If 痕 投稿者:Hi-wait
 今晩は、月島瑠香です。
 ……え?
 どうして、私が最初から出てるのかって?
「てきとーな案内役がいなかったから」だそうです。
 そう。
 ここは、あの「痕」の平行世界。
「もしも、あれがこうだったら……」という、仮定の下に成り立っています。
 それでは、早速いってみましょうか……


<仮定1 柳川佑也が柏木姓を名乗って四姉妹と同居していたら?>

「起きろ! 耕一、起きろって!」
 がばぁっ!
 布団がひっくり返され、俺は目を覚ます。
「いてて……何すんだよ、梓!」
 いつもの見慣れた光景。
 だがその日、俺の抗議に答えたのは梓ではなかった。
「貴様がいつまでも寝ぼけているからだ。少しは反省しろ」
 きっちりとスーツを着込んだ、若い男。
 俺達の伯父に当たる。
 彼の名は、柏木佑也。
「そうそう、耕一も少しは佑也伯父を見習って……」
「梓」
 不機嫌そうに伯父が梓を遮る。
「俺のことを『伯父』と呼ぶな」
 目が据わっている。
 なんか全身から殺気が迸っている。
 まわりの空気が軋んで……
「は……はい……」
 かくかくと、梓は頷いた。

 朝食の席。
 いつも通り、俺達は食卓を囲む。
 その上には、どす黒い味噌汁が……
 ってオイ。
 なにやら、邪気を放っている。
「あ……あの……この味噌汁、作ったの誰……?」
「私です」
 やっぱり千鶴さんか……
 すすす、と視線をあげる。
 千鶴さんと目があう。
 にっこり。
 う……悪魔の微笑み……
 視線を横に持っていく。
 伯父と目があった。
 一瞬のうちに、俺達のエルクゥが共鳴する。
『これを食ったら命が危ない。逃げるぞ』
『……了解!』
 俺達は、同時に立ち上がる。
「そ……そうだ。今日は、張り込みをしなければならんから、もう行かないと」
「お……俺、送ってくよ」
 ……ぎんっ!
「駄目ですよ。朝食はちゃんと摂らないと」
 ……動けなかった……

 その日の隆山署。
「……なんだ、柏木は欠勤か?」
「そうみたいですね。しかし、彼が無断欠勤とは、珍しいですな」
「案外、女でも出来たのかもしれんぞ」
「そんな長瀬さん、親父ギャグな」
 はっはっは……

 キョウモイチニチ、コトモナシ。


<仮定2 日吉かおりが男だったら?(でも名前はかおり)>

 今日、梓の友達が遊びに来た。
 同じ陸上部らしい。
 でもこいつ……男だよな……
「へぇー、ここが梓センパイのお宅ですか……」
 きょろきょろ。
「で、そこにいらっしゃるお兄さまは?」
 ん?
 なんか、口調に怪しげなものを感じるのは俺だけか?
「ん? あたしの従兄で、耕一って言うんだ」
「よ……よろしく……」
 多少引きながら、挨拶をする俺。
「よろしくお願いしますっ! 耕一さん、二人っきりで話をしましょう!」
 ずずいっ。
「え……君は、梓に用があるんじゃ……」
「梓センパイより、耕一さんといたいんです!」
 ずいずい。
「あ……あずさ……」
「がんばりなよ、耕一……そいつ、学校の中でもそのケがあるって、有名なんだ……」
「ちょっ……ちょっと待て、梓! 俺は……」
 ずりずり。
「梓お姉ちゃん……これでいいの?」
「いいんじゃないの?」

 ユリッコガオトコニナッタラバラニナル。コレ、セケンノジョウシキ。


<仮定3 今度は、耕一に女になってもらおう!(でも、名前は耕一)>

「千鶴さん……」
 俺……じゃなかった、私は、ゆっくりと千鶴さんを抱きしめた。
「え? でも、あなたは女……」
「そんなことはどうだっていいんだよ! 俺……もとい、私……ずっと千鶴さんの
ことが……」

(以下、文部省の検閲により削除)

 オトコハ、オンナニナッテモオンナズキ。コレモ、セケンノジョウシキ。


<仮定4 じゃあ、全部ひっくるめてみよう!>

「起きてください! 耕一さん、起きてください!」
 もぞもぞ。
 誰かが、俺……いかんいかん……私の布団に潜り込んでくる。
「耕一、起きた? ……って、何やってるの、かおり!」
 続いて現れた梓が、あわててかおりを引き離す。
「でも、あたし……じゃなくって、僕……耕一さんと……」
「朝から盛んなことだな、果報者」
 さらに、伯父が現れる。
「まったく、かお(ぶつん)

 モウ、シッチャカメッチャカ。ボクニハドウシヨウモナイヨ、オカアサン……

                       <おはり>