いつもと同じ放課後の、いつもと同じ通学路。
オレは、いつもと同じように、あかりと並んで歩いていた。
「浩之ちゃん」
「なんだ?」
「もうすぐ、文化祭だね」
「ああ」
そう。
オレ達の学校は、そろそろ文化祭の時期なのだ。
クラスで何か企画を出し、それを実行する。
既に、実行委員は忙しそうに働いている。
今、オレの横にも、その実行委員が一人いる。
もっとも、あかりの場合は、「頼まれて断りきれなかった」というのが実状だが。
「確か、喫茶店やるんだよな」
「そうだよ」
「全く、オリジナリティーのかけらもねぇ」
「でも…」
「ま、適当にやってりゃ終わるから、楽でいいけどな」
「もう…」
あかりはくすっと笑うと、
「私、ちょっと無理して、浩之ちゃんと同じ時間にしてもらったんだ」
と、照れくさそうにほほえむ。
「おいおい、無茶すんなぁ」
「だって、浩之ちゃんと一緒にいたかったんだもん」
ったく、あかりのヤツ…
けど、そこまでしてでもオレと一緒にいたい、ってのは少し嬉しい気もする。
「よし。それじゃ、当日は一緒にまわるか」
オレの言葉に、あかりは、
「うんっ」
と、嬉しそうにうなずいた。
そして、文化祭当日。
オレとあかりの担当は、開始直後から一時間だ。
それなりに楽な時間帯ではある。
適当にオーダーを取って、インスタントのコーヒーを入れて、持っていって、勘定を取る。
そんなことをしていると、一時間などあっと言う間に過ぎてしまう。
「はい、交代の時間やで」
時間ちょうどに委員長が入ってきたので、オレとあかりはエプロンをはずし、教室を出た。
「浩之ちゃん、どうする?」
「そうだな…取りあえず、三年の教室からまわっていこうぜ?」
「うんっ」
と言うわけで、オレ達は三年の教室に足を向けた。
『占いの館』
教室の扉に、大きくこんな字が書いてある。
「これって…来栖川先輩かなぁ…」
「だろうな…」
オレとあかりがそんな話をしていると、当の本人がひょこっ、と姿を見せた。
「よう、先輩」
「こんにちは」
「……」
相変わらず、先輩の声はとても小さい。
「…え? 少し寄っていきませんかって?」
…こくん。
「そうだな…どうせ暇だし、いっちょ占ってもらうか!」
オレとあかりは、先輩について教室に入っていった。
「……」
「え? 何を占いましょうかって? そしたら、オレの恋愛運を見てくれ」
オレがリクエストをすると、先輩は「分かりました」と言って、カードを広げた。
ちなみに、一度に一人ずつと言う決まりになっているらしく、あかりは別の人に占ってもらっている。
先輩は、無言でカードをめくっている。
周りを暗幕で囲っているので、かなり神秘的だ。
やがて、先輩は手を止め、オレの方をじっと見つめた。
「……」
「…え? 今の恋愛は続くから、彼女を大事にしてやれ?」
…こくん。
先輩は、なんだか寂しそうに見えた。
「そうか、サンキュ、先輩。…え? 他に占うことはないですかって? いや、もういいよ。サンキュな、先輩」
オレは、先輩に背を向け、教室を出た。
そこには、あかりが既に待っていた。
「浩之ちゃん、どうだった?」
「彼女を大切にしてやれ、ってさ」
そのとたん、あかりが顔を赤らめる。
「……」
そのまま、照れて何も言わない。
「じゃあ、二年の方に行ってみるか」
「う…うんっ」
2−A。
それなりに人が出入りしている。
教室の扉には、『悩み相談室』と書いてある。
その上に、明らかに誰かが後から貼り付けた紙があって、『志保ちゃんの』となっていた。
「あかり…」
「どうしたの、浩之ちゃん?」
「ここに行くのは、やめだ」
「どうして?」
「今、お前悩みなんかあるか?」
「…ない」
「そういうことだ」
そのままオレは、2−Aの前を通り過ぎた。
2−C。
『お化け屋敷』。
「浩之ちゃ〜ん…」
あかりは、既に声が震えている。
「心配すんなって。所詮、文化祭の出し物だぜ? そんな大したものじゃねぇよ」
「うん…」
「よしっ、じゃあ行くか!」
オレは、あかりを半ば引っ張りつつ、中に入った。
……
中は、やっぱり大したことはなかった。
しかし。
最後のヤツだけは、何か勝手が違った。
巨大な目玉が、どこかの原住民が使うような仮面にくっついている。
そして、ゆらゆら揺れながら、
「ウ〜ラ〜メ〜シ〜ヤ〜」
とやっている。
「こら、そこのレミィ」
「What?」
「ひとつ、つっこませろ」
「OK!」
「そりゃ、幽霊じゃねぇって、言っただろ!」
ゆらゆら。
「Oh! そうだったネ! 忘れてたヨ!」
ゆらゆら。
「揺れるな!」
「アハハッ! けどヒロユキ、アカリどーしたの?」
…へ?
そう言えば、さっきから一言もしゃべっていない。
後ろを振り向いたオレが見たものは、目を見開いて固まっているあかりだった。
おいおい、またかよ。
…オレ達が、教室を出たのは、それから15分後のことだった…
2−D。
『バイト紹介いたします』
「……」
「……」
このセンス…理緒ちゃん以外に考えられない。
「行こうか、あかり」
「…そうだね」
オレ達は、何も見なかったことにした…
後は、どこも似たり寄ったりだった。
琴音ちゃんは喫茶店、葵ちゃんはお化け屋敷。
あかりが嫌がるので、葵ちゃんのクラスを覗くのは断念した。
そして夕方。
文化祭もそろそろ終わりだ。
「楽しかったね、浩之ちゃん」
「ああ」
「そろそろ、教室に戻ろっか」
「そうだな」
そう言いながら、オレ達が教室に戻ると、雅史がなにやら怒ったような顔で待っていた。
「どうした、雅史?」
オレが声をかけると、雅史は、
「浩之…当番サボっちゃ駄目だよ」
と言って、時間表を指さす。
『14:00〜15:00 藤田』
「……」
「……」
「……」
「…あかり。今、何時だ?」
「4時20分…」
<完>
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どうも、どうもです。
何も言うことはありません。
では。