破伝−痕−外伝「凄いであります!軍曹殿!」 投稿者: HMR−28
…風が止んだ。

ピッ

「そこかぁっっっ!!!」

俺は即座に頭上の目標に向かって跳んだ。
いや、もしかするとその音が聞こえる前に既に跳んでいたのかもしれない。
とにかく俺は凄まじい反応速度でそれを捉えた。

バキィィィィィ!

そして「それが発射されるよりも早く」俺は目標を握りつぶした。
頭上の大木に仕掛けられていた対戦車用ロケットランチャー。
俺が握りつぶしたのはその発射管だ。
電子制御式だったおかげだろうか、暴発は避けられたようだ。

カチッ

しかし安堵したのも束の間、今度は後ろから何かの作動音が聞こえる。
今から目標を破壊するは困難だと判断した俺は、即座にその場をから飛びすさった。

タタタタタタタタタタタタ!!!…

自動小銃の軽快な音が辺りに響く。
俺は一旦死角に隠れ、そのマズルフラッシュを確認する。
そしてまた跳ぶ。

ガァァァァァァァン!

固定目標用にセットされていたそれは、こちらに照準を合わせ直すこともなくあっさりと破壊された。

「これで…一体幾つ目だ…」

奥へと続く『参道』を見ながら一人ごちる。

「ぎゃひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

とその時、後ろの方から派手な悲鳴が聞こえた。

「おーい梓、生きてっか〜?」

「生きてっか〜?じゃない! 早く助けろよ!」

まるで『正しいトラップの引っかかり方』という本に見本としてでも載っていそうな綺麗なポーズで、
梓が木の上からロープで足から宙づりにされている。

「そのままの方が良いんじゃないか? 少なくともそれ以上の危険は無いと思うぞ。」

「ふざけてないで早くお・ろ・せぇぇぇ!」

「全くやれやれだぜ… 
 …いや、待て梓、この格好のまま固定してイロイロ試すってのはどーですかお客さん!?」

ばきぃっ!

「速攻で降ろしますので許してください」

梓にグーで殴られ早々と野望を断念させられた俺は、ロープを切断してすぐさま梓を木から降ろしてやる。

「全く…さっさと助けりゃ良いのに…
 大体千鶴姉だったら悲鳴をあげる前に助けに入ってる癖に」

梓がロープに取られた足首をさすりながら文句を言ってくる。

「そりゃもう千鶴さんだったら、ワープ9ぐらいでもうバッチリですよ旦那!」

爽やかな笑顔と共に親指を立てながら言ってやる。

「今日の耕一…なんかヘン…まぁ、それはどうでも良いんだけど」

「良いのか…」

「千鶴姉は?」

「あれ?梓と一緒にいたんじゃなったのか?」

「途中まで一緒だったんだけど、耕一が心配だから先に行くって。」

梓が辺りを見回しながら言った。

「うーん、俺は見てないけど…」

俺は後ろの道を確認してみた。
参道はこの一本しか無く、脇道は全くない。
よって梓も俺も見なかったということは…

「迷子になったのかも…」

心配気な顔で梓が言う。

「まさか、ここまでは完全な一本道なんだぞ。
 迷おうにも迷いようが無いじゃないか?」

「甘いよ耕一!
 千鶴姉なら『私の前に道など無い! 私の通った後が道になるのだ!』
 って言って自分で道を切り開いてでも迷子になるに決まってる!」

「うう…、そうかもしれない…」

何故か納得してしまう。

「はぁ…大体ここに来るって言い出したのは千鶴姉なのに…
 当の本人が迷子になってどうするんだか…」

「唯一楓ちゃんと初音ちゃんが来てないのが不幸中の幸いだなぁ…」

『はーっ…』

二人してため息をつく。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

『初詣に行きませんか?』

事の始まりは千鶴さんのその一言だった。
正月三日も終わり、そろそろ学校も始まろうかという頃だ。
既に初詣はみんなで近くの神社に行ったのだが、
千鶴さんは近くに新しく珍しい神社を見つけたらしかった。
俺としてはもう断る理由は全く無いので即座にオーケーし、
その日暇だった梓を加え、出かけることにした。

しかし俺はその時不審に思うべきだったのだ。

出かける際に千鶴さんが晴れ着でも普段着でもなく、
何故か『迷彩服と軍用ヘルメット』に身を包んでいたこと。
そしてその手には『怪しげな古文書』が握られていたこと。

今思うと、街を歩いてる間かなりの数の通行人に不審な目で見られていた気がするが…。(気付けよ)

