「瑠璃子さん・・・行くよ」 僕は、瑠璃子さんの手を引いて、東校舎の裏に回った。 そこに、生徒会室の窓があるはずなのだ。 さっき、瑞穂ちゃんと包帯男が東校舎に入って行ってから、結構時間がたっている。 急がなければならない。 そう思って、僕は生徒会室の窓をそっと開けた。 そこで行われていたものは・・・ 「どうもー、私ら三人揃って、てなもんや三度傘でーす」 「・・・・・・」 そこにいたのは、太田さんと、生徒会の女の子が二人だった。 それにしても・・・古い。 てなもんや三度傘なんて、今時知っている方が少ないぞ。 けど、何でこんな時間に漫才を・・・? ・・・ん? それより・・・ 「何でこんなところに、太田さんがいるんだろ?」 最初のインパクトが強すぎたせいか、驚くべきだった太田さんの登場が、なんだか常識のように思えてしまう。 「相変わらず古いねぇ、君たちは」 そんな声が生徒会室の奥から下かと思うと、そこから出てきたのは・・・ 「・・・・・・」 月島さんだった。 ・・・どうしよう? 僕は何で、こんなところにいるんだろう? その間にも、月島さんの声は聞こえていた。 「まあ、古くてもいいさ。君たちも、彼女たちの漫才を参考にして、面白いネタをやってくれよ」 まだいるのか? 「やめてよぉ・・・許してよぉ!」 その時、部屋の隅から、そんな声とともに二人の人影が出てきた。 新城さんと瑞穂ちゃんだ。 「ああ・・・彼女たちか・・・」 なぜか納得してしまう。 僕は、ただ呆然と見ているより他になかった。 それでも、まだまだ話は進む。 「駄目だよ。君たちには、これから学校のお抱え漫才師になってもらうんだから。一日一クラス、昼休みに一席うって、放課後には屋上でやってもらうからね」 月島さんは、とことん楽しそうだった。 「・・・嫌よ! 誰がそんなこと!」 「残念だけど、君たちに選択の余地はないんだ。僕の毒電波で、君たちを自由に操れるんだからね」 月島さんは、やっぱり楽しそうだった。 そんなやりとりとは無関係に、てなもんや三度傘(自称)の漫才は続いていた。 「・・・っていうことがありましてなぁ」 「そんなことあるんかい!」 ・・・頭痛がしてきた。 けど、それでも話は進む。 「今のうちに、ボケとツッコミを体に覚え込ませた方がいいよ。学校のお抱え漫才師になっても、面白くなければ意味がないからね」 月島さんは、しんそこ楽しそうだった。 「何で、こんな事するのよぉ・・・」 ・・・新城さん・・・その気持ちはよーく分かるよ・・・ 「なぜって? そりゃあ、僕が漫才が好きだからさ。漫才は人の心を潤してくれる」 しかも、別のキャラ入ってるし。 ・・・この状況で、僕は何をすればいいんだろう? 1.気は進まないが、とにかく二人を助ける 2.何も見なかったことにする 迷わず2を選んだ。 「瑠璃子さん・・・誰もいないようだから、もう帰ろうか」 僕は窓を閉めると、妙に明るい声を出した。 そして、瑠璃子さんの返事を聞かずに、校門に向かって歩き出す。 おじさんには、何もなかったと報告しておこう。 それが一番幸せだ、うん。 一人で頷いている僕を、瑠璃子さんは不思議そうに見つめていた・・・ それからは平和だった。 なにやら、毎日昼休みにどこかの教室で漫才をやっている二人組がいるという噂を聞いたような気がしたが、きっと気のせいだろう。 なんだかんだ言っても、今日が卒業式だ。 僕はぼーっと、校長の話を聞いていた。 すると。 突然、僕の前に座っていた生徒が、がたがた震え始めた。 思い当たることがあり、僕は周りを見回した。 「・・・やっぱり」 講堂中の全員が、同じように震えていたのだ。 むろん、僕も例外ではなかった。 やがて、みんなはぎくしゃくした動きで、近くにいた人間と漫才をやり始めた。 校長は教頭と、父兄が生徒と、男子が女子と・・・ 僕の目の前に、一人の女子生徒が現れる。 「私と漫才してください私と漫才してくださいワタシトマンザイシテクダサイワタシトマンザイシテクダサイワタシトマンザイシテクダサイワタシトマンザイシテクダサイワタシトマンザイシテクダサイ・・・」 その娘は、壊れたCDプレーヤーのように言葉を繰り返した。 月島さん・・・こりゃないよ・・・ 僕はその女子生徒と漫才をしながら、月島さんにツッコミを入れた。 そう言えば、あのとき1を選んでいたら、どうなっていたのかな・・・ 「一つ前の選択肢に戻る」 ・・・この状況で、僕は何をすればいいんだろう? 1.気は進まないが、とにかく二人を助ける 2.何も見なかったことにする ・・・1を選んだ。 「・・・やめた方がいいよー・・・」 やっぱり気合いが入らない。 それでも、中には聞こえたらしい(とても怖くて、中に入れなかったのだ)。 「長瀬くん!」 「祐介さん!」 新城さんと瑞穂ちゃんが、喜びの声を上げる。 「やあ、長瀬君。ちょうどいいところに来たね。藍澤さんと新城さんの、お客さん第1号だよ、君は」 月島さんは、とことん楽しそうだった。 「さあ、そんなところにいないで、中に入っておいでよ」 月島さんが、にっこりと笑う。 ・・・怖い。 はっきり言って、異常に怖い。 僕は、思わず二、三歩引いてしまった。 僕の背中に、誰かがぶつかる。 瑠璃子さんだった。 「駄目だよ、長瀬ちゃん」 瑠璃子さんは、僕の肩をしっかりとつかむと、 「せっかくのデビューなんだから、しっかり見てあげなくちゃ」 ずるずる・・・ 僕を引っ張って、生徒会室に向かっていく。 「結局、こーゆーオチかあぁぁぁぁ・・・」 僕の叫びは、誰にも届くことはなかった・・・ <完> ---------------------------------------------------------------------- またまたHi-waitです。 痛が終わって、少し壊れています。 なんだか、1文字のタイトルが気に入ったので、しばらく使うことにします。 それでは。(ちなみに、今回は「わらい」です・・・って、いちいち書かなくてもいいか・・・)