〜痕伝奇 ベルエルクゥ 後編〜 投稿者:Fool


 SSコーナーには、キャラの運命を司る何らかの超越的な『律』…書き手の趣味が存在
するのだろうか?
 少なくとも、キャラは自らの意志さえ自由には出来ない…。


                               【あ ら す じ】


「うらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「くらえぇぇぇっ!!」
 長閑な休日の午後に暴走した初音。妹を止めようとした梓だが、逆に打ちのめされてし
まう。
「あの偽善女に伝えろ。悪い初音が来た。それだけでいい…」
 そう楓に伝言を残し、初音は梓を引きずりながら居間へと消えていった…。


                         〜痕伝奇 ベルエルクゥ 後編〜


 梓の意識は暗闇の中を漂っていた。

(ううっ…頭が痛い…)
(ええっと、わたし何してたんだっけ…)
(そうだ、確か初音に投げ飛ばされて…)

 徐々に目の前が明るくなってくる。
 意識を取り戻した梓の目に最初に飛び込んできたのは、見慣れた居間の天井だった。
 梓は居間で仰向けに倒れていた。
「アタタタ…」
 痛む頭を押さえながら、梓は上体を起こした。

 その時不意に、「うらっ!」と梓は何者かに背後から羽交い締めにされた。
 咄嗟に後ろを振り返る梓。そこには目つきの悪い初音の顔があった。
「は、初音っ! くっ! 後ろに居たのか!」
「梓ァ、あの女が来るまでお前で遊んでやる」
 初音が可愛い顔を歪めてニタリと笑う。梓の脳裏に嫌な予感が走った。
「!!」
 突然、初音は梓の形の良い唇に自分の唇を押し当てた。
「っ!!」
 初音の行動に驚き、顔を背けようとする梓。
 しかし、初音は梓の脇から通した自分の手を使い、梓の顔を固定する。
「んっ!」
 梓が呻いた。初音の舌が己の歯列を割って口内に入って来る。
 それは意志を持った生き物の様に、梓の舌に絡み付いていった。
 そして、15歳とは思えない程の巧みな舌使いで、梓の頭を痺れされていく。
「んんっ!」
 手足をバタつかせ、必死にもがく梓。
「ん…んふ…」
 だが、梓から漏れる呻き声は徐々に甘い物に変わっていき、バタついていた手足は少
しずつ大人しくなっていく。
 それを見た初音は、満足げな笑みを浮かべると、ゆっくりと唇を離していった。
 しばらくは離れた二人の唇を透明な一筋の糸が繋いでいたが、やがて音もなく切れた。
「は、はつね…あんた…い、いつの間に…こんな…」
 潤んだ瞳に紅潮した頬で、梓が息も絶え絶えに言う。
「梓の頭の中にはいつのデータが入ってんだぁ? こちとらまだ成長期なんだよ」
 初音はそう言って、今度は梓の豊満な胸に手を伸ばし、これを揉み始めた。
「あ…」
 梓が切なげに自分の指を噛む。
 もにゅ、もにゅ、もにゅ…。
「凄えぞ! さすが梓、揉み応えがあるぜ!」
「あふぅ…は、初音…も、もうやめて…」
「やめる? 遠慮するな」
 もにゅ、もにゅ、もにゅ…。
「あっ、あっ、あっ…」
 梓の喘ぎ声が熱を帯びていく。
 その時、かりっ、と初音が梓の耳朶を噛んだ。
「…っ!」
「そこまでよ! 初音ッ!」
 梓の体が震えるのと、居間にセーラー服を着た千鶴が飛び込んで来るのが同時だった。

「きたな…」
 余韻に浸る梓を畳の上に投げ捨てると、初音はユラリと幽鬼の如く立ち上がった。
「私が来た以上、あなたの悪行もこれまでよ!」
 初音を指さし、大見得を切るセーラー服姿の千鶴。
「うらあぁぁぁぁ! いい年した大人がセーラー服なんて着てんじゃねぇ!」
「いいのよ、セーラー服は私の戦闘服なんだから」
「ちっ! この年増が!」
 ビシッ、と千鶴の額に青筋が浮いた。
「はぁぁぁつぅぅぅねぇぇぇ!!!」

 ダンッ!

