Say☆兄貴 投稿者:Fool


「それでは、いよいよ第一位の発表です…栄光の第一位に輝きましたのは…」
 
 ダラララララララララララララッ…。
  
 ドラムロールの音が、否応無しに俺の気持ちを高める。
 カチッ、カチッ、カチッ…。
 汗ばむ手で、俺はマウスの右ボタンを何度がクリックした。
 
 チャチャラーン!

 ファンファーレと共に画面の中のくす玉が割れ、中から紙吹雪と一緒に垂れ幕が降り
てきた。

「おめでとうございまーーーす」

「1510ポイント獲得。心優しきメイドロボット、HMX−12マルチちゃんです」


 バンッ!
 机を激しく叩いて、橋本は立ち上がった。
「くっ! どいつもこいつも、マルチ! マルチ! マルチ! マルチ!」 
 橋本の肩が怒りと嫉妬にわななく。
「なぜ奴だけが認められて、この俺が認められないっ!」
 激情に駆られて『初音のないしょ!!』限定版の箱をディスプレイに向かって投げつ
ける。
 ガンッと音を立てて床に落ちる箱。
「はぁ、はぁ、はぁ…くそっ! くそっ! くそぉぉぉぉっ!」
 物に八つ当たりをしても橋本の気は晴れなかった。
 その時、橋本の背後にあるドアが大きな音を立てて開いた。
「そんな事ないっス! 橋本先輩!」
 そこに立っていたのは橋本の心のダチ、薔薇仲間の矢島だった。
「おいっ! 矢島っ! 部屋に入る時はノックしろって言ってんだろうが!」
 ちょっぴりHな本を読んでいるところを母親に見つかった第二次成長期の少年のよう
に橋本は慌てふためいた。
「俺は、俺は、俺は…」
 感情が高ぶって上手く言葉が出てこない矢島。俯き、もどかしさに拳を震わす。
「矢島…」
 橋本が苦笑を浮かべながら、「まあ、落ち着けよ」と肩を叩こうとした時、
「たとえすべてのリーフファンを敵に回しても、俺は先輩! 貴方についていくっス!」
 潤んだ瞳で矢島が叫んだ。
「!!」
「先輩! 兄貴って呼んでもいいっスか!」
 橋本は目頭が熱くなった。胸がキュンとなった。
「ば、馬鹿野郎…」
 それを悟られまいと矢島から顔を逸らす橋本。語尾が微かに震えていた。
「駄目っスか?」
 そんな橋本の仕種を「駄目だ」の意味に取り違えた矢島は残念そうに訊いた。
「へっ、兄貴か…いい響きだぜ」
 ぐずっと鼻をすする橋本。ぱあっと表情が明るくなる矢島。
「あ、兄貴ィ!」
「おう、弟ッ!」
 がっしりと熱い抱擁を交わす二人。何故か二人の背後には岩場に打ちつける荒波と赤
い夕日が現れた。
 嗚呼ッ! 今この時よ永遠なれ…。
「あ、兄貴ィ…」
「お、弟ォ…」
「あぅ、兄貴ィ…」
「んん、弟ォ…」
「兄貴ッ! 兄貴ッ! 兄貴ッ!」
「弟ッ! 弟ッ! 弟ッ!」
「兄貴ィィィィィィィィ!」
「弟ォォォォォォォォ!」

 Double KO!

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 問題作其の弐(爆)。
 前回の『鈍色の青い春』と同じコンセプトで、より濃く書きました。

 ここでネタバレを一つ…。
 今回の橋本ですけど、彼は「んん〜…何の事かな〜…」って言う似非北斗の次兄がモデル
です(笑)。