―痛―<後編> 投稿者:Hi-wait
あれ以来、俺の頭からカエデのことが離れたことはなかった。
 カエデ。
 不思議と安らぎを覚える、同族の女。
 あの女の事を考えると、不思議と心が安らぐ。
 俺はそんなことを考えながら、耕一の意志と戦い続けた。
 人間にしては耕一はかなり意志が強い方だっただろう。
 しかし、やはり耕一は人間だった。
 最強の狩猟者たる俺との戦いに、そう長い間耐えられるはずもなかった。
 とは言っても、この体を耕一が支配していたら、どうなっていたか分からない。
 それほど耕一の意志は、強かったのだ。
 それでも、とうとう俺は、数日もの時間をかけて、耕一の意志を完全に屈服させることに成功した。
 もはや、耕一の邪魔は入らない。
 以前から考えていた、『あの計画』を実行に移すときが来たのだ。
 俺は耕一の記憶を頼りに、柏木家へと向かった。

 夜の柏木家は、ひっそりと静まり返っていた。
 楓。もうすぐお前のところへ行く。
 楓の居場所は、耕一の記憶の中に鮮明に残っていた。
 と、その時。
「耕一さん・・・なぜ、あなたがここに・・・」
 千鶴が、月の光を背に受けて立っていた。
「・・・死にゆくお前には、関係のないことだ」
 自らの言葉に俺が応えたことに、千鶴は少なからず驚いたようだ。
「耕一さん・・・完全に、鬼の力に飲み込まれてしまったんですね・・・」
 そして千鶴は、悲しげな目をこちらに向けた。
「ならば・・・やはりあなたを、殺します!」
 そう叫ぶ千鶴の瞳には、先日のような迷いはなかった。
 真正面から俺に向かってくる。
 それは、防御を完全に無視し、俺と差し違える覚悟の攻撃だった。
 しかし、俺にはその攻撃を受けるつもりは全くなかった。俺にはやらねばならないことがあるのだ。
 俺は軽く横に飛んで千鶴をかわし、がら空きになった背中に拳をたたき込んだ。
 千鶴はこらえきれずに、前のめりに倒れ込む。
 せめてもの情けだ。苦しまぬように止めをさしてやろう。
 俺は、千鶴の心臓に爪を立て、完全に息絶えたのを確認してから、改めて柏木家の母屋に向き直った。
 かなり時間を浪費した。急がなければ。
 しかし、そうも言っていられなくなった。
 俺と千鶴が戦う物音で目が覚めたのか、縁側に梓と初音、それに・・・
「楓・・・」
 楓の姿があったのだ。

 俺と千鶴を見て、最初に反応したのは梓だった。
「てめぇー! よくも千鶴姉を!」
 梓は狩猟者の本性をむき出しにし、俺に飛びかかってきた。
 身の程知らずが。
 梓の攻撃は、千鶴と違い隙だらけだった。
 これならかわすまでもない。
 カウンターで放った俺の爪が、梓の体を切り裂いた。
 地面に叩きつけられた梓は、もはやピクリとも動かない。
「梓姉さん!」
 それを見て、楓は正気に戻ったようだ。梓に向かって、駆け寄ろうとする。
 俺はそんな楓を遮り、片手で抱えた。
「楓お姉ちゃん!」
 今度は初音が、俺に向かって走ってくる。
「楓お姉ちゃんを返してよぉ!」
 初音は俺にしがみつき、涙目で俺に訴えかけてきた。
 相変わらず自分のことを省みないようだ。
 俺は初音を蹴り倒し、その心臓を踏み抜いた。
「初音ぇぇぇっ!」
 それを見た楓が、絶叫する。
 そして俺の方を、悲しげな目で見つめる。
「耕一さん・・・耕一さんは、もう帰ってこないんですか?」
 何をそんなに悲しむことがある?
 邪魔者が三人、消えただけではないか。
 俺は楓には答えずに、柏木家を後にした。
「耕一さん・・・」
 楓を抱えた俺の腕に、冷たいものが落ちる。
 それは、楓の涙だった・・・
                        <完>
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 はい、Hi-waitです。
 痛(いたみ)の完結です。
 本当は、この後も続きがあったのですが、こちらの方が美しいと思ったので、ここから先は封印します。(この後、楓は自殺する予定だった)
 ひなたになじられつつ、それでも書いている図太い神経の僕ですが、ここから先はどうしましょう?
 それでは、レスなどを。

 ひろめくさん>
  ロボットの心って、とても大切なことだと思う。ただのバグかもしれないけれど、そのバグが安らぎを与えてくれるから。

 ゆきさん>
  ・・・もう言うことないです・・・

 Foolさん>
  何か嫌な思い出でもあるんですか・・・バレンタインに・・・僕は思い出そのものがないけど(爆)

 dyeさん>
  志保って、ある意味すごく女らしいと思います。親友のためを思って身を引く。そんなことが出来るのは、本当にその親友のことを思いやることの出来る人だけだと思う。

 ひなた>
  また勝手に突っ走ったな・・・それより、せっかくエルクゥガーの主題歌作ったんだから、続きを書きなさい(嘘)

 こんなところです。
 なお、今回は僕の趣味が丸だし(格闘が好き)のため、戦いの描写に気合いが入ってしまっています。
 まあ、よくあることですから。(ぉぃ)
 それでは、この辺で。