ないとめあ 投稿者:akia 投稿日:3月23日(金)21時23分
柏木家・・・午前零時。

広い邸宅の端。母屋に面した庭の茂みに僕はいた。

僕の名前は高辻達明。ここは噂の美人四姉妹が住むと言う柏木家。ああ、あこがれの四姉
妹。僕のハート火がついたのは、昨日偶然にビルの上から千ミリ望遠レンズで見かけた、
可愛い色の下着達を見てしまったからだ。この興奮を抑える事が出来なかった僕は、急い
で装備を固め、柏木家に潜入したのである。センサーとか申し訳なそうにあったが、僕に
かかれば赤子の手をひねるぐらい簡単だった。そう言えば、ネットの仲間は『絶対に見る
だけにして置けよな!入ったら無事には済まないぞ』とか書いてあったけど、先に行動を
起こした者が勝ちなのさ。
「さて」
手始めに長女の千鶴さんより胸があると言う、梓さんの部屋に向かう。へへへへ、この高
感度軍用スコープを使用すれば、あられもない梓さんの痴態が・・・
「ちょっと、邪魔よ!」
「へ?」
誰だ、僕に声を掛けるのは!キョロキョロと辺りを見回すと、いつのまにいたのかセー
ラー服を着た女が一人。
「な」
「静かに、見つかりたいわけ?」
なんなんだこの女。
「あ、あんた一体」
「ふ〜ん・・・軍用の高感度スコープね。ソ連軍の横流れ品かしら?」
「あ、うん」
なんでこんな事知っているんだ。
「それより、わたしが先に目を付けたんですからね。あっちに行ってなさいよ!」
「な、何を」
「いいの?声あげるわよ?」
「そんな事したら、お前だって!」
「わたし、梓せんぱいの知り合いですもの、あんたに無理矢理連れ込まれたで通じるで
しょ」
「そ、そんな」
「はい、行った行った。ちょうど良いところなんだから」
「少しくらい」
「そんな捕まりたいわけ?」
「!・・・ちくしょう」
捨て台詞を残し、僕は涙を流しそこから去ったのであった。

「さっきの女の事は忘れて・・・次は楓ちゃんだ」
むしゃくしゃしつつも、僕は楓ちゃんの部屋の窓までやってきた。そして・・・そ〜と中
見ると、楓ちゃんの姿はない。
「ト、トイレかな」
ドキドキしながら視線を廻らしていると、廊下の外れにかえでちゃんの姿を見つけた。行
き先から考えると、屋敷の一番奥だ。・・・まさか、何かイケナイ事をするんじゃ!僕は
慌てて後を追う。暗視ゴーグルの出番なのだが。あの女に取り上げられてしまったタメ、
僕は必死に闇の中、イケナイ想像でもだえながら、楓ちゃんの追いかける。しばらくし
て、本当に奥まった所で楓ちゃんの姿を見つけた。少し薄着な姿。上気した頬・・・そし
て、その手に持つのは!
「バット?」
次の瞬間もの凄い音ともに、辺りの木々が大地が振動した。見れば、楓ちゃんが振りまわ
したバットが、木に吊るされたタイヤに向かって、勢い良く叩きつけられているのであ
る。
「ひーっ!」
一打当たる度に、タイヤは九十度以上近くまで上がる。そして、僕が驚いている間にも、
楓ちゃんは嬉々とした顔でバットを振りつづけた。
「やっぱり。バットはナ○キに限るわね」
【クスクス】と笑う楓ちゃん。びびって視線を横に向ければ、僕の視界に、屠殺された豚
のように、ズタボロにされた古タイヤが山のように積まれているのが入る。
「見つかったら・・・殺される」
僕はかすれる声でつぶやき、腰が抜けたまま母屋の方へと逃げ帰ったのである。

