岸あかり様に撮っていただきました。) 写真を撮ってから程なく私はこの家に来ました。 早いものでもう一年が過ぎています。 私が浩之様の所でお世話になることになったのは、マルチさんを作られた長瀬主任がこう仰ったからです。 「マルチは確かに人に近い存在だが、あくまでも私たちがそう作ったに過ぎない」 「だが君はそうじゃない。自分自身で私たちが作ろうとした物に近づいているんだよ」 「だからこそ、これから君がどう成長するのかを私は見てみたいんだ」 その実現の為に長瀬主任は大変ご苦労なさったのですが、おかげで私は浩之様のお世話をさせて頂くことが出来るようになりました。 最初に長瀬主任と私がこの家を訪れた時は、浩之様は大変驚かれていました。 長瀬主任がこう話されたからです。 「ウチの上の娘だけど、もらってくれないかな?」 父親公認の押しかけ女房と言った所でしょうか。 その後で浩之様は長瀬主任のお話を聞いた上で、私が浩之様のそばにいることを許してくださいました。 そのとき浩之様は私がお世話になることに一つだけ条件を出されました。 それは私が浩之様をどう呼ぶかについてでした。 「俺は様付けなんてされると落ち着かなくて嫌だから、せめてさん付けにして欲しいんだけど」 そのため浩之様の希望に合わせて、私から話しかける場合は「浩之さん」と呼ばせて頂いています。 浩之様と買い物などで外に出ているとき、私がそう呼ぶと周りの方々が不思議そうな顔でこちらを見ているのですが、浩之様は全く気にしていません。 私はそのことを少しだけ喜んでいるようです。 気づくと私の洗濯物を畳む手は止まっていました。 写真を見てから今まで、この一年の出来事のいくつかを思い出していたようです。 実は1年前の記録は既にバックアップ用のDVDにコピーされていて、私のメモリーからは消去済みなのですが不思議なことに時々こうして見ることが出来るのです。 つい先日機能チェックの為に長瀬主任に会ったとき、このことを話して改めてメモリーを確認して頂きました。 「一年前の記録は全てバックアップにコピーされていて、君の中には残っていないね」 それでは私が見ているものは何なのでしょうか? どこかに異常が起きているのでしょうか? 「機能的におかしな所はどこにも無いよ」 それでは一体・・・。 「記憶に残っているんだろうね」 記憶?、ですが私は・・・。 「大切なものを忘れたくないのは一緒だろう」 大切なもの・・・。 私の大切なもの・・・。 浩之様。 浩之様のそばにいる温かい皆さん。 マルチさん、長瀬主任、開発チームの皆さん。 浩之様と過ごした毎日 皆さんと過ごしたこの一年。 全てが大切で、全て忘れたくないことばかり。 「例えメイドロボでも大切なものがあれば、記憶に残ることはあると思うよ」 長瀬主任は私の目を見ながらそうお話になりました。 私は畳み終えた洗濯物を片付けて、外出の用意をします。 今日は夕食の材料を浩之様と一緒に買う約束をしているのです。 私は家を出ると浩之様と約束した場所へ向かいました。 大切な人のそばに少しでも長くいられる様に。 <終> ---------------------------------------------------------------------- 初めまして&申し訳ありません。 こんな下手なものを載せるのは非常に心苦しいのですが、小説のようなものを書きたいと思って、早数年。 取りあえず最後までかけたのは今回が初めてだったものですから、一度ここに載せてみたいと思っていたのです。 次回があれば、もう少しは良い物を出したいと思っていますので、今回はご容赦ください。m(__)m