QUIZ<とぅはぁと>DREAMS 〜姫川琴音の知識〜 投稿者:Fool


 全てのゲーマーに捧ぐ…。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「それじゃあ、第4問ぉん!」
「…はい」
「『グラディウス2』の上から4番目の装備のミサイルは何?」

 1.2−WAY
 2.フォトン・トゥビート
 3.スプレッドボム
 4.ミサイル

「…1番です」
「ピ、ピンポ〜〜〜ン!!」

 4月も終わりに差し掛かったある晴れた日の放課後。
 俺と琴音ちゃんは、学校帰りに俺んちの側にある公園でクイズをしていた。

 おかしい…最初の内は暗く落ち込んでいた琴音ちゃんを励ますために、今では使
い古された感のあるホラーギャグを聞かせていた筈なのに、いつの間にかクイズへ
と変わっていた。しかも、懐かしいゲーム…いわゆる『懐ゲー』という類のネタの
だ。更に言うならば、現在までの正解率は100%だ。いくら四択問題にしている
とはいえ、琴音ちゃん…君は一体。

「ねえ琴音ちゃん…ひょっとして、4面のボスの速攻パターン知ってる?」
 俺は何気ない素振りで彼女に訊いてみた。すると、琴音ちゃんはニッコリ笑いな
がら、
「オプションを3個まで装備した状態で、スピードを2速にして、オプションをボ
スさんにめり込ませるように配置した後、ミサイルボタンを押しっぱなしでショッ
トボタンを連射するんですよね」
 と答えた。
 俺は、いつの間にか手が汗ばんでいるのに気付いた。


「藤田さん…次は?」
「え? あ、はいはい…えっと、第5問ぉん!」
「…はい」
「『ファンタジーゾーン』の5面BGMのタイトルは?」

 1.KEEP ON THE BEAT
 2.DREAMING TOMORROW
 3.HOT SNOW
 4.YA・DA・YO

「…3番です」
「ピ、ピンポ〜〜〜ン!!」

 おいおい、琴音ちゃん…。『ファンタジーゾーン』って言ったら、『グラディウ
ス2』より前だぞ…。それを知ってる君って何歳?

「ねぇ琴音ちゃん…ひょっとして『ファンタジーゾーン』の永久パターンって知っ
てる?」
 俺は恐る恐る訊いてみた。顔は、もしかしたら引きつっていたかもしれない…。
 彼女は、その小さな手を可愛らしい顎に添えながら暫く考え込み、そして春風の
ような笑みを浮かべると、
「ボスさんが出現としたと同時に、オパオパちゃんをボスさんの上、触れるか触れ
ないかスレスレの所に移動させるんですよね」
 と答えた。
 俺は喉の奥が乾いていくのを感じた。

 玄人(と書いてゲーマーと読む)だ…。俺の直感がそう告げていた。
 目の前に居るちょっと幼い感じのする後輩は、紛れもなく凄腕の、しかも年季が
入った玄人だ。
 俺は、この少女に戦慄を覚え始めていた。

 その時、まるで俺の心の動揺を見透かしたかのように、「ぷ…」と彼女が笑った。
 錯覚か? いや、確かに、今琴音ちゃんが「ぷ」って吹き出しそうになったぞ。
 そう、今ならハッキリと判る。琴音ちゃんは肩を震わせながら顔に嘲りの色を浮
かべて嗤ってるぞ。
「藤田さん、その程度の問題なら今時の小学生でも判りますよ」って感じの笑い方
だ。

 くっ、上等だよ。こうなったら意地でも「判りません」って言わす! 耳の穴に
指を突っ込んで「脳味噌ク〜ルク〜ル」にしてやる! とっておきの問題だ! へ
へっ、もうどうなっても知らないぜ…。

「それじゃ、第6問ぉん!」
「…はい」
「『ナイトスラッシャーズ』で、プレイヤーキャラの一人、クリストファーが使う
超必殺技の名前は?」

 1.ミッドナイトスラッシュ
 2.ソリッドスラッシュ
 3.デッドエンドスラッシュ
 4.サンライトスラッシュ

 ぴくっ、と琴音ちゃんの右眉が一瞬吊り上がったのを俺は見逃さなかった。
 その小さな顔には、明らかに動揺の色が浮かんでいるように思えた。

 そうだろ、そうだろ。『ナイトスラッシャーズ』は、『グラディウス2』や『フ
ァンタジーゾン』よりも新しい作品だが、それらの作品に比べると、知名度は余り
にも低い。
 一体全国で何人の人間が知ってる事やら…。
 くくく…。さしもの琴音ちゃんも今回はお手上げみたいだな。

 琴音ちゃんは、貧血を起こした薄幸の少女のような表情で三歩程後ろに下がると
俯き、「くっ…」と小さな嗚咽を漏らした。微かに肩が震えてる。

 ひょっとして泣いているのかい? そうか、やっぱり判らなかったんだね。
 いいんだよ、それで。世の中にはまだまだ君の知らないことが一杯あるんだから。
 でも、ゴメン。ちょっと問題がアレ過ぎたね。せめて、『スプラッターハウス』
にしておけば答えられたかもね…。

 …てな具合に、俺が一人の世界で勝手に物語を描いていると、琴音ちゃんが顔を
上げた。
「琴音ちゃん!?」
 彼女は嗤っていた。肩が震えていたのはその為だった。
 それはまるで、国士無双を積み込んだ房州さんが浮かべるような感じの笑みだっ
た。
 彼女の口が開き、肺の奥から流れ出す空気が喉を震わし、それが舌の上で転がっ
て言葉となる。

「に・ば・ん・で・す」

 静かに、しかもはっきりと彼女は答えた。
 昔、何処かの誰かが言っていた。「時として、言葉は人の心を傷つける剣となる」
と…。
 今まさに、俺はその言葉の意味を身を以て体験していた。
 彼女の言葉、一言一言がナイフとなって自分のプライドを切り裂いていくのが判
る。
(へへへっ…燃え尽きちまったぜ…)
 真っ白になっていく視界の中で、彼女が嗤っていた。
「ふふふ、実は私って、デコゲーファンなんですよ。中でも『トリオTHEパンチ』
が一番好きかな」
 彼女の笑顔は、そう物語っているようだった。



 前略 おふくろさん

 女の子の玄人は侮れません…。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 数カ所間違いがあったんで修正しました(笑)。
 何処を修正したかは…訊かないで(苦笑)。