若い紅葉、それからの2人 投稿者:GOTO
 俺は映画館の前にいる。
 理由は映画をみるため。
 でも、1人で観るほど俺は映画好きと言うわけではないし、
 そんな暇があるのだったら家でゲームをしていた方がましだと思う人種だ。
 では、なぜそんな俺が映画を観に来たのか?
 答えは簡単、あかりに誘われたからだ。
 あかりはどうしても観たい映画があるらしい。
 チケットまで用意されていたら断われないだろう? 普通。
 そんなことを考えているうちに約束の時間の5分前。
 あかりの姿はまだ見えない。
 俺はまるで彼氏を待つ彼女の様に鏡を取り出し、念密に顔、髪型、服装のチェックをする。
 その刹那、
「浩之ちゃん!」
 聞き慣れた声。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「そうでもねぇよ。俺が早く来ただけだ」
 俺がそう答えるとあかりはいつものようににっこり微笑んで、
「よかった。浩之ちゃん来てくれて」
 と言う。
「俺が来ないなんて、どうしてそう思うんだ?」
 俺は少し怒った様な口調で言った。
 もちろん本当に怒ってはいないが、俺があかりとの約束をやぶると思っているのか?
 そういう意味でだ。
「だって、浩之ちゃん恋愛映画好きじゃないでしょう?」
 あかりは少し困ったような顔をして言った。
 もちろん、好きじゃないが……。
「あかりが観たいんだろ、俺はあかりと一緒に居たくてここに来たんだ。あかりが観るなら俺も
観る。悪いか?」
 我ながらちょっとくさかったかな?
 そう思ってあかりを見た。
「ううん……、ありがとう」
 あかりと目が合う。
 ちょっと潤んでいるのがわかる。
 まったく、いちいちこんな事で感動されてたら日が暮れるぞ。
「もう行こうぜ。映画どこでやってるんだ?」
「うん、えっと、すぐそこだって……」
 俺が歩き出そうとした時、「ねぇ、浩之ちゃん」と呼ばれたような気がしてあかりの方を振り向く。
「うんっ、呼んだか?」
「ねぇ、浩之ちゃん。手繋いでもいい?」
 蚊の鳴くような声。
 俺はあかりの手をなるべく優しくでも強引に掴む。
「行くぞ!」
「……うん」
 やわらかく握ってくるあかりの手を俺は優しく握りかえした。






「映画、面白かったね?」
 映画の後、俺達はすこし2人で散歩をして今は公園のベンチに座っている。
 あかりはさっきの映画がよほど気に入ったらしく、「絶対この映画のサントラ買う」と散歩がてら
 によったCDショップで探した挙げ句見つからなかったので予約をしてしまった程だ。
 俺もうかつにも最後のシーンにはぐっとくるものがあってそれを堪えるのに必死だった。
「でも、あの監督があんな作品作れるとはな」
「うん、アカデミー賞何個も取ったんだって」
「へえ、そりゃすごいな」
 俺たちはそんな事を時間が経つのも忘れて喋った。
「ねぇ、浩之ちゃん、お腹すいた?」
 そう言われて初めてもうお昼がとっくに過ぎてることに気付いた。
「どうする、ヤックでもいくか?」
 俺がそう言うとあかりはじゃんと言わんばかりに俺の前に箱を3つ置いた。
「もしかして? お弁当か?」
「ぴんぽーん、いっぱい食べてね」
 いつもながらあかりの用意の良さに驚いた。
 しかもト−トバックから水筒まで出している。
 俺は1つの箱に入っていたサンドイッチをパクつく。
「どお、美味しくできてる? 今日は時間がなくて大したものが作れなかったんだけど」
 心配そうに見つめるあかりに俺はサンドイッチをおもいっきりほうばったままの口で
「おひひひよ」
 と答えた。
「もう、浩之ちゃんったら」
 笑いながらあかりは水筒のお茶を俺に渡す。
 ごくっ、ごくっ  
「ぷはー、あかり十分うまいって、やっぱりあかりは料理の鉄人だな!」
 あかりはやっぱりまた『もう、浩之ちゃんったら』という顔をする。
 ホントにうまいんだぜ、あかり。





 少し遅い昼飯をとりおえて、俺とあかりは秋のでもちょっと夏の匂いがする風を感じながらベンチ
に座っている。
 お腹も膨れて、天気も良くてついうとうとしてしまいそうだ。
 ゆっくりと横を見るとあかりもうとうとしてる。
「あかり、眠いのか?」
「えっ、ううん、そんなことないよ」
 でも、あかり顔には眠いと書いてある。
 俺が見てるこの瞬間にもうとうとしていて眠ってしまいそうだ。
 俺はベンチに座りなおしてわざとらしく首を傾けて肩を出す。
 「んっ」と俺の様子を見ていたあかりはやっとその意味がわかったのかゆっくりと体を俺の側に寄
せて俺の肩にその頭を擡げる。
「ねぇ、浩之ちゃん、私、今日の映画浩之ちゃんと観れてよかった」
 体を伝わってくる声はなにかいつも聞いてるあかりの声じゃないような気がした。
「どうしても浩之ちゃんと観たかったんだよ」
 あかりは顔をより俺の顔に近付ける様に頭を動かす。
「ねぇ、寝ちゃったの? 浩之ちゃん」
「……」
 俺は敢えて答えなかった。
 そして沈黙……、その後に聞こえるのはあかりの幸せそうな吐息。
 俺はあかりの髪をゆっくりとなでる。
「んっ、浩之ちゃーん」
 可愛らしい寝言。
 俺は内ポケットにしまいこんでいるモノをそっと取り出す。
 いつか渡そうと思っていたモノ。
 でも、ずっと渡せなかったモノ。
 今日こそは渡そう。
 あかりはきっと喜んでくれる。
 泣いてしまったらそっと抱きしめてやろう。
 あかりの寝顔をじっと見つめながら俺はさっきのあかりの言葉を反芻する。
「どうしても……一緒に観たかったんだよ。か」
 俺もあかりと観れてよかった。
 あかりが起きたらそう言おう、そして、コレを渡そう。
 ふと目の前の芝生を見たら、紅葉にはまだちょっとはやい2枚の葉が風に舞って寄り添う様に飛んで
いくのが見えた。
「あかり……、いつまでもいっしょだぞ」
 


                                    END

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 いやーはずかしいです。
 随所にお約束がちりばめられた恋愛小説。
 もう、恋愛小説家じゃないんだからって感じですね。
 これは本家即興コーナーにのせてもらったものの終わりだけを変えたものなんですけど
 あまりなんか変わってませんね。
 力不足でした。
 読んで下さった皆様、ありがとうございます。
 これからもがんばるのでよろしくお願いします。