あれ以来、俺の頭からカエデのことが離れたことはなかった。 カエデ。 不思議と安らぎを覚える、同族の女。 あの女の事を考えると、不思議と心が安らぐ。 俺はそんなことを考えながら、耕一の意志と戦い続けた。 人間にしては耕一はかなり意志が強い方だっただろう。 しかし、やはり耕一は人間だった。 最強の狩猟者たる俺との戦いに、そう長い間耐えられるはずもなかった。 とは言っても、この体を耕一が支配していたら、どうなっていたか分からない。 それほど耕一の意志は、強かったのだ。 それでも、とうとう俺は、数日もの時間をかけて、耕一の意志を完全に屈服させることに成功した。 もはや、耕一の邪魔は入らない。 以前から考えていた、『あの計画』を実行に移すときが来たのだ。 俺は耕一の記憶を頼りに、柏木家へと向かった。 夜の柏木家は、ひっそりと静まり返っていた。 楓。もうすぐお前のところへ行く。 楓の居場所は、耕一の記憶の中に鮮明に残っていた。 と、その時。 「耕一さん・・・なぜ、あなたがここに・・・」 千鶴が、月の光を背に受けて立っていた。 「・・・死にゆくお前には、関係のないことだ」 自らの言葉に俺が応えたことに、千鶴は少なからず驚いたようだ。 「耕一さん・・・完全に、鬼の力に飲み込まれてしまったんですね・・・」 そして千鶴は、悲しげな目をこちらに向けた。 「ならば・・・やはりあなたを、殺します!」 そう叫ぶ千鶴の瞳には、先日のような迷いはなかった。 真正面から俺に向かってくる。 それは、防御を完全に無視し、俺と差し違える覚悟の攻撃だった。 しかし、俺にはその攻撃を受けるつもりは全くなかった。俺にはやらねばならないことがあるのだ。 俺は軽く横に飛んで千鶴をかわし、がら空きになった背中に拳をたたき込んだ。 千鶴はこらえきれずに、前のめりに倒れ込む。 せめてもの情けだ。苦しまぬように止めをさしてやろう。 俺は、千鶴の心臓に爪を立て、完全に息絶えたのを確認してから、改めて柏木家の母屋に向き直った。 かなり時間を浪費した。急がなければ。 しかし、そうも言っていられなくなった。 俺と千鶴が戦う物音で目が覚めたのか、縁側に梓と初音、それに・・・ 「楓・・・」 楓の姿があったのだ。 俺と千鶴を見て、最初に反応したのは梓だった。 「てめぇー! よくも千鶴姉を!」 梓は狩猟者の本性をむき出しにし、俺に飛びかかってきた。 身の程知らずが。 梓の攻撃は、千鶴と違い隙だらけだった。 これならかわすまでもない。 カウンターで放った俺の爪が、梓の体を切り裂いた。 地面に叩きつけられた梓は、もはやピクリとも動かない。 「梓姉さん!」 それを見て、楓は正気に戻ったようだ。梓に向かって、駆け寄ろうとする。 俺はそんな楓を遮り、片手で抱えた。 「楓お姉ちゃん!」 今度は初音が、俺に向かって走ってくる。 「楓お姉ちゃんを返してよぉ!」 初音は俺にしがみつき、涙目で俺に訴えかけてきた。 相変わらず自分のことを省みないようだ。 俺は初音を蹴り倒し、その心臓を踏み抜いた。 「初音ぇぇぇっ!」 それを見た楓が、絶叫する。 そして俺の方を、悲しげな目で見つめる。 「耕一さん・・・耕一さんは、もう帰ってこないんですか?」 何をそんなに悲しむことがある? 邪魔者が三人、消えただけではないか。 俺は楓には答えずに、柏木家を後にした。 「耕一さん・・・」 楓を抱えた俺の腕に、冷たいものが落ちる。 それは、楓の涙だった・・・ <完> ---------------------------------------------------------------------- はい、Hi-waitです。 痛(いたみ)の完結です。 本当は、この後も続きがあったのですが、こちらの方が美しいと思ったので、ここから先は封印します。(この後、楓は自殺する予定だった) ひなたになじられつつ、それでも書いている図太い神経の僕ですが、ここから先はどうしましょう? それでは、レスなどを。 ひろめくさん> ロボットの心って、とても大切なことだと思う。ただのバグかもしれないけれど、そのバグが安らぎを与えてくれるから。 ゆきさん> ・・・もう言うことないです・・・ Foolさん> 何か嫌な思い出でもあるんですか・・・バレンタインに・・・僕は思い出そのものがないけど(爆) dyeさん> 志保って、ある意味すごく女らしいと思います。親友のためを思って身を引く。そんなことが出来るのは、本当にその親友のことを思いやることの出来る人だけだと思う。 ひなた> また勝手に突っ走ったな・・・それより、せっかくエルクゥガーの主題歌作ったんだから、続きを書きなさい(嘘) こんなところです。 なお、今回は僕の趣味が丸だし(格闘が好き)のため、戦いの描写に気合いが入ってしまっています。 まあ、よくあることですから。(ぉぃ) それでは、この辺で。