破伝−痕− 鬼狩伝 投稿者: HMR−28


 第一章 「雨」



 …いや、正確には何も無かった訳では無い。
恐らく一生に一度自分の目で見れるかどうか、というような代物が、そこにあった。

柏木家があったと思しき場所にバカでっかい「クレーター」があった。

…そう、月の表面とかにある、アレだ。
しかも、多分まだ出来たばかりの。
その証拠にまだあちこちから煙が立ち上っている。

…つまり柏木家が消えて代わりにクレーターが出来たというわけで…

「……………………。」

 あまりといえばあまりな事態に、俺は千鶴さん達を探すのも忘れ、
茫然自失状態でそのクレーターを眺めていた。

 …その時

「耕一さん!危ない!」
「耕一ぃぃぃ!逃げろぉぉぉ!」

 同時に千鶴さんと梓の声が聞こえた。
俺は瞬時に鬼の力を解放し、その場を飛び退く。

ザッシュゥゥゥゥゥ!!!

 地面をえぐるような音、そして衝撃。
…何とかかわせた!?…
しばらく滞空した後、足がぬかるんだ地面を再び捉える。

「柏木耕一か?」

 声が聞こえる。
だが俺にはその質問に応える余裕など無かった。

「どうやらそのようだな」

 声の主は激しい雨の降り注ぐ闇の中、
立ち上る煙と水蒸気を身に纏い、クレーターの中心に悠然と立っていた。

…くっ!ここからじゃ顔が良く見えない!
…あいつがやったのか!?

「早く逃げて耕一さん!
 その男の狙いはあなたなんです!」

「逃げろ耕一ぃぃぃ!」

 瓦礫の陰から千鶴さんと梓が姿を現す。
二人ともかなり傷を負っている。

「千鶴さん!梓!」

俺が千鶴さん達を振り向いたその時

「…」

先ほどの声の主が無言で耕一に向かって拳を放った。

「愚か者め…
 敵を目前にして、他の者に気を取られるとは…」

ドスッ!

 耕一の腹部に突き刺さる拳。
だが…

「…お前がやったのか?」

静かに、そして強く自分の体に力が満ちている。

…一年ぶりだ…

「ほう、我が一撃を正面から受け止めたか」

 声の主は感心したように言った。
その拳は当たる一寸前で耕一の両手によって受け止められていた。

「お前がやったのかと聞いているんだ!」
 
 声の主を見る。
顔が見えなかったのは当然で、声の主は黒覆面に黒装束という時代錯誤な格好でその身を固めていた。

「だとしたらどうする?」

 面白がるような口調で、声の主。
自分の体が恐ろしい程の熱量を発しているのが分かる。
同時に質量さえも増加しているのが感じられた。

「お前を倒す!!!」

−そして、俺の中の鬼が目覚めた−

「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 
 雷光の照らす中、巨大な獣の姿が咆吼を上げる。
地球上のどんな生物も抗うことの出来ない圧倒的な力。
全てを切り裂く爪。
全てを砕く拳。
全てを破壊する力。
俺は今それを解放した。

「ふふ…やはり真なる鬼か、
 …実に久しい…来い狩猟者!」

…な!? こいつエルクゥのことを知ってるのか!?…

 しかし考える暇も無く奴がこちらに襲いかかってきた。
正面から右、流れるようにして奴が踊り来る。
しかしそんな動きなど今の俺には関係ない。
目の前にいるこいつに対してこの腕を振り下ろす、ただそれだけで十分だ。

ブォンッ!

「!」
 
 奴は何事も無かったようにようにそれを避けた。
しかも「人間の動き」で。
決してエルクゥなような常軌を逸した動きでは無かった。
まるで俺の腕の方が奴を避けたかのような錯覚に囚われる。

「それでは遅すぎる」

ドスゥッ!

 奴が腕をかわして俺の懐に入る。
そしてその掌底がいとも簡単に俺を弾き飛ばした。
完全なエルクゥ形態を取っているこの「俺」をだ。
常識の麻痺したこの空間の中で俺は完全に訳が分からなくなっていた。

…一体こいつは何者なんだ!…

 だがやはり考えてる暇はない。
吹き飛んでいる最中に体勢を整え、そのままぬかるんだ地面を蹴って攻撃態勢に移る。

…相手はまださっきの掌底を放った体勢から立ち直ってない!
…このタイミングなら当たるはず!

俺は空中から全質量をかけて爪を振り下ろした。

ガイィィィィィィィン!

 しかしその爪は奴によって防がれていた。
避けられたのではなく「受け止められていた」のだ!
そしてそのまま俺を弾き返す。

ギィィィィィィィィン!

 耳障りな金属音を立てて、俺の爪は弾き返された。
俺はそのまま一旦距離を取って着地する。
そして奴を見た。

「やはり…狩猟者。
 素手ではそうそうやらせてはくれぬか…
 では私も存分にやらせてもらうぞ。」

 奴の手には一振りの刀が握られていた。
いや、握られていたという表現は正しくない。
奴の手から生えていたという方が正しい。
有機的なフォルムを持つそれは、奴の両手と完全に一体化していた。
刀というのも、その曲線を持ったフォルムからの連想に過ぎない。
そしてその華奢とも言える刀身が俺の全質量をかけた一撃を弾き返したのだ。

