来栖川家の果て 投稿者:Fool


 ここは、来栖川家の廊下。

 ふらふらと疲れきった足取りで浩之は歩いていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 もうどれくらい歩いたのだろうか? 肩で息をしながら浩之は考えた。
「な、なんて広さだ」
 ついに精根尽きたか、その場に仰向けに倒れ、大の字に四肢を投げ出す。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 目を閉じ呼吸を整える浩之。冷たい床の感触が熱く火照った体に心地よかった。
「トホホ…まさかトイレに出て道に迷うとはね」
 今日浩之は来栖川先輩に誘われて家に遊びに来た…までは良かったのだが、トイレを借
りに部屋を出て、用を足して部屋に戻ろうとしたら、あら不思議、元居た部屋の場所が判
らなくなっていた。
「家の中で迷っちまうなんて…マルチの事、笑えねえな…」
 浩之は苦笑した。徐々にではあるが、呼吸も回復し始めていた。
「しかし、本当に広いな…この家」
 ポツリと呟きながら、浩之は志保の言った事を思い出していた。

(…来栖川家の屋敷はね、異次元空間と繋がってるんじゃないかって程、広いらしいわよ
…過去に何人も迷い込んだ人がいるんだって…)

「そんな馬鹿な」と、その時は笑い飛ばしたが、まさかこれ程とは…。
「今回は志保の言った通りだな…」
 浩之は目を閉じた。志保の勝ち誇った顔が瞼の裏に浮かぶ。
「あー、なんかもう疲れちまった…」
 呼吸は完全に回復したが、体はまだ疲れきっていた。このまま眠ろうかと思ったその時、
「どうしたの? こんな所で寝てると風邪ひくわよ」
 聞き覚えのある声がした。目を開けると、そこには来栖川先輩の妹、綾香が不思議そう
な顔で浩之の事を見ていた。
「……」
「ははぁん、解った。道に迷ったのね」
 何か言おうと口を動かした浩之より先に、綾香が悟ったように言った。
 こくり、と浩之は寝たまま頷いた。
「そして、姉さんの部屋を探している内に精も根も尽きて倒れてしまった…。どう? 当
たりでしょ」
 再びこくり、と浩之は寝たまま頷く。
(これじゃ、まるで先輩だよ…)
 などと思っていると、
「ま、しょうがないわね、この家に初めて来る人は大抵迷うからね」
 腰に手を当てて、ふう、と息を漏らしながら綾香は言った。
「解ったわ、じゃあ姉さんの所まで連れてってあげる」
 そう言って、綾香は微笑んだ。そして、そのまま自分の耳に手を添えてこう言った。
「ほら、聞こえてこない?」
「は…?」
 浩之には、綾香の取った行動が理解できなかった。
「あなたの魂が本当に姉さんに会いたいと思うならば、家の中を駆け巡るあの音が聞こえ
るはずよ」
「何を…」
 言ってるんだ。と言おうとした浩之の耳の中に、突然車のアクセルをふかす音が飛び込
んできた。
「聞こえる…聞こえるぞ! なんなんだ! この音は!」
 浩之は立ち上がり、辺りを見回した。体の疲労感は、嘘のように消えていた。
「さぁ、案内するわ! 姉さんの待つ部屋に」
 綾香は両手を広げて叫んだ。何故か彼女の背後から突風が吹いて来て、二人の制服をは
ためかせた。
 その直後、彼女の背後には、一台の黒いリムジンが止まっていた。

 リムジンの中には、運転手のセバスチャンと浩之が居た。
 家の中に居たはずなのに、窓の外の景色は何故か街灯の立ち並ぶ夜の道だった。
  かなりの速度で疾走するリムジン。道の両脇に立ち並ぶ街灯が残像を残しながら後方へ
流れていく。二人の乗るリムジンの他には、一台も車は走っていない。
(なんなんだぁ、この家は?)
 浩之が外を見ながらボンヤリ考えていると、不意にセバスチャンに呼ばれた。
「…藤田様」
「あん?」
 浩之は気の抜けた返事で答える。
「あなたにも、来栖川家の果てを見せてあげましょう」
「へ…?」
 浩之には言葉の意味が解らなかった。
「とう!」
 いきなりハコ乗りをするセバスチャン。
「!!!」
 突然の行動に理解できない浩之。
「ふっ、心地よい振動ですじゃ…」
 さらに、セバスチャンはボンネットの上に飛び乗った。
「ばっ、馬鹿野郎! 運転手が何やってんだ!」
 浩之は窓を開けて叫んだ。だが、だれも運転していないのに車は走り続けた。
しかも、スピードが徐々に上がっていく。
「どっ、どーなってるの!?」
「ぶあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ…」
 暗い夜道に車の排気音とセバスチャンの笑い声が響き渡っていた。

 数分後、綾香は自分の部屋の前で姉に呼び止められた。 
「……」
「え? 藤田さんを見なかったかって? 大丈夫、さっき送らせたから、そのうち来るわ
よ」

 その頃の浩之達は・・・。

「ぶあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ…」
「降ろしてくれぇぇぇ!!!」
 未だ走り続けていたという。

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 Foolです。
 このSSが記念すべき第一作です。この当時はSGYというHNで投稿してました。
 
 内容ですが、ズバリ! 某少女革命第三部のパロディです(笑)。
 Fool個人としては第二部が一番のお気に入りなんですが…って全然関係ないですね。