それぞれのその後 投稿者:akia 投稿日:7月9日(日)19時01分
「私、期待していたのかな?」
ポツリと彼女は言い、面を上げる。時間迄あと十五分程。
「まったくあの男は、最後くらい来っていいじゃない」
誰に聞かせるわけもなく、彼女は一人呟き、トランクと脇にあったカメラバッグに手をか
けようとした時の事。
「んな!ヒロ!」
「結構重いなコレ」
オレは志保の言葉を遮る様に言う。
「あ、あんた大学はどうしたの?単位落とすとヤバイんじゃなかったの?」
「必要ない」
オレはキッパリと言ってやった。
「必要ないって」
金魚の様に口をパクパクさせながら、志保は言う。
「さて、行こうか?」
「行こうって、なんで、どうして?」
「おや?志保ちゃんニュースにも、判らない事があるのか?」
わざとはぐらかす様にオレが言えば、
「こ、答えなさいよ!」
志保は怒ったかの様に、問い詰めてくる。
「お前がフリーのジャーナリストと聞いた。だから雇ってくれ」
「は?」
余りにも突然な事を聞いた為か、志保は間の抜けた声を出す。オレはそれに構わず、カウ
ンターの方へと移動する。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!どう言う事よ、大学…そう大学は!」
「やめた」
「やめた…えええ!」
「車ありがとな、おかげで当面の資金が出来たから」
結構重いバッグを肩に掛け直し、オレは志保の顔を見た。
「あ、あんたね〜人の好意を」
「必要ないだろ、永住するなら」
ズバリと切り出したオレの一言で、志保の顔は青ざめる。
「浩之ちゃん情報をなめないでほしいな」
余裕をかまし、オレはニヤリと笑った。
「そ、そんな、なんで」
「オレの事調べたんだって?どうなっているかって…なら、オレの前に来て、あっちに永
住するからって言えばいいだろうし、手紙の一つでもよこせば伝えられるだろ?それに…」
オレは少し口調を改め、
「それに、なんとも思わないならそれすらしないし、…ひとんち来て泣かないよな普通」
そう告げる。
「ば、馬鹿にしないでよ!あれは目にゴミが!!」
顔を真っ赤にし、志保はソッポを向いた。
「お前ってさ…」
オレは一言区切り、そして言い直す。
「お前もオレも、回りくどいよな…そのくせ、大事にしすぎなんだよ」
「!」
「一生懸命に回りくどい事して、最後にあれか?あかりの為に身を引いた?…ならオレは」
「言わないで、あかりが可哀相よ」
「なら!お前はいいのか!可哀相じゃないのか!」
オレはグイッと志保を引き寄せ、怒鳴り付けた。
「私は」
力なく志保は呟き、視線を外す。
「オレは馬鹿でね、後の事なんか考えない事があるんだ。…取りあえず雇ってくれ」
手を放し、オレがぶっきらぼうに告げると、志保はオレの手を掴む。
「…い」
「あん?」
「ずるいよ、そんな事志保ちゃんニュースにはないよ」
なんとなく涙声で志保は言う。
「ニュースは新鮮な方がいい」
「!……安くこき使うわよ!」
「ああ」
「本当よ」
「ああ」
「絶対よ!死ぬほどこき使ってやるんだから!」
オレには判る。最後の志保の強気なんだって事が…
「元より承知。お前の性格よく知っているから」
「!…ヒロ〜!」
「もう離さない」
オレは使い古したかも知れないセリフを言う。そう、これはあの時志保が転校する前に、
言わなくちゃいけない事だったんだ。オレは恐かったのかも知れない。その一言が…。
でも、今ならすんなりと言える。お互い少し年をとったそれだけの事。
オレ達は一切変わってない。その事を確認する為の魔法の言葉。
そして、泣きじゃくる志保を胸に抱き、オレはもう一度、そして、心から告げる。

「愛している」

 一つの終わり。一つの始まり。

 そして、それぞれの…To−Heart