グラップラッパー 投稿者:Fool


「今回は少し違う練習をしてみましょう」
 放課後、浩之がいつも通り学校裏の古びた神社に顔を出すと、先に来ていた葵がそんな事を言
った。
「…違う練習? いつもと?」
 首を傾げる浩之。
「はいっ! これを使うんです」
 爽やかな笑顔で、葵は浩之に一枚のCDを見せた。
「それで…」
 どうやって練習するんだ? と訊こうとした浩之の口が止まった。彼女の足元にCDラジカセ
を見つけたからだ。
「まさか…CDを聴きながら?」
 浩之の問いに「ハイッ!」と歯切れの良い返事を返す葵。そして、
「口で説明するより、実際やってみた方が解りやすいと思います」
 と続けた。

(まさか? いや、いくらなんでも、そんなベタベタネタは…)

 一瞬、浩之の頭の中のに嫌な予感が走ったが、とりあえず葵と一緒にストレッチを始める事に
した。

「…この練習は、リズム感を養えるのと同時に技を覚える事が出来るんです」
 一通りのストレッチが終ると、葵は今回の練習の意味を教えてくれた。
「最初、私がリズムに合わせて技を出していくので、センパイは私の真似をして下さい」
 そう言って、葵はCDラジカセにディスクをセットすると、PLAYボタンを押した。スピー
カーから軽快なラップのリズムが流れ始める。

(やっぱりコレかい!)

 浩之の悪い予感は当たっていた。
「…じゃ、行きますね」
 葵は浩之の横に立つと、全身でリズムを取り始めた。

 グラップラッパー!

「パンチ! パンチ! パンチ!」(葵)「パ、パンチ! パンチ! パンチ!」(浩之)
「キッケン! ブロック!」(葵)「キック! アンド! ブロック!」(浩之)
「ダッキン! ジャンプ!」(葵)「ダッキング! ジャンプ!」(浩之)

 グラップラッパー!

「いいですよ、その調子です! やっぱりセンパイ、センスありますね」
「葵ちゃん…これって、やっぱりアレ?」
「はいっ! ご存知でしたか。この練習方法、綾香さんに教わったんです」
「あのお嬢様もやってんの? これ」
「ええ、毎週欠かさず行っているそうです」

(まったく、格闘家って奴は…)<格闘家の皆さんゴメンナサイ>

「それじゃ、次のレベルに行きますね」

 グラップラッパー!

「パンチ! パンチ! パンチ!」(葵)「パンチ! パンチ! パンチ!」(浩之)
「サマソーキック!」(葵)「は?」(浩之)
「ショウリュウケン!」(葵)「は、はい!?」(浩之)
「ティー・カウ・コーン!」(葵)「ちょ、ちょっと葵ちゃん」(浩之)
「ハップ・ソウ・カウ!」(葵)「それってサムチャイ?」(浩之)

 グラップラッパー!

 そこで葵は一時停止のボタンを押した。
「…どう…ですか? 出来そう…ですか?」
 そして、肩で息をしながら訊いてきた。
「んなモン出来るかぁぁぁ!!」
 思わず声を荒立てる浩之。
「そうかな…」
 ず〜んと落ち込む葵。

(うっ、なんかヤバイふいんき…)

「あ、でもほら…練習すれば出来るようになるかも…」
 浩之はあたふたとフォローした。
 その甲斐あってか、パッと葵の表情が明るくなった。
「そうですよね! 練習すれば出来ますよね!」
「うん、そうそう、何事も練習だよ」
 うんうんと頷く浩之。
「それじゃ、早速次のレベルを…」
 喜々とした表情でCDを再生させる葵。

(トホホ…何か墓穴を掘った気が…)

 そんな浩之を嘲笑うかのように、何処かでカラスが鳴いていた。

 その後、日が沈むまで葵と浩之は延々と踊り続けたという…。

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 元ネタになった例のゲームなんですけど、ラップ系のリズムに体がついていかなくて、
一回で断念しました(笑)。
 聴いてる分には平気なんだけどねぇ…。もう年かな?(爆)。