「長瀬君……君にとって、瑠璃子はなんだ?」
その日の朝。
祐介は、いつもと同じように校門をくぐろうとしていた。
「長瀬君」
そんな祐介に、声がかかる。
祐介は、ゆっくりと周りを見回した。
「月島さん……」
そう。
校門に寄りかかるようにして立っていたのは、つい最近卒業したはずの瑠璃子の兄、月島拓也だった。
「長瀬君、君と話がしたい。今日の放課後、ここで待っている」
それだけ言うと拓也は、きびすを返し、後ろを見ずに立ち去っていった。
祐介には、その背中がひどく迷っているように見えた。
その日一日、祐介は考え続けた。
なぜ拓也が、自分のことを覚えているのか。
そして彼は、自分に一体なんの話があるのか。
いくら考えても、結論はでない。
昼休みに瑠璃子に聞くこともしてみた。
しかし、返ってきた答えは、
「そのうちわかるよ」
という言葉だけだった。
そして結論が出ないまま放課後になり……
祐介は、校門のところに拓也の姿を見つけた。
「月島さん、話ってなんです?」
しかし、拓也はそれには答えずに、
「ついてきたまえ」
と言って、歩き出した。
拓也が入ったのは、学校の近くの空き地だった。
そこで初めて、祐介を正面から見据える。
「長瀬君……君に聞きたいことがある」
「僕も、月島さんに聞きたいことがあります」
拓也の表情が、少しだけ変わる。
祐介はそれを、『話してみろ』ということだと思い、先を続けた。
「なぜ、あなた方兄妹は、僕のことを覚えているんです?」
拓也は、静かに笑って言った。
「それは、僕たちが電波使いだからさ」
「え?」
思わず、聞き返す祐介。
「つまり、電波使いは、普段から無意識のうちに自分の精神を電波でガードしている。ましてや、君はあのとき僕たちに悟られまいと電波を押さえただろう?だから、僕と瑠璃子には君の電波は効かなかったんだよ」
拓也は、そこで言葉を切ると、
「さて、次は僕の質問に答えてもらおう」
……ごくっ。
祐介の喉が鳴る。
「長瀬君……君にとって、瑠璃子とはなんだ?」
拓也は、祐介の目をまっすぐに見据えて、そう聞く。
「……え?」
聞き返す祐介に、拓也は、
「……瑠璃子は僕の全てだ!」
突然の叫び声で答える。そして、その言葉は続く。
「瑠璃子がいない生活など、僕には考えられない。けど同時に、僕は瑠璃子の幸せを願っている。瑠璃子は、君と一緒にいたいらしい。けど、僕には耐えられない。だから、君に聞く。君にとって、瑠璃子は一体、どういう存在なんだ?」
祐介は、圧倒されていた。
……勝てない。
いくらやっても、この人には勝てない。
それでも祐介は、言葉を絞り出す。
「瑠璃子さんは……僕にとって……」
言葉は、そこで途切れる。
だが、言わねばならない。
「瑠璃子さんは……僕の最愛の女性です……」
祐介のその答えに、拓也は、
「そうか……」
と言ったきり、黙り込む。
「それならば……僕は、君を倒さねばならない!」
そして唐突に叫ぶと、拓也は目を閉じる。
祐介には分かった。
拓也の周りに、膨大な量の毒電波が蓄えられていくのが。
「月島さん……やめて下さい!」
あわてて祐介も電波を蓄える。
しかし、拓也のそれに比べると、微々たる量でしかない。
「長瀬君……すまない!」
叫んで、拓也は祐介に向かって電波を放った……
拓也の攻撃は、果てしなく続いた。
その拓也の攻撃を全て、祐介は自らの毒電波で防御する。
しかし祐介は、決して自分から攻撃を加えようとはしない。
「長瀬君! なぜ攻撃してこない? なぜ僕を倒して、僕から瑠璃子を奪おうとしないんだ!」
拓也は叫びながら、毒電波を放ち続ける。
「僕は……あなたと戦いたくない!」
祐介も叫び返し、自らの電波で防御する。
「……何故だ? 何故、君は僕と戦わない! 僕は、君を倒そうとしているんだぞ!」
拓也の毒電波が、祐介に向かう。
「それは……瑠璃子さんにとってあなたが大切な存在であるように、僕もあなたを失いたくないからだ!」
その祐介の言葉に、拓也の動きが止まる。
「僕を……失いたくない……?」
呆然と呟く拓也。
同時に、祐介を襲っていた毒電波も消滅する。
「それは……君の本心か?」
ゆっくりと、祐介に問いかける。
「……それは、お兄ちゃんが一番よく分かってるはずだよ」
不意に、その声が響いた。
「瑠璃子……?」
「瑠璃子さん……」
不思議そうに呟く拓也と、納得したように呼びかける祐介。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんも、長瀬ちゃんも、私にとっては大事なんだよ……」
悲しそうに瑠璃子は呟く。
それは、拓也に呼びかけると言うより、自らに言い聞かせるようであった。
「瑠璃子……それじゃ阿、瑠璃子は僕と長瀬君……二人を、同時に選ぶというのか……?」
「月島さん……瑠璃子さんが言いたいのは、『選ぶ』なんて事じゃないですよ……」
祐介の方を向く、拓也。
瑠璃子は悲しそうに、うつむいている。
「瑠璃子さんは、僕たち……つまり、あなたと僕に、仲良くやって欲しい……そう言っているんですよ。彼女の電波が、僕にそう訴えかけてきた……」
その言葉を聞き、拓也は呆然となる。
「瑠璃子の電波……僕には分からなかった……」
そして、がっくりとひざを突くと、
「そうか……所詮、僕は自分のことしか考えてなかったんだな……僕は……」
そのまま、肩を震わせる。
瑠璃子は、そんな兄の肩をそっと抱き、
「もういいよ……おにいちゃん、もういいよ……」
と囁く。
祐介は、少しほほえみながら、その光景を見つめていた……
<完>
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お久しぶりです。
……あー、萎えた。
疲れてるなぁ……
何も考える気がしない……
だから、何も付け足しません。
では、これで。