「このままじゃ引き下がれないぞ!」
僕はなんとか気合を入れ、もう一つの部屋を目指す。初音ちゃん。頭の中で微笑む、ラブ
リーでぷにぷにの天使の姿を思い浮かべ、僕は疾風の様に初音ちゃんの部屋の裏側へと辿
りつく。ああーっ!初音ちゃん・・・ダメだよこんな・・・所で・・・。
「は!いけない、トリップしかけてしっまた」
気をとりなおし、僕は進もうとするが・・・視界の隅に猫が一匹入る。
「なんだ、ねこ」
『みぎゃーっ!』
「な!」
次の瞬間、猫は宙を舞った。地面に何かのバネが仕掛けられていて、それが猫を打ち上げ
たらしかった。
「トラップ?」
僕は慌てて辺りを見まわす。すると、あとちょっと先からは、無数のワイヤーが張り巡ら
され、そればかりか、無数の光を放つ機械があちらこちらに仕掛けられていたりする。
「あわわわ」
おののく僕。そして、初音ちゃんの所の窓が開いた。
「・・・猫さん可愛そう・・・千鶴お姉ちゃんもやりすぎだよ。対変質者トラップだなん
て・・・生身の人ならケガだけじゃすまないかも知れないのにね」
つぶやき、初音ちゃんは窓を閉めた。
「次・・・次行こう」

今度こそ・・・柏木家で一番おとなの魅力に溢れた千鶴さんの秘密に迫るんだ。なんたっ
て、老舗旅館を仕切る社長で、大学も上位で修めた才女なんだ!だから・・・きっ
と・・・ぐふふふ。
「・・・」
僕は細心の注意を払い、一番奥の部屋・・・千鶴さんの部屋を目指す。おお、うっすらと
明かりがもれている。こんな深夜に明かりなんて・・・きっとイケナイ事をやっているの
では?そ、そうなら僕が手伝ってあげるのにぃ!
「はふー」
息を吐き、僕は壁に寄り添いながら、そーっと千鶴さんの部屋の中を伺う。しめた!カー
テンが開いているぞ!僕は意を決して覗きに掛かった。そして・・・

「こ、殺される」

かろうじて出せた言葉はそれだった。逃げなければ殺される。反射的に思った時、僕の腕
が茂みに振れて音を鳴らす。
「誰!」
声と同時に猛烈なまでの殺気!間近で言われたなら、それだけで失神しそうなほどの殺
気。ああああ・・・逃げないと!僕は一気に走りだした。
「た、助けて神様!ぼ、僕は何も見てないし、ほんとに何も見ていませんから〜!」
僕は走りつづける。・・・そう言えば、こんなに走ったのは体育祭以来だな・・・。
「どこにいるの!」
千鶴さんの声が響く。それは先ほどの声より、はっきり聞こえた。
「た、助けて」
殺される。ただ僕は走る。広大な柏木家の庭を・・・しかし、殺気は的確に僕へと向けら
れている。いったいなんでこんな事に!
「ああああ」
「そこね!」
「!」
もうダメだ!こ・ろ・さ・れ・る・・・
「どうしたの千鶴さん?こんな夜中に」
「え!あ、今晩は耕一さん・・・いえ、月が綺麗でしたから、ふふふふ」
「そうなの・・・本当だ。じゃオレも一緒に見ようかな」
「そ、そうです・・・ね!」
次の瞬間、僕の背中に何か突き刺さる。反射的に僕は、転がるように移動する。
「どうかしたの?」
「いいえ」
そんな会話の中、僕はもう何がなんだか判らないまま、外へ・・・ただひたすら外へと逃
げ出したのである。
〈 〉
朝・・・柏木家近くの交番。
「それで、何があったんだ一体?」
僕の前にはおまわりさんが居る。
「助けて下さい!」
「それだけじゃ判らないから聞いてるんじゃないか、まったく・・・それにしても、その
サバイバルゲームみたいな格好はなんなんだ?」
「助けて、お願いですから」
「そう言われてもな・・・ん?君の背中に刺さってるのはなんだ?」
「え?」
刺さっている?僕は背中に背負っていたリュックを下ろし、見て見る。そこには・・・
「なんだ?まごの手じゃないか・・・なんか・・・オイ!カメラに突き刺さっているぞコ
レ!」
そんな驚きの声を上げるおまわりさんを見ながら、僕は失神したのであった。

次に気がついた時、僕の記憶から昨晩の出来事がきれいさっぱり抜け落ちていたのは、幸
せな事かも知れなかった。

けど・・・僕は、何を見たんだろ?


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