実際梓は家を出る段階から異様に行くのを嫌がっていたようだが、
千鶴さんの「熱意ある説得」により同行を余儀なくされた。

『ここがそうです』

裏山の一本杉から東に100歩とか、ドクロ岩から南に1000歩とか、
太陽が中天に来たときに重なる影から北に10000歩とか、
なんかそーいう感じのことをそれこそ悟りを開いて賢者になれるほど繰り返した後、
唐突に目的地に着いた。
今考えれば目的地に着かないほうがまだ幸運だった気がする。

まず、鳥居らしきものをくぐった時点で帰り道につながる吊り橋が爆破された。
これで自動的に参拝客は前に進むことしか出来なくなったわけだ。
見事な集客策だと言えよう。
そして参道に続く石段を登り終えた先の看板には素晴らしい達筆で

【この先地雷原!死ぬぜ!】

と書かれてあった。
参拝客のチャレンジ精神をくすぐる見事なキャッチコピーだ。
全く信じて無かった梓も、一回地雷を踏んでからは素直に現実を受け入れたようだ。
その後も、「いきなり催涙ガスが吹き出す床」や「ピアノ線に引っかかると撃ってくるボウガン」
「空からいきなり降ってくるナパーム弾」「目からレーザーを発射する狛犬」から
「落とし穴」「転がってくる巨大な岩」「金だらい」「急に平らになる石段」
まで多彩なアトラクションが用意されていた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

そして現在、ここに至る。

「次はジブラルタル海峡か龍神池か…」

「ん?耕一、なんか言った?」

「いや、独り言だよ。」

「ふーん、でもほんと千鶴姉どうしようか…」

「どうしよう…って探すしか無いだろう」

「うーん、でも探しようが無いんじゃどうにもならないね…
 …全くあの偽善者仮面ときたらっ!」

ブゥゥゥン…

その時、まるで空気が振動するような音が聞こえた。

「梓ぁ!」

「え?あ?」

ばきぃぃぃっ!

俺は梓にとっさに蹴りを入れる。
為すすべもなく吹っ飛ぶ梓。

「なにすんだこのボケ耕一ぃぃぃぃぃ!」

その瞬間。

ズシュゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァァァァァ!

白い光が辺りに洪水の様に溢れ、少し遅れて衝撃波が辺りを震わせる。
そしてそれらが全て終わった後に残ったのは馬鹿でかいクレーターだけだった。

「核ミサイルとは…やるなブライトっ!」

ばきっ!

「嘘付くなっ!」

梓の容赦ないツッコミ。

「しかしここまで敵の迎撃が激しいとは…
 そろそろ本拠地が近いということか…」

「あたしたち、何しに来たんだろう…」

涙を流しながら梓。

「とにかく先に進んでみるか、
 これだけ人為的な罠が仕掛けられているってことは、
 どこかに外へと繋がる道があるはずだしな。
 千鶴さんも先を目指していることは確かなんだから」

「気は進まないけど、そうするしか無いみたい…」

そして俺達は先に進んだ。
途中梓が罠に引っかかったり、虚ろな目をして泣き出したり、いきなり笑い出したりしたが、
概ね俺は無事に本殿らしきところにたどり着いた。

だがその前に立ちはだかる影が一つ。
…どう表現したらいいのだろう。
とにかくでかかった。
あちらこちらに見られるのは火器の発射管だろうか。
そして足らしきものが六本。
全体的に有機的なデザインをしている。
はっきり言ってグロテスクだ。
黄色と黒のカラーリングがそのグロテスクさをより引き立てている。
頭部(らしきもの)には複合センサーのようなものが取り付けられているようだ。
しきりに動いてこちらを捕捉しているように見える。
そしてさらにその頭部の上にはご丁寧に名札が付いていた。

『次郎神社御神体
 最終防衛自動迎撃兵器−無人くん−』

俺は梓に振り返って言った。

「無人らしいぞ」

「だから何なんだっ!」

「いや、千鶴さんがいないかなと思ったんだけどなぁ」

「いくら千鶴姉でもこんなのの側にのほほんとしてられるかっ!」

「まぁ、これをどうかしないと千鶴さんを探すことも出来ないしな。
 …やるか!」

プシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!

