関東or関西 投稿者:akia 投稿日:8月12日(土)07時29分
それは、昼休みの出来事。
「げっ、レミィそんなモノ喰ってうまいのか?」
オレの前で、レミィは力うどんにあるモノを加え、ニコニコとしている。
「ヒロユキ、食わず嫌いはいけないよ」
「し、しかしな」
嬉々として箸をつけるレミィを見つめるが、コショウにソース、青ノリまで加えて食べる
レミィの味覚って一体…オレは恐いモノを感じ、ふと視線を避けるように横へと動かした。
すると、珍しい人物が食堂に来ていた。
「よっ、委員長」
オレが手を上げて呼ぶと、何となくほっとした風の顔を浮かべるものの、いつもの素知ら
ぬ風の顔を装い、委員長は近づいてくる。どうやら心細かった感じか。
「藤田君…」
とりあえず、挨拶でもしようと近づいた委員長の目にソレが写り、顔つきがこわばった。
「あかんわ。東京のつゆは黒い聞いてたけど」
そして指さす。確かにレミィのはソースを入れてあるから…黒だな。
「これだから関東の人間は」
ふふんと馬鹿にした風に、委員長が鼻で笑った。
「……ちょっと待てーっ!この物体を関東の料理だと思うな!」
「はん、今更何?」
「これは」
「ヒロユキ?この食堂の業者さん東京の業者さんよ。それに、コショウもソースも青ノリ
も横浜の会社よ?」
ビンを見比べていたレミィが言う。…そう言うレベルじゃないだろう。
「だからな」
「ほら見てみい、レミィの言うとおりや」
「違うっーの!」
こいつら人の話を聞きやしねー。
「何が違うんや?」
「だから…わーっ、レミィ何を入れてる!」
「最近TVでやっていたのよ。とってもオイシイね」
そう言うレミィが入れたモノは、マヨネーズ。最初はマーブル模様、やがてぐちゃぐちゃ
とかき回し、おもむろに口を付け『ずずーっ』と飲んだ。
「うひ」
オレが思わず引くと、さすがの委員長も三歩下がり、まるで別な世界の生き物を見るかの
ような視線で、レミィを見つめた。
「きっと…関東人に毒されたんだわ」
委員長がコクンと唾を飲み込み、震える声で呟いた。
「ちょっと待てーっ!いくら関東人でも、こんなモノ喰うかーっ!」
「でも、雅史食べたよ?」
会話の意味が判っていないレミィが、キョトンとした顔で告げる。
「え、雅史が?」
「『どんな味なの?』って言うから、昨日一口分けてあげたの。そうしたら、しばらく黙
ったあと、何処かに行ってしまったよ?」
「…」
そう言えば雅史のヤツ、気分が悪いからって今日は出てきていないな…って、オイ!コレ
が原因か?
「ちなみに、雅史が食べたのスペシャルね」
「何がスペシャルなん?」
委員長が問えば、
「あと三つ加わって、力うどんラッキーセブンスペシャルになるの、ターキーも足を揃え
て逃げ出すおいしさね」
レミィは指を振り、さも自慢げに言う。今でさえ凶悪なのに、それ以上のモノなんか食え
るか!
「とにかく、コレはレミィのスペシャルであって、関東人が食すモノじゃないんだ!」
オレが力説すれば、
「ま、まぁ常識の範疇は越えてるわ」
レミィの方を見ずに、委員長は呟いた。
「な、そうだろ…なぁ!」
レミィの方を見ると、器はサイケな色の泡に包まれ、あまつさえ異臭を放ち『ぷちゅぷち
ゅ』と、ヤバげな音を立てていた。
「ちなみにコレがスペシャルね」
オレと委員長はさらに三歩引いた。
「そうそう、去り際に雅史が言っていたよ『浩之にも食べさせて上げてね』って」
ま、雅史…あとで殺す。しかし、今は用事を思い出した振りをしてここから待避せねば…
こっちがやられちまう。
「あのさ、レミィ?」
「何、ヒロユキ?」
「オレさ、ちょっと抜けられない用事があってさ、戻らないといけないんだ」
「そう…残念ね…」
器を持ったまま、レミィが残念そうに言う。けれど、視線は宙を彷徨い、委員長の方へと
向いた。とたんに顔色を変える委員長。
「なっ何?」
「ヒロユキ食べられないって言うから、日米友好の印にどうぞ」
委員長が引ききる前に、素早く目の前までソレを差し出した。
「ひっ………も、もしかして、納豆入ってへんこんなか」
思わず仰け反ったままの委員長が問えば、
「さすがは委員長ね。国産有機大豆百パーセントよ」
委員長の顔色など、まったく気にしていないレミィが答えた。この際、委員長であるなし
は関係ないと思うが…。
「そ、そんなも…」
思わず、口をついて出そうになる言葉を委員長は引っ込めた。ものすごく哀しそうな、残
念そうな、レミィの顔を見たからである。さすがに陰険な相手や、うわべだけの相手には
容赦ないが、事にこの心からのって言う行動には、委員長は大変に弱そうである。
「いや、だから…ウチは……ふ、藤田君!」
って、オレに振るな!
「な、何?」
ちきしょーっ、さっさと退散すればよかった。
「私も用事があってな。…藤田君男やろ、か弱い女の子立てる気前の良さ、見せてくれる
んやろ?」
き、汚い。こんな時だけしおらしくなって…。
「いや…でもオレさ、雅史にプリントとかまとめないといけないし、あいつの仕事とか代
わりにやらないといけないから」
「せやったらウチ、委員長やからそれくらい平気や」
くーっ、オレのストレートをジャブで切り替えしてきやがった。しかし、
「そんな、か弱い女の子にそんなことを頼めないよ。それに、雅史の仕事は結構重労働な
んだからさ」
キラリ笑顔でオレは言う。勝った…と思った次の瞬間。
「はい、二つに分けたよ。これなら直ぐに食べられるね」
いつの間にか、レミィは小さな器に小分けしたソレを、オレ達の前に差し出した。ついで
に言えば、ニコニコの笑顔である。オレ達は黙り込み、やがて…十三階段を上る人間のご
とく、暗く絶望した気持ちでソレを受け取ったのであった。
〈 〉
「浩之ちゃん大丈夫?」
「ああ…多分な」
胃液の大逆流を意識で押さえつつ、オレは引きつった笑顔であかりに答えた。
ここは保健室のベッドの上。あのあとオレの意識は飛び、気がつくとココにいたわけであ
る。ちなみにカーテンの反対側には、未だ意識の戻らない委員長がいるらしい。
「それにしても…レミィの料理って凄いね」
なんか、レミィと言う言葉だけで吐き気がする。
「料理…なのか?」
「え」
「料理なのか?」
「…え〜と…」
何か言葉を探そうとするあかりだが『う〜〜〜ん』と辺りから漏れる声を聞き、汗一筋。
そして、乾いた笑いであかりは笑う。実はあのあと、複数の人間がそんなに凄いのかと興
味本位に口を出したのである。結果…保健室は満杯。早退したヤツもいるらしい…けれど、
別に食中毒というわけではないが、やはりこの場合も当たったと言うのであろうか?とに
かく漠然とそんなことを考えていると、
「ハーイ、みんな大丈夫ですか?」
ひときわ明るい声が響いた。レ、レミィだ。一同になぜか緊張した空気が漂う。
「な、なんだレミィ?」
「なぜかみんな元気なさそうなので、お見舞いに封印していたナインスペシャルを作って
きたね。これなら、元気のなさも一発で良くなるよ」

レミィが言ったあと…

「ぶーっ!」

と、一同のたうったのであった。


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