「まだ名を名乗ってなかったな」

刀を正面に構えながら奴が言う。

「私の名はデュルゼル」

依然、激しい雨が地面を叩いている。

「鬼を狩る者の一人だ」

雷鳴が辺りに轟いた。



第二章 「雷」に続く


 破伝−痕− 「鬼狩伝」

 第一章 「雨」



 …いや、正確には何も無かった訳では無い。
恐らく一生に一度自分の目で見れるかどうか、というような代物が、そこにあった。

柏木家があったと思しき場所にバカでっかい「クレーター」があった。

…そう、月の表面とかにある、アレだ。
しかも、多分まだ出来たばかりの。
その証拠にまだあちこちから煙が立ち上っている。

…つまり柏木家が消えて代わりにクレーターが出来たというわけで…

「……………………。」

 あまりといえばあまりな事態に、俺は千鶴さん達を探すのも忘れ、
茫然自失状態でそのクレーターを眺めていた。

 …その時

「耕一さん!危ない!」
「耕一ぃぃぃ!逃げろぉぉぉ!」

 同時に千鶴さんと梓の声が聞こえた。
俺は瞬時に鬼の力を解放し、その場を飛び退く。

ザッシュゥゥゥゥゥ!!!

 地面をえぐるような音、そして衝撃。
…何とかかわせた!?…
しばらく滞空した後、足がぬかるんだ地面を再び捉える。

「柏木耕一か?」

 声が聞こえる。
だが俺にはその質問に応える余裕など無かった。

「どうやらそのようだな」

 声の主は激しい雨の降り注ぐ闇の中、
立ち上る煙と水蒸気を身に纏い、クレーターの中心に悠然と立っていた。

…くっ!ここからじゃ顔が良く見えない!
…あいつがやったのか!?

「早く逃げて耕一さん!
 その男の狙いはあなたなんです!」

「逃げろ耕一ぃぃぃ!」

 瓦礫の陰から千鶴さんと梓が姿を現す。
二人ともかなり傷を負っている。

「千鶴さん!梓!」

俺が千鶴さん達を振り向いたその時

「…」

先ほどの声の主が無言で耕一に向かって拳を放った。

「愚か者め…
 敵を目前にして、他の者に気を取られるとは…」

ドスッ!

 耕一の腹部に突き刺さる拳。
だが…

「…お前がやったのか?」

静かに、そして強く自分の体に力が満ちている。

…一年ぶりだ…

「ほう、我が一撃を正面から受け止めたか」

 声の主は感心したように言った。
その拳は当たる一寸前で耕一の両手によって受け止められていた。

「お前がやったのかと聞いているんだ!」
 
 声の主を見る。
顔が見えなかったのは当然で、声の主は黒覆面に黒装束という時代錯誤な格好でその身を固めていた。

「だとしたらどうする?」

 面白がるような口調で、声の主。
自分の体が恐ろしい程の熱量を発しているのが分かる。
同時に質量さえも増加しているのが感じられた。

「お前を倒す!!!」

−そして、俺の中の鬼が目覚めた−

「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 
 雷光の照らす中、巨大な獣の姿が咆吼を上げる。
地球上のどんな生物も抗うことの出来ない圧倒的な力。
全てを切り裂く爪。
全てを砕く拳。
全てを破壊する力。
俺は今それを解放した。

「ふふ…やはり真なる鬼か、
 …実に久しい…来い狩猟者!」

…な!? こいつエルクゥのことを知ってるのか!?…

 しかし考える暇も無く奴がこちらに襲いかかってきた。
正面から右、流れるようにして奴が踊り来る。
しかしそんな動きなど今の俺には関係ない。
目の前にいるこいつに対してこの腕を振り下ろす、ただそれだけで十分だ。

ブォンッ!

「!」
 
 奴は何事も無かったようにようにそれを避けた。
しかも「人間の動き」で。
決してエルクゥなような常軌を逸した動きでは無かった。
まるで俺の腕の方が奴を避けたかのような錯覚に囚われる。

「それでは遅すぎる」

ドスゥッ!

 奴が腕をかわして俺の懐に入る。
そしてその掌底がいとも簡単に俺を弾き飛ばした。
完全なエルクゥ形態を取っているこの「俺」をだ。
常識の麻痺したこの空間の中で俺は完全に訳が分からなくなっていた。

…一体こいつは何者なんだ!…

 だがやはり考えてる暇はない。
吹き飛んでいる最中に体勢を整え、そのままぬかるんだ地面を蹴って攻撃態勢に移る。

…相手はまださっきの掌底を放った体勢から立ち直ってない!
…このタイミングなら当たるはず!

俺は空中から全質量をかけて爪を振り下ろした。

ガイィィィィィィィン!

 しかしその爪は奴によって防がれていた。
避けられたのではなく「受け止められていた」のだ!
そしてそのまま俺を弾き返す。

ギィィィィィィィィン!

 耳障りな金属音を立てて、俺の爪は弾き返された。
俺はそのまま一旦距離を取って着地する。
そして奴を見た。

「やはり…狩猟者。
 素手ではそうそうやらせてはくれぬか…
 では私も存分にやらせてもらうぞ。」

 奴の手には一振りの刀が握られていた。
いや、握られていたという表現は正しくない。
奴の手から生えていたという方が正しい。
有機的なフォルムを持つそれは、奴の両手と完全に一体化していた。
刀というのも、その曲線を持ったフォルムからの連想に過ぎない。
そしてその華奢とも言える刀身が俺の全質量をかけた一撃を弾き返したのだ。

「まだ名を名乗ってなかったな」

刀を正面に構えながら奴が言う。

「我が名はデュルゼル」

依然、激しい雨が地面を叩いている。

「鬼を狩る者の一人だ」

雷鳴が辺りに轟いた。



第二章 「雷」に続く



前回の続きです〜
なんか思いっきり自分の趣味に走ってます(笑)
今のところシリアスっぽいですが、どこまで持つかは怪しいものです(ぉ

http://www.08.alphatec.or.jp/~kouhei/index.html