あれ以来、楓は口を開かなくなった。 俺が何を言っても、全くの無反応。 時々悲しげにため息をつき、目に浮かんだ涙を拭う。 そして俺の方をじっと見つめるのだ。 なぜ、そんな目をする? 一体、何をそんなに悲しむというのだ? 自らが満足ならば、それで良いではないか。 あれからも俺はたびたび狩猟に行き、その時に人間の食料を手に入れて楓に与えた。 しかし、楓はそれすらも手を付けようとしない。 俺は考えた末、耕一の姿をとることにした。 こうすれば、楓も心を開くのではないか。 そう思ったのだ。 しかし、耕一の姿になった俺を見た楓は、ますます悲しそうに俺の方を見るばかりだった。 なぜだ? 俺には全く理解できない。 そのままの状態で、数日が過ぎた。 それからも、楓は食事にも手を付けず、ただじっと座っているだけの日々だった。 俺ももう構わぬ事にしている。 食いたくなければ勝手に食わねば良いのだ。 そう考えてみるものの、楓のあの悲しむ瞳が、なぜか俺の心を締め付ける。 俺は次第に、狩猟に打ち込み、楓の方を見ないようになった。 その日も俺は、2,3人を狩った後で、いつものように楓のいる場所へ戻った。 まず俺の目に入ったのは、横たわっている楓の姿だった。 おかしい。 直感的にそう思い、俺は楓のそばに行った。 「・・・!」 楓は冷たかった。 俺は楓を抱え上げる。 その時、俺の目に、なにやらどす黒くなったものが目に留まった。 血だ。 どうやら、床に爪で削ろうとして、爪がはがれたらしい。 楓の爪のない指が、紅く染まっていた。 俺は、ゆっくりとその楓の血・・・楓の書いたものに目を向ける。 それは、楓の想いだった。 『こういちさん すみません』 <完> ---------------------------------------------------------------------- ひなたに怒られ、皆さんに怒られ、結局書いてしまいました・・・ これで僕の持っている「痛」のストーリーは、全てです。 まだ完成してないと思われる方、僕にはもうネタがありません。 どうぞ書き足してやって下さい。 それでは、また。 「ひなたが怒るといろんな意味で怖いと思った」Hi-waitでした。