俺が鬼の力を解放するのに反応したように、
その最終(後略)とやらが白い蒸気を吐きながら立ち上がる。
アクティブ状態を告げているのだろうか、体のあちこちに白い光が点っている。
さらに、その体の中心に一際明るい白い光が煌めく。
そして、つい先ほどにも聞いた音が。

ブゥゥゥン…

「ってこりゃやばいぞっ!
 梓!後ろに下がれっ!」

「言われなくてもっ!」

そして予想通り、白い光が辺りを薙ぎ払った。

ズザァァァァァァァァァァァァァァァァ!

形容しがたい音を立て、その光が地面を蒸発させていく。
そしてその光が消え去ったあと、辺りの地形は一変していた。

「洒落にならんぞ…こりゃ」

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
 千鶴姉のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ年増!」

『誰が年増よっ!』

そんな声が最終(中略)兵器の中から聞こえた。

「って…」

梓の表情が変わる…

「出てこんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

絶叫する梓。
そしてハッチ?が開き、中から現れたのは…

「てへっ☆」

無論千鶴さんだった。

「無人じゃないじゃないかぁっ!」

「耕一、あんたは黙ってろっ!」

「イエッサー!」

これ以上殴られる前に俺はおとなしく従った。

「どういうつもりだ千鶴姉ぇぇぇぇっ!?」

「えーと…」

千鶴さんはばつが悪そうに懐から一枚の紙を取り出し、それをこちらに見せた。

「大掃除の後に古い荷物を整理してたら、こんな物が出てきたの。」

どうやら千鶴さんが持っていた例の古文書の一枚の写しらしい。
解読した文章が書かれてある。

         『−次郎神社御利益−』

『汝、望みを成就させることを欲するならば、我が社へ来るべし。』
『賽銭無用。供物は苦難に立ち向かう魂のみ。』
『その魂を御前に示せば、汝の願いは必ず成就されるであろう。』
『注:苦難は大きければ大きい程良し。』

と書かれてあった。

「つまり…」

梓が…唸るようにして言う。

「というわけで、あの、ここで是非耕一さんにして欲しい願い事があって…もうっ恥ずかしいっ!」

いやいやするように体を捻る千鶴さん。

「全てあんたが仕組んだことかぁぁぁぁぁぁぁ!」

「仕組んだなんで…せっかく心を込めて作ったのにっ!」

「心を込めてブービートラップを張るなぁぁぁぁぁ!」

「大丈夫よ。全部模擬弾だから殺傷能力は無いわ。」

にっこり微笑んで言う千鶴さん。

「模擬弾が地面を蒸発させるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「酷いっ!
 耕一さん!
 梓が私のことを虐めるんですっ!」

千鶴さんが俺に抱きついて言ってくる。
そして俺は爽やかに答える。

「梓、お前の負け」

「おのれらはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「梓、そんなに気に入らなかった?」

千鶴さんが申し訳なさそうに梓に聞いた。

「当たり前だろっ!
 あたしにゃなんの関係も無いじゃないかっ!」

「邪魔者を消し去ることって重要よね〜」

微笑みながら千鶴さん。

「んで最後はそれかいっ!
 この偽善貧乳年増マスターめっ!」

…俺は急激に温度が下がっていくのを感じてその場を数歩離れた。

「…梓、覚悟は出来てるわね?」

またも微笑みながら言う千鶴さん。
しかしその背後にはどす黒いオーラが立ち上っている。

「ふふふふふふ………やらいでかっ!」

梓が逝くところまで逝ってしまったような目で言う。

「梓…私の名前の本当の由来を知ってるかしら…?
 『鬼』が『怒』ると書いて『千鶴』
 それが…私の本当の名前よっ!」

千鶴さんが訳の分からないことを口走る。

「上等だコラァァァァァァァ! 
 光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

憎しみのオーラ力でハイパー化している梓を横目に見ながら、
俺はこれから起きるであろう惨劇を予想し、目の前が暗くなった。
目の前の現実から目を逸らすようにして空を見上げる。
そして俺は、全ての意識を閉ざした。

『えいえんはあるよ』

終劇(ぉ

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Some days after…

「千鶴さん、そう言えばあの兵器群は一体どこから…?」

「あ、あれですか。
 社に地下室があって、そこにたくさんあったんです。」

「一体なんの神社だったんだろう…(汗)」

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