想いのきざはし 投稿者:akia 投稿日:8月2日(水)20時30分
風を重ね。夜を重ね。時を重ね。いつでも、いつまでもあなたの側にで温もりを感じたい
…けれど…

「ん、どうしたの千鶴さん?」
「いえ」
気分転換の散歩。私の横、何も知らない耕一さんがいる。耕一さんの中に眠る鬼としての
“狂”。一度は目覚めかけ、再び封じられた鬼。でも…また、心の檻を壊して出ようとし
ている。それは紛れもない事実。……おじさまの様になる前に……私は手を見つめる。
「なんかさ、オレここに来てよかったよ。そう…ほっとする」
「!」
一瞬私は身を震わせつつも、耕一さんの横顔を覗き込む。何も知らない耕一さん。自分が
今どういう状態なのかも、そして…おじさまの苦悩も知らない耕一さん。私たちの心の支
えでもあったおじさま。その身に訪れた変化に脅え戸惑い、気も狂うばかりの中、それで
も私たちよりも耕一さんを選んだ。血の繋がり故に、家族を愛するが故に…憎い?
「ほっとするよ…本当に」
呟き、耕一さんは近くのベンチに腰を掛けた。それだけの事なのに、私は…私たちはあな
たの姿の中に、おじさまを見つけてしまう。ほら、今の仕草だって…にている。似ている。
でも、もしも時私はこの手で耕一さんを……オジサマを殺すの?
「オレ、思うんだ。何も知らないのも良いかなって…そう、表面上だけでも幸せならいい
かなってさ、まぁ楓ちゃんには思いっきり避けられているけどね」
独白。
耕一さんは言う。何も知らない。なにもしらない…。
「…!」
一瞬の間。私が見たモノそれは、ぎゅっと握りしめた拳。白くなるほど握りしめた拳。そ
う…何も知らないのは私の方だ。今の耕一さんの心だって判らないのだから…。けれど、
おじさまとの約束。そして、耕一さんのタメにも、【コ・ロ・ス・ノ】無知な私の犯す罪
として…。
「耕一さん、そろそろ戻りましょう」
「うん、そうだね。もう少しで夕方か…知ってる?こういう時間てアブナイって事」
「?」
「魔が会う刻って言って、そう言う類のモノに会いやすいって言う話なんだよ。…ま、千
鶴さんみたいな綺麗な魔物だったら、命を狙われてみたいかな」
「!」
「さ〜て、今日は梓の当番だったよな」
呟き、耕一さんは私に背を向けて歩き出す。

私は…気づいてしまった。耕一さんを失いたくないと…憎んでいないと。

憎んでいる…そう思わなければ、耕一さんを殺せない。でも…いつか耕一さんの口から同
じ様な言葉が出るかも知れない気がする。けれど…

『願わくは、耕一さんを…ア・ヤ・メ・ナ・イ・ヨ・ウ・ニ…』

私は心の奥で呟くのであった。