鈍色の青い春 投稿者:Fool


 放課後。グランド。

「はぁ、はぁ、はぁ…」
 長瀬祐介はグランドの上に四肢を投げ出し、肩で息をしていた。
 彼のすぐ側には、冷笑を浮かべながら月島拓也が立っていた。
「その程度の電波で僕に勝負を挑むとはね…まあ、次にやり合う時はもっと楽しませてくれ
よ、長瀬祐介君」
 そう言って、笑いながら拓也は去っていった。
「負けた…」
 祐介の目から一滴の雫がこぼれた。咄嗟に腕で顔を隠す祐介。耳の中に拓也の笑い声だけ
がいつまでも木霊していた。


 黄昏時。体育館の中にある用具室。

 飛び箱にイジケポーズで座りながら、祐介は窓の外の夕日を眺めていた。
(月島さんに…勝てなかった…)
 窓から入り込む西日で部屋の中は真っ赤なのに、祐介の心の中はブルーだった。
 拓也の笑い声が聞こえたような気がした。祐介は自分自身を抱きしめている手に力を加
えた。指が二の腕に食い込んだ。
 その時、静かに用具室の扉が開いた。
 扉の方を見ると、そこには一人の少女が立っていた。
「長瀬ちゃん…」
 その少女、月島瑠璃子は祐介の隣に腰掛けた。                      
「瑠璃子さん…僕、勝てなかったよ…君のお兄さんに…。やっぱり、僕には電波の才能な
んてないんだ…」
 祐介は窓の外の夕日を見ながら、自嘲気味に笑った。
「そんな事ない…長瀬ちゃん、電波の才能あるよ…私よりも…お兄ちゃんよりも…」
 瑠璃子は少し笑って、祐介の頬にそっと触れた。
「だから、そんな悲しい顔しないで…」
「瑠璃子さん…」
 用具室で見詰め合う二人。
「瑠璃子さん…」
「長瀬ちゃん…」
「瑠璃子さん…」
「長瀬ちゃん…」
「瑠璃子さん…」
「長瀬ちゃん…」
 …合体! 


 夜。近所にある神社の境内。

 祐介は神社の境内で、電波の練習を行っていた。
 一通りのメニューを終え、お堂の前に座って休憩していると、突然目の前にスポーツド
リンクの缶ジュースが差し出された。
 顔を上げると、祐介の目の前には優しい笑みを浮かべた新城沙織が立っていた。
「沙織ちゃん…」
「ビックリしちゃった…こんな所で祐くんに会うなんて…練習、頑張ってるんだね」
「見てたんだ…ちょっと恥ずかしいな…」
 照れ笑いを浮かべながら、祐介は缶ジュースを受け取った。
「ううん、ちっとも恥ずかしい事じゃないよ。何かを頑張るって事は素敵な事だよ」
 沙織はそう言って、祐介の隣に座った。
「でも、こんなに練習しても月島さんに勝てる気がしないよ…沙織ちゃん」
 祐介の表情が翳る。
「大丈夫! 今度は勝てるよ! 努力は必ず報われるから!」
 沙織は祐介の手を両手で握り締めた。
「そうだ、今度差し入れにお弁当作ってきてあげるよ! わたし特製のヤツをね」
「沙織ちゃん…」
 お堂の前で見詰め合う二人。
「沙織ちゃん…」
「祐くん…」
「沙織ちゃん…」
「祐くん…」
「沙織ちゃん…」
「祐くん…」
 …またまた合体!!  


 休日の午後。人気の無い公園。

「…映画、面白かったですね」
「うん、特にラストシーンのバトルが最高だったね」
 祐介と藍原瑞穂は、ベンチに腰掛けながら談笑していた。
「…でも、よかった…最近、祐介さん元気無かったから…」
 瑞穂は柔らかい眼差しで、楽しそうに笑う祐介を見た。
「そうか、瑞穂ちゃん…俺を励ます為に…」
 祐介は、そんな瑞穂の心遣いに胸が熱くなった。
「ゴメン…心配かけたね。でも、もう大丈夫だよ! ほら!」
 そう言って、祐介はガッツポーズを作った。
「やっぱり、落ち込んでる祐介さんより、今の方が断然素敵です」
 そんな祐介を見て、クスリと笑う瑞穂。
「月島さんとの再戦、頑張って下さい」
「瑞穂ちゃん…」
 ベンチの上で見詰め合う二人。
「瑞穂ちゃん…」
「祐介さん…」
「瑞穂ちゃん…」
「祐介さん…」
「瑞穂ちゃん…」
「祐介さん…」
 …やっぱり合体!!!


 再び放課後。グランド。

 険しい顔で対峙している祐介と拓也。二人の額には脂汗すら浮かんでいる。
 常人には見えないが、今も二人はお互いの電波を激しくぶつけ合っていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 突然、拓也が頭を押さえてうずくまった。そして、体を激しく痙攣させグランドの上を
転がり回わる。
「はぁ、はぁ、はぁ…勝った…勝ったんだ!」
 乱れた呼吸で言う祐介。そう、電波同士の闘いは祐介に軍配が上がった。
「やったぁ! 遂に、遂に月島さんに勝ったぞ!」
 晴々とした表情で、祐介は天に向かって拳を突き上げた。
「まったく、たいした奴だよ。君は…」
 ふらふらと立ち上がる拓也。その顔には爽やかな笑みがあった。
「完敗だ。長瀬祐介君…」
 拓也は右手を差し出した。
「月島さん…」
 二人はガッチリと握手を交わした。
「長瀬君!」
「月島さん!」
 グランドの上で見詰め合う二人。
「長瀬君っ!!」
「月島さんっ!!」
「長瀬君っ!!!」
「月島さんっ!!!」
「長瀬君っ!!!!」
「月島さんっ!!!!」
 …そして合体っ!!!! (ってオイ!)

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 問題作其の壱(爆)。
 軽い気持ちで書いたのに…(苦笑)。

 ちなみに、今回の元ネタは某有名恋愛シミュレーションのドラマシリーズVol.1
のパロディです。