 千鶴の足が畳を蹴った。一瞬にして初音との間合いを詰める。その速度は、梓のそれ
とは比較にならないほど速かった。
「速いっ!」
 初音は当て身投げを諦め、咄嗟に腕を交差してガード姿勢をとる。
「ボディがッ!」
 千鶴の右フックが初音のボディに叩き込まれる。が、これは初音のガードに阻まれた。
「お留守ですッ!!」
 続けて千鶴の左アッパーが初音のガードを浮かす。
「よッ!!!」
 そして、ガラ空きになった初音の胴に千鶴の左横蹴りが炸裂した。

 どっごおぉぉぉぉぉぉぉん!!!

 瞬く間の三段攻撃。
 くらった初音は、居間の襖を破いて隣の部屋へ吹き飛び、畳の上を何度か転がると、
俯せ状態のまま動かなくなった。
 しばし静寂の時が流れる。
「決まった…の?」
 と千鶴が構えを解こうとした時、初音がムクリと起き上がった。目つきは悪いままだ。
「くっ!」
 再び構え直す千鶴。
 初音は自分の肩に手を当て、首をポキポキ鳴らすと、 
「…駄目だ駄目だッ! そんなんじゃ! あたしを倒したかったら、頭を直接狙うんだ
な、この偽善野郎!」
 禁断の一言を千鶴に叩き付け、自分の頭を指さした。

 キンッ!

 千鶴周辺の気温が一気に下がる。さらに彼女の足下の畳が窪み、瞳が紅い光を放つ。鬼
の力を解放したのだ。
「そうかい、あんた人間やめたのかい…」
 千鶴から吹き付けてくる冷たい風を感じながら、初音も同じように鬼の力を解放してい
く。

 辺りの空気がピンと張りつめる。二人とも全神経を使ってお互いの隙を探っていた。ま
さに一触即発のムードが漂う。 
 千鶴の頬を冷たい汗が流れ、初音は喉の奥の乾きを感じ生唾を飲み込んだ。

 その時、目の前の千鶴に気を取られすぎていた初音は、自分の背後に音もなく忍び寄る
クラゲの着ぐるみを着た伏兵に気付かなかった。
 
 クラゲの姿の楓の手には、黒光りするフライパンが握られている。
「……」
 無言のままフライパンを振り上げる楓。
 瞬間、初音の頭に一房だけピンとはねた髪が危険を察知し微かに動いた。はっ、と振り
返る初音。
 だが遅かった。
 初音が振り向くと同時に、楓はフライパンを振り下ろす。

 ごいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!

 大きな鐘を突いたような音がした。
「か…か…えで…いつの間…に…」
 初音がグラリとよろめく。張り詰めていた空気が弾けた。
「勝機ッ!!」
 千鶴がここぞとばかり、神速の速さで踏み込む。
 
 ダンッ!

「これが柏木の拳よッ!!」
 そして、目にも止まらぬ凄まじいまでの拳の連撃。

 ドカッ! バキッ! ズカッ! ドムッ! バコッ! ズドッ! ビシッ! 
 ガンッ! ドゴッ! バシッ! ゴスッ! ドンッ! バンッ! ズンッ!

「ぎゃぴりぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!」
 断末魔の叫びを上げながら、宙を舞う初音。
(あ…お花…)
 薄れゆく意識の中で、初音は綺麗な花畑を見た気がした。 


                                     ***


 初音暴走事件から一週間が経った。


「はぁい、ボロネーゼ・志保でーす」
「…カルボナーラ・琴音です」
「二人合わせて…」
「あの…ピンクの電話です」
「なんでやねん!! ベシッ!!」
 
 休日の午後、梓と楓は居間でテレビを見ていた。
 千鶴は朝から鶴来屋へ出ており、初音も外出中だった。
「平和だねぇ…」
 テーブルに頬杖をつきながら、ボンヤリとテレビの画面を眺めていた梓が欠伸混じりに
言った。
 ずずずっ…と、それに答えるように、楓が湯飲みの中のお茶を啜った。何故か、彼女は
クラゲの着ぐるみを着ている。
「楓…それ何?」
 梓はテレビを見ている姿勢のまま、楓に着ぐるみの事を訊いた。
「…クラゲ」
「あ、そう…」
 どこか遠くで鳥が鳴いていた。長閑な休日の午後である。

「うらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 そして、柏木姉妹は再びワルツを踊る…。

 けして終わる事のないEndless Waltzを…。

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 後編です。ちょっぴりHです(笑)。
 梓&初音のカラミがあるのは、某姉様の影響かと…(爆)。